2013.03.06

香川真司を語る現地記者「カガワとルーニーの連係に輝かしい未来が見える」

[ワールドサッカーキング 0321号 掲載]

ph_kagawa_wsk

文=サイモン・ハート

翻訳=田島 大

写真=ゲッティ イメージズ

 

 ワールドサッカーキング最新号では、海外日本人選手の現地評価に迫る連載「メイド・イン・ジャパン」を掲載している。この数年、日本の若きサムライたちがヨーロッパで才能を発揮し、自分の居場所を切り開いている。チームに日々密着する現地記者は、彼らをどう見ているのだろうか。今回はノリッチ戦でハットトリックを決め、一躍ヒーローになった香川真司にクローズアップしている。

 

 サー・アレックス・ファーガソンは不安を顔に出すようなタイプの監督ではない。2012年6月22日、マンチェスター・ユナイテッドが初めて日本人プレーヤーと契約した際も、この指揮官は力強く自信に満ちた表情を浮かべていた。これまでに日本人選手がプレミアリーグで目立った実績を残した前例はない。にもかかわらずファーガソンは、「ユナイテッドのプレースタイルに合っている。すぐにインパクトを残すと確信している」と話し、ドルトムントからやって来た香川真司に大きな期待を寄せた。

 

 そして2カ月後、ファーガソンの予言は見事に的中する。香川はホームデビュー戦となったオールド・トラッフォードでのフルアム戦で、プレミアリーグ初ゴールをマーク。地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』のマン・オブ・ザ・マッチに選出された。

 

 しかし、新天地で順調なスタートを切ったかに見えた香川は、昨年10月23日、チャンピオンズリーグのブラガ戦で左ひざを負傷。以降の彼は、加入1年目の選手にとって何より大切な「勢い」を失ってしまったように思える。ケガから復帰した後の香川に抱く印象は、「まだ真の姿を見せていない」というもの。そしてそれは、ユナイテッドを見守る大半の人間が共通して抱いている印象でもある。

 

指揮官が示す香川への信頼

 

 2月に入り、ファーガソンは「来シーズンはもっと良くなる」と香川に対して相変わらずの期待を口にした。しかし一方で、香川がプレミアリーグの激しいフィジカルコンタクトに苦しんでいることも認めている。

 

 指揮官の意見に同調するのは、地元紙で40年近くユナイテッドを追い掛けているデイヴィッド・ミークだ。ユナイテッドのマッチデー・プログラムで監督のコラム欄を担当している彼は、「最近のカガワは半歩下がった気がする」と、ユナイテッドでの香川の歩みについて話してくれた。

 

「プレミアリーグ、そしてイングランドのフットボールに順応するのに苦労している。『体を張る』というイングランド特有の考え方になじめていない。だから、チーム内でもなかなか存在感を発揮できずにいるのだろう。だが、ゆくゆくはこのクラブで成功するはずだ。何せ、彼のプレーには高い技術が備わっているからね。最終的にはそれがモノをいう。今の問題は、能力ではなく意識なんだ」

 

 ミークの言うとおり、確かに香川の技術面に問題はない。それは、1970年代にユナイテッドの選手として活躍し、現在は『MUTV』の解説者を務めるミッキー・トーマスも強調している。

 

「彼の第一印象は『コイツはやるな』というものだった。私はカガワの繊細なボールタッチが大好きなんだ。右にも、左にも、両サイドにボールを動かすことができるし、ボール扱いに全く硬さがない。それに、絶妙なラストパスも供給できる」

 

 1月末のサウサンプトン戦ではそのパスセンスでウェイン・ルーニーのゴールを演出。パスに関しては、チームメートと共有する時間の長さに比例して、今後更に磨きが掛かるはずだ。

 

 トーマスは“ユナイテッド1年生”の香川が壁にぶつかるのは当然だとも指摘している。

 

「まず、第一に試合に出るのが難しいチームだ。世界で最もビッグなクラブに来たのだからね。1年目からすべてが順調にいくと考えるのは甘すぎる。最初はこのクラブの流儀というものを学ばなくてはいけない。つまり、ユナイテッドというファミリーの一員になることが先決なんだ」

 

 一方でトーマスは「彼なら心配はいらない」ともつけ加える。

 

「一流選手に囲まれてプレーすることで、自らのプレーが磨かれるだろう。今は周りの選手の力になろうと思わず、思い切って周りの選手に甘えればいいんだ。出場機会は限られているが、レアル・マドリーとのアウェーゲームで先発起用されたことからも監督の信頼は見て取れる。ファーガソンは、ああいう大一番でもカガワなら通用すると信じているんだ」

 

香川に見られるパク・チソンとの共通点

 

 香川がサンティアゴ・ベルナベウのピッチに立ったこと、これが大きな意味を持つと考えるのはミークだけではない。ユナイテッドで14年間プレーし、3度のFAカップ制覇を経験したアーサー・アルビストンもその一人だ。『MUTV』やBBCラジオで解説を務めるアルビストンは、中盤を5枚にして保守的な戦術を採ったR・マドリー戦で、香川の戦術理解度に感心させられたという。

 

「マドリーとのアウェーゲームという厳しいヨーロッパでの試合で、今後もカガワは重宝されるかもしれない。マドリー戦の彼は左寄りに置かれ、そこから中に絞って中央の守備を固めるという役目を担った。カガワは激しいタックルや相手を弾き飛ばすような守備はできないが、絶妙なポジショニングで相手のパスルートを消すすべを知っている。ポジショニングが的確なら、タックルは不要だ。相手の選択肢は横か後ろに制限されるからね」

 

