FOLLOW US

オフィシャルパートナーが示した日本サッカーへの情熱、新しい応援の形「KIRINキャンプ」が大成功

2015.12.20

 2015年11月28日、東京都内のサッカー場に全国から選抜された30名の中学生が集結していた。『KIRINキャンプ』と銘打たれたこの合宿は、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が直接指導することで日本中の耳目を集めることになった。選手たちにとっては大きな刺激を受ける場になったに違いないのだが、一方でそもそもこの合宿が行われた理由はどういったもので、何を目指しているのだろうか。素朴な疑問が浮かんだ人もいるに違いない。

 そもそも誤解している人も多いように思う。ハリルホジッチ監督が陣頭に立ったため、日本サッカー協会が主催するイベントであり、KIRINは冠スポンサーなのだと解釈した人も多かったようだが、これはあくまでKIRINが主催者。日本サッカー協会はオフィシャルパートナーであるKIRINに協力し、その中でハリルホジッチ監督を筆頭とするスタッフ陣を派遣するという異例の形が実現したのだ。しかし、そうなると、ますますもって謎である。なぜKIRINがこのキャンプを……?

 直球の疑問をぶつけられて、「それはそうでしょうね」と微笑んだのは、KIRINブランド戦略部の小笠原順子さんだ。今回のKIRINキャンプに関して事前の企画・準備段階から携わり、実際のキャンプに際しては運営の最前線に立った当事者である。実はシドニー五輪に出場した経験を持つスイマーという過去を持つのだが、柔らかな物腰から体育会系のオーラは見えてこない。実際、キャンプの途中で子どもたちに素性を明かすと、「『えっ!』という感じに、みんなビックリしていました」という。

 一方、「私たちも本当にやれるのか不安だったくらいですから」と苦笑いを浮かべたのは、小笠原さんと二人三脚で今回のプロジェクトを推進してきた梁高徳氏。こちらは逆に体育会系のオーラを感じさせる礼儀正しさと誠実さを感じさせる立ち居振る舞い。実はサッカーに青春を捧げており、それだけに今回のKIRINキャンプに対しては並々ならぬ情熱を注いできた。

「夢のような場になった」と梁さんが語るKIRINキャンプの企画のひな形が持ち上がったのは、2015年4月にKIRINが従来の「サッカー日本代表オフィシャルスポンサー」という立場から「サッカー日本代表オフィシャルパートナー」になったときまでさかのぼる。「これまで弊社では38年間にわたって日本代表をサポートさせてきていただきました。私たちが入社する以前からのご縁ですが、現在に至るまでの話は社内でずっと語り継がれているんです」と小笠原さんが語るとおり、KIRINカップのスポンサードを筆頭として、日本サッカー協会とKIRINは切っても切れぬほどの濃密な関係を築いてきた。そして今回、スポンサーからパートナーという立場へ変わることになったとき、「サッカーを通じて人を応援したい、というKIRINの強い思いのもと、私たちもパートナーとして日本代表のためにできることが何かあるのではないか。それをもう一度考えましょうということになったんです」(小笠原さん)。

 そのため、日本代表を強化するためのアイディアを広く公募し、同時に有識者からも意見を募った。「本当にたくさんの意見をお寄せいただきました」と梁さんが言ったのも無理はない。その数、なんと4000件余り。小笠原さんは「ここまで熱心な意見をたくさんいただいたので、どれか一つに絞るというのではなく、いただいた意見を集約しながら考えようということになりました」と言う。いろいろな意見があっても、方向性は同じ。日本代表強化するために重要なのは「育成」であり、「より若い選手への刺激」が必要であり、特に「国際経験」や「国際感覚」が重要であるという考え方だ。若い選手への刺激になって、国際経験や国際感覚を身につけるために最適な人材として、白羽の矢が立ったのがハリルホジッチ監督。「期待はしつつも、ダメ元でした」(梁さん)というオファーを、「ビックリしたことに」(小笠原さん)、日本代表監督は快諾。KIRINキャンプのプロジェクトが一気に動き出した。

 もちろん、実施が決まってからも心配の種は尽きない。なにせ代表監督である。単純に忙しいし、どこまで中学生相手にやってくれるのだろうか。そして、そもそも選手は集まるのか。「本当に不安でした」と梁さんが思っていたのも無理はない。だが、フタを明けてみれば、全国津々浦々から応募が殺到し、選考作業は困難を極めることに。これは「地方の子にもチャンスを与えたかった。住んでいる場所が理由で来られないという選手はゼロにしたかった」という小笠原さんと梁さんの希望が通って、交通費全額をKIRINが負担するという太っ腹な決断があったからだろう。沖縄から二人の選手が参加したのが象徴的だが、全国から選手が参加することにつながった。

 そして、ハリルホジッチ監督は本気も本気。「コーチの皆さんも本当に情熱的に取り組んでくださって」(小笠原さん)、たった二日間ながら濃密なプログラムが組まれており、そしてそれらは「A代表仕様」だった。「ハリルホジッチ監督はトレーニングの目的をきちんと説明されるんです。『欧州では中学年代についてこういう考え方をしているから、君たちはこうしたほうがいい』といった形で話されるので、選手たちにもスッと入っていったと思います」と梁さんは言う。同時に「練習を観ながら、『僕が中学時代にやっていた練習は何だったんだろう』という気持ちになりました」と笑う。A代表と変わらぬテンションで指導するハリルホジッチ監督は、A代表と同じように激しいプレーを求め、時に厳しく指導に当たった。

 また、座学ではA代表のロッカールームの様子も公開。トップ選手たちが掃除や整理整頓をしっかりこなしている様を見せて、「君らはどうだ?」と呼びかけた。「耳の痛い子も多かったと思います」と笑う小笠原さんも登壇。「KIRINって飲み物のイメージが強いと思いますが、医薬だったり健康についての研究もしているんです。『KIRIN講座』ということで、アミノ酸の一種であるオルニチンに関する疲労回復のメカニズムと、KIRINグループが世界で初めて発見した免疫力を高める役割を担うプラズマ乳酸菌に関する話をさせていただきました。体調を整えることで毎日の練習につながるし、試合にも生きてくるよという話をさせていただきました」。

 選手たちの感想や保護者から返ってきたアンケートなどを読むと、「本当に刺激になったんだなと分かってうれしかったです」と梁さんは言う。U-15日本代表を指揮する森山佳郎監督はかつて、合宿での目的について「数日のキャンプでそんな急に上手くなったりはしない。でも意識は変えられる」と語っていた。同じように、特別な刺激を注入された選手たちの意識は変わったのではないか。その答えが見えてくるのは3年、5年、あるいは10年以上経ってからだろうけれど、KIRINの二人は「楽しみに待っています」と言ってニコリと微笑んだ。

取材・文=川端暁彦/写真=瀬藤尚美

【関連記事】
●ハリルが中学生を熱血指導「何人かテクニックを持った選手がいた」
●ハリル、2日間の中学生指導を終えて笑顔「面白かった。ぜひ2回目も」

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

SHARE

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO