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多くのJリーガーを育てた中野雄二監督(流通経済大学)「“日本の大学サッカー”を“世界のスタンダード”へ」

2012.10.23

 50人近くのJリーガーを排出してきた関東大学サッカーの名門、流通経済大学。もともとはサッカーの強豪校ではなかったこの大学を立て直し、現在の”サッカーを看板とした”流経大を作り上げたのは、現在チームを統率する中野雄二監督といっても過言ではない。

 なぜ、流経大はこれほどまでに多くのプロサッカー選手をJに送り込むことができるのだろうか。そして関東リーグ、インカレ、ユニバーシアードなど数々のタイトルを手中に収めた中野監督の目に映る大学サッカーの意義、そして課題とは。

提供:大学スポーツ総合サイト「CS Park」

関塚ジャパンを根っこから支えてきたつもり

――昨年は山村(和也/鹿島)選手はじめ、タレント性がありました。一方で今年は去年ほどタレントは揃っていないような印象を受けますし、メディアの露出なども含めて今年の流経大に去年ほどの印象を持っている人はいないと思います。監督としてはこの点について、やりやすさなどの面でどうお考えでしょうか?

中野 いや、タレントがいればそれを看板選手として、その選手の能力を軸に戦えるというメリットがあるけど、今はまあこれから出てくるかもしれないけど、タレントがいない方がやりやすいよね。変な気を使わなくていい(笑)。周りが優秀だ優秀だと囃し立てる選手を預かると、それは気を使いますよ。それじゃあ指導者はいけないのだけど、気持ち良くやらせなければいけないとか、こんなことを言ったらふてくされるのではないかとか、試合から外したらプライドが傷つくのではないかとか。その人がタレントと言われれば言われるほど、周囲の人は気を使う。今まで疲れたもの(笑)。今は勝てなくても疲れないね。言いたいことを言えるから。タレント揃いのときも言いたいことを言ってはきたけど、それでも少し気は使っていましたね。

――昨年はオリンピックもあり、選手を送り込んだことで流経大が注目されたと思います。しかし一方で結果があまりついて来ませんでした。

中野 山村、比嘉(祐介/横浜FM)に関しては言いたいことは言ってきたけど、一昨年の前までは4年間で3回優勝していたし、リーグで優勝できない時は総理大臣杯を獲った。例えば大宮の金久保(順)とか岡山の千明(聖典)、浦和の宇賀神(友弥)、広島の石川(大徳)、松本の船山(貴之)といった選手たちは、4年間全てで優勝を経験している。全試合に出たわけではないけど、在学していた4年間はずっと優勝している。

 それで去年は8位で一昨年は9位。優勝はできなかったけど、これは実は原因ははっきりしていて。僕とヘッドコーチの大平が2人でユニバーシアードの監督・コーチとして、2年間チームを空けたんです。うちの中で山村・比嘉・増田(卓也/広島)・椎名(伸志/3年)・河本(明人/4年)・中里(崇宏)と主力を2年間ユニバの方に持っていったから、チームとしてまとまった練習はできなくなる。そこにプラス五輪予選で山村・比嘉・増田がしょっちゅう合宿だ強化試合だで抜かれたから、チームとして、例えばこの8月はチーム力を高めようと合宿を組んだんだけど、この2年間はそれができずに、修正ができなかった。これはそういう選手を預かった人にしかわからない。預かったことのない人は「そんなことを言ったって、お前のところはいい選手が一杯いるだろ、流経はタレントが一杯いるだろ」と。でもタレントがいるから勝てるわけではないですよね。やっぱりチームとしてのグループ戦術、チームのあり方というのはちゃんとないとなかなか勝てない。だからこの2年間、勝てなかったのは仕方がないなと。

 でも、それは山村たちにオリンピックに行ってほしい、日本サッカーにオリンピックで勝ってほしいと。関塚ジャパンを根っこから支えてきたつもりだし、Jリーグの各チームが「Jの試合があるから選手を出さない」という態度をとっていた時に、大学側が“関塚さんが使える選手を”ということで協力して、実際に関塚さんは山村たちを選んで、アジア大会で金メダルを獲った。この大会が今回のオリンピックのチームのスタートだから。もっというと、あの世代はU-20の大会で世界に出られなくて、日本協会が強化をやめてしまった。でも、「それでいいのか?」と。負けたからいいや、というのではなくて、オリンピックは23歳のときにあるんだから、しっかり流経大は代表チームに協力してきた。最終的には山村しか選ばれず、本大会でも中心として活躍することはできませんでしたけどね。でも、そういうところに全面的に協力して、生意気な言い方だけど流経大の成績は度外視して、とにかくこのオリンピック世代を成功させたいと思ってきたし、同時にユニバーシアードで絶対優勝するということに全てを傾けたから、この2年間の成績は仕方がなかったかな、と。それだけに今年の成績は問われるんですけどね。

“日本の大学サッカー”を“世界のスタンダード”へ

――中野監督が考える、日本サッカー界における大学サッカーの立ち位置や役割というものを教えて頂きたいです。

中野 やっと、多くのサッカー関係者が大学サッカーは重要であるということをコメントし出しているけど、もともと重要だったんですよ。ところが20年前、Jリーグが立ち上がった時、当時の川淵チェアマンが、悪口ではないんですけど、大学サッカーの関係者に対して“もう大学サッカーの役割は終わった”というようなことをストレートに言ったみたいなんですよ。その当時、僕は大学にいなかったから、当時の大学関係者はそれが引っかかっていて。そんなこともあり、今になって大学サッカーが重要と言われたところで、何なんだと。ちょっとギクシャクしたものが上の年代にはあるんですよね。

 でも、日本サッカー界も大学サッカーが重要とは言いながらも強化費とか、そういうのは女子サッカーとかユース年代に比べたら微々たるものしかもらえない。そういうことを言ったらキリがないのだけど。大学サッカーが日本の中でどうすればいいかということに関して言うと、僕は”世界のスタンダード”になれば良いと思っている。よく日本の人はスペインとかフランスが良いとか、海外のマネをしようとして、学校の部活よりもクラブを優先しようとする。例えばバイエルンなら水泳とかバレーボールとかやっている中での象徴がサッカーなだけで、それはその国に根付いていて国民性にあったもの。だからなんでこの日本の教育システムを壊してまでクラブ化する必要があるのかとは思いますよね。

 どっちが良い悪いとかではなくて、その国のあり方というものが存在するのだから、日本の場合は、例えばフーリガンは少ないし、サッカーで頑張ってプロになれなくても他の職業に就くことができる。これは悪いことではないですよね。それだけ日本の生活水準が平均として安定しているという捉え方ができます。海外の場合は、サッカー選手になれないと働く場所がなかったりフーリガンになったり。成功例は良いけど海外の失敗例を見ないでみんな海外が良いと言う傾向があります。僕は色々な国を見てきたけど、海外のサッカー熱は確かに言葉では言い表せないものがありますよ。でも、この人たちからサッカーを取ったらどうなのだろうな、と思う部分はありますよね。

 日本は世界で一番かはわからないけど、インフラとか色々な整備が整っている国で、その日本の中での指導法というのを構築していって、逆にスペインやドイツなどの人が「日本はなんで大学からプロ選手になれるの? なんで大学でサッカーが上達するの? 彼らって勉強もするんでしょ? ダメでも就職するんでしょ。それってすごいな」とこういう風に思われるのがいいんじゃないですかね。それで10年後くらいに海外のサッカー先進国が、“日本のシステムを取り入れよう”と。スポーツだけじゃなく、勉強もちゃんとした方が良いよね、と思うかもしれない。でも、日本はそれを壊してまでスペインと同じようにした方が良いとか、ドイツを真似ようとかしているように見えるんですけど、なんで自分たちのやってきたことに対して、その良さをもっと引き出そうとしないのかなと思います。クラブ化が悪いと言っているわけではなくて、併用すれば良い話でもありますよね。

――海外では18、19歳でビッグクラブのレギュラーになる選手もいます。僕自身もそれがいいとは思っていて、大学4年間を経由することは少し長い遠回りだと思っていました。でも、山田(大記/磐田/明大卒)選手や高橋(秀人/FC東京/東京学芸大卒)選手は2年目で代表にも選ばれています。そう考えると大学に進学することも遠回りではない選択なのではないのかと思うのですが。

