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[特別インタビュー]J1復帰を決めたガンバ大阪の長谷川健太監督が明かす“指導の流儀”

2013.11.22

11月17日にJ2リーグ優勝を決め、見事1年でのJ1復帰を果たしたガンバ大阪。その西の名門を率いる長谷川健太監督が、『一流のリーダーたちから学ぶ勝利の哲学 今すぐ実践したい指導の流儀』を上梓した。本書は著者と7名の識者による対談集で、対談相手は、清宮克幸氏、原辰徳氏、中村和雄氏、貴乃花光司親方、齋藤孝氏、岡田武史氏、加茂周氏といったスポーツ界&教育界の名将たち。今回は著者である長谷川監督に今シーズンを振り返ってもらいつつ、自身の“指導の流儀”について話を聞いた。

熱意をどれだけ持って選手に接することができるか

──本書に収録されている7つの対談を経験されたことは、ご自身にどういった影響を与えましたか?

長谷川 まず「自分の信念を貫いてやっていこう」という思いになりましたし、更に自分自身も勉強というか、努力というか、勝つための準備が足りなかったということも改めて感じました。そういう部分をすべて、ガンバ大阪における仕事で生かしていこうという気持ちで今シーズンはやってきました。

──対談したことで、ご自身の考え方に変化はありましたか?

長谷川 自分の考え方は変わらないのですが、自分の考えを更に強いものにしていくためには、もっとサッカーを好きにならなければいけないというか、深く掘り下げていく努力が必要だと感じました。どういう状況でもブレることなく、自分の信念を貫いていく、そのメンタリティも必要だと思います。そういった信念を揺るぎないものにするには、自分自身がサッカーというスポーツをもっと知る必要があります。

──今シーズンの話もお聞きしたいと思います。今シーズン、ガンバ大阪を率いるにあたって、1月の就任当初に「こうしよう」と意識されたことを教えていただけますか。

長谷川 自分のサッカーには自信を持っていましたので、それをいかに選手に落とし込むのかという部分を考えました。もちろんミーティングなどでもそうですが、実際のトレーニングの中でどうやって落とし込んでいくのか。そこの部分を考えて取り組んできました。自分の考えを伝えていく熱意をどれだけ持って選手に接することができるか。この部分は非常に大事ですから、そういう思いを持って1年間戦ってきました。

──ガンバ大阪には「攻撃サッカー」というスタイルが定着しています。そのあたりで、就任当初にやりづらさや難しさを感じた部分はあったのでしょうか。

長谷川 正直、難しさはあまりなかったですね。自分自身のサッカーは、清水エスパルス時代から変わらず『攻撃』の部分にこだわってやってきました。ガンバに足りないところは守備面だと思っていたので、攻守のバランスをどう取るのかがカギになる。選手たちも前向きに話を聞き、トレーニングにも取り組んでくれたので、そこまで難しい作業はなかったです。

──大阪の人たちは、関東や静岡の人たちともまた違った気質を持っていると思います。関西の人たちの考え方について、何か感じられたことはありますか?

長谷川 関西の言葉や文化については、まだはっきりと分からない部分が多いのですが、関西に住んで長い實好(礼忠)がヘッドコーチをやっていますし、吉道(公一朗)という大阪出身のフィジカルコーチもいますので。「こっちは冗談で言っているけど、関西の人にとっては冗談に聞こえない」ということもありましたから、どういう言い方がいいのか、彼らに相談しながら選手に話すようにしていました。

──今シーズンは西野貴治選手、大森晃太郎選手など、若手の活躍も光りました。若手とベテランでは指導のアプローチの仕方も違ってくると思いますが、そういった使い分けはどのようされていますか?

長谷川 自分も選手をやっていたので、「自分がベテランの時に、こういう言われ方をしたらどう思うか」ということを常に考え、ベテランと若手を区別して接しています。ただ、大事なのは腹を割って話すこと。変に隠してしまうよりも、率直に自分の意見を言い、相手の考え方と擦り合わせていくという作業をしています。

──改めて今シーズンを振り返ってみて、難しさを感じた部分はあったのでしょうか。

長谷川 いや、特に大きな壁はなかったと思います。

──7月にはレアンドロ選手と家長昭博選手が契約満了となり、宇佐美貴史選手、ロチャ選手が加入しました。攻撃陣の再構築を強いられ、一つのターニングポイントになったかと思います。

長谷川 もちろん自分の中でいろいろと考えて、「最善策は何か」ということを突き詰めてやってきましたが、選手が本当によく頑張ってくれました。今振り返ってみても、「楽しかった」という印象ですね。それに考えることは私の仕事ですから。

──総括すると、すべてが順調に進んできたという印象でしょうか?

