2014.02.28

「世界が注目する日本へ」 西川大介(セレッソ大阪スタジアムDJ)

nishikawa

「Jリーグが面白くないと思ってる日本人を驚かせたいですよね」

 セレッソ大阪スタジアムDJの西川大介さんは、もうすぐやって来る新シーズンを待ちきれない様子でこう語った。

 Jリーグ開幕から20年。日本サッカー界はこの20年で大きく変化した。日本がW杯へ出場することは夢ではなく、必然となった。日本人が海外のリーグで活躍するようになり、テレビで簡単に世界レベルの試合を見ることができるようになった。しかし、日本代表の試合や欧州リーグの試合は見ても、Jリーグの試合は見ないというサッカーファンも少なくない。

 昔からサッカーが好きで、サッカー少年だった西川さん。セレッソ大阪スタジアムDJになったきっかけは、幼少時代にテレビで見たオールスターサッカーにある。

「僕の地元(徳島県)ではサッカーがあまり放送されていなかったんですが、限られた放送の中で見たオールスター戦で、ピクシー(ストイコビッチ/前名古屋グランパス監督)とプレーする森島(寛晃)さん(セレッソ大阪アンバサダー)を見て以来ファンになって、ずっと応援していました。」

 ケガが原因でサッカーから離れ、音楽にはまった西川さんは「CDもライブのチケットもタダになるから(笑)」という理由でDJの道を志す。愛知や大阪でラジオDJとして活躍をしていたが、実は他のクラブからもスタジアムDJの話があったのだという。

「当時は各クラブが、スタジアムをかっこよくしたいという思いを持っていて、募集をかけていたんです。でも僕はラジオ以外に興味はなくてずっと断っていました。そんなとき、『セレッソ大阪でスタジアムDJを募集しているから受けてみないか』と言われて。『森島さんのいるクラブならやる!』ってオーディションを受けたんです。そしたら最終選考で担当した試合で真中(靖夫)選手が3分間でハットトリックして勝って。『君、雰囲気いいねー』ということで受かったんですよ。その後7連敗したんですけど(笑)」

「かっこいい」よりも「セレッソらしく」

 こうして、セレッソスタジアムDJとなった西川さんだが、始めた2001年当初は“スタジアムDJたるものはかっこよくなくては”という思いを持っていた。

「音楽をかけたり、スマートにしゃべってみたり、相手チームに点を入れられてスタジアムが静まり返ったときには盛り上げようとしたり。でもね、偽善になる必要はないなと思ったんです。悔しいときは悔しいし、腹が立つときは腹が立つ。サポーターと同じ。悔しいトーンでしゃべってやれって。正直に表現するようになりました。だから僕、アウェイチームのゴールのときはものすごくトーンが小さいです(笑)。うまく言えないんですけどね、かっこつけてもしょうがないなって思うときが来たんですよ。大阪っぽいな、盛り上がってるな、セレッソらしいなと思われるようにするためにはどうしたらいいだろうって、そう考えるようになって。そのとき、コアなサポーターの方たちと『一緒にホームを作ろうよ』という話になったんです」

 例えば、セレッソ大阪がゴールを決めたときのコール・アンド・レスポンス。きっかけはサポーターからの要望だった。

「最初僕は『ダサいんじゃない? やめようよ。どこのチームも失敗してるし』って言ったんです。でも、それでもやりたい。ダサくてもいいから、50年やり続けたらいい形になるからって言われて。やるのかやらないのか、何回繰り返すのか、実際に試合で試しては何度も話し合いました。世界中のゴールシーンも徹底的に研究して、実際に現地に行ってコール・アンド・レスポンスを録音してきてもらったりもして。そうやって2年間かけて今のスタイルにたどり着きました」

 サポーターと一体になってスタジアムを作る――。今も試合前7、8時間前には会場入りし、空いた時間にはサポーターの元へ話をしに行く。もちろん西川さんが一体となろうとしているサポーターはコアなサポーターだけではない。むしろスタジアムでは、いつも初めて観戦に訪れた人たちに向けた演出を心掛けているのだという。

