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【スペシャルインタビュー】権田修一「必然的なビッグセーブを」

2013.04.12

サムライサカーキング5月号 掲載]
世界との戦いを経験した、あるいは世界を目指す選手たちに、自身が感じる日本サッカーと世界との差、そして到達するための青写真を聞く。
権田修一
インタビュー・文=浅野祐介 写真=薮内 努

国際大会で感じた勝負どころの大切さ

──最初に世界を体感、意識し始めたのはいつですか?

権田 初めて海外で試合をしたのが、中学2年生の時でした。パリ・サンジェルマンの主催で、フランスのクラブがいくつか招待されていた大会に、FC東京のジュニアユースとして出場したんです。その3カ月後には、ポルトガルのリスボンで行われた世界大会に出場しました。各国の優勝チームが参加する大会だったので、強豪クラブが出場していましたね。その2大会で、初めて世界レベルを経験しました。

──実際に海外の選手と対戦してみて、どのような印象を受けましたか?

権田 2つの印象を受けました。当時は、日本代表が日韓ワールドカップで、初めてグループリーグを突破したという時で、まだ“世界と戦う”というのが当たり前の状況ではなかったのですが、「意外と通用するな」という印象を受けました。一方で、「まだ差があるな」という印象も持ちましたね。日本人選手は上手いのですが、決定力であったり、球際の強さに関しては、海外との差を感じました。その2つの大会では、勝負どころで得点を奪えずに、7位と9位という成績で終わっていたので、世界との差を感じることになりました。

──U─17、U─19日本代表では、アジアの壁を突破することができませんでしたが、当時を振り返ると、どういった要因が挙げられますか?

権田 やはり勝負どころですね。U─17選手権の時は、北朝鮮、中国、タイと同じグループで、他よりも少し難しいグループでした。僕たちはその直前に行われたモンテギュー国際大会で優勝していたのですが、「アジアで戦うほうが難しい」と感じましたね。もちろん、親善試合の意味合いを持つ招待大会との違いはありますが、重要なところで結果を残すことができない、という点は日本人の弱さだと思いました。

──しかし昨年のロンドン・オリンピック予選では、見事にアジアの壁を突破しました。世代を重ね、どのような成長がその結果に結び付いたと考えていますか?

権田 U─17の大会は高校1年生、U─20の大会は高卒1年目の時にアジア予選を行いました。そのため、所属チームで試合に出ていない選手が多かったんです。五輪の予選では、各選手が所属チームで試合に出ている状況でしたし、それぞれが試合慣れをしていました。練習はもちろん大事ですが、それ以上に試合に慣れているかどうかが非常に重要ですからね。

──やはり個々の経験やレベルアップというのが、チームの出来に大きく関わってくると。

権田 そうですね。個々がしっかりしていないと、チームとして機能しないですよね。サッカーはチームスポーツですが、まず一対一の部分で負けていたら話にならない。勝つためには個が重要ですし、五輪の時は全員が意識を高く持っていたと思います。

──アジアでの戦いを勝ち抜く上で、一番重要だと感じるのはどういう部分ですか?

権田 環境面は開き直ることが大事だと思います。国によって文化が違いますし、いろいろな部分でうまくいかない点があります。しかし、そこでストレスを感じないことが大切なんじゃないですかね。どこに行っても、「これぐらいは仕方ない」と割り切って考えるべきですね。それに、アジアは広いので人種が違いますよね。五輪アジア予選で戦ったシリアはヨーロッパのような印象ですし、バーレーンはアフリカっぽい。マレーシアやベトナムは、日本人よりも小さくて敏捷性がありますし、韓国やオーストラリアの存在もありますよね。いろいろなスタイルの国と戦う中で、自分たちのスタイルを確立することが一番重要だと思います。五輪予選の時は、それがしっかりとできていました。日本人は規律を守ることが得意な人種だと思うので、それを最大の良さとしてピッチで生かすことが、アジアで勝ち抜くためには重要だと思います。

──ロンドン五輪では44年ぶりのベスト4進出を果たしました。ある意味、初めてとも言える大きな国際舞台で、得た自信と課題を教えてください。

権田 日本人が団結して戦えば、世界でも十分通用すると感じました。今までそれを信じてやってきたので、自信になりましたね。逆に、個人の部分での課題は多かったと思います。もっと自分の活躍でチームを勝利に導けるようなGKになることが今後の課題ですね。実際に出場してみて、細かい部分でもしっかりと取り組んでいかなければいけないと感じました。

──グループリーグではスペインと対戦し、勝利を収めました。世界最強とも言われる相手と戦ってみてどうでしたか?

