2012.09.14

「情熱と夢を持って」 熊谷浩二(鹿島アントラーズユース・コーチ)

熊谷浩二

「精神的に自立していて常に上を目指そうとする選手を探します」

 かつて鹿島アントラーズとベガルタ仙台で活躍した男が、再び戦いの場に身を置いている。

熊谷浩二
 1994年に鹿島でプロ入りした熊谷浩二氏は、粘り強い守備と広い視野を持ったボランチとして2000年の三冠など数々のタイトル獲得に貢献し、2005年に仙台で現役を引退した。翌年、10年を過ごした古巣・鹿島のスカウトに就任し、高校生や大学生の中からタレントを発掘するミッションに携わった。

「僕が注意深く見ていたのは、選手がチームカラーに合うかどうか。つまりメンタリティーです。鹿島はチャンピオンを目指すチームですから、精神的に自立していて常に上を目指そうとする選手を探します。もちろん、伝統の4-4-2システムにフィットするかという戦術的な面も大事ですけどね」

 スカウト陣の一員として5年の間に大迫勇也や柴崎岳らの獲得にも貢献。若い選手を見る目を磨くと、2011年にユースチームのコーチへと抜擢された。スカウト時代に多くの監督やコーチと触れ合ってきたことで、目指す姿ははっきりイメージできていたという。

「とにかく情熱と夢を持ってやろうと決めていました。プロサッカー選手の夢を目指す子供たちに接する以上、僕たちがまず夢を与える存在でなければいけないんです」

 育成機関の使命についても確固たる考えを持っている。

「僕自身もそうでしたが、15から18歳はサッカー以外の楽しさに目が向く時期です。しかし彼らはプロを目指しているんですから、犠牲もあることを教えなければいけない。僕たちの仕事は、プロに直結する段階にいる彼らの本来の気持ち、サッカーに対する向上心に、きちんと行動を伴わせることです。技術や戦術も教えますが、ユース年代にとってはプロで生きていくための人間的な土台作りがとても重要なんです」

 鹿島が名門クラブに成長する過程を見てきたからだろう、プロになる心構えや向上心の大切さを強く訴える。Jリーグ草創期、来日したジーコが日本人選手に力説したのが、規律やプロ意識の徹底だった。当時その薫陶を受けた一人として、今は未来を担う若者たちに“神様”の哲学を叩き込んでいる。

「プロになれば24時間プロとして自覚を持った生活を送らなければいけません。ですから直前の段階にいる彼らには、ピッチ外の生活面もかなり厳しく指導しています。おかげですっかり怖がられていますよ」

 温和な笑顔からはなかなか想像しづらいが、厳しい指導の成果は確かにチームの成績に表れてきている。

熊谷浩二

選手の力を発揮させる、メンタリティーの指導

 2011年2月、鹿島ユースはブラジル人のキッカを新監督に据えた。すると国内の主要大会を次々に制し、U-18世代の最高峰プレミアリーグへの昇格を決めた。その後も同年8月、ルーマニアで行われた国際大会でレアル・マドリードに2-1で競り勝ち、ユヴェントスを3-1で破るなど、即座に好成績を収めている。体制の変化が劇的に成果を挙げたように見えるが、以前までの練習の成果が結実したのだと言う。

「監督が求めるのは臨機応変なプレーです。言われたとおりに動くのではなく、自分たちで考え、プレーを決断させるようにしました。特別な練習をさせたわけではなく、ブラジル流の自由なスパイスによって、きっと選手の中で何かが弾けたんでしょう」

 監督就任時、キッカは日本人選手のプレーは落ち着きや冷静さに欠けると感じていたという。そこで普段の練習から選手をリラックスさせ、自分を信じてプレーさせた。その結果、本来の力が発揮されるようになったのだ。

「僕は『どんなチームに対しても名前負けしないように』と言い聞かせています。敵との意識の差を埋めることが重要で、同じメンタルレベルで勝負すれば、たとえ強豪相手でも決して戦えないことはないんです」

 かつての名ボランチは、1995年ワールドユースで中田英寿、松田直樹らを擁する日本代表のキャプテンを務め、ベスト8進出の快挙を成し遂げた。この時世界と対等に渡り合った経験が、16年越しのチームの躍進にもつながっている。

 監督はピッチでの考え方を改めさせ、コーチはアスリートとしての自覚と試合に臨む心構えを身につけさせた。キッカ体制が行ったメンタリティーの指導によって選手の心には変化が起き、様々な経験を積みながらチームは今も成長を続けている。

 では一年間のユース生活を経て、自身にも何か変化はあったのだろうか。今現在思う、指導者にとって最も大切なものを尋ねた。

熊谷浩二「もちろん情熱と夢です。それはこれからも絶対に変わりませんよ」

 一切の迷いなく、若きコーチは即答した。その目は力強くやる気に満ちた輝きを持ち、視線の先にチームの未来を思い描くように、真っすぐ前を見据えていた。

取材・文=下村 光(サッカーキング・アカデミー
写真=山中尚一(サッカーキング・アカデミー

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