2012.07.21

【短期集中連載】スキマスイッチ常田真太郎の欧州蹴球周遊記(3回/全5回)

サッカーフリークとして知られるスキマスイッチの常田真太郎さんが、過密スケジュールの間を 縫って今年5月にヨーロッパ・サッカー観戦を敢行。本人執筆による『欧州周遊記』を全5回で公開。3回目の今回は、チェルシーvsバイエルンのチャンピオンズリーグ決勝の観戦の舞台裏をお届けします。

 朝起きて、朝食ビュッフェで眠い目をこすりながらドイツソーセージを食べてるとこでいきなり館内放送が鳴り響き、そこで一気に目が覚めた。英語での放送だったが、完全に僕らのルームナンバーを言っているのが僕でも聞き取ることが出来た。どうやらこのホテルに僕らあてに電話がかかってきているらしい。まさかチケット関係で・・・?食べかけの朝食はとりあえずそのままにして、僕らは小躍りしながらフロントへ向かった。受話器の声は紛れも無くNさんだった。メールのやりとりがうまく出来なくて、わざわざ国際電話でホテルにかけてきてくれたと言うのだ。内容はこうだった。Nさんがチケットをお願いしたTさんが予定のルートでのチケット確保が難しくなったらしく、路線変更をしてバイエルンのチーム関係者にかけあってくださったみたいで(!)、どうやらバイエルンのスタッフさんがわざわざホテルにチケットを届けてくださるというのだ。サムアップでカタパッドにサインを送り一緒にガッツポーズをしたことは言うまでもないが、そんなことよりも奇跡が本当に起きたのだ。Nさんが、Tさんが奇跡を起こしてくれたのだ。・・・しかし奇跡は起きてもそうやすやすと僕らの手には乗ってくれなかった。そのスタッフさん(もちろんドイツの人)と電話で話し、ホテルの場所と届ける時間の確認をしてください、とNさんは言い残し電話を切った。英語でもカタコトなのに、ドイツ語でどうやって話せば・・・しかしそんな不安は奇跡がすぐそこまで来てる僕らにとってはなんてことはないことだった(と言ってもここもまたカタパッドにお世話になってしまったのだが・・・)。部屋に戻り携帯番号をメモった紙を見ながら電話をかけてカタパッドが彼と話してくれたあと「確かにスリーオクロックと言っていた!」と教えてくれて、これで僕たちの運命の時間は本日15時ということに決まった。

 とは言えまだ朝の11時。4時間もここでくすぶっているのもさすがにもったいないので、せっかくだからどっかへ行こうということで少し部屋でマッタリしつつ再び情報を集めることにした(と言ってもほとんどカタパッド頼みではあるが)。マッタリ後になんとなく情報を調べ始めたカタパッドが5分と経たないうちに「マジか!」と大声をあげて、情報収集作業は早々に終わることになった。実は今日のCL本戦の前にエキシビジョンマッチとして世界選抜とバイエルンOB選抜が試合をすることになっており(アルティメット・チャンピオンズマッチという名前で毎年行われているらしい。こんなにすごいイベントなのに自分を含めて日本ではほとんど認知なしなことに驚いた)、それが19時からということで早めにスタジアムに入って観戦するスケジュールを組んでいたのだが、なんとこの情報がどうやら日本時間の表示だったらしく、時差7時間を引くと今現在試合をやっている換算になるのだ。しかも場所も予想と違っていたらしく、アリアンツではなく、昨日行ったCLフェスティバルが行われているオリンピック公園のスタジアム、ミュンヘン・オリンピアシュタディオンらしい。そりゃそうだ、CLなんだもの。本戦のキックオフが21時でセレモニーも大々的に行われるはずなのに、エキシビジョンとはいえ19時から試合なんてやっている場合ではない。そういったわけで急いでホテルを出てミュンヘン・オリンピアシュタディオンに向かった。

 電車を待つホームから昨日とは全く雰囲気が違うことに気づく。明らかに街ごと盛り上がっている雰囲気なのだ。時折バイエルンのユニを着たサポーターたちが歌いながら通り過ぎていく。電車に乗ると停まる駅停まる駅で毎回数人が乗ってきて、どんどんサポーターが増えていく。これがアリアンツ・アレナに向かう電車だったらいったいどんな規模になるのだろうか。そう思い席に座っていると、隣に座っていた日本人らしき男性がこちらを気にしている様子が見て取れた。年齢は少し下だろうか。1駅くらい様子を見たらしいが、意を決したのか「サッカー観戦ですか?」とついに声をかけてきた。少し話を聞くと、自身の勤務する会社のドイツ支社で、邦人に対して仕事を教える目的で3ヶ月だけ滞在しているのだという。しかもこの青年、同じ場所に向かってるのかと思いきやなんとCL決勝の影響で街が騒がしく会社自体も盛り上がっていて仕事にならないので、この時間(13時前)で仕事を切り上げてお城でも見に行こうとしているらしい。なんとも日本では考えられない羨ましい話である。この青年、なんとなくの雰囲気でアオキ君とあとで呼ぶことにしたが、アオキ君には住宅事情などいろいろとミュンヘンの生活情報を教えてもらったりした。

 オリンピアゼントラムに到着するころにはかなりの人手になっていて、チャンピオンズリーグフェスも相当な盛り上がりをみせていた。人の数も昨日とは比べ物にならないくらいで、天気の良さも手伝ってか活気もすごい。その中を僕らはとりあえずエキシビジョンマッチを見ようとスタジアムに小走りで向かう。約7万人収容が出来るとは言え、世界選抜とバイエルン選抜の試合だ。しかももう始まってかなりの時間が経っている。入れても立ち見くらいだろうと思ってスタジアムに近づくのだが、少し思ってたのと様子が違う。周りの人も同じ目的地に向かってそうなのだが、一人も走っていないのだ。そしていよいよゲートをくぐる時にまず一つ目の驚きがあった。無料なのだ。歴史あるスタジアムで世界選抜レベルの試合というのに、ゲートはフリーで開いており、人々が笑顔でゆっくりと通り過ぎていく。そしていざスタジアムが見える場所に行くとここでさらに衝撃の事実が明らかになった。客席が空いているのだ。というより、バックスタンドをまるで使用していない。もちろん試合はまだ行われているのにも関わらずメインもまだ半分くらい座れるほどなのだ。ひょっとして出てるメンバーがそこまでではないのかと思い、カメラの望遠などを駆使して観察してみると、エトー、ヴィエラなどの現役に加えてオコチャやカフーやジーコまでもが、それにバイエルンOBではパウル・ブライトナー、ゼ・ロベルト、ジオバネ・エウベルなどの往年の名選手が正にそこでプレーしているではないか!(後で調べて知ったことなのだが、なんとキックオフは陸上100m世界記録保持者のウサイン・ボルトだったらしい)。このメンバーで無料なのにこの人の入りとは・・・ドイツはなんてゆったりした国なのだ・・・素直にそう思うしかなかった。

 こんな平和な雰囲気でこんなに豪華な試合を観戦することはもう二度とないのかもしれない、そう思うと本当に幸せな気分になった。しかもピッチレベルでスーツ姿のまま試合を見守っていたフィーゴを発見し、しばらく目で追っていたら、退場する時にバイエルンのサポーターにサインを頼まれそのままバイエルンのユニフォームにサインをしてる衝撃の瞬間を見て、さらに平和な気分になったりもした。

 その後フェスティバルは最高潮を迎え、昨日のフットサルの会場で公開ウィニングイレブン(ヨーロッパではパーフェクト・エボリューション・ストライカー=PESというタイトルで販売している)大会をしていたり、ビッグイヤーおさわり会の列がとんでもないことになっている現場を目の当たりにしたりしながらフェス会場をあとにして、約束の15時に間に合うようにホテルに戻ることにした。

 確かに15時にその人はやってきた。カタパッドがWiFiをつなげるポケットルーター(日本でやらなければ意味がないローミングの設定をやらずにドイツに来てしまったたために、これがないと携帯が使い物にならないのです)を部屋に忘れた関係で、ロビーで一人で待つことになった僕に「are you Mr.Tokita?」と英語で質問してきてくれたジャケットを羽織る紳士。間違いない、この人がさっき電話でカタパッドが話した彼だ。この人が奇跡の紙を運んできてくれたのだ。声高らかに「Yes!」と答えると、紳士は肩に掛けていた大きめのカバンを下ろさずにそのまま中を物色し、ひとつのバインダーを取り出した。そしてそのバインダーをサッと開けるとそこには見たことのあるマークが印刷されている少し大きめの紙きれが数枚挟まれていた。その中の2枚を取り出すと、「For You!」と一言添えて僕に手渡してくれた。そう、ついに、ついにあの念願だった、光り輝く(実際にホログラムは光り輝いていたはず)CL決勝のチケットが僕らの手元に届いたのだ!そして部屋に戻りもう一度カタパッドと握手を交わすやいなや、僕らはもうスタジアムに行く準備を始めていた。こうしてはいられない。もうホテルにいる理由はないのだ。そうして僕らはホームに向かって小走りで出発したのだった。

 ホームに来ると予想通りというかなんというか、やはり先ほどオリンピアゼントラムへ向かった時とは比べ物にならない人の数で、さながら小田急線のラッシュのごとく列車に人を詰め込んだ状態でアリアンツへ向かうことになった。3駅くらい過ぎたあたりで少し事件が起きた。ほとんどバイエルンサポーターのみと思われる車内に20人ほどのチェルシーサポーターが乗り込んできたのだ。こういう経験はほとんどないので、どうなるかと楽しみに見ていようとしたのだが、事の次第を見守る必要もなくすぐさま状況が一変した。さすがに多勢に無勢とも思われる状況にも関わらず、バイエルンサポーターのチャントが鳴り響く中に乗り込んだチェルシーサポーターはあろうことか20人で果敢にもチェルシーのチャントを歌い始めたのだ。さあ、バイエルンサポーターはいったいど出るのか?と楽しみにしたのも束の間、あっけなくそのチャント対決に幕が下りた。なんと200人以上はいようかというバイエルンサポーターが、チェルシーサポーターが歌いだした数秒後に全員静まり返ってしまったのだ。声を揃えれば全く負ける気がしないはずの人数なのに、やはりドイツ人は穏やかということなのか・・・。結局アリアンツ・アレナの最寄り駅、フレットマニングで降りるまでチェルシーサポーターのチャントは車内に鳴り響き、ついには悪ノリでチクサク・コールと呼ばれるドイツでよく使われる掛け声まで20人で歌ってしまう始末だった。

 フレットマニングからアリアンツまでは歩いて20分くらいかかった。「プリーズチケット!」と書かれた紙を見るたびにひょっとしたら僕らがあの紙を持っていたかもしれないと思い、機転を利かせてくれたNさんとTさんに改めて感謝をした。ところでこの時期のドイツは白夜である。21時ごろにようやく陽が暮れてくるほどで、スタジアムに着く19時くらいではまだ普通に明るくて、情報で見たチャンピオンズリーグカラーに染まっているはずのアリアンツ・アレナはまだ白いままで、なんだか少し残念だった。そうこうしているうちにスタジアム前に到着して、チケットを取り出し、荷物検査をすませていよいよスタジアムの中に入る。僕はこの、スタジアムの入り口のゲートから実際にピッチが見える場所まで歩いて行く瞬間の、この数分間がとても好きだ。特にピッチに到着する直前に人の背中の間から緑色が見え隠れし、その背中をかいくぐったのちに一気に眼下にピッチが広がる瞬間は震えが来る程だ。しかも今回はそれがあの世界的に有名なアリアンツ・アレナで味わえることが心底嬉しく思えた。僕らの入り口はゲートが完全に裏側なので、菱形が幾何学的に並んだ壁に沿いながらぐるっと迂回する。しかしドイツに限ったことではないのかもしれないが、スタジアムで何かを飲んでいる人はほとんどがコーラだったりする。ところどころに置かれた使い終わったコップというかカップを見ると、そのほとんどが黒い飲料なのだ。ちなみにアリアンツはゴミ箱というものがほとんど見当たらない。防犯なのかまとめるのが面倒くさいからなのかは分からないが、そういった理由で壁際にある棚のようなものの上にはもれなくカップが置いてあったりする。日本ではあまり考えられない光景だ。

 そんなこんなでスタジアムの入り口を見つけ、長い階段(なんせスタジアムレベルで4階)を上り切ると菱形の壁の内側に囲まれたロビーのような場所に出た。そこで僕らの観客席への入り口を探し、305という座席郡の番号をついに見つけた。人がやっと2人通れるくらいの狭さの廊下を通り抜け、淡い光とサポーターの歌がこぼれてくる観客席へ出る。そして次の瞬間、キレイに整えられた緑に輝くピッチと、赤と青に分けられたすり鉢上の観客席、そして造形美が本当に美しい天井とその楕円形の穴から見える白夜の空が一度に眼に飛び込んできた。本当に素直に感想を述べるとするなら、「感動した」が一番正しいのだろう。チェルシーサポーターはまだあまり会場に来てはいないものの、バイエルンサポーターは既にほとんどが着席しており、声の限りチャントを歌いまくっている。座席は一番高いブロックにあったのだが、ここから見下ろす光景は本当に素晴らしいの一言だった。ところでアリアンツ・アレナの客席は見下ろす角度がとても鋭く、角度的には落ちそうなくらいなのだが、全席の前に手すりがあり、ここにつかまって試合を観ることが出来る関係で落ちる心配もなかった。恐らくその分、前と後ろの人の距離が詰めることが出来、それによって収容人数が稼げたり、一体感が生まれる要因になったりするのだろう。プライバシーを重んじるからなのか比較的座席がゆったり作られている日本のスタジアムとは全く違う環境に羨ましくなった(ちなみにトイレに行く時はその列の全員が完全に立ってしまわないと身動きひとつとれないくらいの密着度だったりする)。

 着席してからは両チームの試合前の練習の模様をじっくりと観察した。もちろんバイエルンには宇佐美選手(編集部注:2012-13シーズンよりホッフェンハイムに移籍)もいるので、彼のチーム内での振舞いや立ち位置などにも注目しながら、Jリーグの試合前などと比べてみた。練習内容に関して言うと、さすがCL決勝に出るクラブ!というような真新しいものは一切なく、両チームとも淡々とアップや通称”鬼回し”をこなしていた。ただ気になったのは笑顔を振りまくロッベンを除くスタメン組のピリピリムードと、宇佐美選手を始めとするバイエルンの控えの選手たちのメニューで、途中から最後まで延々と二人一組でのパス交換を繰り返すだけで練習が終わってしまったのだ。ボールやピッチの感覚を掴む、といえばそれまでだが、あれだとスタメン組との温度差がありすぎて途中交代の際に試合にうまく入れないのでは、と感じた。逆にチェルシーの方は控え組までしっかりとシュート練習もこなし、スタメン組に至っては4メートルくらいの狭い円になってあえて密集してアップをしていたり、鬼回しの時の雰囲気もとてもよくて、試合の結果を知らなくても両チームの雰囲気に差が出ているのは明らかだった。

 そしてその後おなじみのCL決勝セレモニーがあり、オペラ歌手のヨナス・カウフマンさんの歌唱とバイオリニストのディビット・ギャレットさんの演奏でキックオフ前のアリアンツは最高潮に盛り上がった。…のだが、カウフマンさんのオペラ的なアプローチの抑揚がすご過ぎてCLアンセムの一番ラストの「♪ザ チャンピオーーーンズ」の部分がよく聴き取れなったことが実に惜しかった…(あとでわかったことだが”健康上の理由”ということによりカウフマンさんの歌が事前に録音されたものだったらしく、それは一応ミュージシャンを名乗らせてもらっている僕としても少し残念だった)。そして選手整列の際のロッベンの弾ける笑顔だけがやけに気になりながら、2011-2012シーズンのCL決勝がついにキックオフした。

 試合については皆さんの知ってる通りなので詳しくは割愛するが、ホームだけに勢いはあるが最後の部分で硬さが見られるバイエルンに対して、ドログバの超絶身体能力(実際に競り合いではほとんど負けていなかった)をいかして攻め立てるがこれまた最後の部分でバイエルンの粘りに屈するチェルシーという図式で終始ゲームは進んだ。印象的だったのが、日本人としては期待していた宇佐美選手で、試合に出なかったことは仕方がないにも関わらず、ハーフタイムや延長前の時間、延長間のハーフタイムに至ってまでほとんど他の選手と会話をしておらず、PK戦の時にもベンチメンバー全員が肩を組んで見守る中で一人だけ肩を組まずに静かに戦況を見守るだけなのがとても気になった。もちろん移籍することがほぼ決まっていたことや、もともと戦力にはあまり見られてなかったという事情も大いに理解出来るが、それでも少し寂しいものを感じた。新天地のホッフェンハイムではぜひともチーム内で君臨して大暴れしてもらいたいと思う。

 そうして延長、さらにはPK戦の末に、決勝では初のアウェイという状況の中でついにチェルシーが優勝を収めたのだが、昨日僕らが掲げたあのビッグイヤーがドログバの手に渡るころには僕らは既にスタジアムの出口のゲートをくぐっていた。なんたって6万7千人が夜0時に一気に一つの駅になだれ込むのだ。少しでも乗り遅れるととんでもない時間になってしまう。しかも明日はイタリア行きなのだ。電車も臨時が出てるとはいえ、なるべく早くホテルに戻るに越したことはない。しかし同じことを考える人も多く、駅に着くころには既に大行列が出来ていた。ホテルに戻ってもその余韻は覚めやらず、結局就寝時間も遅くなり、これならチェフがビッグイヤーを掲げる瞬間まではいてもよかったかもなんて思いながらやっとのことで夢の中に滑り込んだ。

【短期集中連載】スキマスイッチ常田真太郎の欧州蹴球周遊記(2回/全5回)
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