2012.11.15

ジョゼ・モウリーニョが語る“ジャイアントキリングの起こし方”

[ワールドサッカーキング1206 掲載]

 欧州最強の座へと続く舞台で、ポルト時代にマンチェスター・ユナイテッドを下し、チェルシーとインテルでいずれもバルセロナの夢を砕き、現在はレアル・マドリーの指揮官として、《最強》の呼び声高いバルサとリーガ・エスパニョーラの盟主の座を争う。

 

 ジョゼ・モウリーニョ。今号の巻頭インタビューを飾る人物として、この男以上の《はまり役》はいないはずだ。

 

 しかし、知将への最初の投げ掛けは《愚問》だった。「あらゆることが起こり得る、それがサッカーというスポーツだ」

 

 番狂わせが起こる理由についての質問に、彼はそう答えた。

 

 もっとも、彼らしいこの切り返しをスタートに、格上のチームと対戦する格下のチームが用いるべき戦術から、R・マドリーにとって厄介な対戦相手、ビッグクラブから勝利を収めるために小規模なクラブが施すべき準備、中堅クラブを率いてバルサやR・マドリーと対戦するという仮想シミュレーションに至るまで、「ジャイアントキリング」というテーマに沿って、彼らしい持論をよどみなく展開してくれた。

 

 自らを《スペシャル・ワン》と呼ぶアップセットの名演出家、モウリーニョの言葉に耳を傾けろ。

 

重要なのはミスを犯さないこと そして、チャンスを無駄にしないことだ

 

ビッグクラブが格下のクラブに負けることがあります。いわゆる《ジャイアントキリング》はなぜ起こるのでしょうか?

 

モウリーニョ(以下M)ー逆に尋ねるが、そもそも君はビッグクラブが常に勝利する、それがサッカーだと思っているのかい?サッカー界には、クラブとしての規模は小さくとも、クオリティーの高いサッカーを披露するチームはたくさんある。往々にして、そういったチームはビッグクラブに比べて失うものが少ない。プレッシャーがなく、クオリティーとモチベーションがそろったチームを相手にするのはことのほか難しいものだ。恐らく、君が想像している以上にね。例えば、「中堅」と呼ばれるクラブがマドリーと対戦する時、彼らはまるでワールドカップの決勝に臨むような意気込みで挑んでくる。おのずと我々のプレッシャーは増し、相手のモチベーションは高まる。あらゆることが起こり得る、それがサッカーというスポーツだ。

 

R・マドリーは昨シーズンもポイントを落とした時期がありましたが、今シーズンほど際立ったものではありませんでした。R・マドリーは昨シーズンの優勝で自己満足に浸っている、その批判は厳しすぎますか?

 

M―昨シーズンとの最大の違いは、我々が昨シーズンはまだチャンピオンではなかったという点だ。「自己満足に浸る」という表現が適切か否かはさておき、リーグ王者というステータスが多少は影響を及ぼしているかもしれない。バルサ戦など、強豪との一戦では変わらずグレートなパフォーマンスを見せるが、下位チームとの対戦では全力を出し切れていないことも少なくない。これは危険な兆候だ。常に全力で取り組むことができなければ、チームに対する私の信頼も崩れかねないからね。

 

格下のクラブがビッグクラブを相手にする際に採用する戦術とはどんなものですか?例えばR・マドリーと対戦するチームは、あなたたちを詳しく分析し、弱点を見つけ、そこを徹底的に突いてくると思いますが。

 

M―我々はラインを高く保ち、最前線に3人の選手を配置する。どの選手もスピードがあってクリエイティブだ。そして、彼らの後方に4人目の攻撃的な選手を配置する。これが相手にとっては厄介な存在になるのだ。格下のクラブの典型的な戦術は、ゴール前に《バスを停車》させて(人数の多さでカバーするの意)失点を防ぎ、カウンターのチャンスを待つというものになる。

 

逆にあなたは格下のクラブと対戦する際、どのような戦術を用意しますか?

 

M―ボールを失った場合、相手は即座にカウンターに転じようとする。私がすべきことは、それを阻止するプランを念入りに考えることだ。相手チームにとって有利な点をすべて除外する。至ってシンプルだが、それが私が用意する戦術だ。

 

たとえ格下の相手であっても、バルサ戦のように入念な準備をするということですね。

 

M―当然だ。むしろ、そういった相手とのリーグ戦のほうが、例えばチャンピオンズリーグ(以下CL)の試合などよりも準備が重要になってくる。バルサのようなチームとトップ争いをしている我々にとって、ポイントを落とすことは厳禁だ。CLのグループリーグでは1試合を落としても巻き返せる可能性が十分にあるが、リーグ戦では一つの敗戦が致命傷になり得るからね。

 

では、R・マドリーが苦手とする格下の相手とはどんなチームですか?

 

M―昇格クラブだ。彼らはモチベーションも高いし、メンタル面も充実している。意気揚々と挑んでくる昇格クラブとの対戦は、1部リーグの座に安住しているようなクラブと対戦するよりもはるかに大変だ。

 

下部リーグのクラブとも対戦する機会のあるカップ戦についてはどうですか?

 

M―ノックアウト方式のカップ戦では、私が試合前に選手たちに話すことはいつも同じだ。死にもの狂いで勝ってこい、私はそう選手たちに言っている。

 

3シーズン前、R・マドリーは当時2部B(3部相当)のアルコルコンに0―4の大敗を喫したことがあります。チームが絶不調の時期でしたね。

 

M―絶不調だったかどうかは知らないが、「アルコルコン戦のようなプレーをしたら死刑だ」とは伝えてある(笑)。まあ、冗談はさておき、クオリティーの高い選手でなければ、私のチームでプレーする資格はない。アルコルコン戦の話は、選手を鼓舞する時に事例として使っている。国内カップを軽んじる者もいるが、私はとても価値のある大会だと思っている。出場機会の少ない選手にとってはアピールの場にもなるからだ。もっとも、今話した通り、クオリティーに満足できなければ、その選手は二度と使わない。それくらいの覚悟で試合に臨んでほしいと思っている。

 

リーグ戦に話を戻しますが、今シーズンは既にヘタフェ戦とセビージャ戦で黒星を喫しました。

 

M―どちらの試合もマドリーには全く良いところがなかった。集中力も、勝とうという意志も感じられなかった。それが気掛かりだ。ボールポゼッションからしても、相手の勢いに押されてタジタジの状態だった。これまではバルサ戦でのみ見られる傾向だったが、最近では他のクラブ相手にもポゼッションで後れを取るケースがある。

 

監督がリーガで厄介だと思う対戦相手はどこですか?

 

M―昨シーズンはラージョ(バジェカーノ)戦がハードだった。ラージョは諦めることがないチームだ。今シーズンの初戦はチームプレーで我々が勝利を収めたが、負けていた可能性もある。あの合は相手のチャンスをできるだけ減らし、我々のチャンスを最大限に生かした。言葉にすると至ってシンプルだが、それが《勝利の鉄則》でもある。

 

仮にあなたが中堅クラブを率いてR・マドリーやバルサと対戦するとしたら、どんな戦い方をしますか?

 

M―重要なのは、長所を最大限に生かし、欠点を隠すことだ。選手には「勇気を持って戦え」と伝えるだろう。ディフェンスはもちろん大事だが、もっとも重要なのはミスを犯さないこと。そして、チャンスを無駄にしないことだ。