2013.02.03

名将・アンチェロッティが“パリの革命軍”にもたらした「勝利への強い意欲」

ワールドサッカーキング 0207号 掲載]

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インタビュー=ミシェル・デスラック
翻訳=石橋佳奈

 

 ワールドサッカーキング最新号では、昨シーズンからパリ・サンジェルマンの指揮を執るカルロ・アンチェロッティのインタビューを掲載している。監督キャリア20年に迫ろうとする男が、「改めて、その難しさと面白さを味わっている」と言う。率いるのは“革命”の道を歩むフランスの名門クラブ。イタリアの名将は、パリでの挑戦を心から楽しんでいる。

 

 イタリアのメディア王、ロシアの大富豪、そしてカタール王族。指揮官としてのこの男の最大の“武器”は、戦術や選手の掌握術ではなく、野心溢れる“いわくつき”のボスの下で見せる絶妙なマネジメント能力かもしれない。

 

 2011年12月、ミランで同僚だったパリ・サンジェルマンのレオナルドSDに誘われる形で、カルロ・アンチェロッティは新天地にパリを選んだ。

 

「パリでの仕事も素晴らしい経験になると確信している。このクラブには大きな野心がある。このクラブは、私の知識と経験を最大限に生かし、成功を享受するためのあらゆる要素を備えている。壮大なプロジェクトの一員になれることに興奮しているし、これから始まるハードワークが楽しみだ」

 

 古巣と現クラブとの違い、この冬の移籍市場、2月に再開するチャンピオンズリーグ(以下CL)まで、野心に満ちた“パリの革命軍”を率いる指揮官が、絶妙な話術を披露してくれた。

 

すべてを根本から変える必要があった

 

パリSGの監督に就任して1年が経ちました。ここまでを振り返って感想はいかがですか?

 

アンチェロッティ(以下A)―非常に有意義な経験をさせてもらっているよ。正直、それなりの経験を積んだ指揮官のつもりでいたが(笑)、ここでは今までと全く異なる状況に直面している。

 

パリSGはこの2シーズンで全く別の集団に生まれ変わりました。

 

A―そのとおりだ。私が指揮権を託されたのは、新加入選手が大半を占めるチームだった。文字どおり、ゼロからチームを作っているようなものさ。改めて、監督業の難しさと面白さを味わっているよ。問題は山積みだがね(笑)。

 

リーグ・アン初挑戦となった昨シーズンは、モンペリエにタイトルを奪われました。パリSGとは対照的に、目立った戦力補強を行わなかったクラブです。

 

A―モンペリエには敬意を表する。チームの総合力というのは、個々の能力を単純に足し合わせたものではないんだ。モンペリエはディフェンスが堅く、我々よりもチームとして格段に機能していた。簡単に勝てない相手だということはあらかじめ分かっていたし、相手が自分たちよりも優れたチームであれば、それは事実として受け止めなければならない。

 

しかし、陣容の充実ぶりという点で、パリSGが優勝候補の筆頭と見られていたことも事実です。

 

A―繰り返すが、チームの総合力は、個々の能力の単純な合算ではないということさ。もっとも、今シーズンは違う。我々より強いと思えるチームは見当たらない。まだ安堵すべき時期ではないが、タイトルを獲得する自信は十分にある。

 

あなたがかつて指揮したミランやチェルシーと比べて、パリSGはどういった点が違いますか?

 

A―私が2001年にミランの監督に就任した時、成績こそ芳しくなかったが、チームのクオリティーは極めて高かった。前線に(アンドレイ)シェフチェンコ、中盤に(アンドレア)ピルロや(ジェンナーロ・イヴァン)ガットゥーゾ、ディフェンスラインには(パオロ)マルディーニがいて、彼らのように能力の高い選手がチームとして機能していたからね。だからこそ、就任2年目でCLを制覇することができたんだ。2009年にチェルシーに行った時も同じような状況だった。新しい選手を連れてくる必要はなく、私の仕事は組織としての細かいバランスを調整するだけで良かったんだ。

 

一方のパリSGは?

 

A―ここでは、すべてが変化の途中にある。2011年にカタールの王族がこのクラブを買収して、経営規模は何倍にも膨れ上がり、次々と新たな選手が加入した。それ以前のパリSGは8年もCLの舞台から遠ざかり、国内リーグでも最後の優勝は1994年。フロントもチームも、すべてを根本から変える必要があった。

 

監督が導入した変化についてはいかがですか?

