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【インハイ・ピックアップ選手】大津流の“英才教育”を受けたFW一美和成

2014.08.03

大津のFW一美和成 [写真]=大島和人

 大型だけど技術が高い。しかも色んなポジションができる——。こういうオールラウンダーを過去に何人も輩出しているのが、熊本のタレント王国・大津高校である。立正大淞南(島根)戦で2点に絡んだ一美和成はまさに“大津スタイル”のフットボーラーだ。

 一美の挙げた大津の先制点は、スルーパスに反応した飛び出しから生まれた。立正大淞南は人にしつこく食らいつき、奪えばドリブルで勢いよく切れ込んでくるチーム。前がかりを逆手に取り「相手の背中を使っていこう」(平岡和徳監督)という、まさに狙い通りの形だった。

 後方から入ったロングボールを胸で処理した2点目のアシストは、一美の得意とするプレーである。自分の左後ろにいる葛谷将平を「見ていた」という状況判断から、胸で柔らかく落とす心憎いポストプレーだった。

 182cm・71kgの恵まれた体格に、エレガントな技巧を兼ね備えた一美だが、実は「センターフォワードとしては日が浅い」(平岡監督)。一美自身は過去にFW、ボランチと様々なポジションを経験していて、高1の昨季はCBとしてプレーしていた。

 これは大津流の“英才教育”でもある。「巻(誠一郎)とかにも同じようにやらしていました。トータルフットボール(の時代)ですから、一つのポジションしかできない選手は寿命が短い」(平岡監督)。指揮官は日本代表に上り詰めた先輩の名を挙げつつ、万能選手育成の狙いを説明する。

 一美もそういうカルチャーの中で、自然とオールラウンドなスキルを身体に染み込ませていった。一美があこがれの選手として真っ先に名を挙げるのは、昨年のキープレイヤーだった山本宗太朗。183cmの長身に、高い技術を併せ持った“大津スタイル”の選手だった。

 ただし一美本人は「ここが自分の勝負できるところ」とFWへのこだわりを口にする。「自分は足元があると思っている。ポストが出来て、自分でもかわして打てるところを、自分の武器にする」という自負もある。もちろんCBの経験は無駄でなく「相手の嫌な動きが分かる」(一美)といった部分で生かされている。

 一美の技巧は小中と積み重ねてきたものでもある。中学時代の一美はJFAアカデミー熊本宇城で日々の練習を積んでいた。JFAアカデミーの中でも熊本宇城は、福島と違い“平日に活動して公式戦をしない”という形態を取っている。土日は実家、それぞれのクラブチーム(中学)に戻り、試合はそちらで出るという、フランスのINF(国立サッカー学院)に倣ったやり方だ。

「2時間びっしりとやる。パス練習が多い」という“日本サッカー協会流”の緻密なトレーニングの中で、一美は足元のスキルという強みを磨いた。一方で、一美が週末にプレーしていたエスペランサ熊本はドリブルを重視するチーム。「平日と土日で違うことをやって、それがいい感じだった」(一美)ともいう。味方を生かし、自分でも仕掛けられる——。一美の特長はそうやって育まれてきた。

 様々な人材を日本サッカーに送り込んできた大津だが、まだ果たしていないのが全国制覇。「小さいころから大津に憧れていた。全国大会で優勝したいという夢がある」という一美にとっても、それは切なる願いだ。優勝候補の一角・立正大淞南を苦しめた今日のプレーを出し続けられれば、悲願達成はぐっと近づくだろう。

(文=大島和人)

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