2012.09.01

遠藤保仁(G大阪)が語る復権への道「未来を変えるチャンスは十分に残されている」

Jリーグサッカーキング10月号掲載】

 “常勝ガンバ”を知る男は今、何を思うのか。様々な困難を乗り越え、あらゆるタイトルを取り尽くし、勝利の味を知るからこそ、強く感じることがある。

 上昇のために、復権のために必要なこと―。“司令塔”の冷静な分析と熱い気持ちをここに。

 

インタビュー・文=高村美砂

[写真]=兼子愼一郎

こういう時期はあって当然、いつかクラブの財産になる

今シーズンは開幕から苦しい戦いが続いています。ここまでの戦いを振り返っていただけますか?

 

遠藤 勝負ごとは結果がすべてですからね。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループステージ敗退、リーグ戦は勝ち点18で17位(8月17日現在)という結果のとおり良くない。ただ、ガンバの場合、毎年スロースターターなところはあるし、どれだけ優勝争いを続けているチームでも、シーズン当初はいろんな難しさを感じてスタートするものだから。そう考えれば、スタートの悪さは驚くものではなかった。加えて、新しい監督が就任したとなれば、戦い方や練習メニュー、試合に向けたアプローチの仕方が変わるのは当然で、その《変化》に対してスムーズさを欠くのは想像の範疇だった。でも、それが原因でこういう結果を招いているかと言えば、そうは思わない。もともと僕は監督が交代すること以上に、選手が入れ替わることのほうがクラブ、チームにとって大きな変化になると思っていたから。つまり、新加入選手も含め、選手個々のストロングポイントや特性、プレースタイルなどを融合させて新しいサッカーを作っていくことに、多少の時間を要するんじゃないかと。実際、その難しさはシーズンを進めてきた中でも感じながら戦ってきたところはあった。ただ、スロースターターとはいえ、初めての公式戦、ホームで戦ったACLグループステージ第1節の浦項スティーラーズ戦の出来が悪過ぎたのは響いたよね。あの試合の入り方が違っていたら、選手同士がお互いのプレーに手探りのところがあったり、組織としてスムーズさを欠いていたとしても、もう少し進む方向は違ったと思う。

 

過去を振り返っても、遠藤選手がおっしゃるとおり、スロースターターなG大阪だけに連敗でスタートしたシーズンもありました。そう考えても、遠藤選手の言う「悪過ぎた」とは、結果以外のことを指すのでしょうか。

 

遠藤 そうですね。これまでのシーズンはたとえ悪いスタートになっても、選手がほぼ同じで戦い方も変わらない。となれば、その根底に「良くなる」、「巻き返していける」という確信が持てていたというか。結果的に毎年、優勝争いをしてきたように、「やり続ければ、いずれ答えが出る」ということを自分たちで証明できていたからこそ、現状に深刻になりすぎず、自信も失わずに戦っているガンバがいた。でも、今年は選手も多少入れ替わって、戦い方も全く同じではない中で、あまりにも悪い内容のスタートがあり、それが続いた中でチームもクラブもバタバタして、悪い要素が見事に噛み合ってしまった。でも、こういうことってサッカーには絶対に起こりうることだから。決して楽観視しているわけじゃないけど、僕は「こういう時もある」と思う。

 

「絶対に起こりうること」をもう少し説明してもらえますか。

 

遠藤 例えば、最近で言えばガンバには西野朗前監督の下で10年にわたってチームを作ってきた現実があり、選手もほとんど変えることなく、毎年、前線にいい外国籍選手を獲得しながら結果を出してきた。それはもちろん一つのやり方だけど、一方でいい若手選手が育ったか、チームとして右肩上がりで成長できたかと考えれば、物足りないところがあったのも事実。そう考えた時に、長い期間同じ監督の下でサッカーをしながら、優れた外国籍選手を次々に入れ替えて、他のクラブからいい日本人選手をたくさん獲得して、若手選手も育てて、強さも維持することがパーフェクトにできるクラブなんて絶対にない。でも、クラブとしては成長や変化を求めなければいけない中、そのための決断をしたとなれば、当然それに伴う産みの苦しみを味わうことになる。だから、こういう時期は歴史の中ではあって当然だし、いつかクラブにとっての財産になる。

 最初にも言ったように勝負ごとはすべて結果論だから。今はなかなか浮上できない現状があるからマイナスな声ばかりが聞こえてくるけど、何かのきっかけでチーム状況が好転した時に、きっと「これも必要なことだった」ってことになる。そう考えても、シーズンが終わるまで答えは出ないと思う。いや、クラブの長い歴史で考えたら、たとえシーズンが終わったとしても、それが答えではないのかもしれない。ただ、今を戦う選手たちはこの現状を感じなければいけないのは間違いない。実際、ほとんどの選手が今「サッカーは本当に紙一重のスポーツで、毎年、毎試合、危機感を持って戦い続けないと勝てなくなる」と感じているはずだけど、それを感じるだけではなく、そこでどうするべきかをしっかりプレーで体現していかなければいけない。悪い時なりに学ぶことは絶対にあるはずだけど、本当の意味で「学ぶ」ということは変化につなげていくことだから。

 

[写真]=足立雅史

まだ最後の結果は出ていない。自分たちで変えられることはある

具体的に試合内容についての課題、勝てない理由をどう考えますか?

