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「子供たちに自ら考えさせること」。それが育成指導のあるべき姿 鈴木正治 (シュートJr.ユースFC監督)

2016.02.22
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 「大事な試合で負けたとしても、そこでどうダメだったのかを自分で考えて、行動することが何よりも大切。育成指導は、子供たちにそれを伝えるためにあると思っています」

 神奈川県各地でスクール事業を展開している有限会社シュート。そこでシュートJr.ユースFC(中学生年代)の監督を務める鈴木正治さんは、Jリーグやtvkの横浜F・マリノス応援番組『キックオフ!!Fマリノス』の番組MCとして活躍した経験を生かし、現在、育成年代の指導者として活躍している。その鈴木さんが今、指導者として心掛けていることや、仕事への想いを語ってくれた。

指導者との出会い

 鈴木さんは高校を卒業後、日産自動車サッカー部(現:横浜F・マリノス)に加入。1年目から出場機会をつかみ、ドリブルと抜群のボールコントロールを武器に、左サイドのスペシャリストとして活躍した。1995年には横浜MのJリーグチャンピオンシップ制覇に大きく貢献し、Jリーグベストイレブンにも選出された。そして1999年、名古屋グランパスで現役生活にピリオドを打った。

 現役を引退する直前の2年間は、ケガの影響から手術とリハビリの繰り返しだった。そのため、引退後の人生についてはサッカーから一度離れ、休みながらゆっくり考えるつもりだった。また、店舗経営に興味があり、引退後は東京・青山で友人と3人で飲食店を営んでいた。

 サッカーとはかけ離れた仕事をする中、突然、大先輩である木村和司さんから「うちのスクールに遊びに来なよ」と声をかけられたのが、指導者という職業との出会いだった。最初にスクールに足を運んでから、何度か通うようになり、気がついたら指導者としての道にのめり込んでいった。

 「プロの選手とは違い、自分のアドバイスや経験を伝えることで子供たちが変化していく。その姿に魅力を感じたんです。そこからライセンスを取得し、本格的に指導者としての人生をスタートさせました」

 指導者という職業に出会い、改めて「自分にはサッカーの道しかない」と確信したという。そして2007年、シュートJr.ユースFCの監督に就任した。

自分自身が子供目線になって

 2006年から9年間にわたって『キックオフ!!Fマリノス』の番組MCを務めてきた鈴木さんは、その当時、ファン目線になって仕事に取り組むことを心掛けていた。

 「選手としてプレーしてきましたが、ファンやサポーターとしての経験がなかったので、応援とはどういうものかすら分からなかった。MCとしてF・マリノスのことを伝えていく立場である以上、応援する側の視点も知らなくてはならないと思いました」

 取材とは関係なく応援席へ足を運び、積極的にサポーターの方々と会話をして、ファン目線を味わった。それゆえに、指導者としての仕事もまずは自分が子供の目線に立つことが大事だと感じている。

 「我々が子供の頃は、ミスに対してワンプレーごとに頭ごなしに怒鳴って、子供たちのアイデアやチャレンジを奪うような指導を受けてきましたが、感じたミスを次につなげてあげられるような指導を心掛けています。自分の感情で怒鳴ったり、自分の考えを押しつけたりしないよう留意しています。たとえミスをしたとしても、その子なりにアイデアや意図を持ってプレーしているはず。だから再度、同じシチュエーションになった時に、そこでチャレンジできるような環境を作ってあげたい。ある程度の時間と自由を与えてあげないと、意外性や想像力のある選手は生まれないですからね。子供たちにやる気がなかったり、ミスをしてしまったりするのは、すべて我々指導者の実力不足。責めるべきは自分自身です。そこが根底にあるので、子供たちを怒鳴るなんて自分にはできないんですよ(笑)」

 怒鳴って怒るのは、指導者が自分目線で指導しているにすぎない。それに対して鈴木さんは、子供目線を重要視し、自分の考えを押しつけないスタンスを取っている。そうやって子供たちが変わっていく姿を見る瞬間が、この仕事の楽しみなのだ。

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結果よりも、子供たちに考えて行動させることが、指導者の役目

 指導は試合に勝つための技術指導や戦術的なことが特に強く求められるように見えるが、鈴木さんは技術的なこと以上に、人間性の部分を成長させることが、最も大事だと捉えている。

 「子供のプレーを見て『今のプレーはこうだ』と一方的に言うのではなくて、子供たち自身から『こういったプレーができないのですが、どうしたらよいですか?』とアプローチしてくるまで、自分はできるだけ何も言わないようにしています」

 また、日本のサッカー環境は、人工芝などの上質のグラウンドが整備され、一流の指導者がいて何でも教えてくれる状態にあるため、自ら考えて行動することが妨げられていると感じているという。

 「特に環境が整っているJリーグクラブのユースチームの子供たちは、自分のプレーがうまくいかなかった時に、指導者がアドバイスしてくれるのを待っている子が多いですよね。それに慣れてしまうと、自身で考えて、行動する力が身につかないので、社会に出た時に困難を自力で乗り越えられない人間になってしまうと思います」

 鈴木さんは、子供たちが整った環境に頼らず、自ら考えて行動できる人間になるために、押しつけない指導のやり方を意識している。試合中、どうしても声を上げて言いたくなる時も、そこで言ってしまうと日々の練習が意味のないものになってしまうので、極力、我慢しなくてはならない。仮に大事な試合で負けたとしても、そこで子供たち自身が考えて次の行動に移すのが、何よりも大切なことだ。

 そのスタイルを継続していく中で、子供たちの成長を感じられた時が、たまらなくうれしいという。
 
 「子供たちが自分のプレーに関して『今のプレーはどう対応すればよかったですか?』と聞いてくれた時は、成長を実感できるし、3年間かけて指導してきてよかったなと思えます」

 そしてこの指導者の仕事で何よりもうれしいことは、子供たちがシュートJr.ユースFCを卒団後、鈴木さんのところに遊びに来てくれることだ。

 「全員がレギュラーになれるわけではないので、試合に出してあげられない子もいるんですが、その子たちが遊びに来て『シュートJr.ユースFCでやれてよかった』と言ってくれると、すごくうれしいですね」

 卒団後もクラブのことを忘れず、心の拠り所として戻ってきてくれる。その行為が、指導者としての一番のやりがいだと感じている。

指導者としての今後

 最後に、指導者としての目標を聞いてみた。

 「いずれは高校年代の指導者をやりたいと思っています。高校は育成年代の最後のカテゴリーなので、まずはシュートJr.ユースFCでしっかり中学生の指導をして、もうワンランク上のカテゴリーに行けるよう、しっかりやっていきたいですね」

 そして、育成年代の指導にこだわる理由を、このように教えてくれた。

 「小さい時からサッカーをしている子供たちを、自分の力でどう変化させ、サッカーを心から好きになってもらうことができるのか、という魅力にはまっています。だから、大学生やプロ選手といった上のカテゴリーの指導者は考えていません」

 独自の指導スタイルを継続し、鈴木さんは今後も育成年代の指導者としての道を走り続ける。

インタビュー・文=山岸典(サッカーキング・アカデミー
写真=勝又義人

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を担当しました。
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