2013.03.19

「香川真司は日本人という意識を捨てよ」東本貢司が語るマンチェスター・ユナイテッド

サムライサッカーキング4月号]

香川真司の加入で一層の注目を集めるマンチェスター・ユナイテッド。世界規模の人気とスポーツ界最高の資産価値を持つクラブの魅力を『マンU~世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ~』(NHK出版刊)の著者でサッカーライター兼コメンテーターとしてクラブを見続けている東本貢司氏に聞いた。

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Interview and text by Hiromi ISHI Photo by Getty Images

いつかベッカムにはフロントに戻ってきてほしい

――まずは今回の書籍の内容を教えていただけますか?

東本(以下H) マンチェスター・ユナイテッドというクラブの成り立ちから、今日までの主だった特徴のある事件や歴代の代表的なプレーヤーたち、そして135年の歴史の中でリーグタイトルを獲得した3人の監督の実像などを、海外サッカーに親しんでいる方に加え、あまりなじみのない方々にも分りやすいよう執筆しました。

 一言で言えば《マンチェスター・∪の135年の歴史のエッセンス》ということになりますが、このクラブに生じた、あるいは自らが進んで入って行った特異な世界や事件にスポットを当てているので、その辺りに注目していただければと思います。

――書籍のテーマにマンチェスター・∪を選んだ理由は?

H ユナイテッドといえば、世界最高峰であるプレミアリーグの盟主と呼ばれ、これまで毎年のように優勝争いを繰り広げてきました。私自身、約40年前にイングランドで4、5年生活しているのですが、当時はユナイテッドの歴史上1、2位を争う偉大なプレーヤーたちが現役で活躍していました。その記憶が今でも鮮明に残っているんです。

 また、今シーズンからは香川真司選手も加入し、日本での注目度も一層高くなります。そうした背景の中で、昨年7月7日に日本で公開された『ユナイテッド ミュンヘンの悲劇』(※1958年の飛行機事故が題材)という映画の公開が決定打になりました。この映画でクラブに関心を持った方も増え、私自身もユナイテッドをアピールしたい気持ちが強くなりました。

――東本さんにとって、マンチェスター・∪の存在とは?

H イングランドは、私が17歳から21歳までの青春時代を過ごした特別な場所であり、第二の故郷。もし、ワールドカップで日本とイングランドが対決したら、一瞬の迷いもなくイングランドを応援するほど、今でも思い入れがあります。そういう意味でも、プレミアリーグやユナイテッドは特別なものなんですよね。

――改めて歴代の選手や監督、試合で一番記憶に残っているのは?

H 私がイングランドに住んでいた頃、音楽番組やスポーツ番組をよく見ていたのですが、その時放送されていたのがジョージ・ベストのゴール特集でした。あの衝撃と感動は今でも忘れられません。当時、全寮制の学校の友人たちから、彼の名前をもじって、《コージー・ベスト》というあだ名で呼ばれていて、その思い出もあり、彼は忘れられない一人となりました。

――他にはありますか?

H 強いて挙げるとすれば、エリック・カントナとデイヴィッド・ベッカム(現パリSG)。プレーそのものの素晴らしさはもちろん、同時代のそうそうたる面々からも「あれほどの練習魔はいない」と称賛されるほど、フットボールに打ち込む典型的なプレーヤーたちでした。ただ、それ以上に、ピッチ外の部分が語られることが多かったため、この二人には特別な印象を持っています。

――そのベッカム選手は現在、パリSGに加入し、再び世間を賑わせています。

H あのインパクトはさすがですね。しかし、そんなベッカムを生んだのは、紛れもなくユナイテッドです。これは個人的な願望ですが、アレックス・ファーガソン監督が勇退後、監督として一番ふさわしいのはライアン・ギグスだと思っています。コーチにはポール・スコールズとベッカム。ガリー・ネヴィルも希望するかもしれない(笑)。

 彼らは1992年のFAユースカップで優勝し、95― 96シーズンに揃ってトップチームに昇格。ファーガソン・ユナイテッドの栄光の第一期を象徴するプレーヤーたちです。もし、彼らが首脳陣として戻ってきたら……。しかも、それは夢物語ではなく、十分あり得る話ですし、ユナイテッドの仲間の輪や連係は常に生きている気がします。

――マンチェスター・Uが世界中のファンからこれだけ支持される理由、魅力は何だと思われますか?

H 書籍にも使用した《異端》という言葉は、言い換えると《自由》。そして、その《自由》は、単に一般的な自由きままという意味ではなく、《自らに由る》ということ。自分しか頼れない、すべて自分の中で完結しなければならないということであり、非常に厳しい環境に自分を追い込むことだと知りました。

ですから、自分たちで何とかしなければならないという意味での《自由》を、ユナイテッドやプレーヤーたちは、ピッチ上ににじませ、発散しているのではないかと思うのです。それが、人々の心にも伝わっているのではないでしょうか。

――日本代表の香川選手も、その偉大なチームでプレーしています。

H ファーガソン監督の期待どおり、あっという間にチームに溶け込んでいると思います。また、香川選手は既にファーガソン監督が使う陣容の中の重要な1つのピース。1年目でこれだけのプレーができているということを考えれば、100点以上の評価をあげられますよね。

――では今後、香川選手に求められるものは何でしょうか?

H 普段から練習を積んでいるので、どのような状況で試合に出場しても支障はありませんが、連係の中心になる選手たちとの相性が更に研ぎ澄まされていけば良いですね。そして中盤より前のどのポジションでも、要求に応じて過不足なく仕事ができるということを証明していければ。

 また、イングランドでプレーしている以上は、日本人という意識は捨て、プレミアリーグという特殊な環境の中で、イングランドのフットボール文化を背負っているという自覚と誇りが自然と出てきてくれればうれしいですね。

――香川選手以外で、東本さんが注目する選手はいますか?

H 私が注目しているのは、トム・クレヴァリーですね。トップ下気味でも、左ウイングとしてもプレー可能な幅広さや、たくましさを身に付け、これからもっと期待できると思います。個人的には、クレヴァリーと香川選手がコンビを組んでほしいという気持ちが強いですね。そのコンビが完成されれば、ユナイテッドとしても、大きな売りの一つになり得るでしょう。ましてや、彼らの横にはウェイン・ルーニーと(ロビン)ファン・ペルシーがいますからね。

 最高の攻撃のカルテットというと大げさかもしれませんが、彼らの連係が磨かれれば、更に素晴らしいプレーを期待できます。もっとも、私自身は、ダレン・フレッチャーやアントニオ・バレンシアのようなプレーヤーが好きで、彼らが少しでも息長くプレーしてほしいという気持ちが強いですが。そういう脇役たちが、試合に出て活躍していると感じられることはうれしいです。

――最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。

H マンチェスター・∪というクラブは、まだまだ奥深く、そして今後も興味深い何かが生まれる可能性を秘めています。好き嫌いや応援する、しないということは別としても、このクラブの動向に注目すれば、必ず楽しいことがありますし、それだけ注目するに値するクラブです。また、年代によってプレーヤーの顔ぶれは変わっても、しっかりと伝統が継承され、良い意味で変わらない数少ないクラブのうちの一つが、マンチェスター・Uです。このクラブの動向を見て感じて、その素晴らしさをぜひ実感してください。


お問い合わせ:NHK出版 http://www.nhk-book.co.jp/

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