2013.03.08

「サッカーは僕の人生そのもの」“スペインの至宝”ラウールの変わらない思い

[ワールドサッカーキング0321号掲載]

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インタビュー・文=ホセ・フェリックス・ディアス

翻訳=高山 港

 

ワールドサッカーキング最新号では、“スペインの英雄”ラウール・ゴンサレスのインタビューを掲載している。昨夏にアル・サッド(カタール)への移籍を果たしたラウール。そこには、カタールでの挑戦を楽しむ彼の姿があった。過度なプレッシャーからの解放が表情を和ませる。「人生そのもの」だと言うサッカーをラウールは心から楽しんでいる。

 

「サッカーへの姿勢は変わらない」

 

 昨夏、シャルケを退団し、カタールに新天地を求めた“スペインの至宝”は、優しい笑みを浮かべて、そう語った。

 

 “白い巨人”のシンボルとして、幾多のタイトルを獲得。その後、2シーズンを過ごしたシャルケでは、チャンピオンズリーグでの通算ゴール数を歴代最多の71に伸ばし、クラブを史上初のベスト4に導く活躍を披露した。

 

 新たな挑戦の舞台でも、19試合を消化して8得点をマーク。そのゴールセンスは、少しもさびついていない。

 

 彼がカタールで手に入れたのは、「プレッシャーからの解放」と「サッカーをエンジョイする自分」だと言う。“至宝”の喜びの声に、耳を傾けてみよう。

 

サッカーへの姿勢は変わらない

 

アル・サッドに移籍して半年以上が経過した。カタールリーグの印象を聞かせてくれるかな?

 

ラウール(以下R)―成長著しいリーグだね。本当に、日々レベルが上がっているという印象だよ。国外、特にブラジルから経験豊富な選手がどんどん加入して、リーグ全体のレベルアップにつながっている。それに、カタールは2022年のワールドカップ(以下W杯)開催国だ。カタール国民、各クラブのフロントやスタッフ、サッカーに関わるすべての人があらゆる面での成長を望んでいる。彼らは今、サッカーの先進国から真剣に、積極的にノウハウを学ぼうとしている。この国のサッカー熱の高まりを肌で感じ取っているよ。

 

レアル・マドリーやシャルケでプレーしていた頃と比べて、サッカーに対する君のスタンスは変わったのかな? 率直な感想としてどうだい?

 

R―今話したように、カタールのサッカー熱は日増しに高まっているけど、一方で、ここで要求されるレベルは、まだスペインやドイツほど高くない。周囲からのプレッシャーも、ヨーロッパ時代に比べれば、さほど厳しくはない。でも、だからといって、僕のサッカーへのスタンスが変わるということはないし、ゲームに臨む態度、練習に取り組む姿勢は今までと同じだよ。ただ単に場所が変わっただけで、僕のサッカーへの姿勢は変わらない。でも、過度のプレッシャーから解放されている今の状態は、少しうれしくもあるんだ。マドリーでプレーしていた頃の僕は、毎試合、「絶対に勝たなくてはならない」と感じていた。マドリーではプレーを楽しむ余裕なんてなかった。どんな試合でも、常に勝つことを義務づけられていたからね。マドリーからシャルケに移り、そのプレッシャーは少し軽減した。そして、今の僕はサッカーをエンジョイする自分を楽しんでいる。もちろん、勝利を求めてサッカーをエンジョイする自分をね。

 

R・マドリーやシャルケの試合はチェックしている?

 

R― もちろん。知ってるだろう?僕はサッカーが大好きなのさ(笑)。毎朝、世界中の試合結果をチェックしているよ。特に、マドリーとシャルケの結果は細かくチェックしている。リーガのレベルの高さを改めて感じているし、やっぱり、マドリーとバルサの2チームは別格。彼らの得点力の高さは相手にとって本当に脅威だろうね。

 

R・マドリーやシャルケ、かつてのチームメートと連絡を取ることは?

 

R―イケル(カシージャス)、セルヒオ(ラモス)、クリスチアーノ(ロナウド)、ゴンサロ(イグアイン)といったメンバーとは連絡を取り合っているけど、回数はそれほど多くない。シャルケの選手とは、ほとんどコンタクトはないかな。今一番、連絡を取り合っているのはフェルナンド・イエロさ。スペインサッカーの現状について、彼からいろいろ聞いているよ。

 

シャルケ時代のチームメート、内田篤人は右サイドバックのレギュラーを務めている。君は彼がブンデスリーガで成功できると思っていたかい?

