[サムライサッカーキング7月号 掲載]
2012年に日本で開催されたU-20女子ワールドカップ。若く、可憐にピッチを駆ける姿に、日本中のお茶の間が釘付けになった。依然として高い人気を誇るなでしこの世界に現れた新世代の旗手。JFAの叡智を注ぎ込んだアカデミーの1期生でもある田中は、自分が進むべき道をしっかりと見据えている。
インタビュー・文=山本剛央 写真=合田慎二
15歳で感じた課題と17歳でつかんだ手応え
──サッカーを始めたのはいつですか? そのきっかけも教えてください。
田中 5歳の時ですね。家の近くにサッカーチームがあって、そこに母の勧めで通い始めました。
──小学校卒業後、山口県を離れ、福島県のJFAアカデミーに入られました。どういった経緯で進路を決めましたか?
田中 小学校の時のサッカーチームでコーチをされていた方のところに、アカデミーの試験のハガキが届き、コーチから話をされました。山口県は女子サッカーチームが少なかったこともあり、試験を受けてみました。
──不安はありませんでしたか?
田中 何も考えていなかったので、不安はありませんでした。楽しみな気持ちのほうが大きかったですね。
──JFAアカデミー福島は全寮制で、サッカーのエリート養成校になりますが、そこでの生活はどういうものでしたか?
田中 私は1期生で入ったので、本当にゼロからのスタートでした。寮生活にもなかなか慣れず、その中でチームを作り上げていかなければならないわけで、自分が何をしたら良いのか分からず、とにかくサッカーの練習に集中していました。
──平日のタイムスケジュールはどういった感じでしたか?
田中 夕方までは学校に通い、その後にサッカーの練習を2時間していました。帰ってからは食事を済ませ、45分間の学習時間があり、22時30分に就寝というタイムスケジュールでした。
──朝は練習がなかったのですか?
田中 夏休みはありましたね。
──中学、高校時代は周りの友達がオシャレや遊びを楽しんでいる中、田中選手はサッカーに打ち込みました。そのことに関して、つらかったり、苦しいと思ったことはありますか?
田中 あまりありませんでしたね。Jヴィレッジに住んでいたので、遊ぶところもあまりなかったですし(笑)。練習場が近く、自分の好きな時に自主練習ができたので、周りの友達がどうこうというのにはあまり興味がなく、とにかくサッカーに集中していました。
──2008年のU-17ワールドカップ時には、当時15歳ながら飛び級で代表に選出されました。この大会で、世界との差をどのように感じましたか?
田中 あの時は3、4試合に出場したのですが、フィジカルの違いを感じたり、何もできなかったという印象があります。身体も強くしなければいけないし、技術も高める必要があると思いましたね。
──特にフィジカルの差を感じたということですか?
田中 そうですね。フィジカルでプレッシャーを感じてしまい、考えることができなかったという印象です。
──その2年後に再びU-17W杯に出場しましたが、この時は6試合に出場し、4得点を挙げ、準優勝に貢献しました。15歳で出場した時よりも手応えを感じたと思いますが、いかがでしょうか?
田中 同年代との対戦ですし、またそれ以前に世界大会を経験していたこともあり、余裕を持って自分の良さを出そうと思いました。4得点を挙げることができましたし、チームが準優勝できたこともあり、その2年前のニュージーランドで行われた大会の時よりも楽しくプレーできました。
──パスやドリブルなど、具体的に通用すると感じた部分はどういうところですか?
田中 運動量と細かいところでのアジリティー、ドリブルですね。また、4得点はすべてミドルシュートだったので、シュートが通用したと思います。
──決勝で残念ながら負けてしまい、準優勝という結果になりましたが、負けた要因、足りなかった部分についてはどのように考えていますか?
田中 やはり一つひとつのプレーの質、疲れた時の判断、押し込んでいる時に得点を決め切れなかったりしたところが、敗れた要因だと思います。
──逆に、日本代表が決勝に進出できた理由、チームとしての強みはどこにありますか?
田中 すごく明るいチームで、みんながサッカーを楽しめていましたし、ミーティングでもチームが一つになって勝利を目指していました。仕掛けることができるチームだったので、個々の力が出せた時はチャンスになり、ゴールまで行くことができたと思います。「仕掛ける気持ち」というのが決勝まで行けた要因だと思います。
プロ入りを経てなでしこフィーバーの渦中へ
──JFAアカデミー福島を卒業後、INAC神戸レオネッサに加入しました。プロサッカー選手を意識し始めたのはいつ頃ですか?