 

A―例えばトレーニングだ。私はより実戦を意識し、フィジカル面を強化するメニューを採り入れた。小さなクラブでは、「トレーニング」とは単に試合への準備を意味するが、ビッグクラブではトレーニングそのものが「勝負の場」となる。誰もが試合に出られるわけではないからだ。メンバー同士が競い合い、ポジションを勝ち取る意識を持つようになれば、トレーニングの緊張感は全く別物になる。高い金を払って連れてきたからといって、特別待遇は許されない。ミランやチェルシーでは当然のことを、ここでは一から教えなければならないんだ。だが、チームのメンタリティーは確実に変わってきているよ。

 

パリSGはビッグクラブと同じステージで戦えるようになっているということですか?

 

A―そのとおり。現在のチームと1年前のチームを比較すれば、勝利への強い意欲という点で両者は全く別のチームだ。

 

とはいえ、パリSGは第11節から15節までの5試合でわずか1勝しか挙げられず、監督自身も「クラブの危機だ」と警鐘を鳴らしました。正直なところ、我々には監督の立場のほうが危うく思えましたが……。

 

A―確かに、うまくいかない時期はあった。ただし、発言は正しく受け取ってほしいね。危機に直面したのは、チームであってクラブではない。私はストレートな性格だから、うまくいっていない時は「うまくいっていない」と言ってしまうのさ(笑)。あの時期はチームとしての未熟な部分が露呈したので、選手たちにもそう指摘した。監督としては当然のことだ。立て直さなければ、君が危ぶんだように、私がクビになるんだからね(笑)。

 

その後はうまく立ち直りました。

 

A―外部からの厳しい批判も、結果的には幸いした。選手がピッチ上で、それまで以上の闘争心を見せるようになった。パフォーマンスの質も高まったし、このチームのポテンシャルを改めて確信することができたよ。

 

チームが不調の時、監督はどんな“治療”を施したのですか?

 

A―「何もしていない」と答えたら信じてくれるかい? でも、それが答えだ。結果が出ない時期こそ、慌てて“下手な手”を打つのではなく、自分たちのサッカーを我慢して貫くべきなんだ。これもSDのレオナルドのおかげだよ。彼とは互いにプロとして素晴らしい信頼関係にある。私も冷静でいられるし、本当にラッキーなことだ。たいていのクラブには、チーム状態が悪くなると、すぐさま監督にプレッシャーを掛ける人間がいるものだからね(笑)。

 

確かに、ミランやチェルシーには口うるさいオーナーや副会長がいます(笑)。

 

A―まあ、それもサッカーの一部だ。おっと、別に批判するわけじゃないよ(笑)。ただ単に、今の環境が恵まれていると言いたかっただけだ。

 

ちなみに、ミランとチェルシーは今シーズン、ともに苦戦を強いられています。

 

A―ミランもチェルシーも変化を選択した。ミランはイブラ(ズラタン・イブラヒモヴィッチ)やチアーゴ・シウヴァを、チェルシーは(ディディエ)ドログバや(マイケル)エッシェンを手放した。その代償として、彼らが以前と同じレベルを保てないことは誰にだって分かる。むしろ、勇気を持って再スタートを切った点を評価すべきだ。

 

ミラニスタは、イブラヒモヴィッチとT・シウヴァを獲得したあなたのことを恨んでいるかもしれませんね。

 

A―いや、サポーターはクラブの決断を理解していると思う。メンバーの若返りに着手したのは正しい判断だったとね。すぐに結果を出すことは難しいかもしれないが、私は心配していない。ミランには偉大な歴史と勝者の伝統がある。それこそ、パリSGに決定的に欠けているものだ。

 

では、チェルシーのロベルト・ディ・マッテオ前監督の解任についてはどう思われますか?

 

A―不当な決定と言うべきだろう。だが、プロの監督とはそういうものだ。例外はマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソンだけさ。そのファーガソンにしても、若い頃には解任された経験がある。よく考えれば、不思議な職業だよ。自分がプロジェクトの中心にいると思えば、ある日突然、そのプロジェクトから完全に外されることがあるんだからね。

 

イブラヒモヴィッチの話に戻しますが、彼は早くもリーグ・アンの大スターになっています。今のところ、監督の期待に応えているようですね。

 

A―いや、私はまだまだ不満だよ。彼は前半戦で20ゴールを決めると私に約束した。だから、2012年の最終戦となったブレスト戦(第19節。パリSGが3-0で勝利)の後、彼にこう言ったんだ。「イブラ、分かっているか? お前はまだ18ゴールしか決めていないぞ」とね(笑)。