中野 一つは、海外の18歳と日本の18歳を見ると、海外の18歳は精神的に大人。日本人の精神年齢はちょうど大学を卒業するあたりで海外の18歳と同じくらいになるような気がするんです。だからちょうど大学を出る頃がプレーヤーとしての経験値も得てきて、人間としてもモノの考え方が大人になるじゃないかなと感じます。だから、プロに出るには22歳くらいがちょうどいい。もちろん、優秀で若くして18歳でプロになった方が良いに決まっています。周りの環境はプロの方が良いですしね。でも現実的に見ると、若くしてJに行った子はけっこう潰れている。こういう言い方は失礼かもしれないけど。だって、試合に出られないですから。試合を経験していかないといくら良い環境で練習をしても、実践的な部分を学べないから。これがJの課題なのかなと。

 僕が言うことでもないかもしれないけど、例えばJ2の監督を外国人ではなく日本人にするとか。そうすればS級を取った人の職場が増えるし。あとはJ2は外国人選手を取るのではなくて、極論だけど1試合で10代の選手を2人起用しなければいけないとか、若手を伸ばすリーグにしたら良いと思う。海外だって、各国にチャンピオンを狙うチームなんて2、3チームしかないのだから。残りは中位で良いとか、残留すれば良いとか。育成してそれで選手を売って運営してこうとか、そういう考えがあって良いのに、日本の場合は一様に、18チームがみんな優勝を狙わなければいけないような捉え方がされるけど、現実的に優勝狙えるチームなんて限られている。プロの世界はお金がある方が強いから。だってお金で選手を取れば良いんですから。ミランだってユベントスだって、マンチェスター・ユナイテッドだって、みんなそう。相手から戦力を引きぬいて自分たちの力にする。それがプロ。そこら辺をみんな平等に優勝を狙うじゃなくて、各クラブの特徴があって良いとは思う。

 大学サッカーはそこに良い選手をたくさん供給しているし、コーチやスタッフ、フロントを見たって大卒者しかいないよね。言い方は悪いかもしれないけど、高卒でそういうポジションに行く人は、大企業でもあまりいない。もちろん高卒でも優秀な人はたくさんいるんだけど、世の中はどうしても学歴とかで決められちゃうところがある。サッカー協会を見たって、役職についている人は大卒者ばかり。大卒の重要性というものをわかっているはずなのに、口で言うほど大学とリンクもしてないし、大学の結果なんかが協会のHPのトップに載るわけでもない。そういう不満は少しあるんだけど、そういった部分も含めて、大学サッカー連盟と協会のあり方を見直していく必要はあるのかなと。

――流経大は数々のプロ選手を輩出してきました。やはりプロからも大卒選手に求められるものは高いレベルにあるのでしょうか。年齢的なものもありますよね。

中野 年齢的にも、データを取ると、毎年100人がプロになると6割が大卒者なんだけど、J2でレギュラーになる子が多い。J1だと、出たり出なかったりという感じかな。でも、4年で引退しちゃう。26歳位でガクンと減る。2つ理由があって、J2の給料ではいざ結婚するとかそういう決断のときに、J2でサッカーをやっていても無理があるなと思って辞める。この状況は良いとは言えない。

――中野監督が指導で心がけていることや目標はありますか?やはりプロを輩出することを一番に考えているのでしょうか?

中野 いや、全然。流経大は良い選手をたくさんとってきて、プロ選手を出すんだろと思われているけど、僕は勉強ができるできないは別として、授業に行く事がまず最優先。あとはボランティアや少年サッカーの指導や審判活動、あとはイベントがある時に障害者と触れ合ったりするとか、色々なことをやっています。献血もやっていますしね。年に3回、献血車がサッカー部の寮の前にやってきて、強制的にやらせています。もちろん寝不足とか、3カ月以内に海外行った人はできないですけど。よく駅前とか大学に来たりする献血をみんな見て見ぬふりをするでしょう。でも若くて健康な人の血はいくらでも必要なんだから。献血なら、僕らが協力できることでもあるし、ドナーになれというわけではないから問題ないと(笑)。

 みんなが思うほど、プロを育てようとか、絶対に優勝しようとか、そういう考えではない。サッカーを通してそれぞれが成長してほしいと。社会に出てからどういう生き方ができるかが重要であって、チームで優勝したから、メダルがあるからと言って就職が決まるわけではないですし。その辺が、流経大が育っている理由なんだと思います。サッカー選手を作っているわけではなくて、「人」を作ろうとしているわけだから。たまたまサッカーの素質があって、サッカーの強い子どもたちがプロになる。まあそこが終点ではないのだけれど。そのレベルに到達している割合が高いのかなとは思いますね。指導をしている時には、言い過ぎないことを心がけている。洗脳してはいけないよね。流経大の、中野雄二の考え方が絶対ではない、ということを部員にはわかってもらえるようになりたいと思っています。

(阿部)吉朗がいなければ、僕は流経大を辞めていたと思う

 ――中野監督が今まで見てきた、育ててきた選手の中で一番印象に残っている選手は誰でしょう?

