
[写真]=平山孝志
「選手たちを誇りに思う」
第90回全国高校サッカー選手権決勝で四日市中央工を2-1で下し、就任1年目で選手権制覇を成し遂げた市立船橋の朝岡隆蔵監督は、選手たちへの賛辞を繰り返した。
朝岡監督が「本当に彼らの強い気持ちが生んだものだと思う」と振り返る後半ロスタイムの同点弾と、延長後半の決勝点。ゴールを決めたキャプテンの和泉竜司は「今までシュート練習はすごくやってきて、最後の最後でこれまでやってきたことを出せて良かった」と、熱戦の余韻が残るピッチ脇でコメントした。
大会開幕を目前に控えた昨年末、朝岡監督とメンバーに話を聞く機会があった。
「高校サッカー部の監督というのは、サッカーの指導だけでなく、人間教育だと思っています。自分たちで判断できるような選手、人間に育てること。私はそれを後押ししてあげるのが仕事です」と自らの指導方針を語ってくれた朝岡監督。「今年のチームは、試合によって戦い方を柔軟に変えていけるチーム。相手を見て、選手たちがどう対応するのか、どうゲームを運んでいくのかというのは、私自身も楽しみにしているところ」という言葉からは、選手たちへの期待と信頼を強く感じ取ることができた。
決勝終了後の「優勝したい、優勝させたいと心の底から思っていたので、表彰式でスタンドに登っていく選手たちの後ろ姿を見たときに、これは夢なんじゃないかと思った」との言葉は偽らざる本音だろうし、今回の優勝は「もともとこれだけの力を持ったチームであることは分かっていた。彼らの日々の練習や生活態度を見る中で、それだけの力があると分かっていた」という言葉に集約されるように、監督と選手たちとの強い信頼関係の賜物でもあるだろう。
選手たちを指導する上で、朝岡監督が最も大切にしていることは「本気でできるかどうか」だという。「目標に対して、選手たちが本気で自己改革をしようとしているかどうか。それに対して、こちらも建前ではなく本音でちゃんと話をすること」が最も大切なのだと。
監督の「本気」に「本気」で応えた選手たち。「ピッチ上での甘さ、言い訳、逃げなど、最近の若い選手はそういうものがありがちだと言われる中で、彼らはそれを自分の問題として捉え、自分を変えていくという作業にアプローチし、それを成し遂げた」。朝岡監督は試合後、「本気」で選手たちをたたえた。
開始直後に先制点を許し、0-1のまま時間が過ぎていく試合展開。そんな中でも、キャプテン和泉が「1点は絶対に取れるとみんなが思っていたので、失点してもすぐに切り替えられた。延長に持ち込めば、自分たちの運動量と選手層が勝ると思っていた。そういう意味では、『後半に奪うのはとにかく1点でいい』という考えでした」と話すように、市立船橋のメンバーは冷静だった。
大会前のインタビューで「朝岡監督から『サッカーとは結局のところ人間力だ。きつい試合で差をつけるのは人間としての中身だ』と言われてから、少しずつサッカーに取り組む姿勢も変わってきたように思います」と話してくれた池辺征史は、決勝で途中出場から流れを変えた。「とにかく朝岡監督を胴上げしたいと思ってやってきて、それが達成できて本当にうれしい」と、試合後、目を潤ませながら喜びを口にしている。
「このチームは、みんなが強い意志を持って、最後まであきらめない」
キャプテン和泉が語る市立船橋の強さ。「本気」で選手たちを信じた指揮官に率いられ、最後まで「本気」で勝利を目指し続けた市立船橋が、9大会ぶり5度目の選手権優勝を果たした。
【関連記事】
市立船橋が四日市中央工を延長戦で下し9大会ぶり5度目の大会制覇
市立船橋・朝岡監督「選手たちの心あるプレーに感動」
後半ロスタイムからの逆転劇…市船を救った和泉「僕らは最後まであきらめない」
和泉、宮市、風間、鈴木ら大会優秀選手36人が発表/高校選手権
【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。