 

R―アツトはプロ意識の高い若者だ。僕の好きな、練習で労を惜しまないタイプのプレーヤーだよ。常に「あらゆることを学びたい」という気持ちで練習に取り組んでいる。選手として常に成長を続けたいと思っているのさ。もちろん、ヨーロッパの舞台で大成するには、まだまだ課題もある。でも、今の気持ちで練習を続ければ、偉大な選手になる可能性は高い。僕はそう思っているよ。

 

デビュー戦のことははっきり覚えている

 

アル・サッドとの契約は1年のみ。来シーズンが始まった時、君はどこで何をしているのだろうか?

 

R―もう1年プレーするオプション付きだけど、その件については、まだクラブと話し合っていないから、現時点では何とも言えない。今、言えることは一つ。僕がここで快適な生活を送っているということさ。カタールでの生活には何の不満もない。僕はこの地でとても歓迎されているし、ファンやクラブの関係者も本当に良くしてくれている。今シーズン、僕はまだまだゴールを量産できるということを証明しているし、もう1年、ここでプレーするという選択肢もあるかなと思っているよ。

 

日本には君のファンがたくさんいる。引退する前に、Jリーグに挑戦する可能性はどうかな?

 

R―可能性は否定しない。ただ、現実的には、その選択はかなり難しいと思う。僕は日本が大好きだ。日本にはたくさんの良い思い出があるからね。Jリーグのレベルも年々上がっていると聞いているし、日本代表も大きな大会で好成績を手にするようになっている。Jリーグが魅力的なリーグであることは間違いないけど、実際のところ、日本からのオファーはないし、日本行きという発想も今の僕にはない。それが正直な回答だね。

 

では、話を変えよう。ジョゼップ・グアルディオラが来シーズンからバイエルンの監督に就任する。彼のドイツ挑戦について意見を聞かせてほしい。

 

R―実は、ペップ(グアルディオラの愛称)自身から意見を求められたんだ。僕は「すぐに行くべきだ!」と答えたよ。ブンデスリーガは今や、組織力の面では世界最高のリーグになっている。ほぼすべてのゲームが満員のスタジアムで行われているし、リーグのレベルも極めて高い。ペップにとって、間違いなく刺激的なチャレンジになるはずさ。

 

刺激的なチャレンジと言えば、君にとってチャレンジのスタート地点となった18年前のことを思い出してほしい。R・マドリーでデビューした17歳の時のことを覚えているかい? 当時のホルヘ・バルダーノ監督からはどんなことを言われたんだい?

 

R―デビュー戦のことは、昨日のことのようにはっきり覚えている。バルダーノの指示はすごくシンプルなものだった。「ピッチで楽しんでこい。家の近所で友達と一緒にサッカーをするような気分でプレーしてこい。3部リーグでプレーするように気楽にプレーしてこい」って言われたんだ。僕は彼のアドバイスどおり、楽しんで自分にできることをしようとした。緊張はしたけど、サッカーをエンジョイできたと思っている。僕は監督からの信頼を感じていたし、ピッチ上ではチームメートが若い僕を支えてくれた。デビューしたての17歳の若僧になんて、そうそうパスを出してくれないのが普通なのに、みんなが僕を生かしてくれた。僕にとっては最高のデビュー戦になったよ。

 

もっとも、バルダーノにとって君を起用するという決断は決して簡単ではなかったと思うけどね。

 

R―確かに、状況は決して簡単なものではなかった。バルダーノは僕をピッチに送り出すために、マドリディスタ(R・マドリーのファン)のシンボルともいうべき(エミリオ)ブトラゲーニョをベンチに置いたんだからね。監督は“チームの顔”に代えて17歳の若僧をピッチに送り込んだ。監督の信頼に応えるために、僕は必死に戦わなくてはならなかった。下部組織で学んだプレーのすべてを出し切ろうと思った。すべてが思いどおりにはいかなかったけど、あの時トップチームの雰囲気を経験できたことは、その後の自分にとってとても大きな財産になったし、バルダーノには本当に感謝しているよ。

 

試合前のプレッシャーも相当だったのでは?

 

R―当然さ。何しろ、その1週間前はテルセーラ(3部リーグ)のチームで練習していたんだからね。それが、翌週のサラゴサ戦で突然のトップチーム昇格。更に、その翌週には(サンティアゴ)ベルナベウでのデビューと、すべてがあっという間の出来事だった。サラゴサ戦はシュートチャンスをモノにできなかったし、楽しめた半面、不満の残るゲームでもあった。それでも、試合終了後、バルダーノは僕のパフォーマンスを褒めてくれた。「次の試合でも今日のようにプレーすればいい」と、僕を勇気づけてくれたのさ。

そして、その翌週、アトレティコ(マドリー)戦で、僕は憧れのベルナベウのピッチに立った。最初は大観衆に圧倒されたよ。恥ずかしながら、震えを覚えたほどさ(笑)。でも、すぐに冷静になった。ベルナベウのピッチにいることが心地良く思えたんだ。僕にとってベルナベウのピッチに立つことは夢の実現でもあった。アトレティコの下部組織で育った僕にとって、相手がアトレティコということにも不思議な運命を感じた。僕はその試合で、リーガでの初ゴールを記録し、更に相手のファウルを誘ってPKを獲得した。大きなプレッシャーを感じていたことは確かだけど、僕はそのプレッシャーを力に変えることができたと思っている。

 

当時のサッカーと今のサッカーを比較して、何が一番大きく変化したと思う?