「玄人目線の演出をしてしまうと初めて来た人がついてこれないじゃないですか。居心地が悪い。初めて来た方にでも分かりやすい演出をしようと心掛けています。例えばGKが出てきたら音楽をかける。音楽が流れたら、GKが出てきたことに会場全体が気付くことができる。そのときにサポーターがGKのコールをしたら、初めて来た人も『GKが出てきたらこんなコールをやってるんだ』と知ることができる。そんな感じです。『みんなで手を上げて、こうやってやりましょう』とは言わないです。『ようこそ! 一緒に楽しもうよ。今日みんなで勝ちたいね』というようなスタンスに徹しています」

ファミリーがつながる場所

 2008年には初めてサッカー観戦に来てルールも全く分からないという人や、一人で観戦に訪れた人も十分楽しめるようにという思いからスタジアムFM『FM NAGAI』を始めた。この放送では普段なかなか話を聞けないチームスタッフが登場することもあり、今では無料の貸出用ラジオが試合前になくなってしまうこともあるほどの人気ぶりだ。

「初めて来られた方に柿谷曜一朗選手のトラップをどう見たらいいのかとか、選手のどんなプレーに拍手をすればいいのかとか、“サッカーをどう伝えるべきか”を真剣に考えているのがFM NAGAIなんです。最近は制約もあってなかなか実現できてないんですけど、試合に出られない選手にゲスト出演してもらって、サポーターへ声を届ける場所にもしたいなって思ってます。昔は香川真司選手に出てもらったこともあるんですよ。森島さんと香川選手をいじったことを覚えています(笑)」

 スタジアムDJが選手を“いじる”。いかにも大阪らしいが、これには愛がある。

「例えばミスをした選手に対して、どう声を掛けていいのか分からないときがあるじゃないですか。そこを僕がいじることによって、サポーターは『ひどいな、このDJ』と思うかもしれないけれど、ドンマイって声を掛けやすくなる。選手を支えようというスイッチを入れることができるんじゃないかと思うんです。選手にとっても一つの区切りになってくれるといいなって」

 選手、チーム、サポーター、みんなが集まって全てがつながる場所。それが“ホームスタジアム”。そこに集まる全ての人こそ、レビー・クルピ前監督も口にしていたファミリーなのだと西川さんは言う。

「海外ではサッカービジネスが成熟していて、日本は遅れを取っているかもしれない。チームがやっていかなくてはいけないこともたくさんあるんですけど、ファミリーが一体となってチームを成長させていくことを選択しているのがセレッソだと思うので。あったかいサポーターと作るスタジアムは、あったかいスタジアムになるわけなんですよ。そのアットホーム感を、観戦に来られた方たちや、セレッソのスタジアムへ来る選手にも感じてもらいたい。温かい気持ちから生まれる選手愛やチーム愛は、どこにも負けないと思います。ベタに言うと“愛があるサポーターが作り上げているスタジアム”です。そのサポーターの思いを受け継いで、僕がMCでしゃべることで、おもてなしのできる、愛あるスタジアムになっていけば、最強のスタジアムになるんじゃないかなって思いながらずっとやっています」

nishikawa

セレッソ流のおもてなし

 そんな“セレッソ流のおもてなし”を世界に見せるときが昨年やって来た。7月26日、長居陸上競技場で行われたマンチェスター・ユナイテッド戦だ。この一戦を迎えるにあたっても、サポーターやチームと激しい論議が重ねられたのだという。

「最終的にはいつも通りのホームゲームをやろうということになりました。でも、マンチェスター・ユナイテッドに対して、選手やクラブがびっくりするようなおもてなしをしようっていうことになったんです。彼らのゴールが決まったときにマンチェスター・ユナイテッドの曲をサビからかけて、コール・アンド・レスポンスをやっちゃおうって。彼らのホームではそんなことやってないし、『なんだ、これは? こいつらバカか?』と思われるかもしれない。でもそれはそれで面白いんじゃないか、それがセレッソ流のおもてなしなんじゃないかって。やっちゃおう、もし怒られたら謝ろうって(笑)」

 世界のビッグクラブを迎えようとも、セレッソらしくあること、そしてセレッソ流にもてなすことをセレッソファミリーは選択した。

「僕らの最大の狙いはコール・アンド・レスポンスでマンチェスター・ユナイテッドにセレッソ流のおもてなしをすること、そして『おかえりなさい、香川真司』というメッセージをスタジアムの大画面に映し出して、言葉で伝えるということの二つでした。それをしたときに、初めて来た人が『あぁセレッソあったかいな』って思うかもしれない。マンチェスター・ユナイテッドが好きな人も『マンチェスターでこんなシーン見たことないぞ』って驚くかもしれないって思ったんです」

