2015.06.22

無敗Vの浦和、データが語る「左サイド」の進化


写真=野口岳彦

 開幕から16戦無敗。浦和レッズが2015明治安田生命J1リーグ・ファーストステージを制覇した。特筆すべきはリーグトップ34得点の攻撃力。得点ランク上位の6得点に武藤雄樹と梅崎司、5得点に2人、4得点に1人と、5人の選手が名を連ね、さらには、主力のフィールドプレーヤー全員が得点をマークしており、その破壊力は昨季以上だ。

 さて、今季の浦和を語るうえで欠かせないのが「左サイド」である。今季、浦和はベガルタ仙台からFW武藤雄樹を完全移籍で獲得。指揮官ミハイロ・ペトロヴィッチはキャンプから左シャドーで起用し続けると、今季初得点を奪った4月の横浜F・マリノス戦からは連続して先発起用。武藤も期待に応え、5月には4試合連続ゴールを決めて、エメルソンやワシントンら浦和のレジェンドと肩を並べた。優勝を決めた20日の神戸戦でも貴重な先制点をアシストするなど、もう“じゃない方の武藤”とは呼ばせない活躍ぶりを披露している。

ではなぜ彼は、習得するには難解と長く言われてきたミシャサッカーを、加入からわずか半年でモノにすることができたのか。そして、昨季と比べて、浦和の「左サイド」には本当に変化が起きているのだろうか。

 今回、「レッズプレスデータ」では、データスタジアム協力のもと、15節までの戦いぶりについて『左サイド』を中心にデータを作成。それを武藤本人、そして彼と左サイドでコンビを組むMF宇賀神友弥にぶつけ、検証を行った。(取材日:6月10日)

 データの資料に目を通しながら「周りから良いコンビと言われる機会が多いし、自分でも手応えはあったけど、改めて数字で“J屈指の出し手と受け手”だと示されるのはうれしいですね」と、話したのは宇賀神友弥だ。流通経済大学の先輩後輩でもあるこの2人、1学年先輩である宇賀神は『左サイドでのスルーパスのパス交換数ランキング』で、武藤から7度のパスを受け、チーム内トップの数字を残す。と同時にその数は、J1全体でも堂々の1位を誇る。一方、宇賀神から武藤へのスルーパスも5度出され、チーム内で2位、リーグ全体でも6位となっている。出し手としても受け手としても上位にランクインするコンビは彼らのみ。相思相愛のゴールデンコンビといっても過言ではない。そして、彼らが最も評価されるべきは、そのコンビネーションが「ゴール」という結果につながっていることだろう。

 昨季と比べ今季の浦和は、クロスボールからの得点がすでに9ゴールと、その割合を3倍に伸ばしている。規律と運動量が求められるミシャサッカーにおいて、昨季までは時としてそれがマイナスに作用し、攻撃時に1トップへボールがおさまらなければ、その後の展開に苦戦することも多かった。だが、今季は違う。両翼が躍動し、クロスボールからの得点が増えているのだ。サッカーにおいて最も大切な「ゴール数」に大きな違いが表れた理由について、別のデータを見ながら宇賀神は「選手の特長に違いがあるから」と解説する。

 図にあるように、昨季まで浦和の左シャドーは、日本代表のFW原口元気(現ヘルタ・ベルリン)が務めていた。プレーエリアの分布を見て分かるように、浦和生え抜きの若きアタッカーは相手を引きつけて前を向くと、自身の走るコースを作り、一気にドリブルを仕掛けることを得意とした。「原口は、本当に自分が受けたいタイミングでしか動かない。ただ、受けた時のドリブル突破は簡単に止められない。だから自分は元気の良さを出すためにプレーしていた」と宇賀神は黒子に徹した当時を振り返る。その後、原口は欧州移籍で浦和を離れ、武藤が加入した。「武藤は違う。武藤は外に張っても、ボールの展開を読んで中央へタイミングよく入ってくれる。そうすれば、ワイドの自分(宇賀神)を使うことができるという考え方を持っているから」。

 こう話す先輩の言葉を、隣でうなずきながら聞いていた武藤にも、どんな意識でプレーしているのか聞いてみた。「自分もドリブルは得意ですけど、原口選手クラスではないので。その分、DFラインと中盤の間で常にボールを受け続け、周囲をサポートすることはできる。特に逆サイドにボールが入った時には、自分が中央に位置し、ウガさんが駆け上がるサイドのスペースをあけることは常に意識している」。出し手と受け手のイメージがデータだけでなく、言葉でもしっかりとシンクロしたことは興味深い。

 周囲を動かせる武藤と同サイドで組むからこそ、宇賀神は「武藤がドリブルを仕掛けている間に“今、こいつを使うと、次、俺にはこういうボールが来るな”と考えながら前線に駆け上がっている」と二手、三手先を読む動きができるそうだ。その先の展開として、質の高いクロスボールからゴールが生まれているのは、もはや必然だろう。

 選手が変わればサッカーは変わるし、サッカーがそんな単純なスポーツでないことは分かっている。それでも、誤解を恐れずに言おう。ミシャサッカーにおいて求められていたシャドーは、ドリブルセンスだけでなく、高い総合能力だったのではないか。そして、武藤こそが、追い求めていたパズルのピースだったのではないか。

宇賀神は言う。「シーズンが終わった時、武藤との2人の関係性とか、いろいろなランキングで1位でありたい。今後も相手の脅威になれるよう、どん欲に戦う」。左サイドを席巻し8年ぶりのタイトル獲得に貢献したゴールデンコンビは、さらなる高みを目指し、次なるステージに挑む。

文:レッズプレスデータ  データ提供:データスタジアム