2015.07.01

ユニバーシアード日本代表の神川監督「選手が今大会で花開く可能性は十分ある」

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インタビュー=安田勇斗 写真=兼子愼一郎

 7月2日に開幕する第28回ユニバーシアード光州大会に臨むユニバーシアード日本代表。チームを指揮する神川明彦監督が、大会への懸ける想いや現代表チームの特徴、そして自らに課された使命を語った。“神川ジャパン”は、2大会ぶりの王座奪還、金メダル獲得へと突き進む。

2003年大会にコーチとして参加

――2013年からユニバーシアード日本代表の監督を務めていますが、どのような経緯で監督に就任したのでしょうか?
神川 元々僕は金メダルを獲得した2003年の第22回ユニバーシアード大邱大会にコーチとして参加していました。その後の5大会が開催された時は明治大学の監督だったのですが、「いつかはユニバーシアード日本代表の監督としてチームを率いて戦ってみたい」とおぼろげながら思っていました。そんな中、2011年にS級ライセンスの講習を受講できる機会に恵まれ、翌年9月に晴れてS級(コーチ)ライセンスを取得できたのですが、2015年に韓国で光州大会が開催されることを知り、そういったタイミングもあり、「機は熟したかな」という感覚が自分の中にありました。2003年大会の経験、それにこの10年間の監督経験を生かせるチャンスじゃないのかなと。その頃から、「チャンスがあれば次期監督をやりたい」という思いを全日本大学サッカー連盟技術委員数名の方には伝えていました。そして2013年のカザン大会が終わり吉村雅文監督が交代するとなった際に、全日本大学サッカー連盟の理事会で承認された人事案がサッカー協会の理事会へと上がり、13年10月10日の理事会で正式に僕が監督に、コーチに松本直也さん(桃山学院大学)、島岡健太さん(関西大学)が承認されました。

――03年の大邱大会にはどのような流れでコーチに就任したのでしょうか?

神川 優勝した1995年の福岡大会では、当時奈良産業大学(現在の奈良学園大学)で監督をされていた西田裕之さん(現関西学生サッカー連盟理事長)がGKコーチを務めていました。その西田さんが2003年大会の監督を務めることになったのですが、当時は今以上に関東に優秀な選手が集中していて、西田さんは関西を拠点としていたので「関東の指導者をスタッフに入れないと選手選考ができない」と、いろいろな方に声をかけられたそうです。それが、ことごとく断られてしまったようで……。


――それで神川監督にお話が来たのですね。

神川 いえ(笑)、最後に回ってきたのは当時の亜細亜大学の坂下博之監督でした。坂下さんもそれを断ったのですが、その際に話にあがったのが僕だったんです。というのも、坂下さんと僕は指導者としてもそれ以前からも古い付き合いがありました。坂下さんは神奈川県立横須賀高校から筑波大学、フジタ工業を経て読売サッカークラブで選手を引退し、亜細亜大学の教員になって監督もされていましたが、実は高校のサッカー部の監督が僕の父親だったんです(笑)。その当時僕は小学生で高校の試合を見に行ったり、その後も大学の試合を見に行きましたし、我が家に遊びに来てくれてアドバイスをもらっていたこともありました。その後、僕が明治大学のコーチになり、指導者として再会を果たしてからは、関東大学選抜のスタッフとしても2大会ご一緒させていただきました。ありがたいことに信頼してもらえていたのかもしれませんね。その付き合いもあり、坂下さんから明治大学の吉見章監督に「神川を大邱大会のコーチにどうかな」と話をされ、それを聞いて僕も「ぜひ!」と返事をしました。その後、西田さんからも直接電話をいただいてお会いして、引き受けることになりました。運がすごく良かったんです。これは僕の中でも人生が変わるぐらいインパクトがある仕事でした。

何十試合も見た上で選考された選手はもっと自信を持つべき

――2013年に監督に就任して、本大会に向けてどのようなスタートを切ったのでしょうか?
神川 コンセプトというか、そこには2つの思いがありました。僕自身は小さい頃から日の丸を持ってスタジアムに応援に行っていたような子供でした。当時では珍しいですけど(笑)。それくらい日本代表への思いがあり、内容はともかく勝たなきゃダメだと考え、まずはそのことを徹底して伝えました。もう一つは、大学サッカーにはびこっているある種の緩さや甘さを排除したいという気持ちを持ってスタートを切りました。

