2012.09.18

【コラム】ティト・ビラノバ&リオネル・メッシ『新生バルサの挑戦』

ワールドサッカーキング 0920号掲載]
ここ数年間の実績から、我々はバルセロナが圧倒的な強者であることに慣れている。だが、この世界における栄枯盛衰はダイナミックに、そして急速に進む。バルサが強者であり続けようとするなら、進化の道を常に探し続けるしかない。
バルセロナ
文=セルヒオ・レビンスキー 構成・翻訳=工藤 拓

完璧なチームは存在しないそれに近づくことはできる

 リオネル・メッシは年齢を重ねるごとに自分自身を乗り越えてきた。プロとして積み上げたゴールは300を超え、樹立した数々の新記録はまばゆい光を放っている。昨シーズンの公式戦でのゴール総数が82であることを考えれば、シーズン100ゴールという狂気的な記録すら実現してしまうかもしれない。彼のプレーについて今さら議論を持ち掛けることなど不可能だ。

 ティト・ビラノバに課せられた第一の仕事はロッカールームをコントロールすることだ。既にメッシが特別な存在であることは誰もが知っていることだが、バルセロナには他にも多くの世界チャンピオンやヨーロッパを2度制したビッグネームがいる。その中で2人のリーダー、カルラス・プジョルとチャビは近い将来、スパイクを脱ぐことになる。そして次第にチームの重心はメッシとアンドレス・イニエスタ、静かにチャビの役割を引き継ぎ始めたセスク・ファブレガス、そしてハビエル・マスチェラーノへと移っていく。その“移行”がスムーズに進む筋道を作る。これは前任のジョゼップ・グアルディオラには課せられていなかったが、ビラノバにとっては重大な、そして決して簡単ではない役割である。

 選手のメンタルコントロールも新監督の重要な任務となる。選手たちが勝利と美しいプレーへの渇望を失わないよう努めるのは言うまでもないが、グアルディオラの退任がサイクルの終焉(しゅうえん)を意味するのではなく、サッカー史上最高と称されるに至ったチームが更に進化し、完璧な領域へと近づくことが可能だと示さなければならない。マスチェラーノは「完璧なチームなど存在しない」と言っていた。それは真実だが、完璧に近づくことは可能である。

メッシにすべてを依存する攻撃スタイルからの脱却

 結局のところ、ビラノバが提示すべきは「以前と変わらぬ最強のバルサ」のイメージだ。とはいえ、クリアしなければならない課題は多い。その中でも最も難しく、微妙なバランスを保ちながら作業を進める必要があるのは、日々進化を続け輝きを増すメッシのプレーが、コレクティブなポゼッションサッカーを志向するバルサ・スタイルと対照をなしつつあることだ。ビラノバはこの天才プレーヤーを最大限にサポートし、その能力を生かすシステムを見いだす必要があるが、それはもしかしたら、伝統的なバルサのサッカーとは別のものかもしれない。“偽9番”と呼ばれる、典型的なセンターフォワードを置かないシステムの発明は、グアルディオラ体制初期のバルサにおいて重要な進化のカギとなった。だが、多くの試合において、特に昨シーズンに見られたことだが、バルサは作り出した無数のチャンスをゴールに結びつけることができず、内容では圧倒しているはずの試合で勝ち切れないことが何度もあった。

 ゴールだけでなく、フィニッシュに至る崩しのプレーやパス回しまで、今のバルサはあまりにもメッシに依存しすぎている。一方で8カ月の離脱を経てピッチに戻って来たダビド・ビージャを除き、メッシが作り出すチャンスを確実にゴールに結びつけられる選手は見当たらない。チーム得点王のメッシとその他の選手の間にある数字の差が、それを証明している。それはレアル・マドリーとは対照的だ。R・マドリーのチーム得点王はクリスチアーノ・ロナウドだが、たとえ彼が崩しの局面に重点を置いたとしても、ゴンサロ・イグアインやカリム・ベンゼマがゴールを決めることができる。

 バルサにはメッシ以外の点取り屋が必要だ。もっと多くのゴールが必要なのではない。もちろん、より多くのチャンスをゴールに変えられる選手が増えれば、ゴール数自体も増え、チームとしてスキャンダラスな数字をたたき出すことになるかもしれない(実際、今年は年間170ゴールを記録した2011年を上回るペースでゴールを重ねており、リーガの第2節を終了した時点で既に105ゴールを記録している)。

 そのためにビラノバがやるべきことは何か。まずは戦線復帰を果たしたビージャの得点力を生かすことだろう。その次に、ペドロ・ロドリゲスやアレクシス・サンチェス、そしてイサーク・クエンカ、クリスティアン・テージョといった「フィニッシュよりチャンスメークに長けたタイプ」のアタッカーを生かすチーム戦術を見いだし、徹底することだ。その戦術の目的は、メッシの長所を最善の形で引き出すため、あるいはメッシをベストな形でサポートするためでなければならない。

バルサ対策のカウンターに今の戦術では対応できない

 幸いにも、中盤の選択肢は豊富だ。チャビ、イニエスタ、ファブレガス(現時点で彼は100パーセントの力を発揮できてはいないが)だけでゲームメークの質は保障されたようなもので、しかも彼らにはカンテラから台頭してくる若手選手、セルヒオ・ブスケ、時にマスチェラーノの支えがある。今夏はアレクサンドル・ソングも加わった。

 ディフェンスラインに目を向けると、そこには前線と同様にもう一つの大きな課題が見えてくる。果たしてビラノバは、両翼のダニエウ・アウヴェスとジョルディ・アルバを攻撃に専念させるべく、3バックを本格採用するのかどうか。ここ数年、リーガやチャンピオンズリーグで対戦してきたライバルチームの戦い方を見る限り、今後もバルサが勝ち続けるためにはそれくらい大胆なシステムに切り替える必要があると、私には思える。

 バルサと本気でボールポゼッションで勝負しようとするチームがどれだけいるだろうか? 皆無だ。例外があるとすれば、恐らくそれは2年前にロンドンで対戦した際のアーセナル、そしてR・マドリーやバイエルンが一定の時間帯限定で試みた程度だろう。

 バルサのポゼッションの優位性は誰の目にも明らかだ。そして、あらゆる大会でどの対戦相手もバルサの優位性を認めて守備的な戦術を選択する。それが分かっていながら、最終ラインに人数を割くことに何の意味があるのだろうか? 彼らはいったい誰をマークするのだろう? バルサの最終ラインにそれだけの仕事があるとは思えない。一方で、ライバルが繰り出すカウンターに対して、最終ラインのDFたちは無力だ。広大なスペースがある中で、スピードに乗った相手との一対一を強いられる。それならカウンターの芽を中盤で潰してしまう、あるいはカウンターを待ち受けるのではなく追い掛ける形で防ぐといった形の守備に重点を置いた戦術を選択すべきだ。

 バルサは3-4-3はもちろん、対戦相手や状況によって2-5-3で戦うことだって可能なのだ。これは常軌を逸した奇策なのだろうか? そうは思わない。バルサがそのような戦術的革命を行わないのであれば、ポゼッションサッカーの質をここからどれだけ高めたところで限界はある。 バルサのような完成されたチームに戦術的革命をもたらすことは、新米監督のビラノバには無茶な要望と思われるかもしれない。10代からバルサで生きてきた彼をしても、トップチームの監督として適応するまでにはある程度の時間を要するだろう。だが、世界最高のチームをリーダーとして率いていきたいのであれば、この数カ月間のうちに戦術面、精神面の双方で自身の能力を証明しなければならない。その手元にあまりにも贅沢(ぜいたく)なチームがある以上、すぐに結果を求められるのは当然のことだ。