FOLLOW US

アンチェロッティ監督が新天地で意気込み「スペクタクルなサッカーを実現したい」

2013.09.24

[ワールドサッカーキング1003号掲載]

カルロ・アンチェロッティが紡ぐ言葉の端々には、常に結果を残してきた男ならではの余裕と自信が見え隠れする。イタリア、イングランド、そしてフランスで栄光を手にした男が、新天地マドリッドで“新たな栄冠”を目指す。
アンチェロッティ
インタビュー・文=ホセ・フェリックス・ディアス Interview and text by Jose Felix Diaz
翻訳=高山 港 Translation by Minato TAKAYAMA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

 一国の首相にロシアの大富豪、更にはカタールの王族と、一癖も二癖もある“ボス”の下で、同じく一癖も二癖もあるスター選手たちをまとめ上げ、結果を残す。カルロ・アンチェロッティはサッカー界で最も優秀な“中間管理職”と言えるかもしれない。

 かつて“銀河系軍団”を作り上げた名物会長がトップに君臨し、獲得時の移籍金が100億円を超える2人を筆頭に大物選手が名を連ねる新天地においても、彼の歩みを振り返れば、しっかりと結果を残すのではないかという期待が高まってくる。

「攻撃的で楽しいサッカーをしたいと考えている」

 スペクタクルなサッカーで勝利を収める。それが、この策士の美学だ。

サッカーの歴史上、最高のチームだ

――セリエAと比較して、スペインサッカーの印象はいかがですか?

アンチェロッティ スペインサッカーがどんなものか正確に表現するのはまだ難しい。もちろん、印象ということなら簡単だ。リーガ・エスパニョーラは極めてレベルの高いリーグ。それが実際に中に入って感じた印象だ。2つの強力なチームがあり、その背後をいくつかのチームが追走する形で優勝争いが展開されるという感じかな。それから、スペイン国民は美しいサッカーを愛している。おのずと、多くのチームがボールをつなぐサッカーを選ぶ。ここではパスがとても重要視されているんだ。セリエAとの比較という点では、スペインは戦術にはそれほどこだわらない。つまり、セリエAのような「戦術至上主義」はここには存在しないということだ。

――レアル・マドリーの印象はいかがですか?

アンチェロッティ マドリーが高いクオリティーのサッカーを展開するチームであることを疑う者はいないだろう。もっとも、開幕から3試合連続で勝利を収めたが、楽なゲームは一つもなかった。それだけリーガのレベルが高いということだろうね。私はこれまでにヨーロッパの4大リーグで監督を務めてきたが、リーガのクオリティーが最も高いと感じている。外から見ると「マドリーの絶対優勢」と思えるようなゲームでも、ちょっとしたことで勝ち点を失う可能性がある。油断は禁物だよ。

――パリ・サンジェルマンの指揮官を退任してR・マドリーの監督に就任した経緯を改めて教えてくれませんか?

アンチェロッティ パリSGは素晴らしいチームだ。だが、マドリーはそれを上回る。このクラブはサッカーの歴史上、最高のチームだからね。もちろん、パリSGも世界最高になるために努力を重ねている。だが、歴史を作るには時間が必要だ。マドリーは長い間、世界ナンバーワンのポジションにいる。世界最高のチームの指揮を執る、この誘いを断る監督はこの世に存在しないと思う。マドリーから「監督に」という話があったのは今回で3度目だが、今回を逃せば次はないと思った。今だから言えるが、パリSGではフロントと意思の疎通に欠けるケースが何度かあった。ただ、難しい状況にありながらも、何とかチームをリーグ・アン優勝に導いたことを誇りに思っている。一方で、「これ以上は無理だ」と感じていたことも確かだ。パリSGの未来は誰か他の人間に委ねるべきだと考えるようになっていた。実は、パリを離れる考えがあるということは、12月の時点で会長に話していた。契約はもう1年残っていたが、少しでも早く心境を伝えておいたほうがいいと考えたからだ。フロントは私の代わりの監督を見つけてくれた。その時点で、私は自分の夢を実現することを決めた。そう、マドリーの監督になるという夢を実現することにしたのさ。“白い巨人”という名の列車は私の前を2度通り過ぎた。私は3度目にして、やっと列車に飛び乗ることができたんだ。私はこのチームの指揮を執ることを心から喜んでいる。監督業を生業とする人間にとっての“最高の夢”をかなえたのだからね。

――これまでに2回チャンスがあったということですが、それはいつのことですか?

アンチェロッティ 最初は7年前のことになる。マドリーから監督就任の要請が届いたが、ミランとの契約もあり、具体的な話には進まなかった。2度目は4年前。フロレンティーノ・ペレス会長から要請があった。だが、マドリーの会長選があり、選挙が終わらなければ具体的には何も決まらないという状況だった。私には会長選の結果を待つだけの時間的な猶予はなかった。結果はご存知のとおりだ。私はチェルシーの監督に就任した。そして3度目……今回はすべてがうまくいった。私を辛抱強く待ってくれたペレス会長にはとても感謝している。加えて、今回のオペレーションがスムーズに運ぶよう尽力してくれた統括本部長のホセ・アンヘル・サンチェス氏に改めて礼を言いたい。

ベイルの獲得は“ベストニュース”

――マドリッドの街は住みやすいですか?

アンチェロッティ 完璧だよ。問題は何一つない。私のスペイン語は不十分だが、みんなが助けてくれる。驚いたのは、アトレティコ(マドリー)のファンも私に良くしてくれるということだ。生活環境も最高だし、この街で手に入らないものは何もない。それに、至る所でサッカーを感じることができる環境は、私のようにサッカーで生きる人間にとって最高のものだよ。更に言えば、ここは“サッカーだけの街”ではない。素晴らしい美術館もあるし、美しい公園もある。それから、ここの食事は最高だ。スペイン料理に勝るものはない……いや、イタリア料理の次に素晴らしいと言うべきかな(笑)。

――この夏の補強についてはどう評価していますか?

アンチェロッティ クラブの姿勢を高く評価しているよ。この夏、クラブはカンテラの見直しを行った。下部組織で育った選手、マドリーの将来を担うであろう多くの若手をマドリッドに呼び戻した。(アルバロ)モラタ、ヘセ(ロドリゲス)、(ダニエル)カルバハルらはレアル・マドリーというクラブに人一倍、強い忠誠心を持っている。クラブへの強い気持ち、それがピッチ上に反映されることはとてもいいことだと思う。更に補強について言えば、イスコと(アシエル)イジャラメンディの獲得は、マドリーが「未来に向けたチーム作り」を行っていることの何よりの証でもある。

――更にR・マドリーは、100億円以上の資金を投じてトッテナムからギャレス・ベイルを獲得しましたね。

アンチェロッティ ベイルの獲得は、この夏の“ベストニュース”となった。彼は違いを示すことができる選手だ。桁違いのテクニックと並外れたパワーを持っている。複数のポジションをこなす戦術的な対応力もある。マドリーの大きな戦力アップにつながると確信しているよ。リーガで大きなセンセーションを巻き起こしてくれるだろう、ともね。彼はすべてのマドリディスタが待ち望んでいた選手。もちろん私もその一人だ。

――R・マドリーでは、どんなサッカーを実践したいと考えていますか?

アンチェロッティ 試合を見ている人が楽しい気分になれる、そんなサッカーがしたいと思っている。私はこれまで、ミラン、チェルシー、パリSGで指揮を執ったが、常に攻撃的なサッカーを試みてきたつもりだ。この信念はマドリッドでも変わることはないし、ここでも攻撃的で楽しいサッカーをしたいと考えているよ。今のマドリーには高いクオリティーを備えた選手がたくさんいる。つまり、私が志す「スペクタクルなサッカー」を実現できる状況にあるということだ。加えて、私のチームが、クラブや会長、そして、ファンとともにあることを心から願う。指揮官がクラブやファンから孤立するようなことがあってはいけないと思っているからね。

――今シーズンの最大の目標はチャンピオンズリーグ優勝ですか?

アンチェロッティ 世界トップの大会だし、誰もが、その戦いを制したいと思っている。もちろん、すべてのマドリディスタが、マドリーの記念すべき10回目の優勝を待ち望んでいることだろう。当然、そのためにベストを尽くすつもりだし、全員でヨーロッパ制覇に向かうつもりでいるよ。

――第1節から第3節まで、あなたはイケル・カシージャスではなく、ディエゴ・ロペスをゴールマウスに据えました。カシージャスは第2GKになったということでしょうか?

アンチェロッティ 現時点ではディエゴ・ロペスが正GKだ。ただし、それはあくまで「現時点での話」であり、今後変わる可能性もある。イケルが偉大なGKであることは誰もが知っている。長いシーズン、彼の助けが必要になる時は必ず来る。彼は偉大なプロのアスリートだ。控えGKになった今でも、必死に練習を行っている。近いうちに、彼には私の考えを詳しく説明するつもりだ。もっとも、イケルのような偉大なプロであれば、「自分が今、何をすべきか」、「自分が今、どんな状況に置かれているか」、そして「このグループで自分がどれだけ重要な存在なのか」は既に分かっているはずだがね。

――カシージャスがR・マドリーを出て行くという可能性もあるようですが、その件に関してはいかがですか?

アンチェロッティ 彼の口からそういった言葉が出てきたことはない。繰り返すが、我々はイケルを必要としている。今、私に言えるのはそれだけだ。

リーガ・エスパニョーラ初挑戦のアンチェロッティが新シーズンを展望。インタビューの続きは、ワールドサッカーキング1003号でチェック!

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO