2014.07.22

名門再建を託された唯一無二のカリスマ…ルイ・ファン・ハールとは何者か?

[ワールドサッカーキング1408号掲載]

先のワールドカップで“希代の戦術家”たるゆえんを示した一方、独善的、高慢といった負のイメージも常につきまとう。ルイ・ファン・ハールとは一体何者なのか? その強烈な個性にプレミアリーグのファンは度肝を抜かれるに違いない。
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文=トーマス・ツェー
翻訳=石橋佳奈
写真=ゲッティ イメージズ

独自のポリシーを持つ厳格なカリスマ

 ルイ・ファン・ハールに一度でも直接会った者は、彼のカリスマ性と専門知識にたちまち舌を巻くと言う。ジョゼ・モウリーニョと双璧を成す“ミスター高慢”は、これまで数多くのクラブに栄光をもたらしてきた反面、最後は必ず喧嘩別れの末に退任するパターンを繰り返している。

 戦術オタクの異名を取るファン・ハールは、アヤックスでの3-4-3に始まり、バルセロナでの4-3-3、AZでの4-4-1-1、バイエルンでの4-4-2など、戦術的アイデアが枯れることはない。バイエルンでフランク・リベリーのポジションをトップ下から左サイドへ移したのも、本人いわく「私は選手のクオリティーに合致したシステムを取り入れる」からだ。

 ファン・ハールが監督を務める上で、絶対に曲げることができない基本的ポリシーが4つある。

①サッカーとは選択のスポーツ。毎回瞬時に状況判断しなければならない。そのためには知的な選手が必要だ。
②規律を守ってプレーしろ。そうでなければ、闇雲に走るだけになってしまう。
③チームの一員として強い責任感を持て。スター気取りは組織をダメにする。
④走るだけなら動物だ。サッカー選手なら、いつもボールを使ってトレーニングしろ。

 高いポゼッションをベースとした攻撃的なサッカーを好み、オランダ伝統のウイングシステムを重用する。「1-0よりも5-4で勝つほうがいい」とするその思想は、「守備をおざなりにしている」ということで、しばしば批判対象にもなってきた。

 どんな相手にも「私を尊敬し、憧れるように」と求める。だから我が子にさえ謙譲語を使わせる。「ねぇパパ、~してよ」が、ファン・ハール家では「お父様、~してくださいませんか」となる。一世紀前の第一次世界大戦で消滅したはずの貴族文化的な親子の上下関係がいまだに存在しているとは驚きだ。「私は子供たちと世代が違う」という理由は合理性を欠いた言い訳にも聞こえる。

 アムステルダムに住むカトリック系ファミリーの出身、8人兄弟の末っ子として厳しいしつけを受けて育った。勤勉、定時の就寝、日曜教会への参加は家庭の必須事項。サッカーの話ならいくらでもするが、かつて石油会社で働いていた経歴や、フリータイムでの飲酒や外出など、プライベートに関する質問は永遠のタブーだ。

“規律の鬼”と言われるファン・ハールは、近年流行しているカラフルなサッカーシューズにも滑稽なヘアスタイルにもいい顔をしない。派手な印象がサッカーに悪影響を及ぼすと信じているからだ。イタズラ好きで自由奔放なリベリーは、「彼は俺からサッカーの楽しみを奪い取った。人生最悪の監督だ」と公の場でファン・ハールを罵っている。

 選手をリスペクトせず、また雇い主たるクラブの役員に恭順の意思を示すこともない。それもそのはず、ファン・ハールには「私が一番」という確固たる信念があるのだ。バルセロナではそれが原因でフリスト・ストイチコフやルイス・フィーゴ、リヴァウドと、またバイエルンではマリオ・ゴメスやルーカ・トーニと衝突している。「選手は言われたことだけやっていればいい。チーム構成や戦術であれこれ言う者がいるが、それは私の選任事項だ」。そういうわけで、彼には何人たりとも指図したり、アドバイスしたりしてはいけないのである。

 ドルトムントのユルゲン・クロップ監督は、選手と友人のような関係を築く。ビセンテ・デル・ボスケとユップ・ハインケスは選手から“オヤジさん”と呼ばれて慕われている。しかし、ファン・ハールは選手と非常に遠い関係しか望まない。普通の監督ならば、敗戦後の記者会見では「我々は負けた」と語るだろう。だが、ファン・ハールは「選手たちがゲームに負けた」と言い切る。反対に勝利すれば「私が正しい決断を下したから勝てた」と自画自賛するのだ。

 ユーモアはゼロ、厳格で融通の利かないファン・ハールの下で起用してもらうには、彼をとことん尊敬し、かつ忠誠を尽くさなければならない。その気になったフリをしたところで、眼光鋭い彼はすぐさま下心を見抜いてしまうから用心が必要だ。この鉄則を貫いたことでトーマス・ミュラーは4年前にアマチュアからプロに引き上げられた。その後の彼の大活躍は誰もが知るところだ。

 バイエルンきっての紳士である主将のフィリップ・ラームの評価は核心をついている。「世界中探しても、彼ほどサッカーをよく理解している指導者はいない。ただ本当に難しい人なんだ。彼と一度も問題を起こしたことがない僕でさえ、うまく付き合えない」

 アヤックス時代に指導を受けてブレイクした元オランダ代表FWブライアン・ロイの指摘も紹介しないわけにはいかない。「彼がチームに来てからすべてが変わった。とにかくすごい野心と情熱の持ち主なんだ。トレーニングは毎回“目からウロコ”で驚きの連続だった。唸る、吼える、絶叫するで、モチベーションが上がるの何のって。まるで独演ショーを見ているようだった」

独自のポリシーを持つがゆえに、選手たちと衝突することもしばしば。去就に注目が集まる香川真司は、ファン・ハールのチーム構想に組み込まれるのか……。続きは、発売中のワールドサッカーキング1408号でチェック!