 

遠藤 試合ごとに理由は違うけど、総じて言えるのは、先に失点する試合が多いこと。あとはメンタル的な余裕を戦う前から相手に与えてしまっていること。そして、そこに付随する自分たちのメンタリティのもろさ。先制点については、先に点を取られることで、早い段階から戦い方のプランを変えざるを得なくなり、リスクを冒す必要が出てくる分、相手に付け入るスキを与えてしまっている。相手より1点でも多く取れば勝てるのがサッカーだから、先に失点しても下を向く必要はないのに、勝てない状況が続いていると今度はメンタリティのもろさが出てくる。いい状態の時はビハインドを負った展開でも、みんなの頭の中には《勝ち点3》のことしかないはずが、「引き分けでいいや」、「負けたらどうしよう」という考えが芽生えてきて、変に焦ってバランスを崩してしまう。

 特に今年は例年ほど「ガンバはいつでも点を取れる」という雰囲気が漂っていない。得点数は決して少なくはないけど、その空気感が物足りない分、先に取られると余裕をなくしてしまう。おまけに、以前なら「ガンバが相手なら勝ち点1でもいいかな」という雰囲気で臨んできた相手が、今は「今年のガンバなら勝てるぞ」という気持ちで向かってくる。そもそもそういう気持ちにさせていることがうちにとってはマイナスだし、そこで先制点を与えてしまったら、より相手の気持ちに余裕を持たせてしまう。と、口で言うのは簡単だけど、「さあ、明日からメンタルが強くなりましょう」というわけにはいかないから。一番の特効薬はやはり勝つしかない。実際、今シーズンの試合内容を冷静に考えても、技術的な差があるわけじゃないからね。ボール支配率で完全に圧倒されたと思ったのはアウェイのサンフレッチェ広島戦くらいで、あとは守備から入った試合でもボールを保持しようと思えばいくらでもできたし、つなごうと思えばいくらでもつなげる試合だった。だからこそ、やっぱりメンタルが大切。そして、それをチームが取り戻すにはやっぱり勝つしかないと思う。

 

遠藤選手自身は、こういう状況に置かれた際に、プレーが萎縮したり、本来楽しめていたサッカーが楽しめなくなることはないですか?

 

遠藤 ないですね。もちろん、勝負ごとは勝つことが楽しいから、勝っていない今の状況を手放しに楽しいとは思わないよ。試合の中でどれだけいい時間帯を作って、素晴らしいパフォーマンスを見せても、結果的に勝てなければその楽しさはゼロになるから。例えばカジノで1億円勝った瞬間があっても、それを使って1億円負けたら、最初の楽しさがゼロになってしまうのと同じ。勝負ごとは終わった時の結果がすべてだから。だから結果が出る前からプレーが萎縮したり、本来ならできているはずのチャレンジができなくなることはない。むしろ、こうして結果が出ないことによって、今までのサッカー人生で感じたことのないような感覚を感じていることは、自分を成長させられる要素だとも思っている。それにJリーグは1年を通じての戦いで、1試合1試合は結果が出ているけど、まだ最後の結果は出ていないから。自分たちで変えられることもまだまだあると思う。

 

ただ、若くて経験値の低い選手は、現状をなかなか楽しめていないのかもしれません。

 

遠藤 確かに、それはあると思う。チーム状態が多少悪くても結果がついてきていれば、先に失点をしたとしても「1点くらいいいや」という気持ちでいられるけど、今はそうじゃないからね。特に若手は経験値が低い分、必要以上に一つのミスや失点を重く受け止め過ぎるというか。それが焦りにつながったり、いいプレーをして取り返そうとする意識が強すぎて空回りすることも多い。サッカーは11人で行うスポーツだけに一人の焦りが周りにも伝わって、どれだけ落ち着かせようとしても伝わらなくなることは正直ある。そこは個々のメンタルの問題だから周りが変えることは不可能だけど、11人で戦うスポーツなんだから個の弱さは周りが補えばいいし、そこに僕らベテランの役割があると思う。つまり、チーム全体を考えたり、バランスを取ったり、全体を見渡した中でのプレーはベテランが担って、若手はそんなことはすべて頭から外して、ただガムシャラにミスを恐れずに思い切りプレーすることだけを考えればいい。決して人任せにするということではなくね。

技術力が急に低下することはない、あと一歩を頑張れるメンタルがカギ

21試合を終えた時点での勝ち点は18。現実的に、ここから先の試合は勝ち点を計算した戦いをすべきだと考えますか?

