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【サッカーに生きる人たち】「日本代表がW杯でベスト4に進出する、その時」 仁藤慶彦(株式会社WOWOW 制作局 スポーツ部 プロデューサー)

2016.04.26

 「例えば、メッシがリーガ・エスパニョーラ通算300ゴールを達成するかもしれないって時に、スアレスに決めさせたあのPKあったじゃないですか(編集部注:2016年2月14日、リーガ・エスパニョーラ第24節バルセロナ対セルタ戦)。あれなんかが正にそう、その瞬間をどれだけ“リアル”に視聴者の方に提供できるか。それだけを考えています」

 真剣な眼差しでそう語るのは、WOWOWでスポーツ部プロデューサーを務める仁藤慶彦さんである。

 現在、放送されているリーガ・エスパニョーラの試合中継とリーガ情報番組『リーガダイジェスト』は仁藤さんが制作を担当する番組だ。また、2009年に初めて作ったリオネル・メッシのドキュメンタリーを皮切りに、年に1、2本のペースでサッカードキュメンタリー番組の制作も手掛けている。

 現在WOWOWで活躍されている仁藤さんは、少年時代に5年間インドネシアで過ごした過去を持つ。まずはその海外生活を含めた幼少期の話を、サッカーとの出会いも含めて語ってくれた。

海外で過ごした異色の経歴。サッカーとの出会いとは

 現在も頻繁にプレーするというサッカーを始めたのは、小学1年生の時だった。きっかけは、地元横浜市に隣接する読売クラブ(現:東京ヴェルディ)のファンになったことだという。サッカーだけでなく、リトルリーグにも所属して野球もプレーしていたスポーツ少年だった。

 スポーツに汗を流した日本での日々だったが、小学4年生の時に親の仕事の都合で家族ともどもインドネシアへ引っ越すことになる。日本の友人と離れ離れになってしまうことに加え、言葉も通じない国で生活することに対して、やはり大きな不満を抱えていたようだ。そんな不慣れな異国での生活において、当初、唯一の喜びが海外サッカーだった。

 「インドネシアでは、毎週末にセリエAとプレミアリーグとブンデスリーガを地上波の生放送でやってくれていたんですよ。インドネシアってサッカーが大人気で、ジャカルタには10万人も収容できる国立競技場がありますからね」

 海外サッカーを見始めるようになった当時のことを思い出しながら、仁藤さんはやや興奮気味に話してくれた。

 「この頃はよくマンチェスター・ユナイテッドの試合を見ていたので、ベッカムのデビュー戦もリアルタイムで見ることができました。そして何よりユヴェントスのファンで、ロベルト・バッジョが好きでした」

帰国後もサッカーに没頭。そして、WOWOWへ

 インドネシアで海外サッカー観戦にのめり込んだ仁藤さんは、1994年、中学3年生の時に日本に帰国する。だが、日本に帰ってきたことで、地上波放送では海外サッカーを楽しめなくなってしまった。

 「当時は海外サッカーを生で見るにはWOWOWに加入するしか道がなかった。だからどうしてもWOWOWに入りたかった。」

 仁藤さんにとって、海外サッカーを放送していたWOWOWは救世主のような存在だったという。そして、大学卒業後に縁あってWOWOWに入社し、3年間は営業職を経験。その後、現在のスポーツ局に配属される。

 子供の頃からファンだったWOWOWで、今度は試合を中継する立場となった仁藤さん。この仕事を担当するようになってから、過去のある経験を踏まえつつ、意識していることがあるという。

スポーツはそのものがドラマ。だから、変な味付けは必要ない

 仁藤さんは帰国後にセリエAの試合を観戦していた当時、WOWOWでは全試合を現地で実況解説を行い、中継していると思っていたそうだ。

 「これは、当時のWOWOWの中継がいかにすごかったかということなんですよ。まあ、当時の僕が世間知らずだったのかもしれないですけど(笑)。そう勘違いしてしまうほど、ものすごい臨場感があったんです」

 この経験を踏まえて現在、仁藤さんが理想としているサッカー放送も、“現地”で放送席を構えて実況解説しているのだと、視聴者が思い込んでしまうような“臨場感”を届けることだという。そして、スポーツ自体がドラマであり、素晴らしいコンテンツであることを生かし、余計な手は加えず、リアリティを保ったまま伝えることを意識しているようだ。そのために、演出にも工夫を凝らしている。具体的な方法として、スタジアム会場音をうまく利用していることを挙げてくれた。

 「選手が入場してくるシーン。リーガ・エスパニョーラの大半のクラブにはイムノと呼ばれるクラブ賛歌があり、それが流れるんですけど、その場面はファンの歓声が頂点となり、一番、盛り上がる瞬間じゃないですか。そういうところは、わざと会場の音を大きくして流すようにしています」

 このような工夫をしているからこそ、その放送に対して視聴者や関係者から「WOWOWさんのあの中継すごくよかったよ」、「面白かったよ」といった反応があると、何よりもうれしいという。一つの作品(試合)を共有して感動し、視聴者からフィードバックをもらえる。それがテレビ局員の醍醐味であるようだ。

「ぜひリーガ・エスパニョーラを見てほしい」。 そして、その先の目標とは

 リーガ・エスパニョーラの試合は、日本時間では深夜にキックオフされることが多い。そのために、リアルタイムで視聴してもらうことはもちろん、録画してもらうことさえも非常に難しいという。

 では、どうすればより多くの人に見てもらえるようになるのだろうか。そのために行っているのが、ドキュメンタリー番組の制作である。

 「僕らはもっと多くの人に見てもらいたいし、リーガはそれだけの価値があるコンテンツだと思っています。そこで、ドキュメンタリーという全く別ジャンルの、放送時間も異なる番組で、リーガの選手やクラブを紹介しています。もしかしたらそれを見て、普段、試合を見ない人もメッシのファンになってくれるかもしれない。『じゃあ、バルセロナの試合を見てみようかな』と深夜に起きてくれるかもしれないし、面倒だけど録画してくれるかもしれない。新たなリーガファンを創造する、という望みをかけてドキュメンタリーを制作しています」

 最後に、新しいファン層を構築するその先に何を見据えているのかをお話しいただいた。

 「20~30年後に日本代表がワールドカップでベスト4に進出したとします。その時のインタビューで、『僕はWOWOWのサッカー中継を見てサッカーを始めたんです。そのおかげで今、この場にいるんです』と言ってくれる日本代表選手が現れてほしい。つまり、WOWOWの中継で日本サッカーを強くしたい。それを常に心掛けています。実際、僕はリーガ・エスパニョーラが最も良い教材だと思っています。最高のリーグであるこのリーガ・エスパニョーラを見て、世界を目指してほしいです。もっと積極的に海外へ出て、いつかクラシコ(編集部注:レアル・マドリード対バルセロナの試合)の舞台に日本人が立ち、その選手がW杯で日本代表をけん引してベスト4に進出するというのが僕の夢です。いつかそれを実現させたいですね」

 クラシコの舞台で活躍し、W杯で日本代表を上位進出に導くような選手が現れた時、その選手が口にするのは最高レベルのサッカーを極限の臨場感で届けるWOWOWへの感謝の言葉かもしれない。

インタビュー・文=田村智也(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー

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5/21(土)夜11:00 WOWOWライブ
「リーガ・エスパニョーラ15-16総集編」
詳しくは→ wowow.co.jp/liga 検索

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