 

R―リーガにおけるマドリーとバルサの存在感が変わったと思う。以前は、この2チームとその他のチームとの間にそれほど大きな力の差はなかった。でも、今では完全に“2強の時代”になったという印象が強い。今シーズンのリーガではアトレティコが2強に割って入っているけど、客観的に見ると、戦力的にはマドリー、バルサとはまだかなりの差があると思う。

 

サッカーは僕にとって人生そのもの

 

スペインでは若手の育成に力を入れるチームが増えているようだね。

 

R―理由はいくつかあると思うけど、最近は、大金を費やして国外から選手を連れてくるという動きがずいぶん減っているし、スペイン全体を襲う経済不況が各クラブにも影響を及ぼしている。スペインで、若手育成の重要性を明確に示したのはバルサだ。バルサは自前の選手、マシアで育てた選手で世界を制するようになった。彼らは若手の育成にクラブの将来を懸けて、それに成功した。多くのクラブがバルサの成功例を参考にしていることは間違いない。それから、以前と変わったこととして、もう一つ挙げるなら、スペイン人選手の国外への流出だろうね。この4、5年で多くのスペイン人選手がイングランドでのプレーを選択している。ここにも、スペイン経済の不振が影を落としていると言えるかもしれないね。

 

若手の育成と一言で言っても、仮に10代でデビューしても長く活躍できない選手は少なくない。大成しなかった選手と君のように大成した選手の違いはどこにあるのかな?

 

R―確かに、17歳でトップデビューして、35歳になった今でも現役としてプレーしている僕のようなケースは少ない。プロの世界はとても複雑なんだ。選手が成功できるか否かには、たくさんの要因が関係する。例えば、どのチームにとっても、どの監督にとっても、勝利を目指すという大前提がある。その中で、時に計算が立ちにくい若手を起用することには、当然リスクもつきまとう。大切なのはクラブが長期的なプランを掲げることだ。目先の勝利だけにとらわれれば、若い選手の将来が数試合のパフォーマンスで決められてしまう。若手の成長には、周囲の“我慢”も必要になる。そういう意味では、僕は恵まれていたと言えるのかもしれないね。

 

デビューしたばかりの若手に、君から一つアドバイスを送るとしたら?

 

R―まずは、自分がサッカーをしているということをシンプルに喜ぶこと。好きなことをして生計を立てているということを、素直に喜ぶべきだ。そして、まだデビューの機会に恵まれていない若手には「くよくよするな! 練習しろ!」と言ってあげたい。サッカー選手にとって、すべての基本は練習の中にある。それから、今自分がしていることを信じることが大切だね。サッカーでは、“イメージ”が重要なんだ。常にベストな状況でいるなんてことはあり得ないし、悪い状況にも耐える準備、そのイメージをしっかり持っておく必要がある。サッカー選手には、良い時期も悪い時期もある。あらゆるシチュエーションをイメージすることができれば、その選手は間違いなく成功できると思うよ。

 

成功という意味では、ある統計によると「幸せな家庭を築いている選手のほうが、そうでない選手よりも成功する確率が高い」というデータがある。このデータは真実だと思うかい?

 

R―真実かどうかはちょっと分からないけど、環境が選手の成否を左右することは事実だろうね。特に、長い間プロの世界でやっていきたいと思うなら、家族の協力が間違いなく必要になる。他の選手のケースについては具体的に説明できないけど、僕自身は家族の支えがあったからこそ、自分の体のケアと練習に集中できたと思っているし、幸せな家庭があるからこそ、35歳になった今でも現役でプレーできているんだと思うよ。

 

では、最後の質問だ。もし君がFIFAの会長になったとしたら、サッカー界の何を変えたい?

 

R―それは難しい質問だね(笑)。そうだな……あくまで「仮に」という前提条件付きだけど、僕がFIFAの会長になったら、過密スケジュールを軽減したい。ビッグクラブに所属する選手は、年間7?試合近くプレーする。選手への負担は相当なものだ。もっとも、ゲーム数を減らすのは簡単なことじゃない。サッカーの試合の開催には、いろいろな人の利権が絡み合っているからね。

 

確かに難しい質問だったので(笑)、最後にもう一つ聞こう。君にとってサッカーとは?

 

R―それなら答えは簡単だよ。サッカーは僕にとって、人生そのものさ。

 

 

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