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ゼロックス杯直前、北嶋と大谷が語る「ザ・監督」ネルシーニョの存在

2012.03.02
Jリーグサッカーキング 2012.2.3月号掲載

J1初優勝を成し遂げた柏レイソルの先頭には、いつも2人がいた。
チームキャプテンの北嶋秀朗とゲームキャプテンの大谷秀和。
太陽王に欠かすことのできない《魂》と《心臓》が待望の初対談。

J1王者としてゼロックス・スーパーカップに臨む柏の強さの秘密とは?
 


[インタビュー・文]=細江克弥 [写真]=鷹羽康博

「ザ・監督」ネルシーニョの存在
 
第33節セレッソ大阪戦をドローで終えた時はどんな心境でしたか?
 
北嶋 残り2試合で4ポイント取れば優勝という状況で、そのうちの1ポイントを取ったというだけですね。「1ポイントしか取れなかった」じゃなく、「よし、あと3ポイント」という感じかな。
大谷 そうでしたね。第32節清水戦後に監督が「あと4ポイント取れば優勝だ」って言ったんです。だから、C大阪戦で同点に追い付いた時も正直、「このままでもいいや」って思いました。「アウェーの埼スタで3ポイント取らなきゃ」っていう焦りはなくて、「あと3ポイント取れば優勝だから1ポイントでも悪くない」という感じだった。得失点差では明らかに不利だったので、さすがに「0」はマズいけど、「1」なら問題ない。だからもし、清水戦後に監督「あと2試合で6ポイント取って終わろう」なんて言われたら、優勝なんてできなかったかもしれないですね。
北嶋 そうそう。小さなことだけど、そういうところが大事なんだよな。チームとして「1-1でOK」って分かっていれば、バランスは崩れない。実際、本当にそうだったからね。
 
なるほど。そういった心理状態で最終節を迎えたわけですね。

大谷 はい。あの1週間、モチベーションはめちゃくちゃ高かったですよね。
北嶋 うん、異様な高さだった。
大谷 もちろん、「勝ったら優勝」という思いもありましたけど、とにかく早く試合をやりたくて仕方なかった。
北嶋 あとはやっぱり、マスコミの多さだよね。あれはスゴい(笑)。
大谷 「早く試合したい」っていう気持ちを抑えるのが大変でしたよ。

浦和戦の試合前には、監督から何か特別な言葉があったんですか?

大谷 ありましたっけ?
北嶋 いや、ネルシーニョ監督って、試合前のミーティングではあまり何も言わないんですよ。
大谷 そう。直前までずっと腕組んで黙ってる。その間に選手が発する言葉のほうが緊張しますよね。
北嶋 何を言うかも大事だし、何よりまず噛まないことが大事(笑)。ああいう時って、「立ち上がり、集中しようぜ」みたいなことを言うじゃないですか。そこで噛むと完全にコケる感じになるんですよ(笑)。
大谷 さすがに笑えませんからね(笑)。それにしても、監督って試合前はホントに話さないですよね。
北嶋 話さない。
大谷 でも、浦和戦の前には「舞台は整った」って言ってた。あれを聞いて「やっぱスゲーな、この人」って思いましたもん(笑)。
北嶋 あと、よくこうやってさ(ナイフで切るジェスチャー)、「あとは食べるだけだ」って言うよね。あれ、ケーキだっけ? チーズだっけ?
大谷 チーズですね。
北嶋 そうそう。こうやって切るふりをしながら、「あとは食べるだけだ」ってね(笑)。それはよく言うよね。
大谷 言う、言う(笑)。

ちなみに今年、お2人が監督から直接掛けられた言葉で印象に残ってるものは?

北嶋 俺、監督から何か直接言葉を掛けられたことって……ないですね。
ないんですか?
北嶋 メンバーから外される時にその理由を説明されることはありますけど、ほとんどの場合、何も言われないまま外されることのほうが多い。それ以外に監督と何かを話すことってないんですよね。チームキャプテンだからそういう機会がたくさんあるように思われるかもしれないけど、本当にないんですよ。

監督との意思疎通は、言葉がなくても図れているという感覚なんですか?

