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アディダスの“仕掛け人”が明かすブランドコミュニケーションの役割「商品の良さを理解してもらうための戦略が必要」/前編

2015.12.21

世界中のビッグクラブやスター選手と契約を結び、特にフットボール業界においては他の追随を許さないグローバルスポーツメーカー“アディダス”。世界トップクラスのブランドコミュニケーション術の秘密とは何なのか? 今回は、2015年にローンチとなった新スパイク「X」「ACE」の日本での斬新なプロモーションの立役者、アディダス ジャパン株式会社フットボール部門のブランドコミュニケーション・シニアマネージャーの本城賢嗣氏に余すことなく語ってもらった。

インタビュー・文・写真=波多野友子

――本城さんがアディダス ジャパン入社を志した経緯を教えてください。

本城賢嗣 アディダス ジャパンに入社したのは2005年、広告代理店からの転職という形でした。僕にとってアディダスという企業は、どこで働いていてもずっと特別な存在だったんです。プロダクトのファンだったということもありますが、アディダスの打ち出す斬新でダイナミックな広告キャンペーン、プロモーションは仕事をする上でも常に憧れの対象であり、目標でもありました。強烈に記憶しているのは、2003年に展開された「Impossible is Nothing」の広告キャンペーン。ちょうど広告代理店で某スニーカーメーカーのセールスプロモーションを担当していたのですが、このフレーズには圧倒されました。将来アディダスという企業で働くというキャリア形成を、本格的に視野に入れ始めたのがこの頃です。

――多くの人を惹きつける、アディダスという魅力的な企業。転職までの道のりは、平坦なものではなかったのでは。

本城賢嗣 リクルーターを通して、常にアディダス ジャパンの募集状況は把握するようにしていましたが、転職に際しては慎重に慎重を重ねました。早まってチャンスを潰すようなことは絶対に避けたかったんです。地道にキャリアを積んで実績も見え始めた2005年、アディダス ジャパンが採用を始めたことを知りました。それでもすぐには動きませんでしたね。名前を伏せたまま職務履歴書をリクルーターに預け、アディダス側の感触を探ってもらいました。そこで評価を得ることができ、30歳で晴れて転職が叶ったんです。

――アディダス入社後は、どのようなキャリアからスタートしたのですか?

本城賢嗣 もともとセールスプロモーションを経験してきたので、まずは同部署からのスタートでした。大型スポーツ量販店に向けてのプロモーションがメインで、ショップインショップを展開したり、販促キャンペーンやカタログを制作したり、常駐スタッフのトレーニングマニュアルを作ったり……。販促に特化した仕事でした。いつかは広告やPRも含め全てを企画する仕事に携わる必要があるというスタンスは、忘れることなく持ち続けていましたね。

――そしてセールスプロモーションから、ブランドコミュニケーションへ。

本城賢嗣 入社して3年が経った頃、ブランドコミュニケーションのメンズカテゴリー部門へ配属が決まりました。ただそこから3年間は、ひたすらやる気が空回り(苦笑)。なかなか結果を残すことができない中、2010年に同部署の競技カテゴリーへ異動になったんです。今思えば、この異動がキャリアの転機となりました。

――キャリアの転機になった競技カテゴリーでの仕事とは、具体的にどんな内容だったのですか?

本城賢嗣 競技カテゴリーでは、主にベースボールとバスケットボールを担当することになりました。ベースボールでは、当時オフィシャルパートナーだった読売巨人軍のキャンペーンに多く携わりました。この時に痛感したのが、彼らの圧倒的なブランド力です。いかにそれに飲み込まれることなく、読売巨人軍という巨大なブランド力をかりて、アディダスベースボールのイメージを構築できるか試行錯誤を繰り返した経験が、後のフットボールでの仕事に生きることになりました。バスケットボールの「1on100」キャンペーンも印象深いですね。新シューズのお披露目キャンペーンとしてNBAのデリック・ローズ選手を招き、六本木ヒルズの特設コートで100人のプレーヤーからゴールを奪うというイベントを企画したんです。予想以上の大盛況となりギャラリーの多さで企画が中止になりそうになったくらいでした。

――具体的に、ブランドコミュニケーションの役割とはどんなことなのでしょうか?

本城賢嗣 売り上げることよりも、一言で言うならば、話題をつくることですね。イベントを体験したり広告を見たりした人の気持ちを盛り上げて、商品について話題にしてもらうこと。さらに言えば、商品のストロングポイントとアディダスブランドのストロングポイントを掛け合わせ、いかにして話題をつくるかという企画をたてるのがこの仕事です。そのためには、商品のバリューを冷静に見極める能力も必要になってきます。本当にイノベーティブな商品であればデザインとコンセプトだけで訴求できますが、大半の商品は良さを理解してもらうために戦略が必要です。ではどんな手法を使うのがベストなのか? それを提案するのがブランドコミュニケーションという仕事の役割だと思います。

――アディダスブランドの持つストロングポイントについて教えてください。

本城賢嗣 大きく3つあると思います。ひとつ目は歴史に裏づけられた本物感。ブランド力と言い換えてもいいでしょう。ふたつ目は強いアセット(契約選手)。代表選手を始め、これほど優れたアセットを持つローカルカンパニーは類を見ません。そして最後にスポーツパフォーマンスカテゴリーにおけるブランドショップの数ですね。アディダスは全国に20店舗以上、アウトレットを含めると40店舗以上(2015年12月時点)のスポーツパフォーマンスカテゴリーにおける直営店を持っています。これは競合他社と比較しても桁違いです。またオンラインショップも展開してますので、今後のオムニチャネルを見据えると、コンシューマーが直接商品に触れられ、ブランド体験が可能な場所が全国にあるというのは、ブランドとビジネスの側面で大きな強みになっています。

ブランドコミュニケーションの仕事をする上で必要なスキルは「想像できる力」/後編

アディダス ジャパン株式会社
アディダスマーケティング事業本部 Football ビジネスユニット
ブランドコミュニケーション シニアマネージャー
本城 賢嗣(ほんじょう けんじ)

アパレルメーカー、広告代理店を経て2003年にアディダス ジャパン株式会社へ入社、セールスプロモーション部門に籍を置く。2008年よりブランドコミュニケーションに配属。ベースボール担当時は読売ジャイアンツを活用したブランディングを行う。またバスケットボール担当時には様々なグローバル選手の来日に尽力し、特にデリック・ローズ選手(シカゴ・ブルズ)来日においては、100人の一般参加者と対戦する「1on100」を仕掛けた。2014年より現職となり、アディダス ジャパンにおけるフットボールのブランドコミュニケーション部門を統括。最近では新たなスパイクモデルであるX(エックス)とACE(エース)のローンチキャンペーン、プロモーションを手掛けた。

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