2016.02.10

映画「ロナウド」をみてあらためてロナウドがベストだと思うこと/竹澤哲

 2011年にスタートし、年に一度サッカー&映画ファンが集う一大イベントに成長、今年も2月11日(木・祝)~14日(日)の4日間で11作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2016」。さらに全国12都市で映画を上映するジャパンツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は「ポルトガルが生んだフェノメノ・クリスティアーノ・ロナウド」の著者である竹澤哲さんに、スーパースター、クリスティアーノ・ロナウドの1年間を追ったドキュメンタリー『Ronaldo/ロナウド』についての映画評を寄稿いただきました。

映画「ロナウド」をみてあらためてロナウドがベストだと思うこと/竹澤哲

 クリスティアーノ・ロナウドがベストプレーヤーだといえば、「いやちがう、メッシの方が上だ」と、必ず言う人がいるだろう。2人は近年、世界ナンバーワンプレーヤーが受賞する、バロンドールにおいても競い合ってきたし、何かと比較されることも多い。共にリーガ・エスパニョーラでプレーし、しかもそれぞれレアル・マドリードとバルセロナとライバルチームに所属していることから、ファンも2つに分かれ、マドリードファンがロナウド派となり、バルセロナファンがメッシ派となるのかもしれない。70年代にバルサでプレーし、その後監督として現在のバルササッカーの礎を築いたヨハン・クライフは、いくらロナウドが得点を多くとろうが、「ゴールゲッターと偉大な選手とはちがう。メッシはチームのために働いているから偉大な選手なのだ」とか言ったりして、メッシ派であるのを通り越し、ロナウドに対して敵意すら感じるコメントを出すことが多い。

 たしかにメッシが希有の天才であり、偉大なプレーヤーであるのは疑いもないことだ。数字の上でも、これまで多くの記録を築いてきた。リーガにおける通算最多得点記録を更新したのもその一つ。初得点から記録達成までの全得点シーンを映像ドキュメンタリーで見たが、252ゴールすべてが非凡なものであり、ゴラッソといえるものばかり。こんなにすごい選手はおそらく生きている間には見ることはできないだろうと強く感じた。

 映画「ロナウド」ではライバルメッシを越えたいとするロナウドの気持ちが全編を通じて描かれている。4年続けて「バロンドール」を受賞するメッシを見て、ロナウドはこのままではいけないのだと強く自分に言い聞かせる。しかし彼が望むのは単に個人タイトルだけではない。レアル・マドリードが彼に求めているものを、入団発表のために集まったサンティアゴ・ベルナベウを埋め尽くす多くのファンを見て、ロナウドは瞬時に悟ることになる。マドリディスタの悲願であるチャンピオンズリーグ10度目の優勝のために全力を尽くすこと。それは13-14シーズンに達成することになるが、決勝戦でロナウドは怪我を負ってしまう。そのため直後に行われたブラジルワールドカップはポルトガル代表のエースとして期待されながらも、不本意な結果に終わってしまう。代償はあまりに大きかったのだ。

 ロナウドが練習熱心であるということはよく知られている。子供の頃は、起伏の多いマデイラ島の坂道をよくランニングしていたというし、またスポルティング時代も、ロナウドの練習に対する取り込み方は異常なぐらいだったと証言する人も多い。ロナウドが15歳の頃のフィジカルコーチ、ルイス・ディアスは「練習後、シャワーを浴びていると思ったらいつの間にか、水を流しながら腹筋を始めたこともあった。筋トレも彼が一人で勝手にやらないように見張りをつけたほどだった」と話す。

 スペインのスポーツ紙、ムンド・デポルティーボは『ロナウド、10の秘密』というタイトルでレアル・マドリードの選手となっても努力を続けるロナウドを次のように評している。「ロナウドは練習場に一番先に現れ、最後に引き上げる。彼が住むデラックスな家にはジムがあり、またプールで毎日1時間から2時間水泳をする。食事は近くのレストランから料理を取り寄せているが、魚と野菜、ライスにフルーツジュースが基本メニュー。そういった自己管理によって、体脂肪3%以下の身体が作られている」

 メッシは一時体重を増やしてしまったため、大好きなビザをやめてダイエットに成功したと言われているが、ロナウドにしてみれば、これまで一度も偏食したこともなく、脂肪分の少ない鶏肉や魚だけをとり続けて来た。彼の食事管理は徹底している。