中野 やっぱり、阿部吉朗(磐田)だね。彼がプロにならなかったら今の流経大はないから。彼は駒大に落ちてウチへ来たんです。常総学院の出身なんだけど、あそこはサッカーじゃなくて野球のほうが有名でしょう? それで、僕が吉朗のところまで行って、うちに来いよって誘ったんです。でも、お前が見習えるような先輩は誰もいないから、と。タバコは吸うわ、改造車に乗りますわ、でもうちに来てやってくれないかと。

 そしたら吉朗が「中野さんのところに言ったらプロになれますか?」って。そこで僕は「その保証はないよ。でも最大限努力する」と言った。ウチの全て、ウチの悪いところを提示して、それに吉朗は飛び込んできたんですよ。だから先輩に見習える人は誰もいない環境に飛び込んできてプロになった。今だったら、これだけのハード面を始めとして、プロになりやすい環境が整っている。でも当時は違う。吉朗のストイックさはすごかった。変な話だけど、相談に来たことがあって。「中野さん、彼女を作っちゃまずいですかね」と。いや、いいんじゃない、別に恋愛なんてスポーツやる人はみんなするし、という話をして。「彼女を作ったらサッカーがおろそかになるんじゃないかと思って相談に来ました」って。僕はいいよって言ったんだけど、結局作らなかった。それくらい彼は、サッカーに賭けていた。

 だから、今でも吉朗に会うのが一番楽しみなんだよね。毎年のように奥さんとか子どもを連れてくるんだけど。後輩にも良いお手本になっているよ。山村とかも良かったけど、吉朗の比ではないね。吉朗の努力は、言葉では表せない。さっきも言ったけど、先輩はみんなタバコ吸って、練習はサボって、改造車で横浜の大黒ふ頭らへんに行く。そんな中に1年生で入ってきたら、普通は流される。でも流されないで、そういった状況の中で自分を高めていった。普通だったらできないことを、吉朗はやった。だから、彼がいたから、僕は指導者としてここでやっていこうと思えた。吉朗がいなかったら僕は辞めていたと思います。

――ここまで多くを語ってきてもらいましたが、監督の考える流経大の魅力とは?

中野 流経大は自由なんだよね。よく質問で”流経のスタイル”を聞かれるんだけど、スタイルはないんですよ。毎年選手が変わるんですから。その時に預かった選手の能力を発揮できるサッカーをしたいだけです。本当はスタイルを決めて当てはめていった方が、安定した結果を出せるかもしれないけど、そんなことを僕は求めているわけではないんです。不安定で良いから、個を伸ばしたい。でも、そうは言ったってチームプレーだから。優勝できなきゃしょうがないと言われることもあって、そのジレンマはいつもあります。

――では最後に、後期への意気込みをお願いします。

中野 一番前期と変わったチームだと思わせたい。だって、これで逆転優勝したらたまげるでしょ? 去年の専修が、前期の順位から考えると彗星のごとく勝ち上がってって優勝したけど、今年は専修大が連覇するかどうかはわからない。中央大が優勝すると、僕が高校2年生以来で33年ぶり。早稲田が優勝したって十何年ぶりじゃないかな。みんな専修大の連覇を阻止しようと思っている。流経大が強かった時もウチには勝たせたくないという思いが各チームにあった。中央大・早大と伝統校が2、3位。日体大が4位。それで国士大、筑波大と大学サッカーを引っ張ってきたチームが5位6位にいて、近年強いと言われた流経大、明大がその下にいるんだから。後期は順位がひっくり返るかもしれないよね。星勘定ができないんですよ。当然一歩間違えれば2部に落ちちゃうけど、下を見ると消極的になっちゃうから、あくまでも上を見てやっていきたいです。でも、それだけ大学リーグが面白くなっていってるってことですよ。

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