 

遠藤 プロである以上、最終的な数字より、まずは目の前の試合で勝ち点3を求めた戦いをするだけですね。サッカーって数字を計算できるスポーツではないから。確かに過去のデータから残留のボーダーラインとなる数字はあるんだろうけど、それはあくまでデータ。それが今年に当てはまるかは分からない。そう考えても、これまで同様に目の前の試合で一つひとつ勝ち点を積み重ねていくしかないと思う。この試合では何ポイントと計算できるほどサッカーは甘いものじゃないし、勝ち点3を計算していた試合で勝てなくても残留できないわけではない。もっと掘り下げて言えば、そういう計算するのなら、スタートの第1節からすべき。こういう状況になってからではなく、本来はどの試合も同じように重みを感じて戦うべきだし、ここにきての負けも、序盤戦の負けも、同じ悔しさであるべきだと思う。そういう意味では、僕はシーズンがスタートした時から勝ち点を計算しています。目の前で勝ち点3を取るという計算。そこはこれからの戦いでも変わらないです。

 

今後の戦いにおいて、チームが勝ち点3を積み上げるためにG大阪の武器になっていくのは?

 

遠藤 やっぱり攻撃力だと思う。もちろん守備を疎かにしていいということではないし、最近の試合がそうであったように、状況に応じて守備に意識を置いて戦うことも有効だと思う。ただ、サッカーは、点を取らなければ勝てないスポーツだからね。それに、これまでの歴史において自分たちからアクションを起こすことで勝ちを引き寄せて来たガンバがいたと考えても、チームとしての意思統一の下に攻撃に対するアクションを増やしたい。ただ、最初にも言ったように、それを実現するためにも、無駄に先制点を与えてはいけない。そこはしっかり意識しつつ、かといって気持ちで守りに入ることのない戦いをしたい。実際、ガンバは得点を取ることでリズムが出るチーム。先に点を取れればより遊び心も出るはずだし、相手をいなすようなプレーも増えてくると思いますから。

 

ここにきて前線にレアンドロ、中盤に家長昭博、最終ラインに岩下敬輔を獲得しました。彼らのプレーを含めて、勝ち点3を取りに行く攻撃を作り上げる上で必要なことは?

 

遠藤 全員が攻撃に参加し、連動する意識を持つこと。これは実際にボールを触る、ゴールシーンに関わるということではなく、例えばシュウ(倉田秋)が右サイドでボールを持ったら、その瞬間に周りは右サイドがより楽になるための動きやポジショニングを考えなければならない。《連動》というのは直接的にボールに関わる選手だけでなく、ピッチにいる全員がゴールに結びつけるための動きをするということ。夏場の厳しい戦いでは頭が回らなかったり、思うように体が動かないこともあるかもしれないけれど、一人がわずか1メートル動くだけでチームを助けられることはたくさんある。今年は特に個々の「チームのための動き」が減っているからこそ、そこは改善したい。そういう動きが一人ひとりに増えていけばもっと流れるような攻撃が増えるだろうし、点を取れる可能性も、結果につながる確率も上がっていくはず。

 そうやって自分を動かすのも、すべてはメンタル。技術力が急に低下することがないと考えても、あと一歩を頑張れるメンタルの強さが必要になる。ここから先、他のチームは僕らがいつ上がってくるか分からないという不気味さも感じているだろうからね。それだけに僕らが一つでも順位を上げれば相手は嫌だろうし、連勝すればより大きなプレッシャーを与えられる。下位に低迷しているとはいえ、そういう状況を僕らが楽しんで勝つことを求めていくことも大事なのかなと思う。幸いにも今シーズンのJ1リーグは例年以上に混戦で、どこが勝ってもおかしくないような状況になっているだけに、まだまだ上位にいける可能性は残されている。まずは現実的に降格圏を脱出しなければという考えもあるけど、それだけではなく、僕はACLの出場権獲得も全くあきらめていない。何が起きるのが分からないのがサッカー。自分たちでその未来を変えるチャンスは十分に残されていると思いますから。

 

逆襲のガンバ ~大阪の力を一つに、いざ万博蹴結~ Jリーグサッカーキング2012年10月号

逆襲のガンバ ~大阪の力を一つに、いざ万博蹴結~

 8月24日発売のJリーグサッカーキング10月号は、リーグ後半戦での巻き返しを誓うガンバ大阪を大特集! 巻頭はチームの大黒柱である遠藤保仁選手のロングインタビュー! チームが上昇するため、“常勝ガンバ”に戻るために必要なことを語ってくれました。そしてガンバの前線を担う2人のブラジル人ストライカー、パウリーニョ選手とレアンドロ選手の対談にも注目。こちらもチームに対する思い、勝利に対する2人の思いが詰まった対談となりました。また、古巣を救うべく帰ってきた家長昭博選手は、いかなる思いでガンバへ舞い戻ってきたのか、そしてガンバで挑む新たなチャレンジについて言及。チーム全選手を紹介してくれた加地亮選手はチームメートの知られざる秘密を教えてくれました。  また、今回は同じく大阪に拠点を置くなでしこリーグのスペランツァFC大阪高槻にもスポットを当てています。なでしこジャパンの丸山桂里奈選手、ヤングなでしことして活躍する浜田遥選手、8月に就任した本並健治新監督のインタビューなど注目記事が満載です。ぜひ、ご一読ください!

   
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