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星稜と前橋育英の前キャプテンが1年前の選手権決勝を追想…鈴木大誠の号泣秘話、鈴木徳真が感じた勝負の分かれ目

2015.12.26

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インタビュー=安田勇斗、写真=瀬藤尚美

 2015年1月12日、埼玉スタジアム2○○2で行われた第93回全国高校サッカー選手権大会決勝。星稜高校と前橋育英高校、の両チームは躍動感溢れるプレー、そして一進一退の乱打戦を演じて4万6316人の観客を魅了した。両校をキャプテンとしてけん引したのは、筑波大学に進学した鈴木大誠(星稜)と鈴木徳真(前橋育英)。現在チームメートとして大学サッカーを舞台に活躍する“元ライバル”が複雑な思いを抱えながらも当時を振り返ってくれた。

あのピッチは特別。夢みたいでした

――今年1月に行われた選手権決勝で、それぞれ星稜高校と前橋育英高校のキャプテンとして戦いました。試合の雰囲気はいかがでしたか?
徳真 4万人以上の観客の前でプレーできて幸せでしたね。プロの試合でもあれだけ入ることは多くないですし、本当に楽しかったです。

大誠 確か準決勝は2万人ぐらいで、その倍以上も来ていたので本当に最高の環境でした。

――Jリーグでも観客が2万人に満たない試合もあります。
大誠 ホントに選手権ってあり得ないですよね(笑)。高校の他の試合だと何百人とかでしたから。

徳真 だからワクワクしましたね。そんな経験なかったので。

大誠 自分は1、2年の時に全国を経験させてもらって、前回大会も決勝の雰囲気を味わわせてもらったので、物怖じしなかったというか、いい緊張感でプレーできました。

徳真 やっぱりサッカー選手は目立ちたがり屋なので、観客が入るのはうれしいんですよ。誰もが自分のサッカーを見てもらえることを喜んでいたと思います。だから、あのピッチは特別でしたよ。夢みたいでした。それだけに、終わった後は現実に引き戻されてさみしさを感じました。ディズニーランドに行って夢みたいな気分を味わって、家に帰ってきたみたいな(苦笑)。

大誠 確かに、家に帰った時は「あー、終わった」ってさみしい感じがあったね。

――決勝を前に、両チームに対してどんな印象を持っていましたか?
徳真 僕たちはあまり相手のことは考えなかったですね。決勝に勝って高校サッカーを終えるっていう気持ちだけでした。もちろんどういうチームかは知ってましたし、1年前に決勝で敗れた悔しさがあることも知ってました。でも、山田(山田耕介)監督も「自分たちを信じろ」とずっと言ってくれましたし、僕たちも自分たちの勢いが上回ってるって信じていたので。試合に入る前は、ここまで支えてくれた方々に感謝すること、これまでやってきた仲間を信じて戦うことだけを考えていました。

大誠 逆にうちはすごく分析しましたよ(笑)。スタッフの皆さんが前橋育英のサッカーを徹底的に分析して選手たちに伝えてくれました。それで、選手同士のミーティングではモチベーションの部分を話し合いました。1年前の決勝、それとインターハイでのリベンジ(2014年8月、インターハイ準々決勝で対戦。2-1で前橋育英が勝利した)を果たそう、と話して気持ちを高めました。

――インターハイの後、選手権に向けてチームで変えたことはありましたか?
徳真 チームとして変えたことはなかったんですが、インターハイで選手たちが自信をつけたのは大きかったです。それまで全国大会を経験したのは僕だけで、といっても1年生の時に選手権でちょっと出て、2年で出たインターハイも1回戦負けだったので、チーム全体として経験値が少なかったんです。その中でインターハイではベスト4に進出して、一人ひとりが全国でもできるという自信をつけました。それからはそれぞれが明確な課題を持って練習できていましたし、成長を実感しながら試合でも伸び伸びとプレーできるようになりましたね。

