2012.05.29

スペインがユーロで優勝できない6つの理由。世界最高とたたえられる“無敵艦隊”の穴

ワールドサッカーキング 2012.06.07(No.216)掲載]
 ユーロ2008と南アフリカ・ワールドカップを制覇。クラブレベルのチャンピオンをキラ星のごとく抱えるスペイン代表は、確かに世界最高のチームではある。ユーロ2012でも優勝候補の筆頭だが、彼らが優勝することは、恐らくない。現地記者が語る、その理由とは……。

Text by Simon TALBOT, Translation by Atsuo MACHIDA

 単刀直入に言おう。スペイン代表にはもう飽きた。少し大げさに言えば「うんざり」だ。完全無欠のコンビプレー、勝利ばかりの戦績、尽きることなく生み出される新たなタレント、洗練されたスキル、流動的なフリーランと次々に繰り出されるキラーパス……。彼らは一体何なのだろうか?

 2年前の南アフリカ・ワールドカップ(以下W杯)直前には、3度もチャンピオンズリーグ(以下CL)制覇を成し遂げたバルセロナの正GKを第3GKに選出すべきかどうかが国民的議論となった。

 大半の国は「誰を招集するか」で悩むのに、スペインでは「誰を落とすか」が問題となるのだ。「うんざり」とは言ったが、その強さとクオリティーに文句を言うつもりは全くない。2月末の親善試合では、テストの色が濃いメンバーで臨みながら、成長著しいベネズエラを相手に5ー0と圧勝している。スペイン代表のゲームを見ていると、彼らが再び敗れることなどあるのだろうかと首を傾げたくなる。そう、彼らは素晴らしすぎるし、強すぎるのだ。ユーロ2012の開幕のを数週間後に控えたサッカーファンから優勝予想の楽しみを奪うのだから、無粋としか言いようがない。

 だが、ある時ふと思いついた。“無敵艦隊”は負ける時はあっけないのではないか、と。今シーズンのバルサと同じことが代表に起きても不思議はない。考察を重ねるうちに、この思いつきには数々の裏付けがあることが分かった。そう、恐れる必要はない。スペインを除くすべての代表チームのファンにとっての朗報を伝えよう。

「スペインは今回のユーロで優勝できない」。その根拠をこれから示そう。

【理由その1】復帰が待たれた絶対的エースの不在

 クラブW杯で足を骨折したダビド・ビージャは、「ようやくトンネルの出口の明かりが見えてきた」と語っていたが、最終的にユーロ本大会出場を断念。ビセンテ・デル・ボスケ監督が「プレースタイルや得点能力において代えの利かない選手」と話すエースの不在は大きな不安材料となる。

 もちろん、スペインには他にも優秀なストライカーが大勢いる。フェルナンド・ジョレンテ、アルバロ・ネグレド。さらにはマンチェスター・シティのダビド・シルバも、最近ではバルサの“偽の9番”であるリオネル・メッシのような戦術的役割を与えられ、これを見事にこなしている。

 また、「眠れるストライカー」のフェルナンド・トーレスが、シーズン終盤になって自信を取り戻しつつある。失笑を漏らすなかれ。トーレスが他国のパスポートを持っていたら、ユーロの招集メンバーから外すには相当の覚悟を要するはずだ。

 しかし、それでもビージャは特別な存在だ。過去6シーズンにわたってリーガ・エスパニョーラ屈指のストライカーとしての地位を守り、ユーロ2008と2010年W杯の得点王となり、スペイン代表の歴代最多得点記録も樹立した。ビージャの代わりを務めることは、どんな選手にだってできない。その動き、ボールタッチ、シュート、インテリジェンス、下がったり開いたりしながら味方のためにスペースを作る動き。そのすべてが一流なのだ。

 その中でも特筆すべき能力が決定力だ。ビージャの勝負強さは群を抜いている。単にゴールを決めるFWはいくらでもいるが、ビージャはチームにとって重要なゴールを、チームにとって必要な時に、それも繰り返し取れる男だ。前回のW杯では、4試合連続を含む5ゴールを奪った。

 そんな選手を欠くことになった今、スペイン代表の損失は甚大である。

【理由その2】代表のシステムに多大な影響を及ぼすシルバの“ガス欠”

 バルサの一員でないことが原因で代表でのポジション確保に苦労していたシルバだが、この1年でデル・ボスケ監督の信頼を完全に勝ち取った。しかし、代表での働きと反比例するかのように、マンチェスター・Cではシルバが機能しなくなっている。メディアが賛辞の言葉を使い果たしたのと時を同じくして不振に陥ったのだ。今のシルバをどう扱うかも難しい問題の一つで、年明けまでキャリア最高のプレーを見せていた男を、完全復調を信じて使い続けるべきなのか? 問題は、デル・ボスケがシルバを使うために、彼のためのポジションを作り出したことだ。今やシルバを使うか使わないかの判断は、基本システムの選択にまで影響してくる。プレミアリーグのタイトル争いは例年になく過酷なものになったが、ユーロ開幕までにシルバが“再充電”の時間を十分に取れるかどうかも怪しいものだ。

【理由その3】ピケの不調により再び浮上した右サイドバック問題

 ジェラール・ピケはすべてを手にしていた。長身でハンサム、若く知的。W杯で優勝し、世界最高のセンターバックと絶賛された。おまけにフィアンセは超セクシーな歌姫だ。まるで夢のように恵まれていた。

 だが、夢はやがて覚める。昨シーズン、バルサのティト・ビラノバは「ピケがいなければすべてが台無しになりかねない」と言ったが、今シーズンは「ピケがすべてを台無しにした」と頭を抱えているのではないか。すべてを失ったとまでは言わないが、今のピケは以前より鈍重で、集中力も欠いている。かつては非の打ち所がなかったプレーに、愚かなミスが見え隠れするようになった。そんなミスの穴埋め役として、バルサにはハビエル・マスチェラーノがいたが、それでも十分ではなかった。しかし、スペイン代表は?

「ピケ問題」の解決策は、それ自体が別の問題を生みかねない。ピケの穴を埋めるには、セルヒオ・ラモスをセンターバックにコンバートするのが最適な対策だ。実際、レアル・マドリーでも彼はシーズンを通してセンターバックを務めていた。だがそうなれば、今度は右サイドバックの人材が不在となる。

【理由その4】ドブレピボーテの採用で機能し切れない司令塔のチャビ

 暴論に聞こえるかもしれないが、スペインの中盤が機能する保証などない。スペイン国内でこんなことを言ったら“袋だたき”にされかねないが、シャビ・アロンソとセルヒオ・ブスケのどちらかを外すべきではないか。デル・ボスケはドブレピボーテ(ダブルボランチ)に固執している。実際に先のW杯ではこれで成功を収めているが、チャビがバルサの時よりも高い位置でプレーすることになるのは、やはり問題だろう。厳しいマークを受け、ボールに触れる回数が減り、リズムを作り出すのに苦労していたのは事実なのだ。

 また、ドブレピボーテの採用は攻撃的MFの枠を1つ削ることになる。南アフリカから帰国する際にフラストレーションを抱えていた選手がいたとすれば、それはセスク・ファブレガスとシルバだったはずだ。

 X・アロンソとブスケが同じスペースを埋めることで互いに邪魔するシーンはしばしば見られる。特にブスケとしてはやりづらいだろう。X・アロンソがいなければ、チャビ、ファブレガス、イニエスタとの連係は完璧に機能するのだから。

 チャビにも問題がある。彼はスペイン代表の絶対的なゲームメーカーで、1試合に100本近くのパスを通し、当代最高の2チーム(バルサとスペイン代表)に独自のリズムを与え、試合のペースを作る。彼が思い通りにプレーできれば、チームメート全員が機能するのだ。しかし、影響力が大きすぎるのも問題だ。ユーロで彼が機能しなかったら? チャビは既に30歳の峠を越えており、しかもここ4年間は満足な休息を取っていない。アキレス腱の古傷は試合を終えるたびに痛み、入念なケアを必要とする。4月末のクラシコとチェルシー戦で、チャビは平凡な出来に終わり、バルサは敗れた。ユーロでその再現がないと誰が言い切れるだろうか?

【理由その5】バルサとマドリーの過熱するライバル関係がもたらす悪影響

 多くのサッカーファンが期待した、「CL決勝でのクラシコ」が実現しなかったために、この心配は杞憂に終わるかもしれない。だが、バルサとマドリーのライバル関係は年々度を越したものになっており、そこに“憎しみ”の感情が存在しているのは明らかだ。この数年、バルサとマドリーは国内の優劣を競う関係を超越し、「勝った側が世界最強」という状況でぶつかり合ってきた。あるところまでは、それはポジティブな結果を代表にもたらした。互いに切磋琢磨することでレベルアップし、少なくとも勝ったチームの選手は大いに士気を高めることができたのだから。

 だが、どこかで度を越した。それはジョゼ・モウリーニョのような“好戦的な男”が矢面に立ってライバル心をあおる言動を繰り返したからかもしれない。過熱した対抗意識は衝突を生み、一部選手の行き過ぎたラフプレーのように、味方側の人間にまで「見るに耐えない」と言わしめるシーンの連発を生んだ。いや、監督や選手のような個人の仕業ではない。勝敗が持つ意味がこれまでの何十倍にも重くなったことが、全員を狂わせたのだ。イケル・カシージャスも指摘しているように、それはスペイン代表の活動にとってマイナスである。カシージャスは互いの嫌悪感を和らげようと前もって何人かに電話したが(それでモウリーニョの不興を買った)、やはり不信感は残るだろう。実際、デル・ボスケも公式に懸念を表明しているのだ。

 亀裂は覆い隠せるし、表面的な和解も可能だ。だが、蹴られたり、突き飛ばされたり、ののしられたりした記憶は消えない。当然、全員がプロのスポーツマンだし、立派な大人なのだから、一つの目標に向かうことはできる。だが、何らかの要因により物事がうまく回らなくなり、ストレスがたまる展開になれば、様相は全く異なるものになる。危険物をため込んだ火薬庫のようなもので、小さな火種があれば大爆発を起こすに違いない。いざ何かがあれば、各自が「白い色眼鏡」や「赤青の色眼鏡」を通して物事を見るようになる。そうなったらチームは空中分解だ。

【理由その6】リーガ勢の躍進によって懸念される代表選手のコンディション

 バルサとマドリーの過密日程は今に始まったことではないが、ともにCLベスト4まで勝ち残り、リーガの優勝争いも終盤までもつれた。しかも、今シーズンはヨーロッパリーグの決勝がスペイン勢同士の対決。アスレティック・ビルバオは今シーズンの公式戦が50試合を超えており、ヨーロッパのどのチームよりも多い。代表メンバーの4分の3がシーズン終盤までの死闘を強いられている。

 それだけでは足りないとばかりに、バルサとビルバオはコパ・デル・レイの決勝でぶつかる。スペインサッカー連盟は、その日程と会場を決めるのにもめにもめた揚げ句、シーズンのどん詰まりにスケジュールを押し込んだ。UEFAが全日程を終えるよう定めた期日より後の5月25日である。

 他国の代表がこぞってユーロの準備を進めている時に、バルサとビルバオの選手は決勝戦に気を取られているということだ。両クラブから招集されるスペイン代表選手は10人前後になるはず。彼らの調整が遅れ、ケガのリスクが高まるだけではない。代表合宿が充実したものになるわけがないのだ。W杯やユーロのような国際大会では、コンディショニングが極めて重要なはずだが……。

 コンディション調整の軽視。これは連盟が代表チームを「舐めている」ことを意味する。重役たちは代表のことをどれだけ考えているのか。チームが素晴らしい結果を出せるよう、あらゆるサポートをしていると言えるだろうか。

 残念ながら、実態は逆だ。報酬目当てで代表チームを世界中に遠征させ、大事な選手たちをすり減らしている。シーズン開幕前の大事なキャンプの時期に、別の大陸の灼熱の地で選手を戦わせたことさえあった。その結果は容易に想像できるだろう。ポルトガルとアルゼンチンにそれぞれ0ー4、1ー4と惨敗したのは、ほんの一例に過ぎない。

 これまでスペイン代表が内包する不安要素を述べてきたが、最大の問題はそれとは別のところにある。それでもなお、スペイン代表は優勝候補だ。ユーロとW杯で続けて優勝し、そのスタイルは継続させつつも、新陳代謝はしっかりと行っている。今回、ポーランドとウクライナで戦う16カ国を見回しても、やはりスペインがベストチームだろうと思える。だが、「出場すれば勝てる」と考えるのは間違いだ。

 スペインはベストチームかもしれないが、他の優勝候補と比べて絶対的優位に立っているわけではない。ほぼそれに匹敵する実力を備えているであろうチームが複数いる。4年前のユーロで準優勝、2年前のW杯でも3位になったドイツ代表は、今も急成長を続ける若く野望に溢れたチームだ。オランダは南アフリカW杯の決勝でスペインに敗れたが、試合はどちらに転んでもおかしくない接戦だった。あの時の戦力をそっくり残している上に、ロビン・ファン・ペルシーがキャリアの全盛期を迎えている。イタリアは常にスペインを脅かす国だし、悩めるフランスも復調ムードだ。

 そう、スペインはベストチームかもしれないが、ライバルの一つが爆発的に成長したら、あっさり追い越されてしまうだろうーー。これが、スペイン代表が今回のユーロで優勝できないと見る一番の要因である。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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