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熊本・大津高の先輩植田の涙から刺激…筑波大MF野口航、「特別な思いで」2戦連発弾

2016.04.18

筑波大の先制ゴールを決めたMF野口航(中央) [写真]=内藤悠史

 右サイドからのクロスに飛び込み、冷静にゴールネットを揺らす。得点に至るプレーは前節と似た流れだった。だが、今節でのゴールにはいつになく「特別な気持ち」が込められていた。14日に故郷を襲った大地震、それから3日後に予定された試合。連日続く地震と伝えられる被災地の状況に心を痛めながら、それでも「いつもどおりの」準備を進めてピッチに立つ――。2試合連続ゴールを決めた筑波大学MF野口航は「懸ける思いはあった」と、言葉を選びながら試合を振り返った。

 強風が吹き荒れた17日、JR東日本カップ2016 第90回関東大学サッカーリーグ戦1部 第3節が味の素フィールド西が丘で開催された。筑波大は専修大学と対戦し、1-1で引き分け。47分、右サイドからのクロスに反応し、ゴール前でのこぼれ球に詰めてゴールネットを揺らしたのが野口だった。

「前節でも右サイドからのクロスに合わせていたので、今日も“走り込めば何かが起きる”と思って、仲間を信じて走り込みました。良い感じにこぼれてきて決めることができましたね。(ボールがこぼれてきた時には)“もらった”と思いました」

 そう言って笑顔を見せた野口。「冷静に相手GKの位置を見て、空いているところに蹴り込めたので良かったと思います。GKが前に来ていたので、“どっちが先に触るか”という感じで、スライディングで押し込みました」とゴールシーンを振り返った後、静かに言葉を紡いだ。

「地元が地震に遭って、友達や知り合いが大変な状況にある中で、自分はサッカーをできる状況にある。いつもとは違う、特別な気持ちはありました」

 1週間前、9日に行われた第2節で、筑波大は慶應義塾大に2-1で競り勝った。62分、右サイドをオーバーラップしたDF浅岡大貴のクロスに飛び込み、決勝点を挙げたのが野口だ。2年ぶりに臨む1部での戦い、その2試合目で初勝利を収め、FW中野誠也は「ホッとした気持ちです」と話していた。安堵と喜びに包まれる中、連勝を目指して次節への準備を進めていく筑波大の選手たち。そんな中で、野口の故郷を大地震が襲った。

 大分県大分市出身で、高校時代は熊本県の大津高で3年間を過ごした野口。鹿島アントラーズのU-23日本代表DF植田直通ファジアーノ岡山の同FW豊川雄太らの1年後輩にあたる。故郷の被災を受け、プレーへの集中が難しい時間が続く中、野口は「僕だけじゃないので。先輩でもJリーグの試合に出ている方がいましたし」と、ピッチに立った先輩たちの姿に刺激を受け、発奮していた。

 野口がピッチに立つ前日の16日には、植田が試合後に涙を見せる場面があった。鹿島の一員として、明治安田生命J1リーグ・ファーストステージ第7節の湘南ベルマーレ戦を3-0の快勝で終えると、インタビューで故郷への思いを問われ、声を詰まらせた。

 その映像を見たという野口は「刺激をもらえたというか、一緒に高校時代にプレーさせてもらった先輩ですし、あの涙を見て思うことはすごくありました。涙もろいけど我慢するタイプなので、あの直通くんがあそこまでなるということは、かなり強い気持ちがあったのだと思います」と、先輩の思いを慮っていた。

「(先輩たちと)やっているカテゴリーは違うけど、“負けないように頑張ろう”と思って臨みました」と、強い思いを胸にピッチに立った野口。「“点を取ろう”と思っても(実際に点を)取れるタイプではないので」と冗談めかして話しつつ、「良い感じで自分の前にこぼれてきたので、“何か”があったのかなと思います。素直に嬉しかったです。懸ける思いはあったので」と、喜びを語った。

「(出身地の大分県は)今回の地震では結構揺れたみたいです。高校は熊本で、自分が3年間を過ごした場所もひどい感じなので…。家族や友達とも連絡は取れましたけど、家の中もめちゃくちゃだし避難をしているので、思うところはいろいろとありました。特別な思いはありました」

「連絡を取ると、自分が週末に試合を控えていることをみんなが知っていたので、大変な状況の中でも『頑張って』と逆に僕が激励されたんです。“頑張らないとな”と強い気持ちを持ってプレーしました。ゴールを決めることができたのは良かったです」

 身長166センチメートルの小柄なアタッカーは、「特別な思い」をゴールという形で示してみせた。ただ、チームは終盤の失点で同点に追いつかれ、勝利を逃している。野口は「自分のゴール云々よりも勝ち切れなかったことが悔しいです。勝ち切れないことがチーム全体の甘さだと思います」と繰り返し、さらなる奮起を誓った。

 筑波大は次節、23日に川口市青木町公園総合運動場で明治大と対戦する。野口は「勝つだけです。一度(2部に)降格しているチームなので、勝ち切る重要性をみんなが感じていると思う。何があっても勝ちに徹したいです」と力を込め、スタジアムを後にした。

取材・文=内藤悠史

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