長谷川 そうですね。もっと難しい局面があると想定していましたが、スタッフやクラブの協力があり、選手たちも「もう一度、J1に戻りたい」という強い気持ちを持って1年間仕事をしてくれたと思います。本当に楽しく仕事をさせてもらったというか。難しい局面はなかったと思いますね。それは今言ったように、いろいろな人のサポートがあったからだと思っています。

やはり自分の信念を貫けるかどうか

──本書『一流のリーダーたちから学ぶ勝利の哲学 今すぐ実践したい指導の流儀』の中では、「日本人のどういう部分を生かしてやっていくか」という部分に触れられていて、特長としては献身性や協調性、勤勉性を挙げ、それらが日本人の一つの武器であると。今シーズンのガンバ大阪のサッカーの中で、そういった日本人の特性はどのように機能したと思いますか。

長谷川 海外のチームとやるわけではないので、日本人の特性についてはそこまで考えてやりませんでした。基本的には、ガンバには前向きな選手が多く、「うまくなりたい」と思っている選手が多いので、練習も真面目にやってくれています。実際にやってみると、こちらの要求が高ければ高いほどそれに応えてくれますし、逆にこちらがトレーニングにおいて「もっと上」を考えていかなければならない状況になりました。そういう意味では、日本人の特性で、自己成長力というか自分自身が「もっとうまくなりたい」という部分が強いチームだったので、こちらもそれに応えるだけのトレーニングをしていかなければいけません。非常にいい関係で1年間トレーニングできたのではないかと思います。

──著書の中で齋藤孝さんが、「設定水準を高めにすると、選手たちや生徒たちもついてくる」というお話をされていましたが、まさに今の話はその一例ですね。今シーズンはどんどん新しい練習メニューを取り入れたりというところが……。

長谷川 新しいメニューというよりも、どのように設定を厳しくしていくか、というところですね。広いスペースであればもっと狭くしていくなど。

──著書の中で印象に残っている人や内容、言葉があれば教えていただけますか。

長谷川 誰がというよりも、いろいろな思いを持って指導されている方ばかりでした。いろいろな方の話を聞けて幸せだったと思いますし、ぜひ皆さんも参考にしていただけたらと思っています。

──読み返して、新しいヒントを得ることはありますか?

長谷川 本の出版にあたってゲラを読ませてもらいましたが、「こういう思いを持っているんだ」と、改めて再認識することができたので、すごく良かったですね。

──本書はどういった人に読んでもらいたいと思っていますか?

長谷川 指導者の方はもちろん、スポーツをやられている方にも「指導者がどういう思いを持って選手に接しているのか」を理解する上ですごく参考になると思います。それと、プレーヤーの保護者の方にも読んでもらえるとうれしい限りです。

──最後に改めて長谷川監督の考える理想のリーダー像を教えてください。

長谷川 やはり自分の信念を貫けるかどうかじゃないかと思います。そのために、その思いを周囲にどう伝えていくのか、どう落とし込んでいくのか。この作業をしっかりとできる人が理想のリーダーと言えるのではないでしょうか。

長谷川健太(はせがわ・けんた)
1965年、静岡県生まれ。ガンバ大阪監督。清水東高等学校、筑波大学、日産自動車でプレーし、Jリーグの創設に合わせて1991年に清水エスパルスに加入。決定力の高いFWとして1999年まで活躍した。J1通算207試合45得点、日本代表27試合4得点。現役引退後、浜松大学サッカー部(現・常葉大学浜松キャンパス)のサッカー部を指揮、2004年に日本サッカー協会S級指導者ライセンスを取得し、2005年から2010年まで清水の監督を務めた。サッカー解説者を経て、2013年にG大阪の監督として現場復帰を果たしている。

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