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失ったアジアでの“優位性”…続く負の連鎖の代償/戸塚啓の日本代表分析

2015.01.25

SYDNEY, AUSTRALIA - JANUARY 23: Japan Head coach Javier Aguirre helps Shinji Kagawa stand up after Japan lose the penalty shoot out over United Arab Emirates during the 2015 Asian Cup Quarter Final match between Japan and the United Arab Emirates at ANZ Stadium on January 23, 2015 in Sydney, Australia. (Photo by Atsushi Tomura/Getty Images)

Japan v UAE: Quarter Final - 2015 Asian Cup
[写真]=Getty Images

 負けるとすればこういう展開だろう、という試合が繰り広げられてしまった。アジアカップの準々決勝で日本はUAEにPK戦で敗れた。

 アジアカップの準々決勝はこれまでもきわどい試合の連続だった。決勝トーナメントが8チームで行われるように、つまり準々決勝からノックアウトステージになった1996年以降の5大会で、日本はすべて先制点を許しているのである。

 1996年大会は、クウェートに0-2で敗れた。2000年大会ではイラクに開始4分で先制された。2004年はヨルダンに、2007年はオーストラリアに、先にスコアを刻まれた。前回大会ではカタールに先制点を浴びた。

 ヨルダン戦とオーストラリア戦は、今回と同じようにPK戦までもつれている。どちらも川口能活のセーブで勝利を手繰り寄せたが、PK戦はロシアン・ルーレットのようなものだ。いつでも幸運に恵まれるとは限らない。負けてもおかしくない試合はあった。

 その一方で、過去の準々決勝とUAE戦には違いがある。日本の反発力だ。2000年のイラク戦は、失点の4分後に追いつき、前半だけで3-1までリードを広げた。結果は4-1の快勝である。

 2004年のヨルダン戦も、11分の失点の4分後に同点としている。2007年のオーストラリア戦は、ビハインドを背負ったのがわずかに3分だった。3-2のスリリングな攻防を制した前回も、12分に0-1とされたスコアを、28分に1-1へ修正した。

 前半7分に先制点を許したUAE戦も、1-1でハーフタイムを迎えることはできた。そうすれば、後半の攻防はまったく違うものになっていた。前半のうちに追いついていれば、UAEを精神的に追い詰めることができた。55分で足の止まった彼らを90分以内でしとめることができただろう。

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[写真]=Getty Images

 なかなかスコアを動かせない日本は、決定機を逃すたびに焦りを増幅させていった。柴崎岳のゴールで同点に追いついても、いつものリズムを取り戻せなかった。そもそも、ハビエル・アギーレ監督が率いるチームの「いつものレベル」は、どのようなレベルだったのだろうか。チャンスの数と得点が比例しないのが、今大会の日本のレベルだったと言わざるを得ない。コンビネーションが高まってきたUAE戦でも、決定機の浪費は改善されなかった。

 アジアカップ連覇を逃したことで、2017年のコンフェデレーションズカップには出場できなくなった。それはまだいい。プレ・ワールドカップの意味合いを持つ公式戦に参加できなくても、チームを強化する方法はいくらでも見つけられる。コンフェデ杯に出場する国の熱が決して高くないことを考えても、著しい損失ではない。

 むしろ問題は、負の連鎖である。

 アジアを舞台とした真剣勝負で、日本はドミノ倒しのように負け続けている。昨年はU-16とU-19が年代別のワールドカップ出場を逃し、U-21はアジア大会でベスト8に終わった。準々決勝の壁を破ったチームが、ひとつもないのである。

 アジアカップ敗退はとりわけ重い。

Japan v UAE: Quarter Final - 2015 Asian Cup
[写真]=Getty Images

 前回の優勝は薄紙一枚の攻防で、強さを見せつけたものではなかった、という意見がある。奇跡的な勝利が続いたのは否定しないが、対戦相手の受け止め方はどうだろうか。

 ヨーロッパにおけるドイツが「最後に勝つのはいつもドイツだ」と言われるのは、結果を積み上げてきたからに他ならない。クロスゲームに持ち込んでも勝利をさらわれた記憶が、対戦相手に畏怖の念を抱かせるのである。

 今回のアジアカップでベスト8に終わったからといって、フル代表の足元がすぐにぐらつくわけではない。ただ、2009年大会からU-20ワールドカップ出場を逃しているしわ寄せが、いよいよフル代表へ忍び寄ってきているのは確かだ。アジアにおける日本のブランド力は残念ながら輝きを失いつつある。そして、今回のアジアカップでさらに評価は下がった。「日本には勝てない」というメンタリティを抱くチームは、明らかに減っている。

 これから準決勝を戦うオーストラリア、イラク、韓国、UAEの4チームは、ベスト8敗退の日本よりも2試合多くプレーする。それがまた、彼らを逞しくする。

 準々決勝敗退で日本が失ったものは、アジア王者の称号だけではない。アジアにおける精神的優位性を、チームがさらに成長する機会を、失ってしまったのだ。ボディブローのように後を引くものであり、この敗戦はロシアW杯予選でもチームに付きまとうだろう。

戸塚啓(とつか・けい)。1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の国際Aマッチは91年から取材を続けている。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。

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