2016.02.05

スーパースターのいるチームを相手に4度目の優勝 まさにディー・マンシャフト/賀川浩

 2011年にスタートし、年に一度サッカー&映画ファンが集う一大イベントに成長、今年も2月11日(木・祝)~14日(日)の4日間で11作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2016」。さらに全国12都市で映画を上映するジャパンツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は昨年日本人で初めてFIFA会長賞を受賞された現役最年長スポーツライター賀川浩さんに、2014年ブラジルワールドカップでドイツ代表が頂点に立つまでの舞台裏にカメラが密着したドキュメンタリー『ディーマンシャフト』についての映画評を寄稿いただきました。

スーパースターのいるチームを相手に4度目の優勝 まさにディー・マンシャフト/賀川浩

 2014年ブラジルのワールドカップに優勝したドイツ代表のドキュメント映画「ディーマンシャフト」を見せてもらった。マンシャフトはドイツ語の「チーム」だから定冠詞ディー(die)をつけて、英語のザ・チーム、つまり“特定”のドイツ代表を指すことになるのだろう。

 90分の内容は、ヨーロッパの予選を勝ち抜いた後、ヨアヒム・レーヴ監督と3人のコーチ、ハンス・ディーター・フリック(アシスタント)、アンドレアス・ケプケ(GKコーチ)、オリバー・ビアホフ(一般実務)と23人の代表選手たちが6月に南チロルでの合宿に入り、6月7日にドイツを出発し、6月8日にブラジルでのベース地カンポバイアに入るところから、グループ・リーグG組の3試合、さらにはノックアウトステージに入ってからの1回戦(対アルジェリア2-1)、準々決勝(対フランス1-0)、準決勝(対ブラジル7-1)、決勝(対アルゼンチン1-0)と、6月16日から7月13日の彼らの優勝までの7試合のすべてを、その一日一日を追いながら、試合会場への旅、練習やミーティング、食事など、日常の生活を克明に、ユーモアも交えて描き出している。ゴルフの賭けに負けたトーマス・ミュラーがウェイトレスの服装になるというシーンもある。

 もともと、ドイツ代表チームはワールドカップやヨーロッパ選手権などの大会に代表を送り込むときの準備の周到さ、チームをベストの環境に置いて試合をさせるというDFB(ドイツサッカー協会)の事前の手腕については、古くから知られていた。私は1980年代、ユップ・デアヴァル監督の頃に、その一端を知った。イタリアでの大会に、ドイツから自分たちが乗りなれている代表のバスを持ち込み、コック(確かハンス・ダムカーという名だった)が同行して、宿泊先の土地のホテルの料理人と協議して食事のメニューを作っていた。今では日本でも常識になっているこうしたチームの環境づくりへの配慮は先進ヨーロッパでもまだ珍しかった。当時ドイツはすでに一歩先を行っていたということだろう。

 2014年大会は私たち日本のファンには、ヨーロッパで日本人選手がプレーするようになり、アジアのトップとして、代表にいささか自負を持ち始めた時に、1次リーグでコートジボワールに逆転負けし、ギリシャと分け(0-0)、コロンビアに完敗(1-4)して、改めて世界との差を知った。その打撃の大きさから、他の国々への目配りも、いささか薄れ、ドイツの優勝についても、本来はデットマール・クラマーを始めとする日本の師匠格でもあった国の優勝にも、あまり強い関心が生まれた気配もなかった。もちろん、ドイツサッカー好きもたくさんいるのだが、ここしばらくのスペイン流、バルサ流への傾倒から、ドイツが4度目のタイトルを取り、ワールドカップの大会ごとに常に上位を争う代表を送り込んでくること、そしてブンデス・リーガそのもののレベルの高いことなども知りながら、やや遠い感じであったから、2014年の優勝も、初戦のポルトガル戦や、準決勝のブラジル戦などの大勝でなんとなく、“苦労無し”での世界一のように感じていた節もある。