権田 普通にめちゃくちゃ上手かったです。でも、自分たちを信じてプレーすることでつけこめたと思います。退場者が出た相手にあれだけ押し込まれてしまい、レベルの高さを感じましたが、ちょっとした隙につけこめればやれると感じました。逆に、11人の相手と戦っていたらどうなっていたのか、という思いもあります。今後、世界のトップを目指していくのなら、11人のスペイン代表に10回中7、8回は勝てるようにならないといけない。あの試合で勝ったからこそ、もっとどうすべきだったかを考える必要があると思います。

──日本のファンにも、五輪代表メンバーの仲の良さが伝わりました。他の選手の人柄について教えてください。今シーズンからチームメートになった東(慶悟)選手はどうでしょうか。

権田 彼はプレーと一緒で、協調することができます。少しシャイなところもありますが、FC東京加入後、1カ月でチームになじむことができています。また、代表に誰が入ってきても、プレーを合わせられる。人の良さを見抜き、その良さを引き出すことができるんですよ。サッカーが上手いというのはもちろん、人間的にも優れていると思います。

──良い補強になりましたね。

権田 そうですね。チームでエースにはならないタイプかもしれませんが、バイエルンの(トーマス)ミュラーやレアル・マドリーの(メスト)エジルのように、相手から嫌がられる選手だと思います。

──清武(弘嗣)選手はいかがですか?

権田 キヨは、チームを引っ張る気持ちを持っていました。A代表にも選出されていて難しい部分もあったと思います。五輪代表だと、「A代表の清武さんだ」っていじられるんですよ(笑)。それでもうまくやっていて、練習から厳しい声をかけたり、声を出して盛り上げたりと、チームのためを思ってやってくれてましたね。試合前のロッカーでは、彼が一番声を出していたんじゃないかな。ああいうチームを引っ張る気持ちが、海外での活躍にもつながっていると思います。

──中盤を支えていた扇原(貴宏)選手は?

権田 タカは、技術が高く、安心してボールを預けられる存在でしたし、ピッチ外でもすごく気が利くんですよ。優しくて気配りができるので、それがピッチでもできている感じです。味方が困っていたら、パスコースを作ったり、ディフェンスの時にスペースが空いていると感じたら、頑張って戻ってきますしね。五輪メンバーの中では年下のほうですが、年下だから気を配っているのではなく、人間的な良さでそうしていたのだと思います。五輪チームはみんな良いヤツでしたよ。やんちゃすぎて浮いてしまうヤツもいませんでしたし、逆にちょっとやんちゃなヤツをいじるぐらいで、雰囲気が本当に良かったです。

それぞれに異なるドイツとイタリアのGK文化

──五輪から話題を変えます。昨年12月、海外クラブの練習に参加されたそうですね。

権田 ドイツのシュトゥットガルトとイタリアのエラス・ヴェローナの2チームの練習に参加しました。まず、国によって色が違うというのを感じましたね。素人の方から見ると、GKのスタイルの違いはあまり分からないかもしれませんが、国によってGKに対する考え方や文化が違います。個人的に、ステップワークや敏捷性といった面で通用すると思った反面、「不恰好でもシュートを止める」といった一つひとつのプレーへのこだわりがもっと必要だと感じました。ビッグプレーは偶然ではなく、理由があるのだと。五輪のスペイン戦で、東が(スペイン代表GKダビド)デ・ヘアにシュートを止められたシーンがあったじゃないですか。あれがおそらく普通の世界なんですよ。ドイツでもイタリアでも、レベルの高いGKを間近で見ることができたし、ビッグセーブは毎日の練習の積み重ねの結果だと感じましたね。技術はもちろんですが、ゴール前での「こだわり」をもっと持たなくてはいけないですね。

──ドイツとイタリアの雰囲気を体験してみてどうでしたか?

