2013.03.07

「俺は完璧であろうとしたことがない」天才ストライカー、イブラヒモヴィッチの流儀

[ワールドサッカーキング0321号掲載]

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インタビュー・文=ミシェル・デスラック

翻訳=石橋佳奈

 

ワールドサッカーキング最新号では、数々のクラブにタイトルをもたらしてきた“怪物ストライカー”、ズラタン・イブラヒモヴィッチのインタビューを掲載している。“花の都”と呼ばれるフランス最大の都市が本拠地。しかし、近年の成績は決して華やかなものではなかった。“カタールマネー”という資源を得たクラブの改革を、イブラヒモヴィッチの流儀が加速させる。

 

 ピッチ上での圧倒的なパフォーマンスと同様に、あるいはそれ以上に、その言葉は人を強く引きつける。

 

「俺が成功できなかったリーグがあるか?」、「決めるのは俺だ」、「グアルディオラには、面と向かって相手にものを言う勇気がない」、「最後には俺たちが必ずチャンピオンになる」

 

 24試合の出場で23得点と、とても初挑戦とは思えないほどのハイペースでゴールを量産する天才ストライカーは、実に闊達に言葉を紡いでいく。

 

 オランダ、イタリア、スペインで栄光を勝ち取り続けた“矜持 ”。チアーゴ・シウヴァ、ハビエル・パストーレ、エセキエル・ラベッシ、更にはこの冬に加入したデイヴィッド・ベッカムと、“きら星”のごときタレントたちを擁し、改革を押し進めるクラブにあっても、その存在感はやはり別格だ。

 

 ただのエゴイスティックなソリスト(独演者)ではない。4カ月ほど前の本誌インタビューで、「パリのファンはまだ本当のラベッシを見ていない。あいつが本調子に戻ればチームに大きく貢献してくれる」と断言したラベッシとのコンビは、現在、他のチームにとって大きな脅威に。ケガの影響もあり、前半戦は満足な出場機会を得られなかったパートナーの実力を、彼は誰よりも認めていた。新加入のベッカムについても「クラブのプロジェクトにとって大いにプラスになる。若手に多くのものをもたらすだろう」と賛辞を惜しまない。

 

 過去の事例を引き合いに出すまでもなく、この男にはクラブを変える“特別なパワー”がある。

 

「俺は完璧であろうとしたことがない」

 

 大胆不敵、豪放磊落、ズラタン・イブラヒモヴィッチの流儀を知れ。

 

アンチェロッティは一流の監督だ

 

オランダ、イタリア、スペイン、フランスでプレー経験のある君にとって、理想のリーグはどこになるのかな?

 

イブラヒモヴィッチ(以下I)―おいおい、スウェーデンが抜けてるぜ(笑)。まあ、それはさておくとして、理想のリーグなんてものは存在しない。どんなリーグにも良い点と悪い点がある。そういう意味では、スウェーデンを含めて5つのリーグを経験した俺は、プレーヤーとしての幅を広げることができたのはもちろん、一人の人間としても成長したってことさ。

 

では、好みのリーグは?

 

I―好みという点では、バルセロナには1年しかいなかったが、リーガ・エスパニョーラは気に入っていた。スペインはサッカーのリズムとともに生きている国だ。オープンでテクニックに長け、攻撃的なサッカーをする。観客とのコミュニケーションも気分の良いものだった。バルサのようなビッグクラブでも、選手とサポーターとの間に壁を作ろうとすることがない。むしろ、真逆と言えるくらいだ。

 

でも、プレーヤーとして過ごした期間が最も長いのはイタリアになるね。

 

I―ああ、ユヴェントス、インテル、ミランというイタリアのビッグ3に所属した。セリエAは今後も、選手にとって頭角を現すのが難しいリーグであるはずだ。「セリエAは落ちぶれた。もはや二流のリーグだ」なんてことを言う人間もいるが、その意見には賛成できない。確かに、経済危機の影響で、以前よりスター選手は減ったかもしれない。だが、イタリアの守備は今でも世界一だ。所属した3つのクラブでタイトルを獲得できたことを、俺はとても誇りに思っている。

 

イングランドへ行くチャンスは一度もなかったのかい?

 

I―何度もあった。ただ、他の多くの選手と違って、俺は「イングランドのクラブとどうしても契約を結びたい」なんて気持ちにはなれなかった。イングランドへ行くことが“トレンド”だってことは知っている。だが、俺にはイタリアがとても居心地良かった。それに、イングランドのクラブに比べてイタリアのクラブが劣っている点は少しもない。これは本当だ。俺にとってミランは、イングランドのどんなクラブよりもビッグな存在だ。そう、ミランは最高だよ。

 

では、仮にイングランドへ行っていたとして、成功できたと思う?

