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【現地レポート】威嚇、窃盗、痴漢…ヨルダンで受けたアウェイの洗礼

2013.03.28

写真・文=村上敦伺(アシシ)

敗戦後のカオスの中で

01
試合前は、とても和やかな雰囲気でヨルダン人サポーターと交流できていたのだが……

 僕たちは完全に気が緩んでいた――。

 ワールドカップアジア最終予選、アウェイヨルダン戦。日本代表の惜敗をゴール裏から見届けた後、僕らは同じホテルに泊まる計12人の仲間たちと連れ立って、スタジアムを後にした。

 一昨年のカタールでのアジアカップ、昨年のオマーンでの最終予選に現地参戦している僕は、公共交通機関が整備されていない中東でのスタジアムからの移動手段をどうすべきか、ある程度理解しているつもりだった。

 過去の経験を元に、あらかじめ3台のタクシーをチャーターし、試合終了から1時間後に所定の場所で待ち合わせた。運転手と携帯電話の番号も交換していて、準備万端のはずだった。

 12人のうち1グループが別の待ち合わせ場所だったので、スタジアムのゲート付近で別れた。残りの8人で道を急ぐ。スタジアムの外は勝利の歓喜に沸くヨルダン人でごったがえしていた。国旗を振り回し、テンションの高いサポーターたちが、急ぎ足で帰途に就く僕らについてくる。

 ゲートを出てからタクシー運転手との待ち合わせ場所まで、たったの200メートルだったが、青いユニフォームを着た日本人の集団はやはり目立つのだろう。ものの数十秒で、僕らの周りには100人以上のヨルダン人が群がってきた。何となく嫌な予感がよぎる。

 暗い夜道の中、手を振るタクシー運転手を何とか発見。安堵の溜め息をついたのも束の間、ヨルダン人の群衆が奇声をあげながら僕らのグループに一気に身を寄せてきた。場の空気が一瞬凍り、連れの女性たちが悲鳴を上げた。お尻を触られるなどの痴漢被害を受けたようだ。

 女性に近寄ってきたヨルダン人を僕ら男性陣が押し退ける。ヨルダン人の運転手も、取り囲んできた若者たちにアラビア語で何やら叫んで、威嚇する。生命の危険を感じるほど、一触即発の雰囲気となった。

 そんな緊迫した空気の中、運転手と英語で会話すると、タクシーがちょっと離れたところに駐車しているとのこと。ではそのタクシーの場所まで急ごうと話し、移動を始めようとした時、事件は起きた。

「携帯! 携帯盗られた!」

 仲間の女性が叫んだ。その叫び声に瞬時に反応し周りを見渡すも、暗い夜道に溢れ返る人混みがそこには存在するだけ。完全に犯人を取り逃がした。その女性に聞いてみると、突然上から手が伸びてきて、手に持っていた携帯を力づくで持っていかれたらしい。

アウェイ遠征に対する心構えの重要性

 僕は完全に油断していた。というのも、中東諸国ではイスラム教の戒律上、窃盗罪に課せられる刑が非常に重いので、盗難リスクがほぼないと思っていたためだ。ここは石油や天然ガスの資源マネーで潤う湾岸諸国とはわけが違うのだ。ヨルダン人に囲まれた時点で、仲間たちに「持ち物に気を付けて!」と注意を促すべきだった。

 とはいっても、時すでに遅し。後悔先に立たず。運転手の携帯から、盗まれた携帯に電話をかけてみるも、当然相手は電話に出ない。何度かかけていると、電源が切られてしまった。そうやっている最中も2次被害を回避すべく、女性陣を壁側に退避させて、男性陣で人壁を作って護衛した。

02
被害を受けた後、ポリスが到着。警察の事情聴取は僕が英語で説明し、運転手がアラビア語で補足する形。

 そこに遂に、大型バンのパトカーがサイレンを鳴らしながら到着。警棒を持ったポリスマンが10人くらいどっとパトカーから出てくると、周りを取り囲んでいたヨルダン人たちは一目散に逃げ出した。やっと安全な環境が確保された。

 100人以上のヨルダン人に取り囲まれ、混沌とした状況になってから警察が到着するまで、ものの5分。物理的な被害は携帯電話のみだったが、強烈な緊張感の中、生きた心地がしなかった。
 
 その後、タクシー運転手にホテルまで送ってもらうグループと、携帯を盗られた女性と一緒に警察署に被害届を出しにいくグループに別れた。僕はこの中では英語ができる方だったので、被害にあった女性に付き添った。

 ポリスステーションまでは大型バンのパトカーに乗り、サイレンを鳴らしながら渋滞の道を縫うように走っていく様は、まるで映画のワンシーンのようだった。警察署に到着後、1時間以上かかりながらも何とか被害届の書類をもらうことができた。これで海外旅行保険の携行品損害の保険金を請求できる。

03
警察署まで護送してくれた大型バンのパトカー。まさかヨルダンでパトカーに乗ることになるとは……

 ちょうど被害届が完成した頃に、第一陣をホテルに送ったタクシードライバーが警察署に来てくれた。彼に送られて、試合終了から3時間後にやっとホテルに戻ることができた。タクシー下車後、親身になってトラブルに対応してくれた運転手に感謝の気持ちを伝えた。こうやって、本当に長い一日が終わった。

 前回のコラムで、海外アウェイ参戦の醍醐味を紹介したが、このようにアウェイ特有のリスクが存在することも事実だ。ちょっとした油断がトラブルに巻き込まれる切っ掛けとなりうるので、海外遠征をする場合は、用意周到な情報収集が必要不可欠だ。

 僕は今回、「ヨルダンはカタールやオマーン同様に安全な国だ」と勝手に思い込んでしまっていたのがあだとなった。これからは正しい情報を集めた上で、細心の注意を払ってアウェイ遠征に挑みたい。

 2013年6月にコンフェデレーションズカップ、2014年6月にワールドカップがともにブラジルで開催される。治安はヨルダンよりも圧倒的に悪い。ブラジルまで遠征するサポーターは、特にホテルからスタジアムまでの移動手段は入念に準備して、戦いに挑んでほしい。

著者/村上敦伺(むらかみ あつし)
77年札幌生まれ。南アW杯出場32カ国を訪問し「世界一蹴の旅」という書籍(共著)を上梓。「半年仕事・半年旅人」のライフスタイルを06年から継続中。職業はフリーランスの経営コンサルタント。サッカー日本代表を追い掛けて世界中旅してます。昨年10月に「日本代表サポーターを100倍楽しむ方法」という単著を上梓。Jでは札幌サポ。
twitter:@4JPN
HP:Endless Journey http://atsushi2010.com/

ヨルダン遠征帰国報告会を3月31日日曜夜に開催します!

第13回アシシ講演会&交流会
●開催日:2013年3月31日(日)
●開催スケジュール
17:30 開場
18:00 講演会開演
20:00 講演会終演
20:30 交流会開始(同じ会場で行います)
22:30 交流会終了
●会場:株式会社フロムワン 3階 イベントスペース
●会場URL:http://www.from1.com/map/index.html
●住所:東京都中央区八丁堀4-9-4
●講演会参加費
サポ100当日購入の方 参加費無料
サポ100持参の方 500円
サポ100持参せず、当日も買わない方 1,000円
※サポ100=日本代表サポーターを100倍楽しむ方法書籍のこと
●交流会参加費: 2,500円(学生1,500円)
●申込期限:2013年3月30日まで(定員になり次第、締め切ります)
●申込方法:http://atsushi2010.com/contact

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