――現段階ではどれくらい達成できていると感じていますか?
神川 勝つことについては、これまでの戦績が32試合で24勝2分6敗という数字です。敗戦の中身ですが、6敗のうち3敗はJクラブが相手で、かつ、春先という大学生の体ができていない時期の練習試合でした。あとは、14年8月の韓国遠征で参加した「2014 Prominent University Soccer Tournament」の決勝戦で韓国の湖南地域選抜に、今年3月の「DENSO CUP SOCCER第12回大学日韓(韓日)定期戦」で全韓國大學選抜に敗れました。そして、同じく3月のバルセロナ遠征のトレーニングマッチでエスパニョールBに0-1で負けた試合ですね。どれも悔しい敗戦ですが、実力で完全に負けたという試合はあまりないので、よくやっていると感じています。それに、昨年は6月と9月の2回、当時のU-21日本代表とトレーニングマッチを行い、1勝1分けでした。2試合の合計180分で、セットプレーからの岩波(拓也/ヴィッセル神戸)君のヘディングシュート1点だけに抑えたので、同年代の世代別代表と戦ってもそん色ない戦いができたことを考えても、割と順調にきているのかなと。ただし、緩さや甘さの排除という面では、厳しく要求をしていますが、まだどうかなという感じですね。

――その緩さや甘さは選手個々に見られるものなのですか?
神川 そうですね。選手だけが集まると何とも言えない独特な空気になってしまうんです。言われればグッと動くけど、言われないと緩いというか。厳しく要求し合わなかったり、初対面で互いに様子見で終わってしまったりということもあります。 若いんだし、恐れずにもっと泥臭くガンガンやれよって思うんです。僕らが何十試合も見て選考しているんだから、もっと自信を持っていいと伝えるんですけどダメなんです。ある意味で、こっちから火を点けることは簡単にできるんですが、自分でネジを巻けない、ギアを上げられない、そういうところが欠けていると感じています。

――神川監督は三原則として「運動量」、「球際」、「切り替え」を掲げていますが、その点についてはどのような考えがあるのでしょうか?
神川 明治大学の昨年までに積み重ねた公式戦320試合のうち、リーグ戦、トーナメントを合わせた勝率が57パーセントぐらいで、引き分けが25パーセント、残りの18パーセントが敗戦なので、勝率は高い方かと思います。でも負けた18パーセントの試合を一つずつ紐解いていくと、「運動量」、「球際」、「切り替え」で勝っていた試合で負けたことはなく、必ずどれか一つ以上が負けているんです。いくら技術や戦術が整っていても、その土台となる運動量、球際の争い、切り替えのスピードで負けるとゲームが少しずつ相手のものになっていき、終わってみれば相手に敗れている。それを感覚としてつかんだ時期があり、これが何よりも大事なんだと思うようになりました。この3つは選手一人ひとりの特長や明治としての戦いという前に、全員が等しく持っていないといけない土台です。

――だからこそ、それを選手に要求するのですね。
神川 そうです。そしてもう一つ大事なのは、これはメンタルがないと整わないということです。運動量も気持ちで負けたら増えず、切り替えのスピードも意識しないと遅れ、球際も息を吐いたまま行ったら負ける。ということは常にその三原則の中に気持ちが整っていないといけない。そもそもフットボールはメンタルのスポーツだと思っているので、勝負に勝つか負けるかというせめぎ合いになった時に必要不可欠なものとして、口を酸っぱくして伝えているんです。これが整うと、ようやくポジションごとの選手の姿が浮かびあがってくると思います。だから誰一人としてこの三原則を怠っていい選手はいません。僕はスペインのリーグを見て回ってきましたが、だいたい今の選手たちはリーガの3部リーグぐらいの実力だと感じています。そのレベルというのは、本当に潰し合いです。そこから頭一つ抜けることで2部に上がる選手が出てきて、さらにもまれながら1部に上がっていく。そう考えると、このユニバーシアード日本代表でも抑えておかないといけない絶対的なポイントだと思っています。

攻撃時は4-3-3、守備時は4-4-2

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――大会に臨む20名の選考はどのようなコンセプトで決めたのでしょうか?
神川 システムの基本形は4-4-2を考えています。まず中1日で6試合をこなすので、1人でも多くのフィールドプレーヤーを連れていくべきだと考えGKは2人にしました。選手にはものすごくハードワークを要求しますし、基本的には前線から相手の最終ラインにプレスをかけていくのが僕の考えるフットボールなので。またGKは、若干の優劣が付きやすいポジションなので、2番手のGKは最も気持ちがチームから離れる可能性が高い立場にあります。僕自身も、一緒になって心から喜べない控えのGKを見てきましたし、今大会でもそうしたことが起こり得ると思ったので、人間性も重視しました。自分が2番手になって、決勝の舞台に立てなくても常に出られる準備をして、みんなが優勝で喜んでいる時にそっぽを向かないような人間性を持った選手を選ぼうと。