 

I―もちろんだ。そもそも、俺が成功できなかったリーグがあるかい? イングランドのサッカーは極めてタフだ。でも、相手DFとのハードなコンタクトや一対一のマッチアップは俺の好みだし、最高のDFがそろい、マーキングも厳しいイタリアよりも、イングランドのほうがタイプとしては向いていると思う。

 

これまで所属したクラブの中で最高のチームは?

 

I―難しい質問だ。個人的にはうまくいかなかったが……バルサかな。3シーズン所属したインテルも素晴らしいチームで、当時のセリエAでは他のクラブを寄せつけなかった。チャンピオンズリーグ(以下CL)優勝を果たせなかったことが、とても残念だったよ。

 

数々のビッグクラブに所属しながらも、君がCL決勝で一度もプレーしたことがないのはなぜだと思う?

 

I―逆に教えてほしいくらいだ(笑)。でも、俺はまだ31歳。CL決勝の舞台に立ち、タイトルを獲得するチャンスは十分にある。

 

意地悪な言い方だけど、君がインテルを去った翌シーズン、クラブはCL優勝を果たし、バルセロナでも同じような展開になった。これはプロとして間違った選択をしたということかな?

 

I―本当に意地の悪いヤツだな(笑)。間違った選択をしたなんて思っちゃいないし、後悔もしていない。また同じ状況に直面したら、同じ決断を下すだろう。決めるのは俺だ。ビッグイヤーを獲得していないという点で言えば、プレーヤーとしての俺のキャリアは完璧なものではないかもしれない。だけど、個人的には納得のいくキャリアだ。「くそっ、ビッグイヤーがまだ取れていない」なんて寝言は言ったことがないからな(笑)。

 

では、これまで関わった指導者のうち、素晴らしかった監督と、そうでなかった監督を教えてもらえるかな。

 

I―自分にとって最も印象的だった監督、俺に自信を与え、成長するチャンスをくれた監督はユーヴェ時代の(ファビオ)カペッロだ。厳しいところはあったが、指導は実に的確だった。行った先で常にタイトルを獲得するカペッロのことは、心から尊敬している。俺と同じように、カペッロには、偉そうで、いつも怒鳴っているイメージがあるが(笑)、全くそんなことはない。カペッロはディテールにこだわる素晴らしい戦術家だ。そして、自分の選手たちを絶えず成長させようとする。カペッロの下でプレーしていた頃は、トレーニングのたびに何かを学ぶという感じだった。

それから、(ジョゼ)モウリーニョの指導も好きだった。人の心をうまく捉えるという点で最高の手腕を備えた人物だ。カリスマ性が強く、選手の持っている力を120パーセント引き出す能力がある。世間やメディアから選手を守るために、モウリーニョは自分の身を犠牲にできる監督だ。そんな姿を見せられたら、選手は「彼のためならとことんやってやろうじゃないか」という気持ちになる。

 

なるほど。ちなみに、最悪の監督はジョゼップ・グアルディオラになるのかな?

 

I―そんなことはない。グアルディオラは素晴らしい監督だ。今のバルサを作り上げたのは彼だし、それに異論を唱える者はいないはずだ。ただ、一人の人間としてはモウリーニョの足元にもおよばない。グアルディオラには、面と向かって相手にものを言う勇気がないんだ。バルサ時代、最初の6カ月は何もかもうまくいっていたが、その後、彼から何の言葉もかけられなくなった。俺は頼りにされないようになり、それがなぜだか、自分にはいまだに分からない。一人の監督として敬意を払うが、人としては全く尊敬していない。

 

カルロ・アンチェロッティ監督とはうまくいっているのかい?

 

I―アンチェロッティは一流の監督だ。経験豊富で、監督としての自信と冷静さに満ちている。彼の下でプレーできるのは、とても素晴らしいよ。

 

サッカー選手にとってミランは最高の環境だ

 

数々のビッグクラブを渡り歩いてきた君に聞きたい。ビッグクラブと一般のクラブとの違いはズバリ何だい?

 

I―俺にとって、ビッグクラブ中のビッグクラブはミランだ。オーナーから清掃担当のスタッフまで、どの分野にも本物のプロがそろっている。ミランと契約すれば、クラブが何もかも面倒を見てくれるんだ。家を見つけるのはもちろん、家具や子供の学校、イタリア語の教師に至るまで、すべてを探してくれる。選手はただ、自分の仕事に専念すればいい。ミランというクラブは、サッカー選手にとって最高の環境だ。

 

そんなミランが、経済的な理由のために君をクラブから追いやったのは仕方のないことなのかな?

 

I―仕方ないさ。「クラブにはもう君への報酬を支払う力がない」と言われたら、どうしようもない。ただ、ミランはしばらく調子を落とすかもしれないが、いずれ必ず頂点に戻ってくる。今のミランは、グレートなチームではないかもしれない。だが、ミランがグレートなクラブであることは変わらない。

 

ミランの話をすると、ノスタルジックな気分になるかい?

