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この作品にある種のノスタルジーを感じてしまった/川端暁彦

2015.01.29

 2011年にスタートし、1000名を超えるサッカー&映画ファンが集うイベントに成長、今年も2月14日(土)、15日(日)の2日間で8作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2015 powered by バーコードフットボーラー」。さらに今年は全国8都市で映画を上映するJAPANツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回はコラムサイト「J論」編集長であり日本の育成年代をよく知る川端暁彦さんに、インドネシア各地から集められたユース代表“ガルーダ19”を描いた劇場初上映作品『ガルーダ19』 についての映画評を寄稿いただきました。こちらの作品はJAPANツアーの大阪フットボール映画祭(2/22開催)でも上映されます。

この作品にある種のノスタルジーを感じてしまった/川端暁彦

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「だが憧れてばかりでは追い付くことはできん。永久にだ」

 クライマックスを前に出てくる“監督”の一言が響くかどうか。この映画を好きになるかどうかの分岐点は恐らくここにあるのだと思った。

 ちなみに、僕には響いた。

 映画のタイトルとなったガルーダはヒンドゥー神話に出てくる神鳥で、インドネシアの国章にもあしらわれた国を象徴する存在だ。転じてナショナルチームの愛称ともなった。そして『ガルーダ19』の『19』の意味するところは、『19歳』。天下取りを夢見るU-19インドネシア代表が主役となる、そんな映画である。

 この映画について僕は当初、「あれだよ、『少林サッカー』のインドネシア版だよ」と言われてそれをうっかり信じ込んでいた。「インドネシア中から才能のある選手を集めて~」みたいな説明文句も、「超能力を使える選手が続々と集結してくるアレなテンションのソレなんだ」と理解してしまっていた。

 結論から言うと、まるでそういう話ではない。冒頭からスポ根の王道ストーリーと言える「選手集め」が始まるのは、そのとおり。ただ、“監督”はリアルに足を使ってインドネシア各地を巡って試合を観ながら選手をピックアップし、あるいは県選抜チームとの戦いで目立った相手チームの選手を抜擢する形でチームを作っていく。抜擢される選手にも超能力があるわけではない。貧乏だけれど志があって、ちょっとばかしタレントがある。そういう選手たちが“監督”の下へと集ってくる。あえて言えば、とても普通にサッカーの話である。

 個人的には、スタッフも交えたランチミーティングで、「才能のある選手を発掘する」ことの意義と、「足を使って全国を巡ってでも眠れるタレントを見つけ出す」ことの価値が、熱く語られるシーンは印象的だった。そこで語られる内容にしても、あるいは地方のチームになかなかチャンスがない現実について嘆かせる場面についても、恐らくはこの映画の作り手の意見そのものなのだろう。

 そこに、ある種のノスタルジーを感じてしまった。

 かつて日本も、アジアの壁すら破れなかった時代において、まだシステマティックな選手発掘の枠組みが完成していなかった時代に、情熱ある指導者たちが、確かにこうして眠れる才能を狂おしく探し続けていたのだろう。「システム」が整い、「ポスト」ができて、動かしがたい「枠組み」が完成した。いろいろな意味で不備がなくなったし、個々人の負担も軽減されたように思う。ただその一方で、かつて抱いた「追い付き、追い越せ」という猛烈な情熱は、いつしか守りの心に取って代わってはいないだろうか。

 トンデモ級のサッカー馬鹿が作ったとしか思えぬ、驚くほどにサッカーに対して真摯な、まさしくサッカーの映画を観ながら、彼らが「追い付く」日を思った。

川端暁彦(かわばた・あきひこ)
1979年生まれ、大分県中津市出身。2002年から本格的にフリーライターとして育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞エル・ゴラッソの創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。コラムサイト「J論」編集長。著書に「Jの新人」、共著に「ジャイアントキリングを起こす19の方法」(以上、東邦出版)がある。

【映画詳細】
『ガルーダ19』
インドネシア/ドラマ/107分
監督:アンディバティアール・ユスフ

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2015年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月14日(土)、15日(日)に開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2015.yfff.org/)にて。

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