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リオネル・メッシの夢の続き。「このバルサというクラブで新しい歴史を刻みたい」

2012.01.11

 パーカーに、野暮ったい髪型。プロサッカー選手としてのキャリアをスタートさせたばかりの時点でのリオネル・メッシを見て、現在の偉大なサッカー選手の姿を想像することはできなかった。もちろん、将来ドルチェ&ガッバーナのモデルになるなんて誰も思わなかっただろう。だが、偉大な先輩たちの庇護の下で実力を伸ばした彼は、大きく飛躍した。バロン・ドールを3年連続で受賞した今も、その成長は続いている。

Interview and text by Andy MITTEN, Photo by Getty Images
 

 フランク・ライカールトは、16歳のメッシをトップチームの練習に参加させた。メッシがトップチームの練習場に初めて足を踏み入れた時、ファンは誰も彼に気付かなかった。それでもスター選手たちは、下部組織で活躍するアルゼンチン出身の小柄な選手の評判を聞いていた。若い頃に自分が受けた歓迎を、今度は新たな世代の選手に向けて返してやる番だと考えたのだ。真っ先に保護者を気取ったのはロナウジーニョである。彼はアルゼンチン風の言い回しで「チェ・ボルド」(やあ、友よ)と呼び掛け、メッシの表情から硬さを取り除くことに成功した。

 メッシが公式戦デビューを果たしたのは17歳の時だ。その知名度は一気に高まり、クラブには取材依頼が殺到した。その大半は拒絶されたが、幸いにして私たちのインタビューは何度か認められた。その頃から、メッシは極度の恥ずかしがり屋だった。どの質問にも真面目に、礼儀正しく答えてくれるのだが、声が小さい。2度目のインタビューからは、録音機をできる限り彼の近くに置くようにしたものだ。

 今回の取材でも、メッシは独り言でもつぶやくかのように話した。「若者にしては外出が少ないかもね。一人で家で過ごすのが好きなんだ。アルゼンチンのダンスミュージックを聴いたり、テレビを見たり、インターネットをやったりする。のんびり昼寝したり、ソファに座ってテレビゲームをしたり。最近では英語の勉強を始めようと思っているよ。英語が話せれば何かと便利だと思うから」

 英語はまだだとしても、メッシはこれまでピッチの内外で様々なことを学んできた。彼に多くのことを教えたのは、ロナウジーニョやデコ、シウビーニョだ。メディア対応については、歯に衣着せないサミュエル・エトオや理論家のチャビではなく、ライバルのレアル・マドリードに所属していたデイヴィッド・ベッカムをまねた。すなわち、インタビューや記者会見で言葉を並べるよりも、ピッチ上でのパフォーマンスで自分の意思を示すというスタイルだ。

 メッシは輝かしい経歴を持っているが、それに大きな価値はないと思っているのか、それともただ謙虚だからか、それについて語るのがあまり好きではない。ただ今回、インタビューに答える彼からは、もはや若手ではなくバルサの中心選手であるという自覚を持った、成熟したフットボーラーの姿が見えた。服装や髪型が洗練されるにつれ、彼はより高い位置から周囲を見回す視線を身に着け、サッカー界のより広い問題へと目を向けるようになっている。

 練習後にインタビュールームへとやって来たメッシは、今回も「断り切れなかったから」という感じで私たちの前に立った。それでも、かつてのシャイな少年ではない。声は小さいが、その発言は確信に満ちている。チームの一員であることを忘れていないと同時に、自分が引き受けるべき責任を理解している。

 ピッチ上でのメッシの成長ぶりについてはもはや語る必要もないだろう。だが、メディアを前にした時のその成熟ぶりは、特筆すべきものがある。メッシは24歳にして、チームリーダーとして責任感ある振る舞いを始めつつあるのだ。

「バルサでプレーできるのはサッカー選手としての“特権”だ」

昨シーズンはバルセロナで大成功を収めたね。
メッシ「本当にハッピーなシーズンだったよ。スペイン・スーパーカップとリーガを制し、おまけにチャンピオンズリーグでも優勝できるなんて、『夢が現実になった』と言わなければならないね」

バルサは時に無敵にも思えるし、そのプレースタイルは全世界の羨望を集めている。そんなチームでプレーするのはどんな気分なんだろう?
メッシ「何と表現すればいいんだろう? 光栄だし、とてもうれしいし……。バルサでプレーできるのは、サッカー選手としての“特権”だと思っている。最高の環境でプレーできる権利を手にしている、という感じだね。他のチームがバルサのプレースタイルを手本にしているなんて話を聞くと、とても誇らしく感じるよ」