大誠 僕たちも変えたことはなかったです。ただ、河崎(護)監督が事故に遭ったことでチームが変わりました(河崎監督は選手権開幕前の12月26日に交通事故に遭い、チームを離脱)。監督がチームを離れるまで、遠征では3連勝したりすごく良かったんですよ。それが監督がいなくなってから開幕まで全然勝てなくなって、チームもバラバラになってしまいました。それで、今までは監督のおかげで勝てていた、自分たちは何もできないし成長していないって気づいたんです。それから選手同士のミーティングでしっかり話し合い、チームワークを高めていき、良い状態で選手権を迎えることができました。

――ちなみに、以前から互いのことを知っていたんですか?
大誠 はい。高2の夏にU-17北信越選抜として、徳真がいたU-17日本代表と対戦したんですけど、0-6で負けました(苦笑)。

徳真 僕は対戦した選手はだいたい憶えてるんですけど、大誠は足が長くて嫌でしたね。ドリブルすると足で引っかけられるので、ワンタッチではたいていました(笑)。

大誠 徳真はすごく有名だったので、自分は何回奪えるかって思ってました。だけど、互いのフォーメーションの並びの関係でなかなか奪いに行くチャンスがなかったんですよね(苦笑)。

――その時、会話などは?
大誠 全くなかったですね。次に会ったのが1年後のインターハイでした。

徳真 話すようになったのは同じ大学に入ってからですね。

大誠 もちろん選手権で戦ったキャプテン同士なので認識はしてましたけど。

――インターハイでの2度目の対戦はどうでしたか?
大誠 自分はセンターバックで、徳真はボランチだったので、絶対スルーパスは通させないって思ってました。

徳真 僕は……よく憶えてないです。インターハイは暑い中での連戦なので、記憶があいまいなんですよ(苦笑)。憶えているのは、準決勝で大津高校に負けた時ぐらいですね。

大誠 あの試合での徳真はあまり調子が良くなかった感じがしましたね。どちらかと言うと、渡邊凌磨(インゴルシュタット)に手を焼きました(苦笑)。

確かにあの試合では星稜の気持ちが上回っていた

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――では3度目となる選手権決勝での対戦は?
大誠 僕は選手権の方が全然憶えてないです。もう何があったかも憶えてないんで(笑)。

徳真 僕も憶えてないです。ホントに選手権はディズニーランドのような夢の舞台なんで(笑)。

――ビデオなどで見返したりは?
大誠 見ましたけど、やっぱり憶えてないですね(笑)。

徳真 残酷な負け方だったんで、僕は見られないですよ(苦笑)。

――サッカー人生で一番悔しい出来事ですか?
徳真 そうですね。自分が一番輝きたい舞台で、あんな負け方をしたんで。

――一方で大誠選手は感涙してましたね(笑)。
徳真 あれ演技らしいですよ(笑)。

大誠 いやいや(笑)。

徳真 メディアへのアピール。

大誠 あの時はいろいろな感情があったので。

――河崎監督の事故がありながら初優勝を飾ったことは大きな話題になりました。
大誠 そうですね。だけど、あの涙は監督だけのことを考えて流したわけではないんです。もちろん監督のためにという気持ちはありましたけど。メディアの方が「監督、監督」ってそれしか聞かないのは、どうかなと思いましたね。大会を盛りあげてくれたことはありがたいことですけど、あることないこと書かれたりしたので。僕自身は監督、メンバー外の選手、スタッフ、家族、友人などたくさんの方々のために戦っていたのを、もっと伝えたかったです。

――決勝は延長戦で2点を挙げた星稜が4-2で勝利しました。勝負の分かれ目になったのはどんなところだと思いますか?
徳真 星稜が同点に追いついたゴールだと思います(前橋育英が2-1でリードしていた中、64分に星稜が同点ゴールを決めた)。

大誠 確かに決まった瞬間に来た!と思いましたね。

徳真 うちも先制されて一度逆転した時は来た!って思いましたけど、すぐに同点にされてヤバいってなりましたから。

大誠 2点取られた時はうちもヤバいなって思いましたけど、あのゴールが決まってからは負ける気がしなかったです。逆転された時にみんなで集まって話し合い、立て直すことができたかなと思いますね。

