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桐光学園魅惑の攻撃陣が躍動も、PK戦で敗れる/選手権3回戦

2016.01.04

文=鈴木智之(フットボールエッジ編集長)(提供:ストライカーデラックス編集部)

 ニッパツ三ツ沢球技場に詰めかけた14,500人の観衆が目撃したのは、勝負の行方がどちらに転ぶかわからない、天国から地獄、地獄から天国への“ジェットコースターゲーム”だった。

 80分を終えた時点で、どちらが勝者に近い場所にいたかといえば桐光学園高校だろう。それぐらい、この日の桐光学園は完璧な試合運びを見せていた。1トップの小川航基のポストプレーを起点に攻撃を組み立て、異彩を放つドリブラーのMFイサカ・ゼイン、2年生ながら名門の10番を背負う鳥海芳樹が、得意のドリブルと正確なラストパスで青森山田高校ゴールに襲いかかる。

 32分には鳥海がドリブルで中央を突破し、前線で待ち構える小川へラストパスを送る。2回戦で2ゴールを挙げたエースが、右足で強烈なシュートを逆サイドに突き刺し、先制ゴールをマークした。

 バックスタンドのおよそ半分を埋めつくす声援を背に受け、桐光学園の勢いは止まらない。43分には、ペナルティーエリア右奥でパスを受けたイサカが、キックフェイントで寄せてくるDFを翻ろうし、左足で柔らかなクロスをゴール前に送る。ボールの先に待っていたのは、エースの小川だった。ヘディングで合わせ、リードを2点に広げることに成功した。

 桐光学園は自慢の攻撃力だけでなく、ディフェンスも機能。その中心にいたのが、センターバックのDF安倍崇士だった。イサカと同じ、ボールコントロールを軸とした指導で有名な町田JFCで中学時代を過ごした安倍は、対人プレーの強さで何度もボールを奪い、足元の高い技術で味方にパスをつないだ。

 攻撃では1トップの小川を軸に、イサカや鳥海が高い個人技で青森山田のディフェンスラインを蹂躙し、守備の場面では安倍やDFタビナス・ジェファーソンといった、個の力に秀でたDFが青森山田の攻撃を封じこめる。

 57分には小川がペナルティーエリアで倒され、自ら蹴ったPKを外すという誤算があったものの、2ー0というスコアは試合内容を忠実に表しており、ロスタイムに差しかかったところで、桐光学園が準々決勝に進むに値するチームだということは、誰の目にも明らかだった。

 しかしサッカーの神様は、ときに想像もつかない結末を用意する。青森山田の黒田剛監督の言葉を借りるならば「奇跡的」な結末が待っていたのだ。最初の奇跡は後半のアディショナルタイムを2分過ぎた頃だった。コーナーキックを途中出場のFW成田拳斗が頭で合わせ、青森山田が1点を返す。GK廣末陸までもが桐光学園のゴール前へあがり、捨て身という表現がふさわしい攻撃で1点を返した。

 名門校がなりふり構わないセットプレーで1点を返す。それまではよくある光景だった。この時点で後半のアディショナルタイムは2分を経過。まだ、時間は残されている。そして80+5分、まさかの結末が待っていた。

 今大会、青森山田のロングスローの名手として、相手の大きな脅威となっていたDF原山海里がゴール前へライナー性のボールを投げこむ。それに、途中出場のMF吉田開が頭で合わせ、土壇場で同点に追いついた。80分を通じて桐光学園が試合を支配しながら、コーナーキックとロングスローという2つのセットプレーで、効率よく加点した青森山田。勝負の行方はPK戦に持ちこまれた。

 青森山田が5人全員成功したのに対し、桐光学園は5人目の小川のシュートがGK廣末に止められ、万事休す。準々決勝の切符を獲得したのは、80分を通じて試合を支配した桐光学園ではなく、アディショナルタイムにセットプレーをゴールに結びつけた、青森山田だった。

 この試合の明暗を分けたポイントを挙げるならば、57分の小川のPK失敗だろう。このゴールを小川が決めていれば、桐光学園は3ー0にリードを広げることに成功していた。サッカーの試合で2点差をひっくり返すことはあるが、3点差はセーフティリードといえる。小川にしてみればハットトリックを達成するとともに、チームを安全圏に導くゴールとなっただけに、その代償はあまりにも大きかった。

(コメント)
青森山田
黒田剛監督
 奇跡ですね。ミスがあり、プランどおりにいかない中で、選手たちが最後まであきらめずにやってくれました。小川選手を意識しすぎて、ラインが深くなってしまいました。あと5メートル、ディフェンスラインを上げられれば違ったと思いますが、セカンドボールを拾えないことが多くて、プレスに行けませんでした。ボールを相手に拾われる展開が続いたので、苦しかったです。引いている分、手数が足りず、我々がやりたいショートカウンターが不発に終わりました。不甲斐ない状態だったので、後半はもっと前にいけといいました。我々は飛び道具(ロングスロー)もあるし、一発でチャンスを作ることで(勝ちを)拾ってきたゲームもあります。選手権では武器を多く持っているチームが、最後に覆す力になります。幸運をつかむために体を張って走り負けないで、謙虚に逃げないでやりきる。それが高校サッカーだということをいい続けてきたので、それが実現できたと思います。

常田克人
 先に2点取られましたが、1回戦も先に取られたので、心の中では行けるかなと思っていました。(小川選手とのマッチアップは)背が高いのに動きがなめらかというか。自分の持ち味であるヘディングをさせてもらえませんでした。点を決められた場面も、自分がスライディングをしていれば、ボールに当たっていたと思うので、したたかさが足りなかったです。常に首を振って、小川選手がどこにいるかを見ていたのですが、それでも足りなかったと思います。

桐光学園
鈴木勝大監督
 桐光学園にはハンドボールの文化がなかった。フットボールでは劣っていたとは思いません。勝負の厳しさを改めて教わりました。(選手たちは)追いつかれたけど、自発的に声を出してモチベーション高くやっていました。うちのスタイルは、今日見に来てくれたお客さんが何かしら、感じとれるものがあったのではないかと思います。(小川選手について)彼のストライカー気質の性格は、プロの世界でやっていける可能性はあると思いますので、高校生活で培ったものを活かして、Jリーグでもがんばってほしいと思います。U-18日本代表に選ばれたりして、PKをひとつ決めないことが、世界への扉を締めてしまうこともあります。昇格や降格、得点王に絡んでいく中で、ひとつのゴールが人生を左右してしまうのがプロの厳しい世界です。彼の次のステップはそういう世界なので、もっと精度を上げていってもらいたいなと思います。

小川航基
 悔しいです。2点取りましたけど、(負けたので)意味がないです。(PK失敗は)気持ちの部分が未熟だったと思います。(高校3年間で学んだことは)仲間と一緒にひとつの目標に向かって戦ってきたことです。(プロ入り後は)J1で得点王を早い時期に、海外でプレーしたいです。必ず、日本一のストライカーになります。

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ストライカーデラックス高校サッカー特集ページ(http://www.soccerstriker.net/html/matchreport/sensyuken94th/sensyuken94th_index.html

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