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「奈良劇場総支配人」奈良クラブ岡山一成のJリーグへの道:第十回

2014.01.30

「皆さんがお気づきのように、波戸フレンズはフリューゲルスの仲間です。今なら言えます。僕はフリューゲルスでプロサッカー選手をスタートしました」

 1月18日に三ツ沢で行われた波戸康広引退試合で、『マリノスオールスターズ』と『波戸フレンズ』が対戦した。試合後のあいさつ。15年の時を経て、波戸(康広)くんから語られた言葉が昨日のことのように感じた。

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「おい、フリューゲルスと合併とか、訳の分からない話が出てるんだけど、どういうこと?」

 マリノスの寮の食堂に入って来たマツくん(松田直樹)が唐突に切り出した。いつもドッキリをかましてくるマツくんやから、「はいはい」と受け流した直後に、一緒に食べていたヨシカツさん(川口能活)の携帯が鳴った。青ざめたヨシカツさんが俺らに向かって言った。

「フリューゲルスと合併するらしいぞ」

 ヨシカツさんは絶対にドッキリをしない数少ない先輩。ホンマに何が起こっているのか、怖くなった。情報が錯綜する中、クラブ関係者から伝えられたのは、「明日、クラブハウスで事情を説明する」ということだけ。加えて「それまでは何を聞かれても答えないように」と釘を刺された。不安の中で朝を迎え、食堂に行くと、みんながスポーツ新聞を食い入るように見ていた。

「フリューゲルス消滅」

 大きな見出しを読んでいくと、マリノスがフリューゲルスを吸収する趣旨が書かれていた。複雑な思いやったけど、正直なところ、ホッとした。フリューゲルスに関わる人達の立場になって考える余裕はなく、まずは自分がマリノスでサッカーを続けられそうな雰囲気やったから……。

 見たことのないたくさんの報道陣が陣取る中、クラブハウスでチーム関係者から説明を受けた。

「どうして現場が報道で知るんだ? 前もって伝えないのはひどすぎるんじゃないですか?」

 非難、怒り、悔しさ、情けなさ、理不尽さ、不信感、いろいろな情念が混ざり合った空間に佇んでいると、吐き気がしてきた。それでも、みんなの中にはマリノスが残るほうだという認識がどこかにあった。フリューゲルスに比べたら……。

 その時に芽生えた後ろめたさが、波戸くんを始めとするフリューゲルスから来た選手たちに対して、腫れ物に触れるような接し方をしてしまった要因につながったんじゃないかと思う。今さらあの合併が何だったのかを問いかけるつもりはないし、口を閉ざして時が過ぎるのをじっと待ち、合併の話題を避けていた俺に語る資格などない。

 君たちの夢は僕の夢。時を経て離れていても、僕らはひとつ。横浜フリューゲルス永遠なれ。

 三ツ沢のスタンドに掲げられたサポーターの想い。時を越えてなお愛し続け、フリューゲルスの記憶を守り続けている人たちがいる。この想いだけは忘れないでいよう。あれから15年。今までもこれからもこの想いは続いていく。

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 波戸くんのスピーチを聞きながら感傷に浸っていたら、いつの間にか内容が漫談に変わって、会場を爆笑させていた。喜び、怒り、哀しみ、楽しみ……。そのすべてを織り交ぜた構成力。勢いだけでしゃべってしまう俺からしたら、学ぶべきものの多いスピーチやった。波戸くんにはサッカーだけでなく、しゃべりでもかなわないんだと思い知りました(笑)。

 波戸くん、本当にお疲れさまでした。

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岡山一成(おかやま・かずなり)
1978年4月24日生まれ。大阪府出身。
初芝橋本高卒業後、テスト生として横浜Mへ。打点の高いヘディングとガッツ溢れるプレーが評価されてプロ契約を勝ち取ると、デビュー戦から3試合連続ゴールを記録して一気に頭角を現した。大宮、横浜FM、C大阪、川崎F、福岡、柏、仙台と渡り歩く中、川崎F時代に始めた試合後の“岡山劇場”でサポーターの心をつかむ。柏時代には日立台のゴール裏でサポーターともに応援したこともある。09年に移籍した韓国・Kリーグの浦項ではACLを制し、FIFAクラブW杯で3位に入った。11年から昨シーズンまで札幌に在籍し、今夏からアマチュア選手として奈良クラブへ加入。J1通算64試合6得点、J2通算214試合20得点。

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