――ではフィールドプレーヤーはどのようにして選んだのでしょうか?
神川 サイドバックは左右で4人選ぶとチーム編成上厳しくなってくるので、最低数の3人としました。左利きのサイドバックが右サイドバックを務める例は世界のトップレベルでもほとんど例がありません。ですが、逆は全く問題ありません。なので、右利きで左サイドバックもできる選手を含めて3人選び、ローテーションさせようかと。サイドバックは4バックのシステムではカギを握りますし運動量も求められるので最低でも3人は必要なんです。それはセンターバックも同様ですね。ここは良くも悪くも変えが効かないので、スペシャリストを3人そろえました。ここもローテーションして起用していこうと思います。その流れで、ボランチ、サイドハーフ、FWも基本的には3人をそろえ、あとはボランチから後ろの全ポジションと、サイドとFWのどこでもできるユーティリティープレーヤーを1人ずつ選びました。前線では和泉(竜司/明治大)、後方では奥山(政幸/早稲田大)がその役割を担ってくれます。

――4-4-2ということですが、以前の合宿では4-2-3-1など別のシステムも試されていました。
神川 4月の全日本大学選抜のテストマッチの時ですね。今考えているイメージは、5月のユニバーシアード日本代表の初合宿で採り入れたのですが、攻撃時は4-3-3、守備時は4-4-2と使い分けるシステムです。攻撃時にはボランチの一人が前に出て、攻撃陣の一人が下がってくる形になります。守備時には中盤の4人がキレイに並び、相手の4バックをけん制しつつ、4バックとの2ラインを整え守備にあたる。寄せ集めのメンバーで時間がない中では、この方が縦と横のバランスを取りやすいだろうという発想です。

――寄せ集めだからこそシステムの切り替えは難しいと感じるのですが、選手はすぐに対応できるものなのでしょうか?
神川 4-3-3のポジションを取る方が攻撃ではボールが動くと思います。一方で守備は4-4-2がやりやすいはずです。隣の選手がどこにいるかも明確で声もかけやすくバランスを取りやすいので、簡単には崩れないのではないかと考えています。

――では、この代表チームの最大の強みはどこでしょうか?

神川 一番の強みは堅守速攻ができることです。がっちり守ってカウンターという意識は、隠しながらも常に持っています。基本的には主導権を握ってボールを動かす戦いをしたいのですが、それができなかったとしても、やるべきことができます。それに呉屋大翔(関西学院大)、澤上(竜二/大阪体育大)というアタッカーの存在が大きい。彼らは絶対的なアタッカーですし、試合を変えられる力を持っています。澤上は本当に一振りで決められるぐらいシュートレンジが広いんです。また呉屋は、ペナルティーボックス内でのワンタッチの技術、こぼれ球への嗅覚、ヘディング、スライディングがあり、左右で蹴ることができますし、いろいろな形から点を取れます。そういう2人がそろっているのは強みです。

――もう一人のFW岡佳樹選手(桃山学院大)はいかがでしょうか?
神川 彼には高さがあります。実は澤上も呉屋もポストプレーがずば抜けて得意というわけではありません。澤上は最近になって、きっちり押さえて正確にパスを出せる懐の深さが見られるようになりましたが。そういう2人に対して、岡はヘディングでボールをすらしたり落とすことができますし、中途半端な高さであれば胸でトラップして走りこむ味方につなぐ技術があります。加えてスピードがありますから、澤上や呉屋と連係する際にも柔軟にプレーできるんです。あと、性格的に大人しく、言われたことを忠実にこなすことも彼にはいい方に向いています。どちらかというと「俺が、俺が」という選手が多く、それはそれでいいと思いますが、岡は「これをやってくれ」ということはやりますし、忠実なんです。今シーズンは関西リーグでも非常に調子がいいので招集しました。彼は実際にその片鱗を見せていますよ。未知数も多いですが、大会中に何かヒントをつかめば大化けする可能性もあります。

――さきほどのお話に上がった大阪での初合宿で収穫はありましたか?
神川 2003年の大邱大会も、2009年の明治大でのインカレ優勝などもそうでしたが、大舞台で優勝する時のチームは結局、監督の手を離れるんです。監督の手の中にいるようなチームは優勝できない。僕自身、それがフットボールだと思っています。だからこそ、まだまだ選手には危機感というか、自分たちですべてをやっていくぐらいの気概が欠けているのかなという気がします。ただ、今のチームはだいぶ雰囲気が良くなってきたと思っています。というのは、僕は最初のミーティングで選手に一つの課題を与えました。それは主将、副将を大阪合宿中、自分たちで決めてくれと。それで彼らは話し合って、決まった人選を伝えてきたのですが、こちらが考えているような形に落ち着いたと思っています。選手の顔もすっきりしていましたし、翌日のFC大阪とのトレーニングマッチでは明らかに雰囲気が変わっていました。

