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履正社が流通経済大柏をPK戦の末に撃破…勝利を呼び込んだ我慢と機転

2015.08.04

文・写真=安藤隆人

 2回戦屈指の好カードは、実にドラマティックな結末を用意していた。

 ドラマの始まりは、0-0で迎えた26分だった。それまでは優勝候補同士らしく、一進一退の攻防戦だったが、縦パスに反応したFW兼田晏音睦に身体を寄せに行ったセンターバック安田拡斗が、そのまま兼田を倒してファールとなった。このプレーで安田はレッドカードを提示されてしまう。正直、一発レッドは厳しすぎる判定で、履正社高校は10人に追い込まれてしまった。前半アディショナルタイムには、1年生MF菊地泰智のドリブル突破からのパスを、兼田に決められ、先制を許す苦しい展開に。

 しかし、履正社の選手たちは冷静だった。「ジャパンユーススーパーリーグ(春先から行われる任意のリーグ戦)の立正大淞南戦でも、10人になってから逆転をしているし、自分たちならやれると確信していた」と、ナンバー10を背負うMF牧野寛太が胸を張ったように、動揺する事無く、「4-3-2の布陣にして、守りながら、カウンターではどんどん追い越して、攻めきるイメージ」(牧野)を共有し、我慢と「その時」を待った。

 流通経済大柏高校の分厚い攻撃と、カウンターの際の素早い身体の寄せに苦しみながらも、追加点は与えず、カウンターのチャンスがあれば、牧野、MF林大地、田中駿汰、川畑隼人が迷わず縦に仕掛けた。

 そして後半アディショナルタイム5分、もう試合終了は目前の時に、「その時」はやってきた。牧野を起点にカウンターを仕掛けると、敵陣左サイドでスローインを獲得。この試合、何度もロングスローを供給してきたDF大迫暁が、寄って来た牧野に渡し、すぐにリターンを受けると、ファーサイドに走り込んだ林にピンポイントクロス。林がヘッドで落としたボールを、中央に走り込んだ牧野が豪快に蹴り込み、10人の履正社が土壇場で同点に追いついた。

 PK戦までもつれ込んだ勝負は、勢いに乗った履正社が5人全員成功したのに対し、流通経済大柏はGK住井亮太に1本セーブされ、決着の時を迎えた。

「10人での戦い方はトレーニングでシミュレーションしていた。この気候、流通経済大柏を相手に、選手たちはこっちの指示を冷静に受け止め、判断を持ってやってくれた」

 試合後、平野直樹監督が胸を張ったように、選手たちの冷静さと戦術理解度の高さが、屈強を跳ね返す最大の要因となった。

 その象徴となったのが、同点ゴールのシーンだ。スローインを得て、大迫がボールを持った時、平野監督はピッチに向かって「そればっかりじゃないぞ!」と叫んだ。「相手はロングスローが来るものだと思い込んで、中央を固めていた。これまでもロングスローはすべて弾かれていたので、ここは別の事をやらないと崩れないと思った。相手がこっちがグーを出す事を予想して、パーを出しているのなら、チョキに変えれば良い。これはいつも言っている事です」と、平野監督はこの言葉の意図を説明した。

 その意図をあの局面で選手達が理解したからこそ、「ロングスローは弾かれるから、相手をおびき出すために寄りました」と牧野がスローインを受けに行き、大迫もそこに投げて、リターンを受けてクロスを上げることを想定し、林もそれを想定してファーに飛び込んだ。
あのゴールは平野監督がチームに植え付けた意識が、選手達によって花が開いた瞬間だった。

 次なる相手は選手権で敗れている星稜。チームはリベンジとともに、この試合のように監督と選手たちが紡いだ共通理解を、冷静さとインスピレーションを持って発揮すべく、気を引き締め直して臨まんとしている。

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