2016.01.21

J SPORTS 編成部長が語る「スポーツメディアで働く魅力と業界で活躍するために必要なこと」/後編

国内最大の4チャンネルマルチ編成を誇るスポーツテレビ局、「J SPORTS」。昨年日本代表が目覚しい活躍を遂げたラグビーワールドカップを全試合ライブ中継するなど、国内スポーツ業界における最大メディアのひとつとして、スポーツ放送を徹底的に極め続けている。今回はJ SPORTS編成部長の池田泰斗(いけだ・たいと)氏に、スポーツテレビ局の担うべき使命について語ってもらった。

インタビュー・文・写真=波多野友子

――現在は編成に関わっていらっしゃるということですが、編成とはどんな仕事なのでしょうか。

池田泰斗 一言でいえば、番組表を作成する仕事です。年間計画と予算に基づいて月ごとの番組を決めていくのですが、売り方に関しては営業・マーケティング部門と、番組のつくり方に関しては制作部門と……など、さまざまな部署と相談しながら進めていくので、放送局のハブ的な存在でもあります。私自身は、現在すべてのジャンルのスポーツ番組編成を統括する立場です。プレミアリーグなどの海外サッカーや、WBSC世界野球プレミア12など、重要コンテンツの放送権獲得に関しては、自ら契約交渉にあたったり、深く関わることもあります。

――スポーツ番組を編成する上で、大事にしていることは何ですか?

池田泰斗 スポーツテレビ局のプロフェッショナルとして、他の局にはない「4チャンネル放送」という強みを活かすことです。特に重要視しているのが「ジャンル基軸とチャンネル基軸」です。J SPORTS1からJ SPORTS4の中で、どのスポーツ番組をどのチャンネルで放送するかを熟考し、チャンネルごとの個性を鮮明に出していくこと。また反対に、多数の試合が同時刻に行われる海外サッカーリーグや高校ラグビーなどに関しては、4チャンネルすべてを使ってできるだけ多くの試合を網羅するなど、J SPORTSだからこそできることに挑む姿勢を大事にしています。

――多種多様なスポーツコンテンツがありますが、編成にあたり選択する基準とは?

池田泰斗 当社代表取締役の言葉を借りるのであれば「編成はフィロソフィーだ」という表現に尽きますね。一言では難しいのですが……、全国波にふさわしいコンテンツか、世の中のニーズに合っているか、経済性はどうかなど、さまざまな要素を複合して選択の基準としています。最後は「自分達の信念」に、基づいて決定します。例えば、最近私たちはFリーグに注目しているんです。今はまだ注目度が低いコンテンツですが、サッカーファンを取り込める十分な魅力があると感じますし、将来成長する可能性が高いコンテンツだとも思います。視聴者が新しいスポーツと繋がるためのサポートをすることも、フィロソフィーのひとつと言えるかもしれません。

――仕事をする上で、苦労することは何でしょうか。

池田泰斗 視聴者から信頼される番組をつくるために、予算やリソースの使いどころを的確に判断することですね。ラグビーワールドカップ2015では、予算や人繰りの厳しい中、日本代表の帰国会見やエディー・ジョーンズHCの会見などをライブ中継しました。長い間国際舞台で低迷していた日本ラグビーにようやく脚光が当たり、今後も愛され続けるためにこの中継は必要だと判断しました。そもそもラグビーワールドカップは全試合を中継していて、それ自体が赤字だったんですね。それでもJ SPORTSの顔ともいえるラグビーの世界最高峰の大会を放送することは、まさにフィロソフィーなのだと思います。

――予算の問題も含め、放送できる番組数には限りがありますよね。

池田泰斗 もちろんです。例えばサッカープレミアリーグの中継は、現状では毎節5試合に限って放送しています。昨年まではビッグ5と言われる人気チームの試合を固定的に中継していましたが、今年から状況とニーズに合わせて対戦カードを選択するようになりました。岡崎慎司選手がレスターへ加入したことも要因のひとつですね。私たちにとって、限られた枠の中でどのチームを中継するかというのは毎週苦渋の選択です。コアなサッカーファンからはさまざまな意見も寄せられます。ですが私はコアサポーターだけでなく、新たなファンに向けてもフットボールカルチャーを発信する必要があると考えて、番組の編成をしています。

――スポーツ業界において、メディアの仕事にかかわれる魅力とは何だと思いますか?

池田泰斗 予定調和の存在しないスポーツという世界で、感動や衝撃を視聴者と共有できること。そしてスポーツと人を繋ぐ架け橋になれることですね。競技の中継だけでなく、ドキュメンタリー番組の制作にあたっては、ジャーナリズムの一端を担えるという点でやりがいを感じます。以前J SPORTSでは、「トミー・ジョン手術」に関するドキュメンタリー番組を放送しました。これはアメリカと日本の両方向から、肘を故障しがちなピッチャーを取り巻く問題に焦点を当てた作品で、衛星放送協会オリジナル番組アワードの情報番組・教養番組部門で最優秀賞も受賞しました。この番組を通して私たちが社会に投げ掛けたかったのは、「野球に励む子ども達を正しく導けているのか?」という疑問です。ピッチャーの投げ過ぎやストレートのスピード重視偏重などが危惧されます。この番組制作を通して、決して答えを決めつけることなく、視聴者にスポーツについて考える機会を提供するのがドキュメンタリー番組の使命だと、改めて気づかされました。

――池田さんが考える、スポーツの現場で活躍するために必要なこととは?

池田泰斗 「スポーツに貢献できる力を持っているか」、「その力を身につけるためにどんな毎日を送っているか」ですね。どんな業界にも共通することですが、そこにいることが目的になってしまっている人を時々見かけます。育成環境が整っていれば何とか通用するかもしれませんが、スポーツ業界では環境的にまだまだ難しいこともあると思います。それならば、まずは別の業界で自分のスペシャリティを磨いておくことも一つの選択肢となるのではないでしょうか。それは知識やビジネススキルに限りません。「人から愛されるキャラクター」「人を説得するのが得意なキャラクター」など、理想とする人格を定義して、スポーツ業界のために使える武器として「人間力」を伸ばしておくことが必要だと感じます。

J SPORTS 編成部長が語る「全くの異業種からスポーツ業界へ転職した理由」/前編

株式会社ジェイ・スポーツ
編成部長
池田 泰斗(いけだ たいと)

慶應義塾大学経済学部卒業後、1993年に新日本製鐵(株)(現新日鐵住金(株))に入社し、管理会計、営業、営業システム開発を経験。
1997年よりEI事業部(現新日鐵住金ソリューションズ(株)、後に出向・転籍)にて金融システムソリューション、新日鉄情報通信システム(株)との合併、東証一部上場などに携わる。
2003年に(株)ジェイ・スカイ・スポーツ(現(株)ジェイ・スポーツ)に入社。経営/営業企画部門にて経営/営業戦略構築などに携わり、他スポーツテレビ局との合併なども担当。
2006年よりCATV局、2011年より事業開発部門を経て、2013年より現職に就く。
J SPORTS の4チャンネルの編成ビジョン/方針/戦略やコンテンツ戦略の構築に携わる。
また東日本大震災の際には、アトランタ五輪サッカー日本代表松原良香氏など、著名なサッカー関係者と共にメディアとして復興支援活動にも尽力。

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