 このドキュメントは、ドイツ代表のひとつひとつの試合をありのままに描き、選手の試合での感情なども、正確に映し出している。優勝までの試合のそれぞれが、まさに頂上を目指す大切な一歩一歩で、その厳しさを勝ち抜くことの難しさを見せている。準々決勝での苦戦のあと、メディアの問いに選手が“つっけんどん”に答えを返すところなどは、誠に面白い。

 私にとっては、昨年のFIFA会長賞の受賞のセレモニーに出席したとき、監督賞を手にしたレーヴ監督の長いスピーチのほとんどが選手や協力してくれた周囲への感謝であったのを思い出し、代表が多くの人の支えの上に立っているだけに選手も監督も謙虚であるべきというレーヴ監督の哲学への理解が深まった。

 今年のAFCアジア選手権がU-23(23歳以下)のリオデジャネイロオリンピック、アジア予選を兼ね、日本のU-23代表は五輪予選を突破しただけでなく、決勝で韓国を破ってU-23のアジアナンバーワンとなった。テレビを始めとするメディアの大報道で日本全国も喜ばせてもらったが、選手たちのがんばり、監督さんの好采配などの多くの要因が語られるなかで、誰もが認めたのは選手たちのコンディションの良さであった。23人全員の一致団結というテーマは2014年のドイツも同じではあるが、アジアを制したU-23代表が、どの強国と戦っても、相手が疲れ、足をつり、といった状態でも、より以上に走り切った体力、走力と、それと維持したコンディションづくりの成功を感じたハズである。日本のこうしたコンディションづくり、選手のための環境づくりの成功は、長年にわたってのこの面での研究と実践の積み重ねのたまものだろう。その手本がドイツのやり方にあることも皆さんご承知のことだろう。

 その先進ドイツの代表選手が戦うための環境づくりと、選手たち自身の試合に備える準備と覚悟を見ることのできるこの「ディーマンシャフト」は、歳をとり、いささか物事への意欲の衰え始めた私でも、とても大きな刺激になった。

 この原稿を書くためにディーマンシャフトを見るのは当然だが、書くためだけでなくあまりに面白いので、もう一度、見たことを申し上げておきたい。

 ラストのところで1954年の決勝ハンガリー戦でのヘルムート・ラーン(白ユニフォーム)の決勝ゴールに始まり、74年対オランダ戦のゲルト・ミュラー後ろへのトラッピングと反転シュート、90年の対アルゼンチンのPKゴール。そして、この大会の対アルゼンチンのゲッツェのゴールが映し出される。54年の相手にプスカシュがいた、74年には相手にクライフがいた、90年にはマラドーナ、2014年にはメッシがいた。いずれも世界最高と称されるスターがいる国を相手に世界一になるドイツ代表の宿命的な強さと言えるだろう。まさに「ディー・マンシャフト」(ザ・チーム)である。そして私自身、54年の彼らの最初の優勝のときからずーっとスポーツ記者であった幸いを感謝することになった。

賀川浩(かがわ・ひろし)
1924年神戸市生まれ。サッカーW杯10大会取材の現役最年長スポーツライターとして、2015年に日本人初のFIFA会長賞を受賞した。現在、対談集「このくにのサッカー」刊行のため、クラウドファンディングで広く支援を募集中。
◇クラウドファンディング・プロジェクトページ
https://readyfor.jp/projects/konokuninosoccer
◇プロジェクト公式ページ
http://konokuni.soccer/

【映画詳細】
『ディーマンシャフト』
2014年 ドイツ/ドキュメンタリー/90分
監督:マルティン・クリスト、イェンス・グローンハイト、ウルリヒ・フォイクト
字幕製作:YFFF


【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2016年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線・みなとみらい駅から徒歩6分)にて2月11日(木・祝)、12日(金)、13日(土)、14日(日)の4日間開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2016.yfff.org/)にて。