 更にアルビストンは、現在QPRに所属する元韓国代表MFパク・チソンを例に出して、香川の存在価値を説明する。パク・チソンはユナイテッドで必ずしもレギュラーに定着していたわけではないが、09年と2011年のチャンピオンズリーグ決勝のように、ヨーロッパの大舞台では必ずといっていいほど使われていた。

 

「ヨーロッパの厄介なアウェーゲームで起用されるという点ではパクに似ているかもね。オープンな展開になりそうにない試合では、チームの規律が問われるんだ。カガワは器用かつ丁寧にボールを有効利用する。そして、チーム内での自分の役割をちゃんと認識している。だからマドリーでの試合でも使われたんだ」

 

 パク・チソンとダブるのは戦術面だけではない。代表戦で長距離移動を強いられるという点でも同じだ。アルビストンは言う。

 

「ヨーロッパ圏外の一流選手ならば、代表戦の半分は欧州以外の国でプレーすることになる。だが、それを問題視するなら、パクは問題を抱えながら7年もユナイテッドでプレーしたことになる。カガワにはドルトムント時代の経験もあるし、特に障害にはならないと思うよ」

 

 アルビストンもまた、香川の強みはテクニックにあると考えている。

 

「彼はボールを動かしながらトラップするのがうまい。体を上手に使い、ボールを足元に入れすぎないことで、プレーの流れを止めず、スムーズに次の動きへ移行しているんだ」

 

 こういった香川の個人技がプレミアリーグの舞台でも存分に発揮される日はそう遠くないだろう。香川はドルトムント時代、1年目に大ケガを負いながら、復活を遂げた2年目にチーム内で更に存在感を高めたのだから。

 

 故障もあって、ここまでプレミアリーグでの先発出場はわずか10試合にとどまっているが、その数字も来シーズン以降は必ず増えるはずだ。ファーガソンも「接触プレーがファウルになりやすいドイツから、イングランドという全く別の環境にやって来たんだ。フィジカルコンタクトに慣れるまでには時間が必要だよ」と、香川に十分な適応期間を与えているようだ。

 

香川の補強はビジネス目的ではない

 

 ユナイテッドのファンに話を聞いても、似たような答えが返ってきた。ファンサイト『RED NEWS』の編集を務めるバーニー・チルトンは、「まだ真のカガワを見られていない」としながらも、基本的には香川に対してポジティブなイメージを抱いている。他のクラブのサポーターからすれば、香川は移籍金に見合った活躍をしていない選手なのかもしれない。だが、チルトンは、ケガの有無にかかわらず出場機会が限られるユナイテッドにおいて、新戦力がチームに順応するのは容易ではないと理解している。

 

 そもそも、香川は当初、ルーニーの背後で使われる予定だった。ところが、突如としてロビン・ファン・ペルシーの獲得が決まり、チームはプランを変更。ドルトムント時代に香川の定位置だったトップ下は、今やルーニーのポジションとなっている。それについてチルトンは、「なぜ、本人の得意な位置で使われないのか?」とチーム側に疑問符を投げ掛け、「ユナイテッドのファンの大半は忍耐強いし、1年目の難しさを理解している」と香川の将来を楽観視している。

 

 不安があるとすれば、ルーニーのトップ下起用により、香川のポジションが流動的になってしまったことだろうか。前出のミークも、香川のユーティリティー性があだとなる可能性を懸念している。

 

「カガワはセントラルMFに近い位置や左右のサイドでもプレーできる。しかし、何でも屋の問題点は、傑出した武器がないことだ。カガワはいろいろなことができるせいで、ポジションが固定されていないんだ」

 

 では、香川にとっての傑出した武器とは何か。最終的にどのポジションに落ち着くにしろ、香川の連動性、特にルーニーとの連係プレーは一つの武器になり得るだろう。

 

「ルーニーは常にパス交換の相手を探している。そして、簡単にさばいてくれるカガワとのパス交換を好んでいるようにも見える。2人の連係には将来性を感じるよ。ただし、香川がボールを奪われてしまえば、ルーニーは苛立ちを隠さない。自分の元にボールが戻って来ないんだからね」

 

 更にミークには声を大にして言いたいことが一つあるという。香川の補強がビジネス目的ではないということだ。

 

「ユナイテッドが日本でユニフォームを売るためにカガワを獲得したという意見は理解できない。これはサー・アレックスへの冒涜だ。ユナイテッドのユニフォームがピッチ上の活躍だけでは売れないとでも言うのか!」

 

 そう、香川はあくまでも即戦力として、あるいは近未来の戦力として獲得されたのだ。

 

 問題は、今のユナイテッドにはそんな選手ばかりが集まっているということだ。第27節終了時点でリーグ戦での先発出場が20試合を超えている選手はわずか5人しかおらず、香川の主戦場となる中盤では11人もの選手が起用されている。それがユナイテッドというクラブなのだ。

 

 言い換えれば、このクラブで出場機会が制限されるのは決して恥ずべきことではないということだ。他のクラブなら約15億円で獲得した選手は即座に結果を求められるが、ユナイテッドは違う。

 

 もっとも、ミークはそんな過酷な環境下のユナイテッドにおいても、香川に輝かしい未来を見ている。

 

「カガワがレギュラーポジションを獲得するところは容易に想像できる。ただ、それは別に毎週のように出場するということではない。何せ、ユナイテッドで毎週末プレーしている選手なんて、ルーニーとファン・ペルシー以外にいないのだからね」

 

 

3月7日のワールドサッカーキング最新号では、様々な問題を抱えるクラブがあることをきっかけに大変身を遂げる、クラブの「ビフォー&アフター」を大特集。香川選手の所属するマンチェスター・Uも登場します。前所属チームのドルトムントに迫ったリポートも掲載! 是非書店でお手に取ってみてください!