2013.07.08

小野伸二「やっぱり『この選手を観たい』と思わせる選手がたくさん出てこないといけない」

小野伸二/ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(オーストラリア)

[Jリーグサッカーキング8月号 掲載]
屈指のサッカーどころ静岡に生まれたサッカー史上屈指の天才MFは、浦和、オランダ、浦和、ドイツ、清水、オーストラリアと次々に戦場を移し、“外”と“中”からJリーグの20年を見守ってきた。世界のサッカーを知り尽くす彼からこそ見える、Jの進むべき道とは――。
小野伸二
インタビュー・文=細江克弥 写真=足立雅史

オランダで約5年間プレーされた後、06年に浦和へ復帰しました。5年前と比較すると、クラブにも、Jリーグにも大きな変化を感じられたと思うのですが。

小野 びっくりしましたね。レッズに関して言えば、素晴らしいスタジアムとクラブハウスができて、ピッチコンディションも最高で、チームメートのレベルも高くて……選手としてこれ以上ない環境だったと思います。

当時はAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の価値が上がり始めたことで、Jリーグから世界へという目標も見え始めた時期でした。

小野 確かに、そういった変化によってJリーグそのもののステータスが上がったことは間違いないと思います。ACLに出場すれば、アジアとはいえ他の国の強豪と対戦できますし、それまでは主に代表でしか体感することのできなかった“アウェイ感”を知ることもできる。それはすごくレベルアップにつながると思います。Jリーグにとっても一つの転機になったと言えるかもしれませんね。

リーグの成長ということで考えると、小野選手が07年に渡ったドイツ・ブンデスリーガはそのお手本と言えるような成長を遂げています。

小野 そうですね。僕がオランダに行った頃は、ドイツの盛り上がりというか、ブンデスリーガそのものの評価も、ピッチ内のレベルもそれほど高くなかったと言えると思います。ただ、僕が07年に行った頃にはガラッと変わっていて、もちろんサッカーのレベルも高くなっていました。そういう意味では、選手としてすごく難しかったと感じました。

個人的にはボーフムに在籍していた09─ 10シーズンの10月、長谷部誠選手が所属していたヴォルフスブルクとの一戦が強く印象に残っています。

小野 僕が退場した試合ですね(笑)。確かにあの頃はドイツにいた約3年間で最もコンディションのいい時期でした。監督が解任されて、それまでコーチだった人が代理監督を務めることになったんです。さらに元ボーフムの10番だった左利きの選手がコーチとしてユースからトップに昇格して。彼が僕のことをすごく買っていてくれて、トレーニングそのものもすごく楽しかった。僕の持ち味、イメージを彼が分かってくれていたので、それによって力を発揮できたというか。だから僕としてはあのままの体制が続いてほしかったんですけど、結局1カ月後くらいに監督が替わってしまって……。やっぱり、そういう難しさは特に海外ではあると思いますね。

まさにそういう部分を含めて、結果に対するシビアさや難しさはJリーグとは違う部分がある気がします。

小野 そう言えると思います。歴史の違いと言ったらそれまでですけど、サッカーが文化として定着している以上、そういう難しい環境になっていくことは当たり前だと思いますから。だから、Jリーグも歴史を重ねながら変わっていくと思います。ドイツはすごくいいお手本になる気がしますね。

現在プレーしているAリーグはいかがですか?

小野 AリーグはJリーグと比較しても歴史の浅いリーグですが、サッカーにかかわるすべての人から、サッカーを盛り上げようとする強い意気込みを感じます。オーストラリアはラグビーを筆頭に多くの人気スポーツがあるので、正直なところ、サッカーの人気はまだまだ。それでも、僕自身も含めてAリーグ発展の力になりたいと思う人がたくさんいるので、そういった雰囲気にも魅力を感じています。

加入1年目、しかもクラブとしては創設1年目で見事にレギュラーシーズン制覇を成し遂げましたが、舞台をオーストラリアに移すことも小野選手にとっては新しいチャレンジということですね。

小野 そうですね。ずっと変わらないんですが、僕は、選手としての僕を求めてくれるところがあるなら、どこにでも行くというスタンスでやって来たので。

それでは、これまでのキャリア、それからJリーグの20年間を見てきた選手の一人として、改めて20年目のJリーグについて思うことはありますか?

小野 そうですね……はっきり言って今が一番乗っている時期のように思いますね。若い選手たちがどんどん海外に出ていますし、マンチェスター・ユナイテッドやインテルのような、誰もが憧れるようなクラブでプレーする選手も出てきています。そういうチームにただ在籍しているだけじゃなくて、しっかりと活躍しているわけですから、彼らがJリーグから巣立っていったことを考えると、Jリーグ自体の発展もものすごいものがあると感じます。

確かに海外でプレーする選手の増加がJリーグのレベル向上を象徴する一つの要素と考えられそうですね。

小野 ただ、一方では、タレントの流出によって、どうしてもJリーグの面白みが欠けてしまう部分があると思うので、そこがこれから考えるべき課題の一つという気もします。もちろん、また新たにタレントが出てくることをみんなが期待していると思うので、そういった才能がどんどん出てくるリーグであってほしいと思いますね。

より魅力的なJリーグにするためには、そういった課題を一つひとつ、丁寧に改善していくことが必要なのでしょうね。

小野 昔と違って、今は非常に多くの情報が入ってくるようになっているので、海外のリーグと比較して魅力的な部分とそうでない部分がはっきり見えてくると思うんです。10年くらい前まで、僕らにとってJリーグはすごく大きな存在でしたけど、今の子供たちにとってはJリーグの大きさが少し違って、憧れという意味では少し薄れているかもしれません。ただ、それは決して悪いことではなく、海外で活躍する選手が増えるという良い面もありますよね。だからこそ大事なのは、そうした環境がある中で、Jリーグでプレーする選手たちの「Jリーグを引っ張っていこう」という気持ちだと思います。もし観客動員数が少しでも減少してしまっているのだとしたら、それを改善するためにどうすればいいのか。それはみんなで考える問題だと思うし、やっぱり「この選手を観たい」と思わせる選手がたくさん出てこないといけないと思います。

では、最後に日本のサッカーファン、特にJリーグを愛するファンの皆さんにメッセージをお願いします。

小野 Jリーグは93年の開幕当初からファンやサポーターに支えられて発展してきたリーグですし、それがなければ、今こうして数多くの選手がプロとして活躍できる舞台にはならなかったと思う。だから皆さんには、そうしてずっと見守ってきてくれたことに感謝しています。ただ、今後も、皆さんの力はますます必要になってくると思うので、まだサッカーの面白さを知らない人も、まずはサッカーに興味を持って、スタジアムに足を運んで、好きなチームを応援してほしい。僕自身の感覚として、サッカーは一度見るだけでものすごくハマるスポーツです。当たり前のことですが、サッカーの世界に触れる人が増えるほど、Jリーグが盛り上がり、日本サッカーのレベルも向上すると思うので、僕自身としても選手やクラブ、サポーター、そしてリーグ全体をひっくるめたサッカー界全体が、少しずつ大きくなるように力を注ぎたいと思っています。