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JFAの新プログラム『JYD』が始動…アンバサダー北澤豪氏が父親へメッセージ「みなさんの意識が日本サッカーを強くする」

2016.03.31

インタビュー=岩本義弘/写真=JFA、野口岳彦

 近年、各年代の代表がアジアの壁を乗り越えられないでいる。2014年はU-16日本代表がU-17ワールドカップ出場を逃し、U-19日本代表は2009年からU-20ワールドカップへの出場が途絶えている。A代表に関しても、連覇を目指して臨んだ2015年のAFCアジアカップで5大会ぶりとなる準々決勝敗退。日本サッカーへの危機感は募るばかりだ。

 2016年1月に開催されたAFC U-23選手権カタール2016、決勝で韓国を相手に劇的な逆転勝利を収め、アジア王者に輝いたU-23日本代表もまた「勝てない世代」、「谷間の世代」などと呼ばれていた。

 こうした状況を打開すべく、日本サッカー協会(JFA)は2016年1月に新規プロジェクト「JFA Youth & Development Programme」を始動させた。

 この通称“JYD”は、「JFA2005年 宣言」の理念とビジョンに基づき、日本サッカーの基盤を支える重要な各領域において、さらなる普及や次世代選手の育成促進を目的に行うプログラムの総称。継続的な日本サッカーの発展のためにユース年代、大学、シニア、女子、フットサル、ビーチサッカー、技術関連事業などを対象に取り組んでいく。

 まず着手したのが年代・種別を超えたサポート体制の実現と各年代別の強化を徹底させることだ。天皇杯全日本サッカー選手権大会や皇后杯全日本女子サッカー選手権大会、高円宮U-18サッカーリーグ、全日本フットサル選手権大会、全国ビーチサッカー大会だけでなく、これまでスポンサーがつきにくかった大会も共通のスポンサーによって支援される。オフィシャル・パートナーに株式会社ナイキジャパン、オフィシャル・サポーターにニチバン株式会社と株式会社明治、オフィシャル・プロバイダーに株式会社モルテンが決定し、JYD成功のために全面的にバックアップを行っていく。

 アンバサダーには元日本代表の北澤豪氏と、なでしこジャパンの大儀見優季(1.FFCフランクフルト/ドイツ)が就任。今回は北澤氏が子どもを持つ“父親”という立場から、育成を軸にJYDの取り組みや可能性を伝える。日本サッカー界の将来のために父親が「今、できること」とは何か――。自身の子育て論も交えながら語ってくれた。

お父さんたちの情熱はすごい。僕が刺激を受けている

――育成年代はサッカーの技術だけではなく、挨拶やコミュニケーションなど人間形成の部分も指導されると思います。ご自身の小学生、中学生時代はどうでしたか?

北澤氏 僕の場合は、父親がサッカー経験者ではなかったので、「何でグラウンドに挨拶をしないんだ? お前の大切な場所だろう」というようなサッカーに対する姿勢の部分を教育されましたね。監督が2人いるような感覚でしたよ(笑)。

――お父さんは試合も見に来られていたんですか?

北澤氏 よく見に来ていましたね。だからこそ、言われることを受け止めなければいけない。技術的なことよりも、何かに取り組む姿勢や目標達成までのプロセスだったり、その世代で大事な精神的な部分が育てられたと思います。

――そこからプロに入り、日本代表としてもプレーされました。そして今は、子育てをしている真っ最中だと思います。お子さんもサッカーをされているんですよね?

北澤氏 長男もやっていますし、次男は東京ヴェルディのユースに所属しています。長女は、関東選抜の選考会に呼ばれるくらいガッツリやっていますね。

――ご自身がサッカーをやっていただけに、言いたいことがいっぱいあるんじゃないですか?

北澤氏 いっぱいあります(笑)。接し方が本当に難しいんですよ。

――実際にはどんな距離感で接していますか?

北澤氏 どうだろう。周りに一生懸命やっているお父さんたちが多いからね。僕は、その姿勢に影響を受けています。とにかく情熱がすごいんですよ。昔、サッカーをやっていた父親が、息子に託しているような部分もあって、家族みんなでサッカーの夢を追っている感じがすごく伝わってきます。お父さんのLINEグループがあるんですけど、僕よりも中高生年代のサッカーについて詳しいから(笑)。僕はどちらかと言うと、Jリーグや日本代表といったトップカテゴリの知識が多い。だから、「どこから情報を拾ってくるんだろう?」って関心するほど、今のお父さんたちは情報をよくキャッチしています。

――子どもとの接し方で意識した点はありますか?

北澤氏 長男は最初の子どもだったので、つい感情的に接してしまうことが多かったと思う。やっぱり言い過ぎると子どもは混乱するし、サッカーの面白さを消してしまうんですよね。中学生くらいになると僕が言ったことをイメージできるようになるから、できるだけ想像力を膨らませるような喋り方をしてあげないといけないと思っています。僕はゴールが見えているから、「そうじゃなくって」とすぐに修正できるんだけど、そこはうまく話をしてあげないと子どもの発想を消してしまう。そういう点はすごく意識していました。

――高校生になってからはどうでしたか?

北澤氏 高校生くらいになると質問も具体的になってくるんですよ。「勝てない」、「うまくいかない」とかではなく、「何がどうしてうまくいかないのか」という話になってくるので、その時には具体的な話をしています。

――自分から伝えるのではなく、お子さんから言ってくるのを待っている?

北澤氏 そうです。子どもたちから求めてこない限り、あまり言わないようにしています。壁にぶち当たった時にサポートしてあげる感じです。

――先ほど、周りのお父さんたちに影響を受けているとおっしゃっていました。

北澤氏 ヴェルディユースの場合は、みんながお父さんコーチみたいになっています。サッカーは団体競技であって、誰かが機能しないとチームも機能しなくなる。だから、僕の息子が調子悪かった時は、他のお父さんが「もう少しこうしたほうがいいんじゃない?」って直接本人に話し掛けることもあります。

――それはいい環境ですね。その中に、自分のチームだけではなく、「日本サッカーを良くしたい」と思っているお父さんはいますか?

北澤氏 いると思いますよ。大会の仕組みを改善するために、意見を言ってくれるお父さんもいます。地方遠征は費用がかかるから、経済的に大変だったりするんです。最近はJリーグが宿泊施設を提供してくれたり、サポート体制が少しずつ整ってきている。

――経済的な理由でサッカーを諦める子どもを減らすためにも、環境を整えることは大事ですよね。

北澤氏 ただ、ユースに関しては「家計が助かるよね」ということではなくて、「プロの予備軍だからサポートしてもらっているんだぞ」と言っていかないといけない。厳しい言い方かもしれませんけど、プロの入り口に立っているんだから、そういう意識を高めていかないといけない。「君たちは次のプロなんだよ」という雰囲気を作ることが将来につながると思います。

――JYDの改革の一つとして、シニアや中高生年代の注目されていなかった試合にスポンサーがついて、サポートされるようになりました。その大会が注目されることで、子どもたちの意識にも変化が起きるのでは?

北澤氏 そうですね。普及も強化の一部です。パートナー企業の協力によって大会の価値を高めることができるし、たくさんの人に注目してもらえる。中高生年代には、たくさんの観客の前で試合をする経験も必要だと思います。トップカテゴリだけを見る日本ではなく、その下のカテゴリも見ていく文化にしていきたいですね。

――アンバサダーとして、お父さんたちに期待することはありますか?

北澤氏 JYDを立ち上げたことで意識に価値が生まれると思うんです。例えば、若い頃にブラジル留学をしてサッカーが上達するのは、周りの選手がうまい、いいライバルがいる、プロフェッショナルの意識が高いなど、相乗効果があってこそ。それと同じように、このプログラムを通じて全体の意識を高めることで、お父さん個人の意識も変化していくと思います。

――つまり、JYDはお父さんたちにそういう気付きを与えるようなプログラムでもある。

北澤氏 特に育成年代は日本にとって一番のストロングポイントだと思っています。そこに関わる人たちの意識は本当に大事。「自分も日本サッカーを強くしている一員だ」という意識が出てきたら、もっと建設的な意見が出てくると思いますよ。「それは違う」と頭ごなしに否定するのではなく、「こういうのは間違っているんじゃないですか?」、「こうしたほうがいいんじゃないですか?」という話し合いができる環境になっていく。お父さんたちの視線をもう一つ上に上げることができると思います。

JYDを立ち上げても、参加する人たちの意識が変わらないと意味がない

――各年代がアジアの舞台で敗戦することが続いていましたが、U-23日本代表がリオデジャネイロ・オリンピックの出場権を獲得しました。改めて育成に目を向ける意味でも、JYDは重要な役割を担っていると思います。

北澤氏 常に育成には目を向けているんだけど、結果だけが注目されて、「良くなかった」と言われてしまう。そこが一番難しいところなんだよね。サッカーは経済よりも早いスピードで変化していて、そこに対応していかなければいけない。日本人の特性をもっと見つめていくことも大事です。いくら最先端のデータや技術を取り入れても、日本人に合わなかったら意味がないと思います。アジアの各国も日本を真似たことで、すごく成果を出し始めている。

――確かに日本の育成は結果が出ていないと言われるけど、実際にアジアは日本を参考している。特に中国の資金があるチームは、日本の育成を真似していますよね。

北澤氏 日本をモデルにしたことで、成功するチームが増えている。ライバルを育ててしまったけど、いいことだと思っています。アジア全体のレベルが上がらないと、ワールドカップ優勝は夢で終わってしまう。ただ、日本はさらに新しいものを見出していかないといけないってことになりますけどね。

――これまでの育成に足りなかった部分を含めて、JYDではもっと色々と取り組んでいこうということですよね?

北澤氏 その通りです。あとは僕が発信していくことが重要になってきますね。

――北澤さんが発信することで、日本のお父さんたちが「俺たちにも関係あるんだ」と気付いてくれれば、大きな効果が期待できる。

北澤氏 それが必要ですよね。新たなプログラムを立ち上げても、結局は参加する人たちの意識が変わらないと意味がないと思います。

常に代表チームが勝つような国にしたい。JYDはその第一歩

――10年後はどんな日本サッカー界になっていてほしいですか?

北澤氏 常に代表チームが勝つような国じゃないといけないと思います。「強い」は最大の魅力です。各カテゴリがいつもアジアのトップにいて、世界の大会に出場できる状況にないといけない。それがサッカーファミリーを増やすことにもつながると思います。

――A代表というシンボルが強いことで、日本サッカー界の裾野も広がっていくと?

北澤氏 何のためにやっているかを考えたら、やっぱりそこに行き着きますよね。強化と普及のバランスが大事になってくると思います。もちろん勝負事だから、うまくても、強くても、負ける時はある。だからこそ正しい普及、強化、育成のプログラムを導入して、ブレずに継続的にやっていかなければいけないと思います。

――つまり、裾野の部分もブレずにやっていく必要があるということですね。JYDによる年代や種別を超えた継続的なサポートによって、今後は色々な大会を総括的に見ることができる。

北澤氏 その通りです。これまで地方で色々と伸ばしてきたものを、今度は整えていく段階です。各カテゴリや大会で無駄を省き、より質の高いものにまとめていくことができると思います。

――現在は株式会社ナイキジャパン、ニチバン株式会社、株式会社明治、株式会社モルテンとパートナーシップ契約を結んでいます。

北澤氏 今の時代、ただ看板を出せばいいというものではない。例えば、ニチバンさんがテーピングの講習会、明治さんが食育講習会なんかを考えられているようです。実際に社員の方が大会をサポートしに来てくれたりすると、こちらもスポンサーがどんなことをしてくれているのかを実感できる。パートナーになっていただいている企業側も支援している意義を感じられるだろうし、お互いにいい関係を築けると思っています。他にも教育機関などが支援してくれたら面白いかもしれない。あとは、親にアプローチしていくようなパートナーも必要になってくるんじゃないかな。親だったら子どもの出ている試合は見たいはず。インターネットで、いつでもどこでも自分の子どもの試合を見れたら僕はチェックしますね。もしかしたら、そういうメディアの支援が必要なのかもしれない。

――これからは支援する企業も多様化してきそうですね。

北澤氏 あとはお母さんへのアプローチが重要になってくると思います。

――具体的に?

北澤氏 子どもとの関わりがすごく強いし、お父さんよりも直接的ではないんですよ。家でサポートしたり、子どもがサッカーに集中できる環境を作ってあげることができる。食事だってそう。最近はしっかりと栄養学を学んでいるお母さんが多くて、その意識の高さにびっくりします。お母さんのほうが、子どもにとって本当に必要なサポートができるんじゃないかと思う。そういうお母さんをサポートするようなパートナーが出てきたら面白いと思います。そしてお母さんがサッカーできる環境も整えてあげたいですよね。

――アイデアがたくさん出てきますね。一つひとつの環境を整備していくことで、生涯スポーツとしての広がりも期待できると思います。

北澤氏 ただ、最近はスポーツをやらない20代の人が増えています。その時期にやらないと、結局30代になってもやらなくて、健康の維持ができなくなってくる。気付き始めた頃には、もう動けない体になっていることが多い。競技者だった人たちはいいけど、“やり始める”ことは結構大変だと思います。

――気軽にできる環境が大事ですね。

北澤氏 そういうことです。スポーツはみんなで楽しめるものなんですよ。継続的にできるような喜びを与えることが必要です。そこでやり続けた人が、60歳、70歳になっても生涯スポーツとしてやり続けていけるんだと思います。僕はシニアの大会も見に行くんですけど、あの年齢でサッカーを一生懸命できるのはすごい。僕に会うと、今の日本サッカーに対する意見を言ってきて、気付いたら2時間くらい経っていますよ(笑)。これからもアンバサダーとして、現場の声には耳を傾けていきたい。日本のサッカー界に関わる人たち、そしてたくさんの企業の方に協力していただきながら、まずはスポーツの大切さやサッカーの価値を伝えていきたいですね。

 まだ手探りの状態であるのは事実だ。だが、アクションを起こさなければ何も変わらない。プログラムの立ち上げは日本サッカー界にとって大きな一歩である。支援や整備が進む中で、JYD成功のカギを握るのは「日本サッカーの未来を良くしたい」というサッカーファン一人ひとりの強い想いかもしれない。

By サッカーキング編集部

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