権田 ドイツは、日本とは全然違う練習で、すごく面白かったですね。「身体のどこかにボールを当てて止める」というスタイルでした。キャッチングにこだわるよりも、体に当ててストップするという感じですね。アイスホッケーのGKを意識しろと言われました。イタリアについては、2009年に練習に参加した際に(エルメス)フルゴーニさんに指導してもらい、現在は日本代表でイタリア人コーチに教えてもらっていますから、それと似ている部分もありますが、コーチによって色がありますね。そういう意味で、イタリアは割と入りやすかったですけど、ドイツはサイズが重要だと思いました。僕が行ったチームは、みんな僕より大きいんですよ。チームに小さいGKがいれば、その選手に合わせた練習があるかもしれませんが、僕が行ったチームは大きいGKばかりでした。(練習用の人形の)FKの壁があるじゃないですか? あれよりももっと高いのが前にあって、それをビニールシートで隠し、その上からボールが出てくるんです。それをはじく練習があったのですが、背が低いため全然できませんでしたね。それから、ドイツもイタリアも、国の色に対し、みんな誇りを持っていました。ドイツで、「これからイタリアに行く」と言ったら、「絶対ドイツのほうが良いぞ」と言いましたし、イタリアで、「ドイツで練習してから来た」と言うと、「ドイツではこんな練習しなかっただろ」と(笑)。自分たちが考えているGK文化に誇りを持っているのだと強く感じましたね。

コンフェデ杯は世界での立ち位置を確認する舞台

──日本代表は(アルベルト)ザッケローニ監督就任後、アルゼンチン代表やブラジル代表、フランス代表といった世界トップクラスのチームと対戦しました。現在の日本代表は、世界でどのあたりのレベルにあると思いますか?

権田 コンフェデレーションズカップで分かると思います。親善試合と公式戦という話をしましたが、公式戦というのはしっかりと準備して臨むものですからね。今回は厳しいグループに入りましたが、レベルの高いチームと3試合できるので良いことだと思います。真剣勝負の中で、何ができるかが大事だと思いますね。五輪の準決勝で対戦したメキシコ代表とは、五輪の本番前にも親善試合をしましたが、公式戦とでは全然違いました。世界での立ち位置はコンフェデ杯ではっきりすると思います。

──見る側としても非常に楽しみですね。

権田 「強豪国と試合ができてOK」ではなく、「強豪国に勝つためには何をすべきか」ということをみんな考えてやっていると思います。昨年の欧州遠征ではブラジル代表に負けましたが、フランス代表に勝ったことよりも、ブラジル戦のほうが頭にあるみたいですからね。試合後には、「もっとやらなければいけない」という話をしていました。

──興味のある海外のリーグはありますか?

権田 いつかはイタリアでプレーしてみたいです。日本はそもそも島国ですから、ヨーロッパのどの国に行っても、プレーヤーとしても人間としても絶対に良い経験になると思うので、海外でのプレーに興味はありますね。でも、まずは所属しているFC東京でやれることをやって、チームの状況やその時のタイミングによって、良いチャンスがあればプレーしてみたいです。

──海外のGKで、意識している選手や、見ている選手はいますか?

権田 誰かを特定して見るということはないですね。知名度に関わらず、試合の中での一つひとつのプレーに注目しています。GKは個人ではなく、ディフェンスの最後の部分。ビッグセーブをしても、「この状況にしてしまったことが問題」と思うこともあります。チームによっては、GKがクロスボールにほとんど対応しないチームもあるじゃないですか。それを、「このGKはクロスボールに弱いんだ」と思うのではなく、「チームの戦術だから、どういうポジショニングを取っているのか」ということを考えていますね。僕はJ1もJ2も見ますし、海外の試合はビッグマッチ以外も見ます。その中で、あえて言うとしたら、(ジャンルイージ)ブッフォンは好きですね。プレー自体もそうですが、彼は何をしても絵になりますよね。写真を見ると分かりますが、いつも自信を持ってやっているし、それがチームメートにも伝わっていると感じます。プレーではありませんが、すごいと思います。

──確かに絵になりますよね。

権田 どの写真を見てもかっこいいですからね(笑)。

──そういう選手は意外と少ないですよね。

権田 あとは、(ドイツ代表GKマヌエル)ノイアーも絵になると思います。

──話は少し変わりますが、ご自身の経験を踏まえ、自信を持つべき日本の特徴は、どういうところにあると思いますか?

