2014.11.18

すべては選手のために、すべては使う人のために 山口義彦(日産スタジアム グリーンキーパー)

日産スタジアム山口義彦氏
日産スタジアム山口義彦氏

「バルセロナのカンプ・ノウには日産スタジアムの写真が飾ってあるんですよね。ワールドカップのファイナルが行われた日産スタジアムは、海外では日本以上に知られて、リスペクトされているのかなと感じています」

 2002年日韓W杯では、ブラジル対ドイツの決勝戦や日本代表が初勝利したロシア戦を含む4試合が日産スタジアムで開催された。スタジアムのグリーンキーパーとして大会を支えた山口さんが当時の思いを振り返った。

「オリンピックを上回る規模の大きい大会で、芝生のコンディションを整えることだけに集中していました。だけどその一方で、芝生はサッカーのプレー以外の部分でも使われますよね。決勝戦のオープニング・セレモニーだったり……」

 大事な試合に向けて整えた芝生が試合前のイベントによって傷んでしまうジレンマを抱えていた。

「日産スタジアムはスポーツの試合以外にもいろいろな用途で使える総合競技場です。W杯のオープニングセレモニーを受け入れたことが現在の芝生の管理にも生かされています」

芝生一筋26年

 キャリアをゴルフ場からスタートさせ、グリーンキーパー歴は26年になる。日産スタジアムとの出会いは、こけら落としとなった1998年のダイナスティカップ日本対韓国戦だった。芝生の美しさを見て感動したが、その年に日産スタジアムで開催されたJリーグのオールスター戦をテレビ観戦した際、衝撃を受けた。

「テレビで見てもちょっと気の毒なぐらいグラウンドが荒れていて……。なんでこうなったのか、その変貌ぶりに考えさせられました」

 2002年日韓大会を見据える会社の意向で日産スタジアムのグリーンキーパーとなった。荒れた芝生の再生と管理法を模索し続けた。芝生を思う気持ちは今も変わらない。

「大学を出て芝生一筋です。毎日見ないと日々変化するので、自分の子供のように愛着を持っています」

夏芝と冬芝

 芝生には暖地型の“夏芝”と寒地型の“冬芝”がある。数回見ただけで区別するのは難しいが、「圧倒的に夏芝より冬芝の方が美しい」という。しかし冬芝だけで日本の四季を乗り切るのは難しくリスクが高い。

「冬芝は気温25~30度ぐらいが限界点です。最近は関東でも37度前後を記録することが珍しくないですよね」

 どんなに一生懸命プロが育てても、湿度と暑さの影響で病気になりやすいのが冬芝の特徴である。いったん病気にかかると芝生は一晩で枯れてしまう。そこで日産スタジアムでは、夏芝と冬芝を共存させる二毛作方式を選択した。

「これから温暖化が進むと、なおさら夏芝は欠かせなくなります。病害虫のリスクは冬芝より夏芝の方が少ないですし。そういう意味では夏芝を使いながら常緑を維持していくことが大事です」

日産スタジアム山口義彦氏

日本の技と世界の広さ

「トルシエ元日本代表監督は特にボールの転がりを重視していて、短くて転がる芝生を好んでいました」

 ショートパスで繋ぐ組織的なプレーをより実現できるように、選手や監督がイメージしたとおりのパススピードで、ボールが思ったところに転がるようにグラウンドを整えている。

「日本人って真面目で繊細ですし、勉強と試行錯誤を重ねて、今ではどこも素晴らしいグラウンドになっていますよね」

 一方で世界に目を向けると、グラウンドがデコボコで、ボールが不規則に跳ねてスピードが変わるスタジアムも少なくない。

「アジアやアフリカに行くと草なのか芝生なのか分からないグラウンドで国際試合をしますよね。Jリーグの選手たちは日本の環境で日々試合をやっているから、いざ代表に招集されて海外に行った時、戸惑うと思います。だけど外国の代表チームが来日した場合には、日本のグラウンドが素晴らしいのですぐに順応できるんです。だから日本の選手は恵まれすぎているかなという気もしています」

人と芝生の共存

 人と芝生の付き合い方に関して、ある考えを持っている。

「芝生の面積がその国のスポーツ文化のバロメーターだと考えています。スポーツ先進国には日常的に人と芝生が接する機会が多いですよね」

 日本の場合、庭に芝生がある家庭は少ない。さらに芝生が張られている公園でも観賞用の場合が多く、使う芝生の認識が低い。

「芝生に寝転がって昼寝ができる環境を作っていきたいですし、サッカーもラグビーも野球も芝生の上でできる環境が広がっていけばいいなと考えています」

 山口さんが芝生と向き合い、考える。

「すべては選手のために、すべては使う人のために」

インタビュー・文=谷田 吏(サッカーキング・アカデミー
写真=大澤智子(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
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