徳真 あのゴールで自分たちの勢いが閉ざされた感じはありました。最初に先制されて、その後自分たちの流れが来て逆転して、このまま行くぞって時に同点にされて、糸がプツンと切れたみたいな。良くも悪くもこれがサッカーだ、というのを教えられました。試合後に監督も「星稜の方が去年の悔しさを知る分、経験値で上回っていた」と言ってましたし。だけど、僕はどうしても納得できなかったんです。サッカーは実力の世界で、そういう気持ちで負けたとは思いたくなかったので。でも、確かにあの試合では星稜の気持ちが上回っていました。それで負けたとは言いたくないですけど、そのパワーは実感しました。

――試合後の雰囲気はいかがでしたか?
徳真 本当は最後に監督を胴上げしたかったんですよ。でも負けてしまい、それが負けた悔しさだったり、試合に出られない悔しさだったり、みんないろいろな悔しさがあって、落ちこんでいました。だけど選手権という雰囲気の良さ、やりきった気持ち、高校サッカーが終わった開放感なんかもあって、インターハイの時に比べると立ち直るのは少し早かったかなと思います。もちろん心に負った傷は小さくなかったですけど、楽しかった気持ちも大きかったので。監督からは「ここで終わりじゃないし、サッカーを続けるやつ、辞めるやつ、これからそれぞれ別の環境になるけど、この悔しさのおかげでお前たちは成長できる」という言葉をもらいました。

大誠 1年前の決勝で、監督から2つだけやってほしいことがあると言われました。一つは大声で校歌を歌え、もう一つは表彰式では堂々としろ、そのために表彰式はイメージしておけって。なので自分は、勝った時にどうするか、インタビューでどう答えるか、どうトロフィーを掲げるか、写真撮影の時にどうするか、全部イメージして試合に臨みました。

――うまくできましたか?
大誠 泣いてしまって全然ダメでしたね。言いたいことも決めていたんですけど、感極まって泣いちゃって。プランが総崩れでした(苦笑)。でも、表彰式ではイメージどおりにできました。チームもすごく盛りあがってましたね。その中で感動したのは、チームメートが試合に出られなかった選手にいち早く報告に行こうとしたことです。最後に写真撮影をしたんですけど、チームメートはみんな、スタンドにいる選手たちのところに行きたくて、撮影中も「まだか、まだ終わんないの」って。終わった瞬間、バーッと走っていって。仲間想いのチームメートを見て感動しました。

選手権はJリーグとはまた違った魅力がある

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――お互いどういうキャプテンでしたか?
徳真 僕は背中でものを言いたいタイプでした。必要な一言二言だけ言って、後はプレーで黙らせるのが、僕の信念なので。自分ができないのに周りに言うばかりではカッコ悪いですから。みんなを納得させるぐらい、文句を言わせないぐらい、自分がやって見せる。だから練習には早く来て遅く帰るのは意識してましたし、プレーで絶対に負けないキャプテンを目指していました。

――そのキャプテン像は、どうやって見いだしたのでしょうか?
徳真 監督から「一流の選手は私生活がしっかりしている」と言われたことがきっかけです。私生活がちゃんとしていれば、みんなも付いてきてくれると思いますし、そうやって私生活から変えて、さらにプレーも完璧にして、みんなについていきたいと思う存在になろうと。実際、そういうキャプテンを目指すことで、自分の中に“芯”ができて、それは今も変わっていないですし、プレーにもいい影響を与えていると思います。

大誠 ホンマに徳真は人間としてできていると思いますね。心遣いや言葉遣いなんかもホンマにしっかりしてますし。逆に僕は背中で語りたくても無理だったんで(苦笑)。2年の時に学年のキャプテンになって、まずはピッチ外からチームをまとめようとしましたけど全然ダメでした。それでチームのキャプテンになってからは、ピッチ内だけはちゃんとまとめようと決めました。人一倍声を出して、人一倍チームを観察して、積極的にチームメートに声をかけました。

徳真 その感じは今もありますね。自分にないものを持ってるなって思います。僕は試合になるとずっと考えていて、全然声を出せなくなるんで。それじゃあダメなんですけど(苦笑)。

大誠 まあ、声は自分のプレースタイルの一部なので。逆に僕は試合の流れとかを考えてプレーできないですから(苦笑)。

――現在2人は筑波大のチームメートです。お互いにすごいと感じるところは?
徳真 守備で要所を抑えてくれるところですね。ピンチの時にしっかり仕事をしてくれる。だから、大誠がサボった試合では失点するし負けるんです(笑)。それぐらいいつもいいところを守ってくれます。あと統率力があるので、安心して後ろを任せられますね。

大誠 いいところそれだけなんで(笑)。

徳真 でも筑波大に来た時にできなかったことが、どんどんできるようになってる。うまくなってるんですよね。

大誠 筑波大のサッカーのおかげで、自分でも伸びてきたという実感があります。

徳真 絶対守らないと、という場面がわかっているんですよ。試合の流れを読んで止めてくれるんで。その守備も「奪う」というより「止める」感じ。相手に競り勝ってしっかり止めてくれますね。

大誠 徳真について言うと、とにかくうまい。トラップがうまくて、「ここに通すのかよ」ってところにパスを出す。技術が全体的に高いんですけど、トラップとパスは抜群です。体は大きくないですけど、体を“当てる技術”、体の入れ方やタイミングもうまい。フィジカルを強く見せるテクニックを持っているんですよ。

――ちなみに互いの性格やキャラクターは?
徳真 大誠はマジで変わってますよ。お笑い芸人のような面白さではなく、日常の様子が面白い。ただ、本人にも言ってますけど、たまにウザいです(笑)。

大誠 俺そんなに変?

徳真 うん。ずっとベラベラしゃべってるし。

大誠 ああ確かに。饒舌ですね。徳真もおしゃべりだけど。徳真は試合中の冷静なイメージがあったので、筑波大でハチャメチャな部分を見られてうれしいですね(笑)。結構バカなこともするんですよ。

――背中で語るキャプテンが、実はおしゃべり……。
徳真 キャラを作ってました(笑)。

大誠 それしんどくない?

徳真 しんどかったので大学で止めました(苦笑)。 なんか解放されましたね。

――(笑)。話を戻しますが、2人にとって選手権はどんな大会でしたか?
徳真 世間一般で言われるように“祭り”だと思います。全国から有名なチームが集まって、一試合一試合にみんなが盛りあがって。その試合で選手たちは自分の想いをぶつける、それをたくさんの方々が応援してくれる。その応援してくれる方々には、結果で恩返しをする。本当に高校サッカーの“祭り”ですよね。結果的に僕たちは決勝で負けましたけど、お世話になった方々に少しは恩返しができたかなって思ってます。終わった後、僕のプレーを見た食堂のおばちゃんに「すごく感動した」って言われた時は本当にうれしかったです。監督、コーチ、仲間、学校の友達、みんなのおかげでピッチに立つことができて良かったですし、本当に楽しかったです。

大誠 僕にとっては高校サッカーの集大成でした。やってきたすべてのことをここで出す、そういう気持ちでピッチに立ちました。それをみんなに見てもらう場所であり、最終的に結果を残すことができて良かったです。

――今年度の選手権に出場する両校の後輩たちにメッセージをお願いします。
徳真 遠慮しないで自分たちのプレーをしてほしいですね。我慢してる部分があるなら、それを解いて、自分を表現してほしいです。

大誠 面白いサッカーが見たいです。選手権の決勝に何万人も来るってことは、Jリーグとはまた違った魅力があると思うんです。必死のプレーとか、はつらつとしたプレーとか、高校生らしい試合を見せてほしい。そういう面白いプレーを星稜ができたら2連覇もできると思います。自分が出た選手権を後で見た時に、星稜の試合も前橋育英の試合も面白かったし、その両校の決勝は本当に面白いと思いました。そういうサッカーを見せて、勝ちあがってほしいですね。

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