 

I―答えはノーだ。俺は過去を懐かしむようなタイプじゃない。ただ、ミランは俺にとって、これからもずっと特別なクラブだ。これまで滞在した他のどのクラブよりもね。

 

君がミランを去ってから半年後、クラブはマリオ・バロテッリの購入に2000万ユーロ(約24億円)を費やした。その金があるなら「イブラヒモヴィッチをキープしていたほうがよかったのに」とは思わないかい?

 

I―思わない。ミランは昨年の夏にはなかった資金を、この冬、手に入れたのかもしれない。バロテッリのような選手をミランが獲得できて、俺はうれしく思っている。CLへの出場はかなわないが(編集部注:マンチェスター・シティーで今シーズンの同大会に出場しているため)、彼の存在はミランがリーグ戦を上位で終える助けになるはずだ。

 

冬の獲得と言えば、デイヴィッド・ベッカムとはうまくいっているの?

 

I―入団からまだ日が浅いのに、既に大きな話題になっている。ベッカムがパリSGにいることは、クラブのプロジェクトにとって大いにプラスになる。ベッカムはプロとして模範的な存在だ。在籍期間は短くなる(編集部注:ベッカムはパリSGと半年契約)が、若手に多くのものをもたらすだろう。

 

ベッカムにはFKも譲るのかい?

 

I―ケースバイケースだ。2人で話し合って、うまくやるよ。

 

パリSGは強化のためではなく、アジアでユニフォームを売るためにベッカムを手に入れたとも言われているね。

 

I―ナンセンスな戯れ言だ。ベッカムは、ピッチ上でみんなを驚かせる。それは俺が保証するよ。

 

金と経験がそろえばチャンスは広がる

 

パリSGが欧州屈指のチームになるには今後何が必要になる?

 

I―個々のプレーヤーのクオリティーについては、大きな改善点はない。メンバーの顔触れを見る限り、人材が更に必要だとも思わない。パリSGに不足しているのは、大舞台での経験だ。こればかりは金で買うことはできない。パリSGがCLで戦うのは8年ぶりのこと。ミランやインテル、バルサとは違い、このクラブには欧州の舞台での“本当の経験”がない。

 

「人材が更に必要だとは思わない」と言うけど、もし君がパリSGの監督なら、どんな選手が欲しい?

 

I―そういうたぐいの想像はしない。俺は選手。自分の役割は分かっているつもりだ。

 

パリSGは「タイトルを金で買っている」などといった意見もある。これについては?

 

I―どのタイトルのことを言っているんだ? 俺たちはまだ何も獲得していない。それにそもそも、欧州のクラブで“カタールマネー”を拒むクラブなんて存在するのかい? 金を費やさずにビッグイヤーを獲得できたクラブがあれば教えてほしい。ビッグクラブはどこも優秀な選手を手に入れているし、優秀な選手を手に入れるには金が掛かる。当然のことだ。自国のリーグで優勝したいだけなら、大金をつぎ込む必要はない。だが、欧州のチャンピオンになりたいならば話は別だ。金は必ず必要になるし、もちろん、それで十分というわけでもない。シティーがいい例だ。2シーズン連続で、CLのグループリーグで敗れている。だが、ヤツらも、遅かれ早かれ本当の強豪クラブになるだろう。金と経験がそろえば、ビッグタイトルへのチャンスは広がるものだ。

 

リーグ・アンに話を移そう。第26節を終えてパリSGは首位をキープしているが、2位以下とあまり開きはない。焦りはない?

 

I―焦りはゼロだ。最後には俺たちがチャンピオンになる。クラブはこの1年半、激しい変化にさらされてきた。優秀な選手がそろっていても、チームとして機能するには時間が必要だ。俺たちはいいチームだが、まだ“戦いのスペシャリスト”ではない。今のところはね。

 

では、最後の質問だ。サッカー選手はみんなの模範になるべきだと思うかい?

 

I―皮肉かい(笑)。俺は誰かの模範になろうなんて思ったことがない。もちろん、プロとして振る舞い、自分が身につけるユニフォームに恥じない行動をする必要はある。ただ、すべての人にとっての模範である必要は全くないと、俺は考えている。過ちを犯すことや感情に左右されることも人間の一部分だ。誰にでもフレンドリーで、非の打ちどころがないようなタイプは、個人的に好きになれない。そういうタイプには、むしろ疑いの念を抱くね。人としての俺は完璧じゃないし、むしろ、完璧からは程遠い人間だ。だが、そもそも俺は完璧であろうとしたことがない。それが、ズラタン・イブラヒモヴィッチだ。

 

 

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