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J3盛岡でのチャレンジを選択した神川明彦新監督「ひたむきに戦うチームを作る」

2016.01.26

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インタビュー=安田勇斗、写真=Getty Images

 明治大学で長友佑都(インテル)や山田大記(カールスルーエ)らを育てた、大学サッカー界の名将、神川明彦氏がJリーグにチャレンジする。新天地はJ3のグルージャ盛岡。明治大を率いて天皇杯で何度もジャイアントキリングを演じてきた神川新監督は、プロの舞台で旋風を巻き起こせるか。

運動量、球際、切り替えの“三原則”を浸透させる

――いつどういうきっかけでJリーグクラブの監督就任を目指すようになったのでしょうか?

神川 A級ライセンス(JFA公認A級コーチライセンス)を取得したのが確か2001年だったんですけど、それから2003年にユニバーシアード代表のコーチを務めて、2004年に明治大の監督になってから、次はS級ライセンスしかないなと思ったんです。ただ僕は大学職員ですし、S級を取るにはある程度の受講期間が必要なので、当時はいつか取れればと考えていました。そんな中、2007年に天皇杯3回戦の京都サンガF.C.戦で1-0で勝利して、4回戦の清水エスパルス戦ではPK戦までいって(3-3、PK4-5で敗北)自信が芽生えたというか、S級に挑戦しようかなと少しだけ思うようになりました。

――そこから実際にS級ライセンスを取得したのはいつなのでしょうか?

神川 2008年12月に2009年度のS級受講者募集に応募しました。その時はプロの監督になりたいというよりは、まず取ることが目的でした。もちろんプロになるための資格ですが、僕は2001年から体系的に勉強をしておらず自己流の指導方法だったので、ここで学び直さなければいけないと感じていたんです。でも結果はダメでした。20名の募集に対して70名ぐらいの応募があったそうで、審査の段階で総合的に評価され受講できませんでした。それで翌年の2009年に天皇杯で、今度は湘南ベルマーレとモンテディオ山形に勝ったんです(湘南に1-0、山形に3-0で勝利)。この結果もあってもう一度S級を受講しようと思ったんですが、2010年は明治大にとって勝負の年だったんです。4年に山田大記、小林裕紀(アルビレックス新潟)、山本紘之(現日本テレビアナウンサー)、久保裕一(ファジアーノ岡山)がいて、1つ下に宮阪政樹(松本山雅FC)などがいた年です。ですのでこの年は行けないなと。そのおかげでこの年はリーグ優勝を達成できて、11月にまたS級の募集に応募しました。今度は面接を受けて受講が認められ、2011年に受講することになりました。

――講義はいかがでしたか?

神川 顔から火が出るぐらい恥ずかしい思いもして、でも食らいついて何とかライセンスを取ることができました。で、実際に取れたら欲が出てきて、プロの監督にチャレンジしたいなと思うようになりました。ただその前に、もう一つチャレンジしたいことがあったんです。それがユニバーシアード代表の監督でした。S級取得は、ユニバーシアード代表監督の座に近づけるというのもあったんですよ。それで実際にユニバの監督になり、職員を休職して24時間サッカーに集中できる状態になり、自分なりに時間を作って就職活動も始めました。

――具体的にいつ頃から始めたのでしょうか?

神川 2014年から始めていましたけど、本格的に動きだしたのは2015年5月に仲介人と契約してからです。その仲介人がユニバの期間中に各クラブに僕の情報を送ってくださり、最終的には3つのクラブからお話をいただきました。ちなみにグルージャとは、2014年10月に僕が盛岡で講演して、そこで関係者の方々と知り合って、縁があったんです。

――その後どういう経緯で盛岡の監督就任が決まったのですか?

神川 それぞれのクラブの方々と話したり、現状を見に行ったりして、11月上旬に盛岡と契約しました。決め手はJ3の監督が、一番挑戦したいポストだったからです。大学の次は本来JFLですけど、JFLはアマチュアなので次はJ3のクラブと考えていました。

――クラブの印象はいかがですか?

神川 グルージャは2003年に創設されたクラブで、JFLを経験していません。東北社会人リーグから飛び級でJ3に加盟して、2015年に2シーズン目を終えたところです。ですので、まだ未整備の部分がたくさんあるなと。僕自身もただの監督ではなく、クラブを一緒に作りあげていきたいと思っています。

――試合はご覧になりましたか?

神川 生で2試合見ました。昨シーズン苦しんだ理由がわかったというか。多くの選手を起用していろいろなポジションでチャレンジさせていた印象です。

――これからチーム作りにおいて、どういう指導を実施していくのでしょうか?

