2016.02.03

じゅういちぶんのいち。その響きは、どこか甘く優しい/小宮良之

 2011年にスタートし、年に一度サッカー&映画ファンが集う一大イベントに成長、今年も2月11日(木・祝)~14日(日)の4日間で11作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2016」。さらに全国12都市で映画を上映するジャパンツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は著書『「戦術」への挑戦状』を刊行されたばかりであるスポーツライターの小宮良之さんに、過去に対談のご経験もある中村尚儁さん原作の同名人気コミックを実写映画化した作品『1/11 じゅういちぶんのいち』についての映画評を寄稿いただきました。

じゅういちぶんのいち。その響きは、どこか甘く優しい/小宮良之

 今から20年以上前。僕がスペインのサラマンカ大学のサッカー部でボールを蹴っていたときの話だ。

 スペイン人のチームメイトに、全身着ぐるみを纏ったような筋肉もりもり男がいた。当たりは強いのだが、動きは鈍かった。僕は「筋肉つけすぎなんだよ」と心の中で笑っていた。厳つい顔の彼は、それでもジムワークで筋力を高めるのに余念がなかった。僕は「自分をいじめるのが好きだな」と半ば呆れた。ある日の練習後だった。少し意地悪な気分になって、彼に聞いたことがある。

「サッカーすんのに、そんなに筋肉つけてどうすんだよ?」

 彼はそっとストッキングを下げ、足首を見せてくれた。ひどい手術跡だった。高校時代、ダンプカーにひかれて重傷を負ったのだという。投げ出された足首はタイヤにぎゅうぎゅうと踏まれ、車体の重みでひしゃげた。必死にリハビリし、それからも身体全体を鍛え続けることで、どうにか運動できる状態だった。

「サッカーボールを蹴っていると力が湧いてくるんだぜ!」

 彼は腕に力こぶを作った。それは的を外しているような、的を射貫いているような仕草だったが、確実にサッカーを人生の一部にしていた。高校時代までの彼は地元のユースクラブのエースで、プロ行きの話しもあったらしいが、その道は断たれた。しかし彼はサッカーを、人生を諦めなかった。

「お前もサッカーに力をもらっていると感じることはあるだろ?」

 キザな台詞を吐く彼の顔は爽やかでも整ってもいないのに、きらきらと光っていた。人はそれぞれの思いを抱き、自らの人生を背負っている。そして思いや人生が交錯することで、人はまた強く結ばれる――。

 そんな記憶を呼び起こしたのが、この映画「じゅういちぶんのいち」だった。

主人公の安藤ソラを中心に、なでしこジャパンの若宮四季、サッカー部マネージャー、元・野球少年、カメラ少女、挫折したサッカー部員、演劇部員らの青春群像が描かれる。ある人は一心不乱に挑んでもうまくいかず、ある人は密かに異性を思い、そしてある人は子供時代の記憶に支えられ・・・そこにある日常は、ほとんど思い通りにいかない。もどかしく、苦しさも伴う。

 しかしそれは振り返ると、どれも煌めくような幸せな瞬間に違いない。

「俺にはなにひとついいところがない。いい加減で、空っぽな人間で。けど、変わりたいんだ、戻りたいんだ。下手くそで、ダサくても、必死だったあの頃の自分に」

 元・野球少年が雨の中で放つ台詞には、自分の一部が持って行かれてしまうような、抗えない引力がある。あるいは人間は、みずみずしい瞬間を失い、捨て、忘れ、そして取り戻そうと必死になる、その繰り返しなのかもしれない。

 もしもあなたが人生に情熱を感じたことのある人なら――。きっと共感を覚える“青春の欠片”が見つかるだろう。同時に、それが今の自分の胸に収まっていることにも気づくはずだ。

 じゅういちぶんのいち。

 その響きは、どこか甘く優しい。

小宮良之(こみや・よしゆき)
1972年、横浜生まれ。スポーツライター。01年から06年までスペインのバルセロナを拠点にW杯、CL、冬季五輪など取材活動を行う。人物インタビューに定評があり、著書にサッカー選手の光と影を追った「アンチ・ドロップアウト」(集英社)三部作や重松清氏絶賛のノンフィクション「導かれし者」(角川文庫)、サッカーノンフィクション傑作選「おれは最後に笑う」(東邦出版)など多数。
今年2月にはヘスス・スアレスとの人気共著シリーズ「『戦術』への挑戦状」を刊行している。

【映画詳細】
『1/11 じゅういちぶんのいち』
2014年 日本/ドラマ/80分
監督:片岡翔


【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2016年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線・みなとみらい駅から徒歩6分)にて2月11日(木・祝)、12日(金)、13日(土)、14日(日)の4日間開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2016.yfff.org/)にて。