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女子選手を教えるやりがい 川邊健一(スフィーダ世田谷FC監督)

2016.01.28
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 「一度、信頼を得たらどこまでもついて来てくれますが、関係が崩れると、とことん嫌われる可能性がある。そこが女子選手と接する時に、特に気を遣っている部分ですね」

 クラブ創設から現在に至るまで、スフィーダ世田谷FCの監督を務める川邊健一氏は、選手を指導する際に心がけていることをそのように語った。

 川邊氏が率いるスフィーダ世田谷は、現在プレナスなでしこリーグ2部に所属しているチームだ。2015年シーズンは序盤で苦しみながらも終盤にかけて勝ち点を伸ばしていき、全27試合で勝ち点40を獲得して4位でフィニッシュ。チームの目標だった1部リーグへの昇格は惜しくも逃してしまったが、2016年シーズンに目標を達成するためのシミュレーションは十分にできたようだ。

 「補強した選手やユースから昇格した選手が何人かいたんですが、コンディションが崩れてしまい、自分たちの思い描くプレーができない状況が続いたために序盤戦は苦しみました。チームが変わったり、学生から社会人になり、一人暮らしを始めるなど生活環境が変わったりすると、どんな選手でもコンディショ調整に苦しむものです。ケガ人も多い時で8人ほど抱えていました。しかし終盤にかけて選手たちのコンディションが整い、ケガ人も戻ってきて、後半戦の第三クールには試合に全員が使える状態になりました。他のチームは終盤にかけて疲労が溜まり、主力選手のケガ人が増えていく一方、スフィーダは全員を選択肢に入れられる状態だったので、勝ち点を伸ばしていけたのだと思います」

女子サッカーと出会い、クラブ設立へ

 川邊氏は1980年に東京都世田谷区近辺で生まれ、小学生の時にサッカーを始めた。そして高校生の頃、小学生の時に教わっていたコーチに誘われて母校の女子チームを指導したことが、女子サッカーとの最初の出会いだったという。

「母校のサッカーチームにたまたま小学生の女子チームがありました。小学生の頃に教わっていたコーチが母校の女子チームを担当していて、一緒に指導しないかと誘われ、その1カ月後にコーチを交代して指導し始めたことが女子サッカーとの出会いでした。例えば男子の場合、小学校3年生から6年生まで学年ごとにチームがあり、親御さんがお子さんのチームのコーチを務めていたとすれば、息子さんの卒業と一緒にコーチも卒業するのが一般的だと思います。でも、女子の場合、当時は1学年で1チームを作ることができず、コーチたちも交代のタイミングが難しかったので、しばらく続けていました」

 指導していた女子選手たちは、小学校卒業後にサッカーを続ける環境がないという悩みを抱えていた。そこで川邊氏は、同じような境遇の選手を集め、2001年に任意団体としてスフィーダ世田谷を設立する。

 「当時、世田谷区の女子小学生プレーヤーは、小学校卒業後にサッカーをする場所が近所にありませんでした。後に設立するスフィーダ世田谷の母体となる小学生のチームを私が指導していたので、『じゃあやろうか』と始めたのがきっかけでした。最初は育成のためのクラブで、世田谷区の受け皿になるような形でやっていたので、人を集めるのが一番、難しかったですね。1年目は13人しかいなくて、その子たちを育てることから始めました」

 スフィーダ世田谷は設立からわずか9年後の2010年、なでしこチャレンジリーグ入れ替え戦で益城ルネサンス熊本フットボールクラブに勝利し、翌2011年からのなでしこチャレンジリーグEAST参入権を得ることとなる。続く2012年3月にはなでしこリーグ準加盟が認められるなど、クラブは急成長を遂げていった。

現在、クラブは小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅周辺を拠点としている。そして知名度を高めるために、祖師ヶ谷大蔵にあるウルトラマン商店街と提携を図って様々な活動をしている。

 「事務所の所在地にウルトラマン商店街があったのがきっかけでした。チームの知名度も低かったので、ウルトラマン商店街と提携することによって『世界的なヒーローがチームをサポートしてくれている』という形を作れば、スフィーダのイメージアップにも繋がると思い、商店街に掛け合って『一緒に地域を活性化していこう』と提携を承諾していただきました」

 チームを多くの人に知ってもらうためにも、まずは世田谷区内で様々な活動に従事し、知名度を高めていかなければならない。

 「今はまだ世田谷区外に知名度を広めようとは思っていません。90万人近くの世田谷区民がいる中で、果たして何割の方がスフィーダを知っているのかと考えた時に、1割にも満たないだろうな、という思いがあるので、まずは世田谷の方々に知っていただくことから始めています。選手たち自らがチームの地域推進コミュニティー担当となり、祖師谷も含めた世田谷区の商店街を周ってポスターの貼り替えを行うなど、様々な活動をしています。ファンやサポーターとの距離も近いチームにしたいですし、選手が直接、世田谷の人たちと触れ合うことが応援してもらえることに繋がると思っているので、選手にそのような活動をしてもらっています」

男子にも負けない女子サッカーの魅力

 女子サッカー一筋の指導者キャリアを送る川邊氏は、女子選手を指導することにやりがいを感じているようだ。

 「男子のほうが身体能力では勝りますが、女子選手は本当に真面目だな、と思いますね。言われたことや求められたことを、必死に発揮しようと団結できる力がある。繊細な技術を備えた選手も多いですね。男子チームと試合する時に比較しても、技術は高いなと思います。ひたむきさやどこまでも戦う姿勢など、強さを感じることも多いですね」

 2015年シーズンを4位で終えた後、皇后杯全日本女子サッカー選手権大会では2回戦でジェフユナイテッド市原・千葉レディースに1-0のスコアで敗れ、現在チームはシーズンオフに入っている。そんな中、川邊氏は来シーズンへ向けて着々と準備を進めている。

 「皇后杯で予想よりも早く負けてしまったので、来シーズンのスタートに向けてコンディションを落としすぎないようトレーニングをゆっくりやっている状態です。モチベーションの設定が難しいので少し苦しいところもありますが、選手たちはシーズンを戦う重責から解き放たれ、今は楽しそうにサッカーやってくれています」

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チームの未来、そして自身の夢へ

 5年後の2020年には東京オリンピックが開催される。もちろんなでしこジャパンの参加も決まっており、スフィーダ世田谷から選手が選出される可能性もある。

 川邊氏は、最後に自身の目標をこのように語ってくれた。

 「東京オリンピックに向けて長期的な計画を立て、なでしこジャパンの選手を輩出したいですね。なでしこジャパンの中にスフィーダの選手がいれば、それはすごく価値のあることだと思うので、まずはそこを目指しています。そのためには1部リーグに所属していることが絶対条件になるので、できるだけ早く昇格させてあげたいです。そのために選手の育成を、しっかりと計画的にやっていきたいと思っています」

インタビュー・文=鈴木寛多(サッカーキング・アカデミー
写真=小林浩一

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を担当しました。
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