 この日の試合後、セレッソサポーターはマンチェスター・ユナイテッドの曲に“ありがとうMan United”という歌詞を乗せて感謝の思いを送った。この出来事は、その日のマンチェスター・ユナイテッド公式ホームページのブログに“Great touch by the Cerezo Osaka fans(セレッソ大阪のファンにとても感動した)”と書き込まれた。

世界が注目する日本へ

 世界のビッグクラブにも感動を与えた“セレッソ流のおもてなし”。そして今年、チームに世界からビッグネームがやって来た。2010年W杯南アフリカ大会でMVP、そして得点王に輝いたディエゴ・フォルランだ。久々にJリーグへ世界レベルの選手がやって来て期待も高まっている。

「ビッグチャンスだと思うんですよね。日本のサッカー、セレッソ大阪というチームが世界からどれだけ注目されるか。これをきっかけにセレッソの試合を見に来られる方々に対して、どれだけセレッソがおもてなしをできるのかが重要だと考えています。セレッソらしい演出があって、世界から注目されたときに、それに見合った話題を提供できるようにしたいですね。フォルラン選手がスタジアムDJにめっちゃいじられて、今まで見せたことのない表情をヒーローインタビューで見せたりとかしたら、世界でも話題にしてもらえるかもしれない。何でもいいので世界に発信して一目置かれたい。そうやって、セレッソがインパクトを与えることで、他のクラブチームにもすごい選手が来るようになって、『“また”Jリーグに行ったよ』と言われるようにしたいですね」

 セレッソと、Jリーグと、共に歩んできた。だからこそ、西川さんには自信がある。注目される準備はできている。

「サッカーが、Jリーグが面白くないと思ってる日本人にギャフンと言わしたいですよね。本当にどこのチームの試合も面白くなってきてると思うんですよ。だから今年はフォルラン選手が日本に来たことで、初めてJリーグを見に来られた方たちが『Jリーグすごいな、面白いな』って感じてもらえるものにしたいんですよね。気合入ってますよ」

 今年に懸ける思いは熱い。そんな西川さんが思い描く未来はどんな未来なのか。

「夢……夢ですか。海外でスタジアムDJ? そんなん、やっちゃいますか?(笑) 行く行く! バイエルンのスタジアムとかやってみたいですよね。超いいじゃないですか」

 笑いながらそう言った後、「でもね」と西川さんは続けた。

「今僕らってバルセロナとかバイエルンとか、世界規模のクラブを見に行ったり、ホームページを見たりするじゃないですか。その逆が来るんじゃないかな、来てほしいなと思っています。いつの日か、サッカー基準が欧州・南米・アジアになって、“アジア・ナンバーワン”の国、日本としてサッカーが普及しているといいなと思います。バイエルンとセレッソが肩を並べる時代になって、海外から選手もたくさん来るようになってほしい。だから、逆にドイツ人が『セレッソのDJやりたい』っていうくらいになってもらいたいです。『どうぞどうぞ』って言いますよ、僕は(笑)」

 セレッソのスタジアムDJを決して辞める気はない。世界規模のイベントを断ってでも、セレッソスタジアムDJをやり続けてきた。西川さんにとって、サッカーは“人生そのもの”。DJあってのセレッソスタジアムDJではなく、セレッソスタジアムDJありきの西川さんなのだという。

「何かにつけてセレッソと携わって作り上げていきたいっていうことを僕は一番真に思っています。『セレッソのDJ、ナンバーワンだね』って思わせたいし、世界にも発信したい。そんなことばっかり考えてますよ」

 西川さんの夢は果てしない。

「世界が注目する日本へ――」

 日本サッカーの未来は、選手だけでなく、サッカーに生きる人たち、全ての手に委ねられている。

>>>「西川大介 ブログ」はこちらから<<<

インタビュー・文=中西裕里(サッカーキング・アカデミー
写真=瀬藤尚美(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
●「編集・ライター科」と「カメラマン科」について詳しく知りたい方は、資料請求でスクールパンフレットをお取り寄せください。送料無料です。

サッカーキング・アカデミー