 ロナウドのメンタル面の強さ、負けず嫌いも幼少の時からと言われている。

 幼少の時につけられたあだ名は「泣き虫」。試合に勝っても負けても、試合後、よく泣いたという。10歳当時、地元クラブ、ナシオナルのタリーニャコーチによると、「感情の起伏の激しい子供だった。プライドも高く、他の子の前で注意されるのを極端にきらったので、個別に部屋に呼んで話しをしたものだった」という。ポルトガル自国開催であったユーロ04の決勝戦でギリシャに敗れた後、大泣きしたロナウド。当時を知るものたちは、「幼少の時の彼を見ているようだった」と口を揃える。

 現在、31歳になったロナウドについて、「プレーにキレが以前ほど感じなくなったのでは」と批判する人もいる。しかしレアル・マドリードのジダン監督はロナウドに対して全面的な信頼を寄せている。「サッカーファンなら誰もがクリスティアーノを愛するだろう。私が特に好きなのは常に野望を持ち、さらによくなろうと努力を続けていることだ。彼の姿勢には本当に感服させられる。チームにとって最も重要な選手だ」

 そういった数々のエピソードを頭に入れながらこの映画をみていると、あらためてロナウドのピュアな側面が強く描き出されているのを感じる。傲慢だとか、自分勝手だと言われることを「一流であることの証拠」と彼自身はポジティブに捉えている。たしかに彼が誰にも負けたくないという強い気持ちをもっていて、それを前面に出したプレーをしたり、正直に思っていることを口に出すことから誤解されることも多いようだ。

 今まで封印されてきた、一家の秘密も赤裸々に語られる。父ディニスと兄ウーゴについて触れていることだ。2009年に私が「ポルトガルが生んだフェノメノ」を書くためにロナウドの家族を取材したことがあるが、すでに亡くなった父親のことについてはある程度語ってくれたが、兄のことは全く語られなかった。しばらく家族が父や兄について沈黙を保ってきた理由がこの映画では明らかにされる。

 ロナウドと彼の家族との交流の中に、ロナウドの人間的な側面を見ることができる。ロナウドと息子「ジョニー」の会話の中には、強くなって欲しいと望み、厳しく接する父性も見せるが、『少しおせっかいすぎるほど気遣う』ポルトガル人の母親によく見られるような母性も感じられ、少しこっけいだ。シングルファザーとして生きる、飾らないストレートな生き方を知ることで、例えメッシ派であっても、ロナウドへのシンパシーを少なからず感じるのではないか。

 「10年後、20年後、思い出されるのは勝者だけだ」という言葉は勝ちにこだわるロナウドの姿勢を端的に表しているといえよう。サッカーの歴史に名を残したいという気持ちが、そしてメッシへのライバル意識が毎年、彼に高いモチベーションを維持させている。メッシは天才、ロナウドは努力の人ということなのか。それにしても高いプロ意識を持ち、強い身体能力を活かし、高レベルなプレーを続けているロナウドはとても魅力的だ。努力を惜しまず、ひたむきにサッカーに向かい合う姿勢にも好感が持てる。世界一を目指し戦い続ける生の姿を見て、ますますロナウドを応援したくなった。

竹澤哲(たけざわ・さとし)
大学卒業後、ポルトガル、スペインに8年間滞在。帰国後はフリーランスのライターとしてサッカーを中心に取材、雑誌ナンバーなどにポルトガル、スペイン、ブラジルものの記事を多く発表してきた。また2005年よりWOWOW「リーガ・エスパニョーラ」放送のためのブレーン業務に携わっている。著書には「ポルトガルが生んだフェノメノ・クリスティアーノ・ロナウド」、「ジンガブラジリアンフットボールの魅力」、訳書には「エビータの真実」、「ネイマール、父の教え僕の生き方」などがある。

【映画詳細】
『Ronaldo/ロナウド』
2015年 イギリス/ドキュメンタリー/92分
監督:アンソニー・ウォンケ
製作:ポール・マーティン
製作総指揮:ジェームス・ゲイ=リース、アシフ・カパディア

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2016年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線・みなとみらい駅から徒歩6分)にて2月11日(木・祝)、12日(金)、13日(土)、14日(日)の4日間開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2016.yfff.org/)にて。