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世界最強の座から滑り落ちたフランス、「育成大国」の意外な落とし穴

2013.02.27

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ワールドサッカーキング 0307号 掲載]

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文=ピエール・ダルトワ

 

ワールドサッカーキング最新号では、フランス代表にフォーカスしたリポートを掲載している。今のフランス代表の中核は、かつてユース年代で圧倒的な実力を示した「新・黄金世代」だ。将来を期待されていた彼らが、いま一つ伸び悩んだのはなぜか。「育成大国」の意外な落とし穴に迫る。

 

世界最強の座から滑り落ちたフランス

 

 1998年7月12日。パリ近郊のサン・ドニに新設されたスタッド・ドゥ・フランスで、ジネディーヌ・ジダンはブラジルから2ゴールを奪い、母国を世界の頂点に導いた。自国開催のワールドカップ(以下W杯)で初優勝という最高の結果を残した2年後には、オランダとベルギーの共同開催となったユーロ2000も制し、翌年には初のFIFAランキング1位を獲得。ジダンを筆頭に多くのタレントをそろえた彼らは、文字どおり世界最強の座に君臨した。

 

 しかしその後、フランスは国際的なタイトルから遠ざかり、2010年のW杯ではまさかのグループリーグ敗退。「黄金時代」は終わりを迎え、今やワールドクラスと呼べる選手はフランク・リベリーなど数名を数えるのみだ。「育成大国」と呼ばれ、一流のタレントを次々と輩出してきたフランスに、一体何が起こったのだろうか。その背景を探っていくと、「育成」というテーマを考える上で重要になる、別のファクターが浮かび上がってくる。

 

いち早く整備された育成システム

 

 トップレベルのサッカー選手を育成するために、FFF(フランスサッカー連盟)は1970年代初頭、10代後半の若者を対象とした育成センターを設立した。このセンターはその後、ヴィシーからパリ近郊のクレールフォンテーヌに移設され、対象年齢も10代前半へと引き下げられて、より早い段階から育成を手がける専門機関となる。ここにはサッカー界における最先端の理論と施設がそろい、ティエリ・アンリ(NYレッドブルズ)やウィリアム・ギャラス(トッテナム)、ニコラ・アネルカ(ユヴェントス)を筆頭に、数々のスター選手を輩出していった。

 

 FFFの本拠地、クレールフォンテーヌを中心とする育成センターの特徴は、若年世代から高度なボールスキルを教え込むことだ。少年たちは育成センターで個人スキルを高め、週末は自分の所属チームに戻って試合に出場する。この方法だと、指導者は目先の試合の結果にとらわれることなく、長期的な視点で選手を指導することができる。また、年齢に応じた指導プログラムとコーチライセンス制度により、選手たちはチームが代わっても一貫した指導を受けられる。卒業生はそのままプロクラブの下部組織に所属して、「プロ予備軍」としてアカデミーの教育を受ける。

 

 10代からプロまでの一貫したシステムを確立したことで、フランスは世界屈指の「育成大国」となった。実際、フランス式の育成メソッドは理想的なモデルとして世界各国でコピーされてきたのだ。日本の読者の方なら、2006年にJFA(日本サッカー協会)が福島に設立したアカデミーを知っているかもしれない。これも、クレールフォンテーヌを見本として運営されている。

 

 では、優れた育成システムを持つフランスの代表チームが、なぜ今になって人材不足に悩まなければならないのか。理由はいくつか考えられる。

 

 一つは、クレールフォンテーヌのような最先端の育成機関が、90年代後半を境に世界的なスタンダードとして広まったことだ。今では欧州各国のクラブが専門のアカデミーを持ち、東欧やアフリカ諸国には欧州のクラブと提携したアカデミーもある。いち早く育成に着目したことによるフランスのリードアドバンテージは、これによって次第に減少した。

 

 更に、育成手法が整備されすぎたことで個性的な選手が少なくなり、同じようなタイプの選手が増えていることを危惧する声もある。例えば、フランス代表に名を連ねるマルセイユのマチュー・ヴァルビュエナは、167センチという身長の低さを理由にボルドーのトップチームに昇格できなかった経験を持っている。プロのスカウトは個性的な選手をチームに組み込むリスクを嫌い、手っ取り早く、平均値が高い選手を手に入れようとする傾向があるのだ。

 

キャリアの選択ミスが成長を阻む要因に

 

 だが、より深刻な問題は別のところにある。現在のフランス代表の中心選手を見てみよう。代表キャプテンのGKウーゴ・ロリス(トッテナム)やアブ・ディアビ(アーセナル)、ヨアン・グルキュフ(リヨン)、ヨアン・カバイェ(ニューカッスル)は、05年のU-19欧州選手権で優勝したメンバーだ。そしてカリム・ベンゼマ(レアル・マドリー)、サミル・ナスリ(マンチェスター・シティー)、ジェレミ・メネズ(パリ・サンジェルマン)、ハテム・ベン・アルファ(ニューカッスル)は、04年のU-17欧州選手権を制している。フランスの将来を担う「新・黄金世代」として大きな期待を掛けられていた彼らは、ユース世代での輝かしい実績に比べて、A代表ではめぼしい成果を残せていない。

 

 これは、育成の成功が裏目に出た例と言っていいだろう。彼らの多くは10代で素晴らしいポテンシャルを示したために、早い段階で国外のビッグクラブに注目され、高額の移籍金を提示されて移籍した。その結果、何が起こったのか。グルキュフはミランでほとんどプレーできずにフランスに戻り、ディアビはアーセナルで定位置をつかめないまま数年を過ごし、メネズはローマで長く不遇の時期を経験した。ベンゼマは今も、R・マドリーのベンチとピッチを行ったり来たりしている。タイミングと行き先を見誤った国外クラブへの移籍が、かえって成長の障害となったことは明白だ。

 

 10代後半から20代前半と言えば、本来ならピッチでプロの経験を積むべき時期に当たる。その中で、90分間のペース配分や、対戦相手に応じたプレー選択、シーズンを通じたコンディショニングなど、様々なことを覚える。

 

 しかし、いきなりビッグクラブに身を投じた若者は、慣れない環境の中で、一流選手とのポジション争いを余儀なくされる。出場機会に恵まれなければ試合勘は鈍り、ともすれば経験を積むためにレンタル移籍の対象となる。下位クラブへのレンタルを繰り返した揚げ句、契約が切れると同時にあっけなく放出。そんな風にして表舞台から姿を消した選手は、決して少なくない。

 

 フランスは決して「育成大国」の看板を下ろしたわけではない。若い才能を「育てるだけ」の環境から更に一段階先の成長を、サッカー界全体でどうサポートしていくのか。それが現在のFFFの課題と言えるだろう。

 

まだ終わっていない「新・黄金世代」

 

 フランスの「新・黄金世代」が期待どおりの成果を残せていない現状は、フランスサッカーに新たな教訓を突きつけている。すなわち、素質ある10代の若者と、一流のプロ選手の間には、越えるべき高い壁があるということだ。

 

 その点を考慮すれば、本来の素質に恵まれている新・黄金世代には、まだチャンスはある。プロとして必要な経験を重ねることで、まだ飛躍する可能性があるのだ。

 

 振り返れば、ディディエ・デシャンは29歳、ジダンは26歳でW杯を制し、ジダンはその後にキャリアの全盛期を迎えた。従って、今年で26歳を迎える87年生まれを中心とする「新・黄金世代」はまだ終わったわけではない。

 

 ちなみに、その下の世代にも、フランスには確かな才能が育っている。特に注目してほしいのは93年生まれの新世代だ。R・マドリーでプレーするラファエル・ヴァラン、ユヴェントスで出場機会を増やしているポール・ポグバはこの93年組の筆頭株。ともに10代でビッグクラブに挑戦したため、これから出場機会を得られるかどうかがポイントになるが、今のところ順調な成長の跡を示している。

 

 現役時代に世界の頂点へと上り詰めたデシャン監督の下、86年~93年世代を中心とした新たなチームを作り、再び世界に挑む。自国開催となるユーロ2016を見据えたプロジェクトは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

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