今大会で選手が花開き、優勝する力は十分持っている

――ユニバーシアードで金メダルを獲得するために必要なこととは何でしょうか?
神川 それはもう、チームの団結、一体感ですね。選手20人全員が同じレベルで「金メダルを取る」という強い意志で結ばれない限りは達成できないと思います。

――そのために、選手にはどんなことを伝えていきますか?
神川 僕ができることは、コンディションを一律で整えさせることと、彼ら全員に等しくチャンスを与えていくこと。あとは攻守の行動規範や、セットプレー、切り替え、レフェリーとの関係などピッチ内ですべきことなど、最低限のコンセプトを、今までも伝えてきていますが、明確にして伝えていこうと思います。

――監督は先ほど「選手が自分で考えないといけない」と話していましたが、最も大事な団結という部分は、選手たち自身が自立して築き上げないといけないということですよね。
神川 はい。そうならないと絶対に優勝はありません。

――グループリーグの対戦相手はイラン、マレーシア、ブラジルですが、それぞれ印象はありますか?

神川 正直、マレーシア、ブラジルは現地で見てからだと思っているので、今のところ印象はありません。イランは初戦なので、できれば現地で練習を見たいと思っていますが、おそらく、その国のサッカー自体はトップとそれほど変わらないのではないかと思っています。ユニバーシアード日本代表も基本的にはA代表と似ていると思いますし、なでしこジャパンとも類似している点はあると思っています。それはイランも同じで、中東のサッカーが徹底してつないできたり前からガツガツ来ることはなくて、基本的にはゆったり構えて守り奪ってからが速いとか、ファウルで大げさに倒れたり、前線にスピードがあってサイズの大きな選手がいるというようなイメージを持っています。なので相手に合わせず自分たちの試合の入り方を意識させて、ピッチ内で何をすべきかを試合の中で感じてピッチサイドの僕と中の選手と一緒にゲームを作っていこうと考えています。堅守速攻と、高さがあるのでセットプレーには一番気をつけないといけないと思っています。

――では今回のユニバーシアード日本代表の使命は何でしょうか?
神川 率直なところ、この代表には対して、現時点で大きな期待がかかっているとは感じていません。僕らの使命としては、まずは一人でも多く世代別代表に絡める選手を輩出することです。それは全日本大学サッカー連盟や全国大学サッカーの代表として日の丸を背負っているので、日頃の感謝も含めて、その思いに応えていくことが大切な使命なのかなと思っています。

――では大会に向けての意気込みをお願いします。
神川 前回大会は“スーパーチーム”でありながら銅メダルに終わりましたが、立ち上げ当初から現代表チームはそれよりも選手個々のレベルは高くないと感じています。でもそれを上回るには、先ほどから何度も言っていますが、チームの団結などの戦術的なもの以外の部分を一致させること。それと戦術的な幅を持っておく必要があるということだと思います。実際、2014年2月の宮崎合宿から先日の大阪合宿までの1年半ぐらいで戦い方の幅も広がってきましたし、選手たちも一人ひとりが、少しずつですけど成長を見せています。金メダルを取るための条件はだいぶ整ってきたと思うので、あとは大会直前の合宿でもうひと伸びできるかどうかですね。

――ひと伸びとはどういった部分でしょうか?
神川 それはたぶん、戦術的な部分の熟成や幅ですね。システムを少し変えてもスムーズに遂行できるかなどです。あとはそこを選手同士で話し合って、瞬時に実行していく部分です。この先、全体のまとまりがボトムアップして、チーム全体の力強さが出てくれば、正直あまり心配はしていません。彼らは「守ろう」と言えば守れるし、「行こう」と言えば行ける。しかも幸いにも、誰か一人に頼るチームではなく、点を取れる選手が複数います。攻め手がいくつもあるんです。澤上や呉屋が止められても、小林(成豪/関西学院大)や和泉が決めてくれることもあります。バルセロナ遠征でバルセロナBを倒した時は和泉が決勝点を決めました。長谷川(竜也/順天堂大)や端山(豪/慶應義塾大)はセットプレーで直接決める可能性を持っています。そうした攻め手が増えていることを考えても、僕は十分、今大会で彼らが花開く、目標を達成できる力は持っていると思います。彼らがどれだけ貪欲に最後まで勝ちたいという気持ちを持てるかということと、僕らスタッフが彼らの力をどれだけ引き出せるかという部分に懸かっていると思います。


――期待感が高まりますし、いよいよ迎える初戦が楽しみですね。

神川 そうですね、ただその初戦こそすべてだと思います。そこで勝てるか勝てないかでチームの勢いが変わってきますから。これまで今のチームで3つの大会に出てきたのですが、初戦は全部勝っていますし、初戦に対する集中力はあると思っています。苦戦しても勝ちきってきた歴史があるので、何とか初戦をモノにして、20人全員をグループリーグで起用して、いい形で決勝トーナメントへと進んでいきたいですね。