[ワールドサッカーキング1405号掲載]
チームは守備の安定とともに本来の姿を取り戻した。この良い流れを今後につなげられるか否かは、すべてFAカップのタイトル獲得に懸かっている。

守備陣の安定が自信回復の特効薬に
今シーズンのアーセナルの復活は個人的にとても喜ばしい出来事でしたね。マンチェスター・シティやチェルシーのようにお金を使って、良い選手を集めるやり方を否定するつもりはないですけど、中立の立場でプレミアリーグを見ている人間にとっては、より長期的で現実的なマネージメントの下、地道にチームを育てているクラブのほうが魅力的に映りますから。そういう意味で今シーズンのアーセナルやリヴァプールの復活は素直にうれしいです。
昨年の3月に、『Foot!』の中でトッテナム対アーセナルのダービーをピックアップしたんですが、その時のアーセナルは守備が完全に崩壊してあっさり負けてしまった。ある時期から「パスは回るけどなかなかゴールに結びつかない」という状態が続いて、昨シーズンは何をやろうとしているのかも分からない時期があって、心配しました。あの状態からわずかな期間でよくここまで戻したな、という感じですね。
復調のきっかけは前述のダービーで負けてから、センターバックのコンビを(ペア)メルテザッカーと(ローラン)コシールニーに固定したことだと思ってます。守備の安定とともにアーセナルは自信を取り戻した。今シーズンに入ってアーセナルらしさ、(アーセン)ヴェンゲルらしさが戻って来たのも、それが大きな要因だったのではないかなと。アーセナルのような攻撃的なチームであっても、やはり根底に堅い守備がないとなかなかうまくいかない。後方に不安があると、FWやMFは思い切って攻撃を仕掛けることができませんから。
個人的にはアーセナルの3人のセンターバックの中で、最も才能があるのは(トーマス)ヴェルマーレンだと思うんです。でも、一番大事なのはコンビとして機能するかどうか。その意味で、メルテザッカーとコシールニーのコンビは補完性が高い。機動力には難があるけど、高さと冷静さを持つメルテザッカー、足が早くカバーリングのエリアが広いコシールニー。昨シーズン終盤にこの2人のコンビで最後の10試合を8勝2分け、わずか5失点で乗り切って、守備をベースにチームを作り直す体制ができあがった。後ろの陣容が固まったから、前の選手も安心して攻撃できるようになった。アーセナルのクリエイティブな選手たちが守備を気にせず、ある程度攻撃に専念することができたらそれは強いですよ。そこに(メズート)エジルも加わって、本来やりたかったサッカーがやれるようになったんだと思います。
タイトルを獲得して雑音を取り除け
ヴェンゲルの長期的なプランニング、ブレないやり方は素晴らしいことではあります。でも、監督というのはしっかりと情報を取り入れ、時代やニーズに合わせていく能力も必要になる。その意味で、長期政権が続くヴェンゲルにはちょっと不安を感じていました。自らをコントロールして、変えるべきところを変えられるのかなと。
今シーズンの序盤に、僕は「アーセナルは補強が足りない」と『Foot!』の中で指摘したことがあった。その考えは今も変わっていません。(マチュー)フラミニとエジルは取ったけど、前線はいまだに(オリヴィエ)ジルーしかいないし、崩しの局面もエジルに頼り過ぎていたところがある。2人は序盤から試合に出続け、年明け以降は明らかに疲れが見えた。チームの調子が落ちてきたのは、やはり補強が不完全だったところに原因があると思うんです。
例えば、ボトムハーフのチームとホームで対戦する時に、もう少し彼らを休ませることができていたら……。今後、アーセナルがプレミアリーグで優勝できるかどうかは、その辺に懸かっているのかなと思いますね。
最後にFAカップの話もしましょう。アーセナルは2005年以降、一度もタイトルを取っていないと散々言われてきました。こうした周囲の雑音はプレッシャーやストレスになっていたはずだし、そういう雑音を取り除く意味でも、今シーズンは是が非でも勝たなくちゃいけない。何が起こるか分からないのがFAカップですけど、対戦相手の顔触れを見たらやっぱり勝たないと。ウィガンあたりにやられて、また新たな論争や混乱を生むのは何としても避ける必要がある。
無事にそのミッションをクリアできれば、今のクラブにはある程度お金があるはずです。来シーズンに向けて足りない部分を補強する。欲を言えばプレミアリーグ、チャンピオンズリーグをきっちり両立できるぐらいの選手層をそろえたいですね。今シーズン前半の“強かったアーセナル”を1年を通して見せられるかどうか。今後も魅力的なサッカーを見せてくれることを期待しています。