長期政権を築いた監督たち [写真]=Getty Images
先週末、ドイツで偉大な記録が誕生した。今季からブンデスリーガに挑戦しているハイデンハイムのフランク・シュミット監督(49歳)がドイツのプロクラブにおける歴代最長任期を樹立したのだ。
2007年9月17日からハイデンハイムを率いるシュミット監督は、17日に行われたブレーメン戦が就任から丸16年の記念ゲームとなった。その試合で4-2の勝利を収めてクラブ史上初となるブンデスリーガでの勝利を挙げた同監督は、任期を「5844日」まで伸ばして、浦和レッズなどを率いたこともあるフォルカー・フィンケ氏(75歳)がフライブルク時代に築いた「5843日」(1991~2007年)の記録を更新した。
無論、シュミット監督とハイデンハイムの絆は16年間では済まない。ハイデンハイムで生まれたシュミットは、いくつかのクラブを渡り歩いたのち、2003年から地元のクラブでプレーするようになった。今のハイデンハイムの前身であるハイデンハイマーで、キャプテンとして5部リーグ昇格を経験するなど引退する2007年まで100試合以上に出場した。
そして2007年9月17日、シュミットは33歳にしてハイデンハイムの監督に就任。当初はウィンターブレークまでの暫定監督だったが、そこで結果を残して正式な監督に就くと、いきなりチームを4部リーグ昇格に導いた。翌2008-09シーズンには3部リーグ昇格を勝ち取り、2014年にはチームをブンデスリーガ2部まで引き上げた。ハイデンハイムが2部リーグまで上り詰めるのはクラブ史上初の快挙だった。
チームを2部リーグに定着させたシュミット監督は、2019-20シーズンに3位に入ってトップリーグ昇格に近づいたが、その時はブレーメンとの入れ替え戦で「アウェイゴール差」で涙を呑むことに。それでも2027年まで契約を延長したシュミットは昨シーズン、ようやく歴史的な快挙を達成する。2部リーグのシーズン最終節、ヤーン・レーゲンスブルクを相手に後半追加タイムに2ゴールを奪って3-2の大逆転勝利を収めたのだ。敗れれば3位でプレーオフに回るところを、奇跡の勝利で1位に浮上し、クラブ史上初となるブンデスリーガ1部昇格を決めた。
そして迎えた今季ブンデスリーガ第4節のブレーメン戦、3年前に入れ替え戦で苦汁をなめさせられた相手に4-2で勝利し、ブンデスリーガ1部での初勝利を挙げた。シュミット監督にとっては就任から591試合目、そしてドイツの歴代最長記録となる「5844日目」での記念すべき初白星だった。
無論、シュミットの「16年」という任期は、他国のリーグに目を向けると決して長い記録ではないのだ。それでは記録的な長期政権を築いた監督たちを見てみよう。
[写真]=Getty Images
■ギー・ルー(オセール)
最長任期と言えば、この人だろう。40年以上に渡りフランスのオセールを率いたギー・ルーだ。1950年代に選手としてオセールでプレーしたギー・ルーは、1961年からオセールで信じられないような長期政権を築くことに。1961年に選手兼監督に就任すると、3部のクラブを昇格させて1995-96シーズンにはオセールをクラブ史上初のリーグ・アン制覇に導き、2005年までチームを率いた。計44年だが、1962年や2000年に監督を退いていた時期があり、連続でチームを率いた期間は1964年から2000年の「36年間」となっている。
これが戦後ではヨーロッパのクラブでの最長任期とされており、2000年にはUEFAから表彰も受けている。ちなみにリーグ・アンで「894試合」も指揮を執ったのは、当然ながら歴代最多記録となっている。
■ロニー・マクフォール(ポータダウン)
戦後の記録で見ると、ギー・ルーに次ぐ長期政権を誇ったのは北アイルランドのクラブを率いたロニー・マクフォール監督だ。彼は1986年12月から2016年3月まで、生まれ故郷のポータダウンを「29年間」も指揮した。単に率いただけではなく、1990年にはクラブを国内リーグ初制覇に導き、1990-91シーズンのチャンピオンズカップ(チャンピオンズリーグの前身)にも出場した。しかし、他国リーグとのレベルの差は否めず、1回戦でぶつかったポルト(ポルトガル)に2戦合計「1-13」という大敗を喫して敗退。翌シーズンもチャンピオンズカップに出場したが、やはり1回戦で今度はツルヴェナ・ズヴェズダ(セルビア)に計「0-8」で敗れ去った…。
■アレックス・ファーガソン(マンチェスター・ユナイテッド)
歴代最高の呼び声高いスコットランドの名将はマンチェスター・ユナイテッドを「26年半」も率いた。1986年から2013年までマンチェスター・ユナイテッドを率いたサー・サレックス・ファーガソン監督は、同クラブで公式戦1500試合も指揮を執り、イングランドのトップリーグで歴代最多となる13度の優勝を経験したほか、2度のチャンピオンズリーグ制覇など数々の栄光を築いた。チャンピオンズリーグで監督として190試合は、今年5月にレアル・マドリードのカルロ・アンチェロッティ監督に抜かれるまで歴代最多だった。
ちなみにマンチェスター・ユナイテッドがこれまで獲得した主要タイトル46個のうち、実に28個はファーガソン政権時に獲得したものだ!
■その他
やはり長期政権を築くのは英国系のクラブが多く、ウェールズのカイソースではミッキー・エヴァンズが1983年から2007年まで「23年」に渡りチームを率いた。36歳で選手兼監督に就任したエヴァンズは60歳まで同クラブを指揮し、2002年には息子のグレアム・エヴァンズを擁してインタートトカップにも出場。その後、エヴァンズはクラブを統括するフロントのポストに就き、一時は息子が監督を務めた!
戦後、スコットランドで歴代最長任期を誇ったのはダンディー・ユナイテッドを率いたジム・マクリーン監督だ。2020年に83歳で他界した名将は、1971年から「21年半」もダンディー・ユナイテッドを率いると、1882-83シーズンには当時アレックス・ファーガソンが率いていたアバディーンとの熾烈な優勝争いを制してクラブ史上初のリーグ制覇を達成。114年のクラブ史を誇るダンディー・ユナイテッドにとって、今のところそれが唯一のリーグ優勝となっている。
クラブチームではなく代表チームで長期政権を築いた指揮官もいる。今夏、色々な意味で話題を集めたスペイン女子代表では、1988年から2015年まで実に「27年間」もイグナシオ・ケレダ監督がチームを率いた。レアル・マドリード下部組織で育ったケレダは、プロ選手として活躍することなく、若くしてコーチライセンスを取得。そして指導者の道に進むと、スペイン女子代表を率いて1997年に同チームを初めて女子EURO出場に導いてベスト4に入って見せた。そして2015年、スペインを初めて女子ワールドカップ出場に導いたあと、大会後に退任した。彼の後任となったホルヘ・ビルダ監督の下、スペイン女子代表は今年8月に初めて世界一に輝いたが、大会後にスペインサッカー連盟の会長による“キス事件”が起きて、ビルダ監督も職を追われた…。
果たして、これらの記録を抜く監督は出てくるのか? 今後も欧州サッカー界の長期政権に注目したい。
(記事/Footmedia)
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