FOLLOW US

【ヨコハマ・フットボール映画祭 2015〜上映作品紹介〜】『ガンバレとかうるせえ』

2015.01.15

『ガンバレとかうるせぇ』

 2011年にスタートし、1000名を超えるサッカー&映画ファンが集うイベントに成長、今年も2月14日(土)、15日(日)の2日間で8作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2015 powered by バーコードフットボーラー」。さらに今年は全国8都市で映画を上映するJAPANツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各8作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は弱者に焦点を当てた話題の書籍「弱小校のチカラを引き出す」の著者である篠幸彦さんに、若さゆえのもどかしさや悔しさを正面から描いた作品『ガンバレとかうるせえ』 についての映画評を寄稿いただきました。こちらの作品はJAPANツアーの先陣を切るニイガタ・フットボール映画祭(1/17・18開催)でも上映されます。

「私、辞めませんよ」。物語は、夏の挫折から始まる。

文=篠幸彦

「その一言、言えないかなぁ……」

 作品の途中で何度か、そんな思いに苛まれた。その度、少しずつ胸の奥が疼いていくのがわかる。やがて自分もその場にいるような錯覚に陥り、彼らの表情が、息づかいが、葛藤が、他人事ではないと気づかされるのだ。いつしか自然と、18歳の自分を投影して見ていた。この作品は“リアル”という陳腐な言葉では筆舌に尽くしがたい、観る者それぞれの“あの頃”が描かれている。

 私は高校時代、サッカー部に所属していた。そこはサッカー部のない高校で、自分たちで部を新設しなければならなかった。できたばかりのチームはお世辞にも強いとは言えないよくある弱小チームだった。それでも手探りで自分たちのチームを作り上げることに、みんな心を躍らせる日々を送っていた。弱くてもサッカーの楽しさは変わらないと思っていたし、そう感じてもいた。

 半年が過ぎた頃、創設当初50人はいた部員の半分が辞めていた。辞めていく理由はさまざまである。もっと気軽に楽しめると思っていた者、もっと強いチームを求めた者、飽きて他の楽しみへ移ろう者――。練習に出てくる人数が目に見えて減っていき、寂しさを覚える中で私はあることを思っていた。物事がうまくいかないとき、人間というのは半分がそこから去り、半分が留まるのではないかと。

 3年間、辞めるタイミングはいくつもあった。それでも私はその弱小チームでサッカーを最後まで続けた。今思えば色々と甘さのあるチームだったのかもしれない。大会で誇れる成績を残すこともできず、ほとんど挫折しか経験できなかった。そんな3年間だったが、不思議と思い残すことはあっても悔いはない。大人になった今でもその気持ちに変化はないのだ。

 いつの日だったか、ある人にこんなことを言われた。

「勝てないのに、なんで部活を続けられるの?」

 勝てないとやる意味を感じられないと、その人は言うのだ。なんて身も蓋もないことを言うのだろうと、私はそのとき一瞬動きが止まってしまった。けれど、一度冷静に考えてみることにした。なぜろくに勝てなかったのに、最後まで続けられたのだろうか。そんなこと考えたことがない。もちろんサッカーが好きだから、それは確かな動機である。仲間といるのが楽しかったから、それも間違いない。けれど、何か違う。

 やはり、勝ちたかったのだ。それなら去った人のようにもっと強いクラブチームに行けばよかったのにと言われるかもしれない。だがそれも違う。部活は結果がすべてのプロチームではないし、そこは特別な才能が集まる強豪校でもない。なんでもない人間たちが、たまたま一つの高校で出会い、新しくサッカー部を立ち上げ、手探りでなかなか勝てなくても一緒に汗を流してきた。他の誰でもない“俺たち”で勝ちたかったのだ。

 あの頃は、そうした青臭くて瑞々しい感情に突き動かされていた。打算的な感情なんて邪魔だと思っていた。あのとき辞めずに残った仲間が愛おしかったし、誇らしかった。今改めて言葉にすると、ドラマのような暑苦しさに恥ずかしくてつい笑ってしまう。

 ただ、正直に白状すると、続けられたのはそれだけではなかったように思う。あのとき去っていった人たちに対して、意地になっていたところもあった。勝って、辞めていったことを後悔させてやろうと、必死になっていた自分も少なからずいた。確かに弱かったけれど、それで辞めていく人間がいることが、私はなにより悔しかったのだ。

 この映画は、そんなあの頃のあらゆる感情を、叫びたくなるほどに刺激し、鮮明に甦らせた。

 山王高校サッカー部はインターハイ県予選で敗退する。試合後、静まるロッカールームでニヤつく部員にキャプテンの小松豪が激しく叱責した。豪ら3年生は引退して受験勉強に専念するのか、あるいは冬の選手権まで続けるのか、一つの決断を迫られていた。監督は不甲斐ない部員たちに容赦ない言葉を浴びせながら、豪に強く問いかける。「引退する広瀬に申し訳ないと思わないのか!」。そのとき、黙って聞いていた3年生マネージャーの広瀬菜津が思わず口を挟んだ。「私、辞めませんよ」。物語は、夏の挫折から始まる。

 はじめは夏のインターハイから冬の選手権という短い季節の移り変わりの間に、山王サッカー部が挫折から再生していくストーリーが描かれていくものと思っていた。けれど、この映画にはドラマチックな演出もなければ、大逆転の結末も待っていない。そこには主人公たちの繊細で複雑な現実が、静かなトーンで描かれている。過剰な舞台装置を作り込むのではなく、彼らが直面する現実をそのままの温度で伝える演出に、激しく心を揺れ動かされていく。

 なにを考えているのかわからない苛立ち、溢れる感情を言葉にできないもどかしさ、もがいても伝わらず交差していく思い。皆がなにかを抱え、通じ合わないまま冬の選手権へあっという間に時が過ぎていく焦燥感。チームの問題が一つひとつ綺麗に解決していき、見事に再生されていくストーリーはエンターテイメントとして気持ち良さはある。しかし私には山王サッカー部のように、解決できないまま本番を迎えていく姿が、ずっとダイレクトに心へと突き刺ささった。だから、あのとき言えなかった言葉がいくつもこみ上げてきたのではないだろうか。

 ラストシーン、菜津が見せる姿に私はまったく同じセリフを口にしていた。たとえうるせぇと言われても、私はそう言わずにはいられなかった。

篠幸彦(しの・ゆきひこ)。東京都生まれ。スポーツジャーナリスト。編集プロダクションを経て、実用系出版社に勤務。技術論や対談集、サッカービジネスといった多彩なスポーツ系の書籍編集を担当。2011年よりフリーランスへ。サッカー専門誌「週刊サッカーダイジェスト」でFC町田ゼルビアの番記者を担当。「サッカーダイジェストテクニカル」にライター兼編集で携わる。著書に 「高校サッカーは頭脳が9割」(東邦出版)、「長友佑都の折れないこころ」(ぱる出版)がある。

【映画詳細】
『ガンバレとかうるせぇ』
秋田県/ドラマ/70分
監督:佐藤快摩

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2015年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月14日(土)、15日(日)に開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://yfff.jp)にて。

SHARE

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO