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明暗を分けた“早すぎる先制点”…初出場の中京を襲った思わぬ落とし穴

2017.01.01

大分の10番、永松涼介はチームの3点目を挙げた [写真]=兼子愼一郎

取材・文=本田好伸(提供:ストライカーデラックス編集部)

 2年連続出場の大分が初出場の中京を相手に逆転勝利を収めた。中京は2分、赤堀凌太郎が相手の一瞬のスキを突いてゴールを奪い、試合をいきなり動かした。これで中京が勢いに乗るかと思われたが、逆に攻勢を仕掛けたのは大分。14分に鮮やかな連係で相手を崩すと、最後は山本光彦が決めて同点に。続く21分、ロングパスを受けた中央右の嶋津翔太が決めて一気に逆転に成功すると、さらに34分、右サイドからのクロスを永松涼介が頭で合わせ、2点差として試合を折り返した。後半に入ると、前線の選手を投入した中京が盛り返すシーンも増えたが、大分は堅い守備で対応。逆にカウンターから途中交代の川﨑脩斗が決めて勝負あり。中京は初の選手権で初勝利を手にすることはできなかった。

 いきなり生まれたゴールが両校の明暗を分けた。

 初出場の中京にとって、試合開始わずか2分でつかんだ先制点は“想定外”のものだった。福留直人監督は、「今までのうちのパターンは、県大会の準決勝もそうだったが、先に点を取られてからエンジンが掛かっていく感じだった。早く点が入りすぎてしまった」と振り返った。

 福留監督は、「うちは失うものが何もなかった分、本来であれば、もっとアグレッシブに、思い切って、楽しんでいってほしかった。先制点が入ったことで、2点目、3点目と狙っていくべきなのに、守り切って勝とうというような雰囲気が見え隠れしていた」と、“早く入りすぎた”と表現した理由を話した。

 あっという間に逆転を許し、前半で1-3とされた中京は後半9分、上背のある小栗泰司と1年生の伊藤寿莞の2人を投入し、さらに65分にはアタッカーの鈴木陸斗をピッチに送って攻勢を仕掛けた。そこから相手陣内に迫るシーンを何度も見せたが、相手の堅い守備をこじ開けることができないまま時間が経過。逆に試合終盤に1点を追加されて、“全国の洗礼”を浴びる形で敗戦を喫した。

 福留監督は試合の敗因を「初出場と常連校の差」と語る。「準備してきたつもりだが、選手もスタッフも、すべてが初めて。夏には福岡に遠征して東福岡の志波(芳則)総監督ともお話ししたが、『初めてのときは初めて』だと。名門校、常連校は、何度も出場する中で経験を重ねてきた。大分には昨年のメンバーも残っていて、9回も出場してきた経験がある。うちは若いスタッフも、1年生も2年生も多いので、この先、どうやって常連校になっていくのか、その課題を痛感した」。確かに、経験値の差は、この試合を大きく左右していた。

 勝利した大分にとっては、開始早々の先制点は焦るほどのものではなかった。スタメンとベンチに入っていた、昨年の1回戦でピッチに立ったメンバーはじつに8人。「失点が早い時間帯だったので、うまく切り替えようとピッチ内で声を掛け合っていた」(嶋津翔太)、「自分たちなら行けるという気持ちがあったので落ち着いてパスをつなげた」(永松涼介)、「(先制されても)特に変わらずにプレーできた」(山本光彦)と選手たちは気負うことなくプレーし、着実に得点を積み重ねていった。

 川崎元気監督は「失点して目が覚めて、うちらしい攻撃ができた。自分たちのプレーができるまでの時間の使い方が良くなかったが、ある意味ではあの失点が良かった」と振り返った。

 中京の福留監督が語ったように、経験値の有無は、今大会の結果を動かすカギの一つだといえる。それは大分の後半の戦いぶりにも顕著に表れていた。中京が前線の選手を起点に押し込んでいたが、「点差が開いていたので、パワープレーのような展開から押されるのは覚悟の上で、こちらはカウンターを狙うために選手を入れ替えた」(川崎監督)。そうして34分に交代で入った川崎脩斗がダメ押しゴールを奪うなど、大分にとってはまさに思惑どおりの展開だった。

 初出場校にとっては思わぬ落とし穴に、常連校にとっては普段の戦いを取り戻す契機に。“早すぎる先制点”が、試合の行方を左右するポイントとなった。

 結果的には危なげなく勝利を収めた大分は、次の滝川第二戦に向けても自信をのぞかせる。「前線のキープ力が高いので守備が大事になる。お互いに攻撃的なチームなので、こちらが通用する部分を(どうやって生かすかを)考えている。正直、勝負は五分五分だと思う」(川崎監督)。昨年のメンバーが多い分、経験値で上回る大分は、第89回大会王者を相手にどんな戦いを披露するのか、注目の一戦となるだろう。

(試合後コメント)

大分
川崎元気監督
いきなり失点して目が覚めて、そこからうちらしい攻撃ができた。自分たちのプレーができるまでの時間の使い方は良くなかったが、ある意味であの失点が良かったのかなと。次の滝川第二は2トップが強烈だが、うちは中盤のプレスワークで奪ってからサイドに展開して、スピードのある選手で勝負したい。お互いに攻撃的なチームなので、そこで戦いたいと思っている。

7番 山本光彦
試合の先制点を狙っている中で先に取られてしまったが、早い時間に奪い返すことができた。ただハットトリックを狙っていたので、正直、1点では物足りない。この試合では後半に両足がつってしまったが、しっかりとケアして次はフル出場できるように。そして少ないチャンスを確実にものにしたい。

10番 永松涼介
昨年は1回戦で勝てなくて、今年は点を決めて勝ちたかったので、それが結果に表れて良かった。点差が付いた後半に自分たちの足が止まってしまい、自分たちのサッカーとしてはあまり良くなかったが、その中でも守備を中心に得点を奪えたことは良かった。次は試合の入りが悪ければ確実に負けてしまうと思うので、そこはしっかりと直して臨みたい。

11番 嶋津翔太
逆転ゴールの場面は、左サイドの(④中島)翔太くんから良いボールが来たので中に出そうかと思ったが、1点目のときも中に出していたので今度は自分で決めてやろうと打ちにいった。そのゴールでチームを勢いづけることができたと思う。次の試合も強い相手だが、自分が決めて勝って、3年生とできるだけ長く一緒にプレーしたい。

中京
福留直人監督
ここまで3年生を軸に戦ってきたが、この試合で収穫があるとすれば、出場できなかった1、2年生。彼らの目にこの舞台、先輩の姿がどのように映ったのか。選手権は“出て満足”するものではなく“出て勝つ”もの。きっと彼らは、そういうことを学んだと思う。負けからも、常連校からも学ぶことは多かった。

ストライカーDX高校サッカー特集ページ

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