プレースタイルがまねされるのも、タイトル獲得という結果を出しているからこそだ。2010-11シーズンのチャンピオンズリーグ決勝では、マンチェスター・ユナイテッドを完璧な形で退けた。あの試合については?
メッシ「ユナイテッドとの戦いは見た目ほど簡単じゃなかった。イングランドはサッカーについての特別な文化と情熱を持っている国だ。当然、選手の質も常に高い。ユナイテッドはバルサと同じ攻撃型のチームで、素晴らしいスキルを持ったプレーヤーがいる。バルサはほとんどの時間帯で試合を支配し、実際にハッピーエンドを迎えられたけど、局面局面では苦しいシーンもあった。決して簡単な試合じゃなかったよ」

決勝ゴールを挙げた時は興奮しただろう?
メッシ「どのゴールも特別だけど、確かにあのウェンブリーでのゴールは、シーズン中に決めた数多くのゴールの中でも一番のお気に入りかな。バルサ史上4度目の欧州王座をぐっと引き寄せるゴールだったわけだからね」

現在のバルセロナにはラ・マシア(ユース組織)の出身者が大勢いる。そうした継続性は、チームの成功にとってどれほど重要なんだろう?
メッシ「ラ・マシアはずいぶん長いこと同じシステム、同じ哲学で運営され、若い才能を伸ばしてきた。バルサのパスワークは高度なテクニックと連係がベースになっていて、それにはチャビやイニエスタのような優れた選手たちの存在が不可欠だ。技術だけでなく、友情を育むのもラ・マシアの特徴だ。チームメートとは、時には家族以上に長い時間を過ごすわけだからね。一緒に育ってきた友人同士だからこそ、試合中や練習中の関係がスムーズになるんだ」

完璧に近いシーズンの後で新たなモチベーションを見いだすのは難しくない? グアルディオラ監督はどんな手を打つのだろうか?
メッシ「昨シーズンはコパ・デル・レイを取り損ねているから、モチベーションを見いだせないなんてことはないよ。僕もチームメートも、昨シーズンと負けず劣らずタイトルを望んでいる。モチベーションは自分たちの中から生まれてくるもの。誰かに用意してもらうものではないよ。仲間たちと一緒にタイトルを勝ち取ること。サッカーをしていてこれほど幸せなことはない。グアルディオラ監督やコーチ陣は様々な面で僕たちに手を貸してくれるけど、基本的にはモチベーションを見いだすのに助けは必要ないんだ。タイトルが欲しいという欲求はいつだって同じだから」

バルセロナのようなチームの選手になると、歴史を作りたいって感覚を持っているんじゃない? 例えば、初めてチャンピオンズリーグを連覇するクラブになるとか。
メッシ「チャンピオンズリーグで連覇できるなら、それはバルサにとって願ってもないことだし、歴史的な偉業だよね。僕たちのモチベーションの一つは、このバルサというチームでサッカー界に新しい歴史を刻むことだ。そういう願いと団結心を持って日々の努力を続け、そしてケガや不運に見舞われなければ、何だって不可能ではないと思う」

個人成績のことを聞こう。2010-11シーズンは55試合で53ゴールをたたき出した。そして今シーズンも、そのペースを持続しているよね。これだけハイレベルなプレーをずっと続けられる秘訣は何なのかな?
メッシ「いつも自分のプレーとチームの出来を確認しているんだ。100パーセント完璧な試合をすることはほぼ不可能であって、それはつまり、常にどこかに改善すべきポイントがあるということになる。もちろん、一番大事なのはチームの勝利だから、勝った時には100パーセントの出来じゃなくても満足できる。運良くゴールを決めることができたらそれもうれしい。でも、満足感と課題のあるなしは別だ」

今シーズンのゴール数の目標は?
メッシ「ないよ。僕はFWだから点を取ることにはこだわりたい。ゴールを決める瞬間が一番楽しいのも否定しない。でも、自分のゴールを目標にはしないよ。タイトルを取り続けることが一番で、そのためにゴールを狙う。昨シーズンの53ゴールだって、結果的にそうなっただけさ」

君は本当にサッカーが大好きで、すべての試合に出たがっているみたいだけど、過密日程は年々激しさを増している。コンディションを維持するために気をつけていることは?
メッシ「僕がただ一つ望むのは、毎朝気分良く目を覚ますこと。僕はサッカー選手としての仕事とプライベートの生活の両方を楽しんでいる。楽しむことが最優先だ。その目標を達成するための一つの方法が、バルサでタイトルを取ることなんだ」

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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