田中 小学6年生ぐらいですかね。JFAアカデミー福島に入ることが決まって、明確になったと思います。
──INAC神戸には、トップクラスの選手たちが所属しています。昨年チームに加入し、先輩たちと一緒にトレーニングや試合をしてみて、どういうふうに感じましたか?
田中 最初の頃は周りのスピードが速いなと感じていました。一人ひとりの特徴も異なりますし、レベルの高いサッカーだなと。判断のスピードや攻守の切り替えといった基本的な部分の質が高くて、ついて行くのに精いっぱいでしたが、徐々に先輩のどの部分がすごいのかという細かい部分が見えてきました。
──現在、田中選手はなでしこリーグでプレーしていますが、通用する部分と課題に感じている部分を教えてください。
田中 前を向いた時の仕掛けからのシュートやドリブル、ターンには手応えを感じています。インターセプトなど、予測してボールを奪うという点も通用していると思いますが、相手のプレッシャーが速い中で正確なプレーをすることについては、課題に感じている部分ですね。
──昨年の話になりますが、U-20W杯が日本で開催され、田中選手は全6試合に出場して6得点を記録し、銅メダルを獲得しました。左右両足でもFKを決めましたが、あの場面を振り返っていただけますか?
田中 狙ったとおりに蹴ることができ、得点につながりました。自分でも驚きましたし、うれしかったです。
──大会を通じて、様々なポジションでプレーされたと思うのですが、いろいろなポジションでプレーすることについてはどのように思っていますか?
田中 いろいろなポジションでプレーするということは、役割やディフェンスの仕方が変わるので難しいです。ただ、そこで自分の力が最大限に発揮できればプレーの幅も広がりますし、楽しさも味わうことができます。
──特に自分が一番得意なポジションはどこでしょうか?
田中 トップ下があればそこですが、ないチームが多いので、そういう時は左サイドですね。前を向いた時にスペースがあるので仕掛けることができますし、守備から攻撃に入る時の展開が得意だからです。
──昨年のU-20W杯では、ヤングなでしこが勝ち進んでいくにつれて世間の注目度が上がり、報道も過熱しました。周囲の目が変わったことに戸惑いは感じましたか?
田中 自分の中では何も変わっていませんが、結果が出たことによって、周りの目線が変わりました。自分はまだ上手くないのに、周りは「すごい」と言っていて、注目され、期待されるようになりました。うれしいことですが、まだ自分の実力が追い付いていないと思っていたので、戸惑いを感じました。
A代表で受けた刺激毎日の練習に目的を置く
──今年に入り、アルガルベカップでなでしこジャパンに選出されました。招集の話を聞いた時は、どういう気持ちでしたか?
田中 驚きもありましたし、自分のプレーを出して評価をしてもらえるチャンスの場だと考えました。楽しみというよりも、周りの注目度も高かったように感じたので、プレッシャーのほうが大きかったですね。
──その中でプレーしてみてどう感じましたか?
田中 なでしこのサッカーは、組織がしっかりしています。若手も多かったのですが、もともとのなでしこの選手たちは連係もあり、理解もしているので、そこに入り込む必要があると感じました。
──なでしこジャパンでプレーしてみて、代表に対する思いや意識に変化はありましたか?
田中 なでしこの先輩たちのプレーや日常を見ていて、一人ひとりのスタイルがあると感じました。自分を持っていたり、サッカーに取り組む姿勢というのは、やっぱり違うなと。自分もそういう意識の部分が大きく変化しましたね。
──普段のトレーニングから取り組み方が変わってきたということですか?
田中 例えば、上手くいかないことについて話す必要がある時に、今までは流してしまうこともありましたが、細かく話すようになりました。それから、毎日の練習に目的を置くようになりました。
──なでしこの選手になりたいと思い、日々練習に励んでいる中高生へのアドバイスとして、田中選手自身が中高生の頃に取り組んでいたことで、今にも生きていることがあれば教えてください。
田中 得意な部分、苦手な部分をどうすればもっと上手くできるかを考えながら、自主練習などで納得いくまでやることが大事だと思います。
──サッカーを続けてきた中で、壁に当たったこと、日常の何かにつまづき、くじけそうになったことはありますか?
田中 INACに加入した1年目は、試合への出場機会が少なかったです。どうしたら試合に出られるかを考えたり、練習が上手くいかなくていろいろと考えていました。自分が将来的にどうなりたいかをイメージし、試合に出ることだけが重要なことではないと考えていました。「今は自分のやるべきことをやるだけ」という考え方でした。それは今も変わっていません。
──最後に、個人としての目標とチームとしての目標を聞かせてください。
田中 スタメンで試合に出場して勝利に貢献すること。チームとしては、すべての大会で優勝することが目標です!