 

どうやら、イブラヒモヴィッチとの関係はうまくいっているようですね(笑)。

 

A―彼は良い意味でサプライズだった。イブラのような偉大な選手と、平凡な選手の違いがどこにあるか分かるかい? エゴイストではないということだよ。イブラを見ていると、自分のゴールよりもアシストのほうがうれしいように思える。彼のような選手がいることは、このクラブにとって大きな幸運だ。もちろん、プレーヤーとしての才能も素晴らしい。経験にも恵まれているし、常に勝利を目指している。私が説明するまでもないが、これまで所属したクラブであらゆるタイトルを獲得してきた選手だ。パリSGのようなクラブにとっては、彼が備える“勝者のメンタリティー”が大きな意味を持つ。先ほどの話に通じるが、イブラはトレーニングでも本番のように力を出し尽くす。自分が関わるすべてのプレー、すべての試合で勝とうと心掛ける本物のプロだ。フランスでは彼のブームが巻き起こっている。アウェー戦でも、最初こそブーイングを受けるが、最後には拍手をもってたたえられる。誰もが彼の才能を認めているからだ。

 

無駄に選手の獲得を重ねても意味がない

 

リーグ・アン、セリエA、プレミアリーグそれぞれの違いについて教えていただけますか?

 

A―イングランドの選手は常に全力を尽くす、誠にプロらしいプロだ。打算がなく、エネルギーを節約しようともしない。イタリアやフランスの選手はイングランドの選手よりクリエイティブかもしれないが、彼らに全力を尽くさせるには、相当はっぱを掛けなければならない。これが大きな違いだろう。それからイングランドでは、ファンのサッカー感も異なる。人々は選手に対しても、監督に対しても敬意を払う。私はあの国で侮辱されたことが一度もない。残念ながら、イタリアでは侮辱も日常茶飯事になる。

 

では、フランスは?

 

A―フランスは良い環境にあるよ。監督のことも尊重してくれている。

 

なるほど。次に補強について話を聞かせてください。この冬、手に入れたいと思っている選手は誰ですか?

 

A―ずいぶんと、率直な質問だね(笑)。その心意気に免じて、正直に答えよう。この冬のマーケットで獲得するのは、ルーカスだけだ。彼は非常にビッグな選手で、チームにエネルギーを与えてくれる。彼の加入は真のチーム強化につながるし、我々の目標達成を大いに助けてくれると期待しているよ。

 

レオナルドSDが「パリを去る選手が出るなら、新たにメンバーを補充するつもりでいる」と語ったとも報じられていますが。

 

A―フロントは私の考えを知っている。「新しい選手はいらない。今の顔触れで十分満足だ」と経営陣には伝えてあるからね。無駄に選手の獲得を重ねても意味がない。シーズン途中であれば、なおさらだ。もっとも、この1月にパリSGから去りたいと言っている選手がいることは確かだ。買い手があるなら彼らの意向に添うつもりだし、出て行く選手によっては補強も必要になる。

 

デイヴィッド・ベッカムが現在フリーですが、今でも彼に関心を持っていますか?

 

A―いや、その話はもう終わったことだ。必要な選手がここを去らない限り、新しい選手を獲得するつもりはない。

 

最後にCLについての質問です。あなたはミランの監督としてCLを2度制していますが、パリSGでもビッグイヤーを獲得できると思いますか? また、そのために必要な条件があるとすればそれは何ですか?

 

A―欧州を制するには、そのチームならではのカラーを備えていることと、強いスピリットを持つ必要がある。今、この基盤を我々は築いているところだ。その条件をクリアできれば、今回のCLで一つの山を越えることができるだろう。私の考えでは、最強のチームはバルセロナだ。続いて、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリーといったチームが2番手のグループを形成している。

 

パリSGはベスト16でバレンシアと対戦します。ラッキーくじを引いたと思いますか?

 

A―CLにラッキーくじなど存在しないよ(笑)。だが、R・マドリーと対戦するよりはラッキーだったと言うべきかもしれないな。もっとも、リスペクトを欠くつもりはない。この大会の実績で言えば、パリSGはバレンシアの足元にも及ばないんだからね。まず目標は、準々決勝に進むことだ。侮るわけではないし、無論、リスペクトは抱いているが、我々の本来のサッカーを披露できれば勝てるはずだ。次の目標は、その後に立てるよ。

 

 

 

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