北嶋 うーん、どうですかね。「こうだろうな」と思ったことがよく違ったりするので(笑)。だから、僕はあまり感情を持たないようにしています。例えば何か大きなことがあっても特別な感情を持たない。監督が好きだとか嫌いだとか、何で外されたんだとか。そういう感情を持たないで、事実だけを受け止める。あとは自分のプレーをしっかりやる。監督にはそれを見てほしい。何て言うんですかね……。難しいんですけど、感情とかお互いの理解とか、そういうことじゃないんです。普通にサッカー選手としてサッカーをやる。俺はそういう感じで監督と接してますね。

どの監督に対してもできることなんですか?

北嶋 いや、そうでもないですね。ネルシーニョになってからです。例えばイシさん(石崎信弘/現コンサドーレ札幌監督)だったら、イシさんのことがすごく好きだったし、イシさんを男にしたいって感情のほうが強かった。でも、強い感情を持っている時って、例えばメンバーを外された時、一生懸命に理解しようとしちゃうんですよ。だから理由を探しちゃう。「きっとイシさんはこう考えてるんだから、お前はちょっと我慢しろ」って自分に問い掛けるんですよね。

分かる気がします。

北嶋 でも、最近は「そういう感覚はいらねえな」と思うようになってきた。ネルシーニョ監督のことは好きだし、尊敬もしているけど、そういう理解じゃなくて、何があってもそれを事実として受け止めて、あとはサッカーで伝える。監督もそういうふうに接してくれますから。もちろん、俺だけじゃなく、みんなに。だから監督に対しては、ネガティブな感情もポジティブな感情も持たないようにしてるんですよ。

監督に対してそういった意識で接することは、決して簡単じゃないですよね。

北嶋 もちろん、そこは人によると思いますよ。それが良い悪いじゃなく、「すごく尊敬しています」っていう選手もいるだろうし、それはそれで素晴らしい。でも俺は、そういう感情がないほうがいいと思っていて、あえてそうしているんです。監督のことはめちゃくちゃ尊敬してますけどね。

そのお話を聞いてなおさら不思議に感じます。レギュラー争いが激しく、そこに対するモチベーションが高い。それはよく分かる。ただ、それでも出場機会が本当に限られている選手がいますよね。ポジション争いの壇上には立ち続けているけど、実際にはピッチに立てない選手も少なくないと思うんです。でも、そういう選手に話を聞いても、「悔しいけど仕方ない。それがレイソルの強さ」という答えが返ってくる。出場機会が少ない彼らでさえも、完全に受け入れていると言うんですかね。一体何がそうさせているのかって、すごく不思議に思うんです。

北嶋 それって何だろうね。
大谷 やっぱり《勝つために戦う集団》になったんだと思いますよ。グラウンドを離れれば、みんな仲がいい。でも、ネルシーニョが監督になってから、グラウンドの中では勝利のためだけに戦えるチームになった感じがします。
北嶋 そう仕向けられているよね。最終的には、チームが勝つことにしか興味がない。
大谷 勝つために何をしなければならないのか。それを一人ひとりが常に問われているんですよ。そうなると、試合に出てるとか出てないとか、何も関係なくなる。だから逆に、監督は出場時間に対してはすごく言いますよね。
北嶋 うん。
大谷 ミーティングでも「与えられた時間が5分だろうが、10分だろうが」っていう言い方はすごくよくするし、それは植え付けられた部分でもあるけど、選手が変わった部分でもある。もちろん外されて悔しいという思いは誰にでもありますけど……。
北嶋 そういう感情がネガティブに作用したことが今年は一度もないんだよね。外された選手も常に全力でやってるし、みんながそういう姿勢をちゃんと見て、ちゃんと理解している。だから、ネガティブなアクションなんて起こせない。そんなことをしたら、恥ずかし過ぎる。
大谷 そう。自分だけのことを考えて行動する選手がいたらチームから浮いてしまう雰囲気が今のチームにはある。試合に出られなかったからといって「なんだよ」みたいな態度を取ってしまったら、その存在が目立ち過ぎるというか。
北嶋 「ダサっ!」ってなるよね。絶対に。
それが、さっき北嶋選手が口にしていた《澄んだ空気》なんでしょうね。
北嶋 そうです。《澄んだ空気》ってのはそういうことで、もちろん今のレイソルにはネガティブなことをするヤツなんて一人もいないし、確かにそれはすごいことですよね。チームとして。
 

2人が「あそこまでの人は初めて」と口をそろえるネルシーニョ監督 [写真]=山口剛生

大谷選手も、監督から直接掛けられた言葉はないんですか?

大谷 あんまりないんですけど、やっぱり外された時ですかね。「今のお前は俺の知っているお前じゃない」って言われて(笑)。

そういう時は何か言葉を返すんですか?