権田 チーム全員で規律を持って戦えることですね。日本人から見ると、「言われたことを実行するのは当たり前」と思うかもしれませんが、海外では武器になる部分です。そこは強みとして捉えていいと思いますね。

──一方で、世界のトップを目指す上で足りないと感じる部分を教えてください。

権田 少し矛盾する点がありますが、強引さは必要だと思います。それと「一芸」ですね。平均の選手ではなく、突出している点が必要になると感じます。ヘディングが強い、シュートは絶対に枠に飛ばすなど、種類は様々だと思いますが、世界で勝つには、個の強さが必要になってきますからね。チームで規律を守りながら、自分の得意な部分を持っておくべきだと思います。

──権田選手が対峙して嫌な選手のタイプを教えてください。

権田 うちの林(容平)は嫌いですよ(笑)。「点を取りたい」というのが顔に書いてあるようなヤツです。(リオネル)メッシのように技術があって、ゴール前で余裕を持てるような選手も嫌ですが、そこまで到達するのは大変なことです。そうではなくて、イーブンなボールに突っ込んで来たり、ギリギリで足を出してきたりとか、いつでも点を取ることを考えている選手は嫌ですね。そういう選手がボールを持っている時は、隙を見せないようにしています。

──とても分かりやすいです。

権田 漫画の『ジャイアントキリング』で言うと、夏木(陽太郎)です。堺(良則)も嫌ですけどね。

──では最後に、今シーズンの抱負を教えてください。

権田 FC東京としては、優勝を目指します。(ランコ)ポポヴィッチ監督も2年目ですからね。タイトル獲得のためには、GKが良い働きをしなくてはいけません。成績が良いチームは失点が少ないですしね。チームにいる時間が長いので、ディフェンスの組織作りからこだわっていきたいです。また、それをやることで、個人としても、「どうしたら守れるか、勝てるか」という感覚が上がっていくと思うので、その部分は日本代表でも生かしていきたいと思います。

すべてをかけろ。世界はもう、夢じゃない

権田修一
アディダスでは「すべてをかけろ。世界はもう、夢じゃない」というテーマの下、世界最高峰の大会・UEFAチャンピオンズリーグの開催に合わせ、中高生プレーヤーを対象に世界NO.1を決める大会「UEFAヤングチャンピオンズ 2013」を開催。優勝チームにはチャンピオンズリーグ決勝観戦や、チェルシーFCのクリニック参加など、本気で世界に挑戦する部活生をサポートする様々なプロジェクトを展開している。ここでは、部活生から寄せられた質問に権田選手が回答!

Q1.将来プロになりたいです。どんな人がプロになれると思いますか?
A.意志の強い人。プロを目指す上でもそうですが、プロになってからもそれだけで満足せず、1年目の開幕戦から試合に出るんだというくらいの強い気持ちでないと、プロになれないと思うし、成功しないと思います。

Q2.失点した時、どういうふうに気持ちを切り替えていますか?
A.試合中は、切り替えるしかない、と割り切っています。今の失点について考えるくらいだったら、どうしたら次の失点を防げるかというのを考えたほうがいい。失点について考えるのは、試合後にいくらでもできます。

Q3.どうして権田選手はGKになることを選んだのですか?
A.子供の頃にテレビで元アメリカ代表のGKトニー・メオラ選手を見たからです。金色の長髪を結んだサーファーみたいなお兄ちゃんが、砂浜でセービング練習をしていたんです。それを見て「カッコいいな」と。

Q4.世界で活躍するにはどういう練習をすべきだと思いますか?
A.まずどんなシュートでも止めること。そこに対するこだわりを持つ、それに尽きると思います。

Q5.僕はGKですが、恥ずかしくて大きな声出しができません。どうすれば克服できるでしょうか。
A.声を出すという表現自体が間違っていると思います。「声を出す」のではなくて、「コミュニケーションを取る」。小さい声でも伝わるのであれば、わざわざ大声を出す必要はありません。とにかくコミュニケーションだという意識を持てば、声の大小は関係なくなると思います。

Q6.僕はサブGKです。どうすればモチベーションが上がるでしょうか。
A.特にGKはそうだと思いますが、他の選手を意識してはダメだと思います。その選手を超えなければ出られないと考えるより、自分がどうしたら上手くなるのかというのを考えていれば、モチベーションが落ちることはないと思います。他の誰かではなく、自分がどうしたいか、です。

内田篤人選手、今野泰幸選手、家長昭博選手らの声をWEBで!

「世界はもう、夢じゃない」をテーマに登場してもらった選手たちのインタビューを続々公開中。内田篤人選手ら世界を知る選手たちの声に耳を傾けよう!

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