神川 まずは明治で徹底していた運動量、球際、切り替えの“三原則”を浸透させます。それと昨シーズン盛岡はフェアプレー賞を受賞しているので、そこは継続してフェアにハードに戦えるチームを作っていきたいなと。おそらく守備をする時間が長くなると思うので、そこは割り切って守れるチームにしたいとも思っています。また、昨シーズンは長いボールが多い印象があったので、もう少し勇気を持ってGKからつないで11人でボールを動かしてゴールに迫る攻撃を作りあげていきたいですね。

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まず国体で優勝して、岩手県民、盛岡市民のハートをつかみたい

――1年目の目標は?

神川 10月の第1週に行われる国体で優勝することです。J3の目標順位はまだクラブと正式に話し合っていませんが、16チームで戦うので個人的には8位以上を目指したいと思っています。

――中長期の目標はありますか?

神川 まず国体で優勝して、岩手県民、盛岡市民のハートをつかみたい。それとピッチ外の振る舞いも意識していきたいですね。選手もスタッフも育成組織も、Jクラブにふさわしい振る舞いをして、皆さんに受け入れていただけるようにしたいと思っています。1年目はそういうシーズンにしたいなと。2年目はJ2に上がれるぐらいの順位につけて、行政も動いてくれるまでにしていきたいですね。順位が良ければ、J2クラブライセンスの取得に向けた具体的な動きが否が応でも始まると思うんですよ。そしてできれば4年目にJ2ライセンスを取得してチャレンジできる体制を整えられればなと。

――補強など強化の部分はどの程度関わっているのでしょうか(2015年12月下旬に取材)?

神川 昨シーズンは登録メンバーが32名でしたが、そこから誰が退団するかなどは僕は口出しできないので、クラブの方で進めていました。それで残った15名のリストを見せていただき、今補強を進めているところです。希望として25人体制と伝えているので、そこから10人獲得する必要がありました。そこからまた多少の入れ替えがありながら、僕からもいろいろなリクエストを出させていただき、MIOびわこ滋賀の安楽健太や、Y.S.C.C.横浜の梅内和磨などの加入が決まりました。彼らは僕のリクエストに近い選手たちですね。

――J3開幕までどういうコンセプトで強化を進めていくのですか?

神川 まずはけがをさせないこと。想定している選手がすべて契約すると27人になるのですが、その27人全員がスタート位置に立てるようにしたいなと。それと新しい選手が多いので、選手とスタッフ、また選手間のコミュニケーションを強化していきたいと思っています。

――具体的にどういう形で?

神川 合宿とかグループワークとかですね。テーマを設けてディスカッションして発表するとか、民間企業の研修で実施しているようなことです。こういった人間教育は、プロだから必要ないということはないですから。あと1月18日から21日の4日間は体育館での練習になるので、1日30分×4回の2時間ミーティングを行おうと思っています。ここで僕のチームプレーに対する基本的な考え方を伝えられればなと。

――改めて盛岡のファン、サポーターにどんなサッカーを見せてくれるか、教えてください。

神川 ひたむきに戦うチームを作ります。必死に戦って、必死に走って、アップダウンも激しい、そんなチームを目指します。J3の試合を見て特に気になったのは、ラインを上げないで守備がずるずる下がるところや、ボールに全然いかないところ。そういうところをまず修正していきます。

――それができているチームはありましたか?

神川 J2に昇格したレノファ山口ですね。グルージャに4-1で勝った試合を見ました。あそこまで攻撃的なチームは作れないと思いますけど、とてもいい参考になります。

――今現在、自信と不安はどういう割合ですか?

神川 不安の割合が多かったらやってないですよ(笑)。ましてや大学職員を退職したりはしません。もちろん不安は少なからずあります。でも今はそれを抑えるほどのやる気に満ちています。また、監督を引き受けるにあたって、感謝の気持ちがとても大きいですね。プロ監督の経験がない僕をトップチームの監督にするのは、グルージャにとってリスキーだと思うんです。うまくいかなかった時に、経験のないやつを連れてくるからダメなんだって言われますし、クラブはすごく勇気のある決断をしてくださいました。とても感謝していますし、その気持ちをエネルギーに変えていきたいなと思っています。そして僕がやるべきことは、結果を出すこと。やっぱり勝たないと選手は信頼してくれません。サポーターや行政の方々も、勝つことで応援してくださるのは間違いないですから。

――まずは結果ということですね。

神川 勝たないとみんながハッピーになれない。ただ、勝ち方はありますよ。何をしてもいいわけじゃない。僕自身はピッチ上の勝利と、振る舞いなどを含めたピッチ外の勝利、両方がそろって真の勝利だと思っています。最初の1年は今後の土台になっていきます。ピッチ外ではビックリするほど清廉潔白で礼儀正しい、そういうチームを作っていきたいですね。

――クラブの体質から変えていくことを目指すのですね。

神川 はい。まずは僕自身がオープンマインドでいきます。さらにチームを勝たせることができたら最高ですね。ただチームが結果を残したからと言って、自分の手柄だとは思いません。良い成績を残せるとしたら、それは選手の力であり、スタッフのおかげだと思います。

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