大谷 その時は自分でもコンディションが良くないことが分かっていて、例えばパスがズレるとか、うまくいかないと感じていた時期だったんですよ。監督には「こういうところが気になっている。お前はどう思う?」って言われて、それが全部、自分の感じていることと同じだったんで、「僕もそう思います」って返しました(笑)。

監督も同じことを感じていたと。

大谷 そうなんです。もし、そこにズレがあったら、選手はやっぱり「あれ?」って思う。でも、それだけはっきり自分が思っていることと同じことを言われたら何も言えない。だから逆に、それさえ修正すればまたピッチに立てるという明確なモチベーションにもなりますよね。一つ課題を克服して、成長した気にもなれる。……でもやっぱり俺らって、監督とあまり話さないほうですよね?
北嶋 うん、話さない。むしろ若いヤツのほうが話してるんじゃないかな。
大谷 そうそう。若いヤツとサイドバックですね。「自分がサイドバックをやっていたから、同じポジションの選手にはどうしても言っちゃうんだ」って自分でも言ってましたし(笑)。
北嶋 練習前にみんなで集まって監督の話を聞く時も、監督の後ろには立っちゃいけないんですよ。「俺の裏を取るな! 俺はDFだったから裏を取られるのが嫌いなんだ」ってね(笑)。

ネルシーニョ監督は、そういうオチャメな一面もよく見せてくれますよね。

北嶋 タニ、そう言えば、あのバナナの時面白かったよな。

どんな話ですか?

北嶋 監督が酒井のクロスを褒めたんです。「お前のクロスはいい。バナナみたいに曲がるから素晴らしい。バナナクロスだ!」って。
大谷 あったあった!(笑)
北嶋 それで次の日の練習で、みんなが酒井をからかったんだよな。アイツがクロスを上げようとすると、みんなで一斉に「バナナ! ヘイ! バナナ!」って(笑)。そしたら監督が、その日の夜のミーティングで怖い顔してこう言ったんですよ。「お前ら、『バナナ、バナナ』ってバカにするな。冗談じゃねーぞ」って。しかも、ちょっと怒った口調でね。それから「本当のバナナってのは……」って言いながら、後ろから本物のバナナを出してきた(笑)。「これなんだよ」って。あれ、超面白かったよね(笑)。
大谷 あれは最高でしたね(笑)。監督は何か面白いことを言う時に、言いながら自分で笑っちゃう時があるんです。だから、通訳の言葉を待っている僕らは、「ん? これたぶん、面白いこと言ってるんだろうな」って分かるんだけど、伝わるまでにどうしても時間差がある。だからホントにリアクションが難しい。
北嶋 そうそう。「これはホントに笑っていいのかな?」って感じだよね。普段とのギャップもあって怖いから「どっちだ?」って悩む(笑)。

なるほど(笑)。やっぱり、そういう一面も含めて《監督》なんでしょうね。

大谷 《監督》ですね。
北嶋 ホントにそう。《監督》なんですよ。完全にマネジメントするもんね。選手だけじゃなく、スタッフも全部。そういうのを見てると「スゲー」って思う。

ああいうタイプ、つまり「ザ・監督」って意外と多くはない気がするんですが。

大谷 俺は初めてですね。あそこまでは。
北嶋 俺も初めて。あそこまではね。
大谷 選手に言う人はいても、あれだけスタッフにまで「プロだ」という認識を持たせる人は初めてです。拓ちゃん(宮本拓巳主務)の話を聞いた時は驚きましたよね。
北嶋 ああ、アレね。
大谷 毎年、グアムキャンプでガンバ大阪と練習試合をやっていて、何となく、G大阪のほうが上にいるという意識があったからなのか、向こうのグラウンドに出向くことが多かったんです。その時に監督が「何で簡単に受け入れるんだ?」って、拓さんに言ったみたいで。俺らだってあまり気にしたことがなかったし、その話を聞いた時、ビックリしました。
北嶋 「勝手に相手より下に考えるな」ってことだよね。
 Jリーグサッカーキング 4月号
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▼[赤黒が誇る至宝]宮澤裕樹×古田寛幸 
▼[戸塚啓の取材ノートの記憶]石崎信弘(札幌監督)
▼[クエスチョン50]山本真希&髙柳一誠
▼[激動の15年]“プロヴィンチャ”としての新たな挑戦
▼選手コラム最終回特別インタビュー
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